田舎青春物語   作:目覚まし楽器

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第四話・子守り!

 

飯を食った後のすっげー眠くなる穏やかな午後の授業がやっとこさ終わって、時計を見れば午後3時頃。人の少ない教室にて、さーあ帰宅だっとこんな時だけてきぱき準備しているアタシのところに珍しく同級生の男の子が接近してきたんだ。

 

「清唯、先輩がお呼びだぞ」

イチコ『へ?おいおい…誰だよこんなタイミングで…』

 

早く帰りたいのに面倒臭いなあ、と思いながらアタシは自席から立つと荷物もそのままに教室を出る。そんなアタシの前に姿を現したのは、なんとまあシシオ先輩だった。

 

獅子男「おう清唯!やっぱり残ってやがったか、こいつはラッキー」

イチコ『いや、今帰ろうとした所なんだけど…アタシに何か?』

 

珍しいなあ、シシオ先輩がこんな所に来るだなんて。3年生の大柄な先輩が1年生の廊下に突っ立ってるだけで擦れ違う同級生が息を飲んで緊張してるのが良く解る。アタシの問いに対しても、先輩は直ぐに返答はせず窓の外に視線なんか向けちゃってる。なんなんだ?

 

獅子男「いや、その改まって言うのは何だか照れちまうもんだな…」

イチコ『は?いや、何なの一体…』

獅子男「その、…お前、今から俺と一緒にお茶でもしねえか?」

 

は?…。あまりの事に思考が停止しちまったじゃねーか。アタシは驚いた様子で先輩を見るも、何やら慣れない言葉を出したもんだから照れてまごまごしている様子。そんな先輩を見るのは初めてなもんだから、なんか面白くて薄ら笑いを浮かべてしまった。

 

イチコ『別にいいけど、…シシオ先輩、柄じゃないね~』

獅子男「うむ…俺だってそう思う。ま、まあいいじゃねえか!俺にだってそういう気分の時があるんだよ、ハッハッハ!」

 

笑い声がなんか裏返ってるぞ。大丈夫か?アタシは取り敢えず荷物を取りに教室に入り、鞄を肩に引っ掛けると先輩の傍へと小走りに向かう。肩を並べて歩き始める訳だが…うん、唐突な誘いだけど、なんか悪い気分じゃない。

 

獅子男「勿論俺が奢る、お前は気にしねえで好きなモン食えよ」

イチコ『う、うんまあ…それじゃ遠慮なく…』

 

女の子扱いっつーのは驚きと困惑が入り混じるな。つーか男女で歩くというのは、色々な意味で緊張もんだし…おいおい、まさかこの後でアタシに好きだとか告白しようってんじゃないだろうな!?

 

獅子男「なんでもここの喫茶店はパフェが美味しいらしい、それじゃあ行くか」

 

頭が煮詰まるような出来事の連続でなかなか気付かなかったが、もう既に駅前の喫茶店まで到着していた。カラン♪という音と共に開いた扉、店内の音楽と共に冷房がさあっと流れてくる。アタシ達は案内された席に腰を下ろし、向かい合うと自然に互いを見つめる。

 

イチコ『あー…なんか美味しいモンあるかなー』

 

気まずいのでメニューに目を通して適当に美味しそうなパフェと温かな紅茶を注文しておいた。悪かないけどやっぱ苦手だなー、こういう男女臭いの。ん?なんだ?先輩の奴、自分はなんも注文しねーで時計ばっかりチラチラ見ていやがる。

 

イチコ『ソワソワしてどーしたの先輩。今更お財布を忘れたとか言わないでくれよ、アタシも持ち合わせないんだからサ』

獅子男「いや、そいつは問題ない。…おっ!おいお前達、こっちだ、こっち」

 

なんだ?先輩が入り口付近へと呼びかけると、小学生くらいの子供が二人でこっちに来たぞ。あまりの出来事にアタシはただ呆然としていた。シシオ先輩は自分の隣に腰を下ろした少年の頭をガッチリ掴むとこう言った。

 

獅子男「紹介しよう。こいつは魁(かい)、俺の弟で小学5年生だ」

イチコ『は、はあ…』

 

もう一人の女の子がアタシの隣に座り、自分の自己紹介を待っているようだった。つーか、突然なんなんだこの展開は!?アタシは呆然と流されるままに先輩の自己紹介を聞き続けている。

