メネラオスらが危惧していたキマイラの存在だが、ガモフ達攻撃隊にキマイラは一体もいなかった。
何故なら以前アークエンジェル達がヴェサリウス達と邂逅した時に残りのキマイラ達は突然自我を取り戻し、抵抗したのであった。その為幾らかの被害の末、残りのキマイラは全て処分したのであった。
ゆえに、このメネラオス達の砲撃には回避を取るしかなかった。
ガモフ「っ⁉︎全員退避‼︎」
だが突然の攻撃に避けきれるはずもなく、攻撃隊の一部は火球へと転じてしまった。
ガモフ「ちっ!怯むな、モビルスーツ隊を発進させーー」
その時であった。ガモフの隣にいたローラシア級が突然何かを受けて爆沈したのであった。
ガモフ「なっ⁉︎あれは…砲撃か?」
先程ローラシア級が受けたのは長門達艦娘部隊の砲撃であった。彼女達の艤装は腰に取り付けてあるものであり、両手が塞がっていても使える代物であったのでそのまま戦闘に持ち込んだのであった。当然、ビーム兵器やミサイルに比べ、砲弾の速度は圧倒的に遅い。メネラオスはそれを利用し、時間差攻撃を行わせたのであった。
ガモフはそれを状況から理解すると、被害を受けた身にも関わらず笑みを浮かべた。
ガモフ「フッ…流石智将ハルバートンの艦だ、そうこなくてはな…!全員散開して敵を包囲!密集すれば敵の餌食になるから気をつけろ!」
指示を受け、ザフト艦は次々とモビルスーツを発進させていく。メネラオス達もモビルスーツ隊を前に出していく。
そして、互いの銃器が火を吹き、戦闘の火蓋が切られた。
たちまち乱戦となっていくなか、一際活躍していたのは夕立であった。彼女は両手にビームライフルショーティーを携え、一射一射を的確に射抜き、近付く敵には腿部に装着したアーマーシュナイダーに持ち替え胸部を切り裂いていった。
夕立自身、別の鎮守府とはいえ妹の春雨があのような惨たらしい仕打ちを受けた事に怒りを感じていた。だから、迎撃隊を編成する時には進んで志願した。これ以上、自分の姉妹達を傷つけさせない為に。
普段の天真爛漫な様子を一切感じさせず、その紅い目を光らせ次々に獲物を葬り去る様は、まさしく『狂犬』そのものであった。
その様子にザフト艦達は恐怖を覚え始めた。自分らより遥かに劣る艦娘、しかも駆逐艦が次々に仲間やモビルスーツを倒していくのである、驚かないはずがなかった。一人のボズゴロフ級が夕立に目をつけられ、彼女は慌てて自らのモビルスーツに攻撃命令を出す。
ジンが斬りかかろうとするも、夕立は野生的な勘で避け、アーマーシュナイダーを突き刺す。そして動かなくなったその機体を盾にし、ディンの攻撃を防ぐと左手のライフルで撃ち落とした。その隙をついてゾノがクローで掴みかかろうとするが、ジンを投げつけられ攻撃を妨げされ、ジンごと撃ち抜かれ、爆炎へと姿を変えた。
ボズゴロフ級「ば、バカな⁉︎あの短時間に四機も「ちょっと遅いっぽい。」へ?」
間抜けた声を出すボズゴロフ級の背にはライフルを押し当てている夕立の姿があった。それを確認したボズゴロフ級は思わず助けを乞うた。
ボズゴロフ級「ま、待っーー⁉︎」
当然、受け入れられるわけもなく彼女は何度も撃ち抜かれ、沈んでいった。
夕立がボズゴロフ級を屠るのを長門は横目に見ながら戦闘を続けていく。ビッグセブンの名は伊達ではなく、ビーム兵器と砲撃を使い分け、着実に敵を倒していく。すると、ある違和感を感じた。
長門(そういえば、先程から指揮官の姿が見当たらないな。)
ローラシア級を一人撃沈させ、辺りを見渡すと長門はもう一つ気がついた。メネラオスの姿も見当たらないのだ。
長門(メネラオス…一体何処へ…?)