 

獅子男「そいつは妹の円(まどか)、魁の下で小学3年生だ」

イチコ『そうかあ、先輩の弟と妹…っつー事は三人兄弟?随分と賑やかそうだね』

獅子男「あ、ああ…」

 

少しずつだが空気に慣れ初めて余裕が出てきた。だがデートみたいな雰囲気は一気に消えたな…いや、まあ、苦手な空気が消滅したんだし良かったじゃねえか、ははは。そんな葛藤を一人している間に、獅子男先輩がザッと時計を見て席を慌しく立つ。こ、今度はなんだ?

 

獅子男「清唯、スマン!」

イチコ『へ?』

獅子男「実はこれから空手部の試合がある。大将の俺が出ない訳にいかねえんだ、だからお前にこの二人の面倒を見ていて欲しい!」

イチコ『な、ななななんだってー!?』

獅子男「…だまし討ちするみてえな事をして悪いが、…頼むっ!」

 

そう言い終えると先輩は勢い良く頭を下げてきた。いや、驚いたさ。だが流石に男に真っ向から頭を下げられて、嫌だの、だって~だのは言えない。それに、硬派な先輩にゃ女の子の知り合いは少ないだろう。アタシ位しか頼める奴がいなかったんだなぁ。

 

イチコ『解った。ここはアタシに任せてくれ』

獅子男「……恩に着るぜ!」

 

シシオ先輩はダンッと机の上に2千円を置けば、入り口に向かい真剣な表情で走って行く。へえ、すっかり戦う男の顔になっていやがったぞ。怒涛の勢いで改札まで駆けたシシオ先輩を見て驚くウェイトレスさんが、擦れ違い様にアタシ達のテーブルに紅茶と苺パフェを持ってきた。

 

イチコ『待ってました♪…って、げげっ!?』

 

そこには怖ろしい光景があった。届いた紅茶のカップに角砂糖を10粒入れて掻き混ぜる兄貴と、パフェの王様であるてっぺん苺を指で摘んで頬張る妹の姿だ。アタシは一瞬ムッとしたが、年下の子供相手だからとそれを収める。

 

イチコ『は、ははは…ちゃんとスプーン使おうねぇ…』

魁「ぐるぐるーぐるぐるー」

円「もぐもぐ、べちゃ」

 

不意に二人の視線がじーっとアタシに向けられているのに気付く。自分達の行動に対してアタシがどう動くかを探っているんだろう。子供っつーのはそういう小賢しいもんなんだ、ああ解ってるさ!だってアタシも子供だったんだからな。

 

イチコ『あはは、…アタシの事は気にしないでお食べなさい』

魁「お前、名前なんていうんだー?」

イチコ『おま…、…清唯苺児だ、イチコお姉ちゃんでいいよ』

円「イチコイチコー!」

 

コラ、せめてさん付けしろや!むっとしながらも我慢するアタシの気遣いもお構いなく、魁は紅茶の中に今度はミルクを全部注ぎ始める。おいおい、カップの中身が零れる!これは親父の飲む日本酒じゃねーんだぞコラ!

 

魁「ねーイチコだから苺パフェ食べたの?」

イチコ『…は、はは…いや、そういう訳じゃないよ。つーか君、魁!カップの中身、零れる零れる!』

魁「…あーあ…」

 

ミルクポットの中身を全部注ぎたくてたまらなかったんだろう。案の定零れたカップの中を難しい表情で凝視する魁は、それをアタシの方に差し出した。ソーサーの中まで浸ったそれはもう飲み物とは言い難い。

 

魁「これいらない、お前にあげる。ねーオレンジジュース頼んでよ」

イチコ『…あのなあ…、ん?』

 

肘の付近に妙な感触があったので腕を上げる。するとそこには生クリームと苺が付着していた。見れば、円の食べているパフェの残骸がテーブルに零れていて、アタシの肘がそれを擦ったらしかった。うおおーっおニューの制服がああっ!

 

イチコ『こっ…、いや、ここで怒ったら泣かれる。くおお…アタシの小学生の頃はこんなんじゃなかったぞ…なんなの、もう…』

円「お姉ちゃん、遊園地行きたーいっ!」

魁「連れて行けよ、お兄ちゃんにチクるぞー!」

 

中学生女子と小学生の3名テーブル…あまりの惨劇にウェイトレスさんが苦笑していたのは言うまでもない。アタシは肩を落としながら、これ以上居座れないと悟り喫茶店を後にした。遊園地は流石に金銭面で無理だからと、仕方なく近所のデパートの屋上に連れて行く事にしたんだ。にしても、ガキのパワーは侮れない。

 

イチコ『こら…あんまりウロウロ走り回るんじゃねえぞ、迷子になる』

魁「迷うかよ、ガキじゃあるまいし」

円「わーい、デパートデパート!ソフトクリーム~」

 

いや、ガキだろ!そっちはさっき食べきれないでパフェ残したってのに、また食べ物か!しかしこの大型デパート、流石に迷ったら洒落にならないな。アタシは二人の手を握ってやる。その時、二人はアタシの顔を見た。またか…この視線は苦手なんだよなー。

 

魁「ダセェ~ッ」

円「魁兄ちゃん、手を握らないとまた迷子になるよ」

魁「なんねーよバーカ!」

 

円の方は繋いだままで居てくれるけど、どうも魁は照れ臭いんだかアタシの手が気に食わないのか知らんけど、手を解いて前に立ち歩き出す。妹に「また迷子」と言われて余計に頑なになった気がした。こいつは男だから冒険心も半端なさそうだ、気をつけて見守りしねーとマジ迷子になるな。

 

イチコ『やれやれ…母親ってのはマジで大変なんだな…』

 

エレベーターに乗って最上階に到着すると、アタシの気も知らず魁が走り出した。アタシは視線を奴に向けながら、素直に手を繋いで歩いてくれる円に話しかける事にした。

 

イチコ『このデパートの屋上に来るのは初めてじゃないのか?』

円「うん、お母さんが買い物の時に付いて行くとね、いつもここに来るの」

イチコ『だから魁はあんな感じなんだ。…そうかあ、お母さんか…お母さん、今日はどうしたんだ?』

円「お仕事だって。お母さんは大変だから、炎兄ちゃんがいつもいい子にしてなさいって言ってるんだよ」

イチコ『そうか、だから円はお母さんの時みたいにアタシの手を掴んでくれてるんだな…お母さん…か』

 

アタシが物思いに耽るように白いベンチに腰を下ろすと、円は不思議そうにアタシを見る。そう、今日の午後の陽射しは思ったよりも強くない。爽やかな5月の風が心地良く頬を撫で上げてくれる。

 

魁「おい、円!」

 

円が魁に呼ばれて走って行くのを見守りながら、アタシの心の中には母親の面影が曖昧な形を象って揺れ動いていた。こんなの、そんなに長い時間ではなかった筈だ。なのにアタシの視界から二人の姿が消えていた。これはやばいな、目を離したら何をするか解らない年頃だ。

 

イチコ『魁!円!』

 

返答がない時、初めてアタシの背筋がゾクッとした。子供は目を離してはならないと解っていた筈なのに!周囲の母親や子供が不安げに此方を見るものだから、アタシは彼女達に情報を聞いてデパートの屋上を探し続けた。しかし、二人の姿は見当たらない。

 

イチコ『もしかしたら下の階に行ったのか!?』

「その位の子供なら、エレベーターに乗ってたわねえ」

 

その発言を聞いてアタシはエレベーターに乗って二人を各階に降りながら探し続ける。広いデパート内は走れど走れど見つけられる見込みも薄く、容赦なく時間を食らい続けた。アタシはこれを完全に自分の責任だと思うから、悲しんだり後悔する間もなく探し続ける。例えどんな低い確率であろうと、行動しなければ見つかる事はないと知っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

円「ねえお兄ちゃん…こんな事して、お姉ちゃんがカワイソウだよ」

魁「へへへ、あいつ今頃お兄ちゃんに叱られるのが怖くて、俺達のこと捜し歩いてるんだぜ?ざまあみろってんだ」

 

アタシは知らなかった。二人は屋上のアトラクションにあるビニールボールの影に隠れていたんだ。さっきの情報も良く考えれば同じ年頃の子はわんさか居るんだから、間違いだって時もあると気付くべきだったかも知れない。魁と円は潰れたアトラクション用のビニールで声を潜めて隠れていたけど…