探しに行きたいところだが、敵の攻撃がそれを許さなかった。長門はメネラオスの無事を祈りつつ、戦闘を継続していった。
----------------
長門達が戦闘をしている海域から少し離れた場所で、メネラオスとガモフは対峙していた。戦闘が始まってすぐにガモフはメネラオスを見つけると、誘い出すように海域を離れていったのであった。メネラオスはそれを罠だとは感じていたが、彼女を倒せば指揮系統が乱れるのは確実であるのと、自身の本能が彼女を倒せと呼びかけていたのだ。
それが自身の艦時代の記憶から来るものかはわからないが、メネラオスはそれに従ったのだ。
しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはガモフであった。
ガモフ「…一応言っておくが、ここには私とお前以外誰もいない。信用しなくても構わないがな。ここに来たのはお前と決着をつけるためだ。」
メネラオス「決着?」
ガモフ「ああ。知っての通りお前と私はあの日戦い、同時に散った。だから今、ここでお前と戦い勝利することで、過去の私を乗り越えることができる!さらに言えば追撃隊の事実上の指揮官はお前だろう?ここでお前を倒せばイズモ級は少々厄介だか追撃隊を倒すのは容易な事だ。」
そう言うやいなや、ガモフはモビルスーツを発進させた。だが、発進されたモビルスーツはすべてジンだけであり、ザクやグフといった最新鋭機は一切なかった。これは、自身が沈んだ時の艦載機で勝利するというガモフの理念によるものだが、メネラオスはこれを好機とみた。最新鋭機なら勝ち目はなかったが、ジンならばメビウスでなんとか相手になれるからだ。そう思いメネラオスもメビウス隊を発進させる。
ガモフ「ジン部隊、突撃せよ‼︎」
メネラオス「メビウス隊、全機発進‼︎」
両者の命令に従い、メビウスとジンは互いに向かっていく。それと同時にメネラオスは右腕のゴッドフリートをジンに向けて放つ。ジンを減らして戦闘を有利にするべくしたそれは成功し、ジンを一機撃墜し、近くにいたジンの片腕を削いだ。だが、それはガモフも同様であった。ガモフも高エネルギー砲を放ち、発進直後の密集状態だったのが災いし、メビウスが十機以上も撃墜されてしまった。
こちらの被害を確認した後、メネラオスはジン部隊をメビウス隊に任せ、自身はガモフに向かっていく。ガモフが迎撃にと放ったレールガンと単装砲が被弾するが、構わずメネラオスは砲撃する。ガモフに放たれたそれはガモフの艤装に当たり、左のレールガンを破壊し、ガモフ自身にも少なからずダメージを与えた。反撃の隙を与えずにメネラオスは続いて大型ミサイルを発射する。ミサイルの大半はCIWSによって撃ち落とされるが、メネラオスの目的は着弾ではなく、爆煙によりガモフの視界を塞ぐことにあった。
事実、ガモフの周りに爆煙が漂い、彼女の視界を覆った。
すかさずメネラオスはガモフの位置を予測し、砲撃する。だがガモフもそれは予想していたらしく、反撃の放火を放った。
互いの攻撃は命中し、メネラオスは左腕のゴッドフリートを、ガモフは右腕の肘から先を失った。
メネラオス「はぁっ…はぁっ…!」
ガモフ「ぐっ…!」
一瞬が何時間にも感じるほどの攻撃の応酬に両者は消耗し始めたが、ふいにガモフは笑みを浮かべた。
メネラオス「ガモフ…何が可笑しい?」
ガモフ「いや…これまで何人もの艦娘と戦ってきたが、やはりお前との戦いが一番戦い甲斐がある。モビルスーツとモビルアーマーの戦力差を知りながら諦めずに我々と戦い、己の命とともに私を倒したお前を、軍人として賞賛しよう…!だからこそ、隊長の脅威になりうるお前を討つ!」
それに見ろ、とガモフはジンとメビウスが戦闘をしている辺りを示す。すると、メビウスはだいぶ数が減り二機となり、ジンは一機のみとなっていた。
ガモフ「数の差があるとはいえメビウスでジンを五機も撃墜するは大したものだ。だが、ジンとメビウスの戦力差は5:1。つまり、お前のメビウスは全滅するだろうよ。ジンが一機いれば、お前を倒すのは容易い。追撃隊もおそらく壊滅してるだろう。対モビルスーツ装備をしても所詮は艦娘。たかが知れてるさ。」