 

魁「円…おい、寝てんの?」

円「すやすや…」

魁「チェッ、トロいな。俺も眠くなってきたし、少し寝ちゃおっと」

 

そんな二人の事は全然知らなかった。その頃、アタシは流石に限界を感じてデパートの店員に迷子のアナウンスを流して貰う事にしたんだ。

 

「迷子?大袈裟ね。心配しなくてももう大丈夫よ、デパートではかくれんぼしているだけの事が多くてね…はい、これで簡単に出てくるワ」

 

アナウンスした女性はアタシが女子中学生だからか、軽い出来事だと思い込んで適当にアナウンスを流す。それから暫くして携帯で連絡を取った獅子男先輩とやっと合流した。内容は…電話じゃ言い難かった。

 

獅子男「清唯~っ!」

 

少し疲れた様子だけど、デパートの1階サービスカウンター前に駆け寄る先輩の笑顔は晴れ渡ってる。どうやら試合は勝てたようだけど、これからアタシの言葉を耳にしてその晴れ間が一気に曇ることを考えると…やっぱり胸が痛んだ。だけどこれは現実だから仕方ない。仕方ないんだ。

 

イチコ『聞いてくれ先輩…実は…』

獅子男「…なんだと…二人が迷子に!?お前…いや、何故こんな事になったんだ!今どうなっている!」

「あら、お兄ちゃんね?心配しなくても今アナウンスで呼びかけたわ。デパート全体に実名で呼びかけたから、驚いて直ぐに出てくるわよ」

イチコ『すまない先輩……先輩はそこで待っててくれ!』

 

いつもは朗らかな先輩の鋭い視線がアタシに突き刺さっているのが痛い位解るんだ。だからアタシはもう一度探しに行くと駆け出した…まるでその視線から逃げ出すかのように。

 

 

 

魁「おい、おい…円!」

円「んんー…お兄ちゃん…?」

 

屋上で二人が目を覚ました頃には、周囲に人の気配はなくシンと静まり返っていた。屋上は既に鍵を閉められ立ち入り禁止、照明もなく月明かりが仄かに照らす程度だった。そんな異様な光景は初めてだったから、円は呆然とした後、ぐずり始める。

 

円「うっ、うっ…うえええーん…イチコお姉ちゃん…炎兄ちゃああ~ん…」

魁「な、泣くんじゃねえ!泣くな…うっ…グス…」

 

月明かりが照らす闇に紛れた遊具が今にも襲い掛かりそうで、年上の魁ですらも恐怖を覚え始めた。だが二人は怖くてその場から動けなかったんだ。動けば得体の知れない闇に捕らわれ、攫われてしまうとでも思ったのかも知れない。

 

 

その頃アタシはもう一度最上階に向かおうとしていたんだが、エレベーターが既に停止を拒否していた。警備員に聞いてみると、屋上には間違いなく誰もいなかったと頑なに断言している。だがアタシは先程の聞き込みの件で、人の意見を完全に鵜呑みするのは危険だと思い始めていた。

 

イチコ『…緊急時は大勢の人を頼る…だけど、それ以上に自分が行動する事が大事なんだ!』

 

何故なら悪意ある嘘よりも、そうであると断言する事の方が気付き難い真実が隠されている事が多いと思ったから。アタシは非常階段を駆け登り、簡単な鍵がかけられたフェンスを飛び越えて大声で叫んだ。

 

イチコ『おーいっ、魁!円ーッ!』

 

確実に駄目だと感じ始めたその時、ボールの中で跳ねるアトラクションの付近から弱々しい声が聞こえてくる。アタシは不安と安堵が入り混じった表情で其方に駆け寄った。不意に、暗闇から何かが飛び掛ってきた。

 

イチコ『うわっ』

魁「い…イチコ~!」

円「おねえちゃあああん、うわあああー!」

 

二人は泣きながらアタシの身体に力いっぱい抱き付いて来る。踏ん張らないと押し倒されるだろう勢いが、二人の恐怖と安堵の感情を思わせ、アタシの涙腺まで緩んできやがる。アタシはもう何も言えず、二人を両手で強く抱き締めるのであった。

 

 

「ほらね、やっぱりかくれんぼだったじゃないの。オホホ!警察を呼ぶほどの事じゃないって解ったかしら?君達、もう迷惑かけないようにネ」

 

勝ち誇った女性店員が嬉しそうに去って行く。イラっとしたが、アタシとシシオ先輩は無事二人が発見出来た事の安堵感で胸を撫で下ろしていた。二人は素直に「業とイチコを困らせる為に隠れていたんだ」と言い、項垂れる。

 

円「炎兄ちゃん、イチコお姉ちゃん…ごめんなさい」

魁「円はやってない…俺だけ怒れよ」

獅子男「馬鹿野郎、心配かけやがって!……迷惑かけちまったな、清唯」

イチコ『いや…目を一瞬でも離したアタシにも過失はあるよ。どうか二人を怒らないでやってくれ…』

獅子男「ああ…。あの時、激情に支配されてお前を殴らなくて良かった」

 

お、おいおい…殴る気だったのかよ。先輩は試合で大活躍したであろう拳を撫で上げて苦笑している。二人の子供は俯いて元気がないし、さてどうしたもんかと思ったら、シシオ先輩がふうと溜息を付いてデパートの外を見た。

 

獅子男「しっかしやべえなあ、今から帰宅したら流石に遅過ぎだ。帰宅してるおふくろにどう説明すりゃいいのやら…」

イチコ『…うーん。そうだな…アタシの家で遊んでたら遅くなった、夕食を食べてから帰るから心配しないで、って連絡してみるか?』

獅子男「いいのか?」

イチコ『いーよ』

 

別に迷惑なんかじゃないし。サッパリ返答返したけど、なんかシシオ先輩は暑苦しく感謝とかしてそうだな。だから言い難いけど、感謝とかされたくないから理由も言っておくか。

 

イチコ『今日は親父が仕事で帰らないから、一人飯は寂しいし…だからアタシこそ嬉しい…のかもな』

獅子男「あん?おふくろはどうした」

イチコ『いない。…ほら、お前達も腹減ったろ、行くぜー!』

 

もう落ち込んでも泣いてもいない魁と円は無邪気に走り回っている。アタシは母親の話に触れられるのを避けるように、二人と一緒に先を歩いてしまった。やれやれ、我ながら情けない。そんなアタシの背中を見つめながら、シシオ先輩とアタシ達は歩いた。

 

 

 

 

魁「お前の飯、まあまあだったぜ!」

円「ごちそうさまでした」

 

ちっ、流石は年頃の子供…舌が肥えてるな。今回は序の口よ、次は絶対に美味しいって言わせてやらあ。とか、そんな事を考えていると、玄関先で下駄を履いたシシオ先輩が優しい笑みを浮かべているのに気付いた。やれやれ、おにいちゃんスマイルってのはやり難いなぁ。シロの兄貴も一度はそんな表情があったよーな気がしたが…やっぱ比べ物になんねーぜ。

 

獅子男「美味しかったぜ。お前は意外と家庭的なんだな、俺も自炊はたまにするから解るが…お前の気遣いが伝わる食事だった」

イチコ『やめろって、なんか照れ臭いから』

獅子男「ははは!いい嫁さんになれそーだな」

イチコ『ったく……いい性格してやがるぜ、シシオ先輩』

 

玄関から三人を見送ると、アタシをどっと疲労が襲った。だが、気持ちが沈んだり苦しいような疲労じゃなく…なんだろうか、久々に大勢の家族に囲まれて感じる、心地良い倦怠感って奴なんだろう。やっぱり家族っていい、そう感じてアタシは狭い一軒家の自宅に入ると片付けを始めるのだった。

 

イチコ『天国から見てるかよ、母ちゃん。アタシは今日も挫けたりしないで一生懸命に生きて皆と元気にやってるぜ。だからソッチに行きたいなんてもう言わねーよ。父ちゃんと一緒に、まだまだ頑張るからなっ!』

 

柄にもなく風呂場で浴槽に浸かりながら一人言っちまった。こんな台詞が言えたのもあの家族とのひと時があったからに違いない。やれやれ、新たな自分の一面が垣間見えたぜ。さて…明日もまた何かあるんだろ?それが何であろうと、アタシはめいっぱい楽しんでやるぜ!

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