右腕の激痛にも関わらず淡々と語るガモフだったが、その時、メビウスの一機がジンに突撃した。すかさずジンはメビウスを撃墜するが、爆発の直前に放ったリニアガンがジンのメインカメラに直撃した。そして残る一機が試製ロングレンジビームキャノンでジンを撃ち抜き、撃破するもその破片が右スラスターにあたり、バランスを崩して墜落した。
それを見たガモフは目を見開いた。モビルスーツがモビルアーマーと相討ちになるなどと思っていなかったからだ。
さらに追い討ちをかけるようにガモフに通信が入る。
ボズゴロフ級《が、ガモフ様‼︎大変です‼︎》
ガモフ「どうした⁉︎」
ボズゴロフ級《艦娘どもの抵抗が激しく、部隊が壊滅状態に…ひっ⁉︎くっ来るなぁぁー‼︎》
ブツッ、と不自然に途絶えた通信にガモフは驚きを隠せなかった。
ガモフ「ば、馬鹿な…⁉︎たかが艦娘に…我々が壊滅だと…⁉︎」
メネラオス「確かに、艦娘達は貴様達ザフトには性能では敵わない…。だが、彼女達や私には貴様達とは違うところがある…!」
メネラオス「それは…背負っているものの重みだ。貴様達が核を使えば、彼女達が守ろうとする国だけではなく、この星の生命が全て絶えてしまう。私や彼女達はこの星の全てを背負って戦っている。だから強くなれる…!死んだ男の復讐を代わりに遂げようとする貴様達なんかとは、違うんだ…!」
ガモフを見据え、はっきり言い放つメネラオスにガモフは激昂した。彼女が尊敬してやまないヴェサリウスの意思をメネラオスが愚弄したからだ。
ガモフ「ふざけるなっ‼︎隊長の意思が貴様達に劣るだと⁉︎そんな事はない‼︎攻撃隊が壊滅した今、貴様だけでも討って見せるっ‼︎」
そして、再び攻撃が再開された。ガモフの攻撃はその全てに激しい殺意が宿り、より凶悪なものとなってメネラオスに襲いかかる。無論メネラオスは避けようとするが、幾つかは命中し、彼女の装甲を破壊していく。メネラオスも反撃し、ゴッドフリートやミサイルを放つ。ガモフはそれを避けずに逆に突撃する。もちろん攻撃は当たり、左腕の高エネルギー砲と艤装を半分失うが、その代償としてガモフの放った単装砲がミサイル発射管に命中し、誘爆を起こしメネラオスに大ダメージを与えた。
さらにガモフは残された単装砲とCIWSを使いメネラオスに追い討ちをかけた。
メネラオス「ぐぁぁっ‼︎」
ガモフ「終わりだ、メネラオスっ‼︎」
ガモフの追撃を避ける為、メネラオスは海面にゴッドフリートを放ち、霧を発生させ、後方に逃げた。
メネラオスは今の自分の状態を確認する。使える武装といえば右腕のゴッドフリートのみであり、体力も限界に近く、ガモフの攻撃を避けきれる自信がない。つまり、次の攻撃でガモフを仕留めなくてはならない。
そして、その時は訪れた。
ガモフ「メネラオスゥゥーーッ!」
霧を割るようにガモフは突撃し、単装砲を三発放つ。それと同時にメネラオスはゴッドフリートを放った。
ガモフ「………。」
メネラオスが放ったゴッドフリートは、艤装ごと彼女の体を貫いていた。
ガモフ「…たい……ちょ…ぉ…。」
倒れこむと同時に艤装が爆発を起こし、ガモフは沈んでいった。一方でメネラオスもガモフの砲撃をその身に受け、少しでも気を抜けば倒れてしまう寸前であった。
だが、メネラオスは倒れるわけにはいかなかった。
メネラオス「早く…援護に、いかなくては…。」
この身体でも敵の注意を引き寄せる事はできる、そう思い彼女は長門達の元へと向かっていく。もう二度と、仲間を失いたくないという思いが彼女を動かしているが、身体が思うように動かず、視界も霞み始めていた。そして、バランスを崩して倒れようとした時であった。
長門「しっかりしろ、メネラオス!」
長門が現れ、彼女の肩を支えたのであった。
メネラオス「長門…?敵は、みんなは…無事なのか…?」
長門「敵は全員撤退していった。こちらは中破や大破が出たし、モビルスーツも大方やられたが、誰も轟沈していない。それより、鎮守府に急いで戻るぞ!そうすればお前の怪我も治る!」
長門はそのままメネラオスを曳航しながら鎮守府へと向かう。その中で、メネラオスはほっとしていた。今度はちゃんと仲間を失わずに済んだからだ。
しばらくの沈黙の後、メネラオスは長門に語りかけた。
メネラオス「長門…。妹達の事なんだが…多分、妹達は苦しんでる…。洗脳されてるとはいえ…核を使って何も思わないはずがないと思うんだ…。だから、勝手とは思うが…できれば殺さないでくれ…!」
その遺言とも取れる言葉を、長門は慌てて否定した。
長門「何を言っている!お前も一緒に助けるんだろう⁉︎それに、アークエンジェルだって、お前の帰りを待っている!だから、生きて帰るぞ!」
メネラオス「あぁ…そうだったな…。それと、お前とも…約束…したもんな…。」
そう言ったメネラオスだが、自分が助からないと何となくわかっていたのであった。二人にした約束が守れない事を申し訳なく思いながら、彼女は鎮守府で過ごした日々を思い返していた。そして、もし自分が死んだらみんなが悲しむだろうなと思った。
すると、メネラオスは隣にいる長門の事が気になった。彼女が悲しむと思うと胸に妙な痛みを感じた。思えば以前から彼女に対して奇妙な感情が湧き出る事があったが、それが何なのかは当時のメネラオスはわからなかった。
だが、今はそれが何なのかわかったような気がした。だから、メネラオスは長門に絞り出すような声で言った。
メネラオス「長門、ーーーーー。」
それはとても小さな声で、おそらく彼女には聞こえてはいないだろう。だが、それを言えただけでもメネラオスは満足であった。そして、メネラオスの視界は段々と暗くなってきた。
メネラオス(さようなら…私の…大切な人…達…。)
長門「見えたぞ、鎮守府だ!メネラオス、鎮守府だ…ぞ…⁉︎」
メネラオスを見た長門は目を見開いた。彼女はぐったりとし、穏やかな顔で目を閉じていたからだ。最悪の考えが脳内に浮かびながら、長門は震える声で呼びかけた。
長門「メネラオス…?悪い冗談はよしてくれよ…。もうすぐ鎮守府なんだ…お前は助かるんだ…。」
しかし、目の前のメネラオスは何一つ答えなかった。
長門「メネラオス!目を開けてくれよ⁉︎メネラオス‼︎」
----------------
その事実を知った艦娘達の反応は様々であった。
愕然とする者、泣き崩れる者、あまりの事態に思考が追いついていない者がいたが、なかでも一番ショックを受けていたのはアークエンジェルであった。
AA「あ…ああ…!そんな、そんな…!」
長門「すまない…!私が、もっと早く来ていれば…!」
涙を流す長門の横で、アークエンジェルは信じられない、と言った顔でメネラオスを見ていた。
眠っているようなその顔は、呼びかければすぐに目を覚ましそうであった。しかし、その頰に触れた時、少しだけ冷たい感覚が、彼女の死を教えていた。
AA「……っ!メネラオス…さん‼︎あぁぁぁ‼︎」
アークエンジェルは泣き叫びながらメネラオスの遺体にすがりついた。
この日、アガメムノン級宇宙母艦・メネラオスは、再び天へと還っていったのであった。
----------------
セントヘレンズ「見えた!あれが、アークエンジェルのいる鎮守府だ!」
視線の彼方にある建物を見て、セントヘレンズ達は安堵した。だが、彼女達は、最悪のタイミングでこの鎮守府に来る事となってしまった。
仲間を守る為に戦い、ガモフを倒し、そして散ったメネラオス。
彼女が長門に抱いていたのは、戦友としての感情か、それともーー。
最期の言葉は想像にお任せします。棒線の数が文字数と同じとは限りません。
そして、ようやく合流しようとするセントヘレンズ達。
彼女達の登場にアークエンジェル達はどう思うのか。
決戦の日は、近づいていくーー。
他の小説の編集などもあるので、年内の更新は多分これで最後だと思います。良いお年を。
では次回をお楽しみに。