私のお兄ちゃんは自他ともに認めるシスコンだ。小さい頃から二十歳を超えて当主になっても変わらない。年が離れているのもあるかもしれない。
運動会や文化祭には立派なカメラをもってカメラマンと化す。お姉ちゃんの方はそれにも慣れたのかノリノリで写真撮影に応じるのだが私はまだまだ慣れそうにない。
そんなお兄ちゃんにとって
「福引券を捨て、まず一枚目!ドロー!!!」
そう言ってボックスタイプの福引から券を一枚取り出す。折りたたまれた紙を開くと三等の文字。
「おめでとうございます! 三等の〇×遊園地一泊宿泊券、入場券&フリーパスセットです!!」
「もう一枚捨てて、追加攻撃。二枚目!!」
今度の中身も三等。
「お、おめでとうございます…同じく三等です。またのご利用をおまち…」
店員が引きつった笑いを浮かべながら挨拶するがそれを遮って言い放つ。
「何言ってるんだ? ここにもう一枚ある。俺の福引は終了してないぜ!三枚目!!!」
開くと、そこにも三等の印が押されていた。
「……おめでとう……ございます……さ、三等の……」
「分かってる。合計三枚だ。渡してもらえるか?」
受け取って、三個ある三等を
このように狙ってできないことを当然のようにやってのけるのだ。きっと今回の発端はお姉ちゃんが「受験勉強に打ち込む前に兄妹水入らずで遊園地に行きたい」と言い出したのをお父さんに却下されたことだと思われる。気合の入り方からして相当根に持っていたようである。確かに自分たちで券を買って行くのとは異なり
「流石兄さんね! これで一日どころか二日遊べるわ!」
「当然だ。受験勉強の前だから全力で楽しまないでどうする。……目標の進学先は認めたくないが刀奈が決めたことだからな……俺も口出しはしない」
「兄さんったらそんなに心配しなくてもいいのに……。だってIS学園って女子高よ」
「島にある学校だぞ……何があるかわかったもんじゃない。外国からも生徒が来るらしいじゃないか、どんな危険人物が一緒に入学してくることか……。簪だってそうは思わないか?」
「心配しすぎ……口出さないって言ってるくせに口に出てる……」
私が思っていたことをそのまま言うと少しだけ肩を落とした。
「そうよ、私だっていつまでも子供じゃないんだから大丈夫」
「そ、そうか……まあいい、とりあえずうちに帰るか」
姉妹のこととなると心配が止まらないお兄ちゃんは、左手を右肩に添えて腕を回してから私たちの横にあった買い物袋を持って歩き出した。
遊園地に行けることは素直にうれしいのだけど、あの癖が出たときは考え事をする時だから今頃お父さんの弱みをどう使うか考えているはずだ。私はこれから八つ当たりされるであろうお父さんが少し可愛そうになった。
☆
というわけで兄さんのおかげでこの土日は遊園地で遊べることになった。父さんは母さんに情報をリークすることを引き留める交渉に必死になっていたけど…その情報って何だったのかしら? 朝食の時も冷汗が止まらずにそわそわしていて逆に母さんに怪しまれていたわね。それすらも兄さんの策略だったのかもしれない。
電車に揺られて数十分、遊園地に到着する。ここは日本最大級の規模を誇る場所だ。
隣でうたた寝している簪ちゃんをゆすって起こす。兄さんは既に準備を終えて私たちの荷物を持っていた。中身は着替えや洗面用具なんかが三人分入っている。こういう時兄さんは最低限の荷物以外は代わりに持ってくれる。一度私も持つと言ったら凄い剣幕で拒否されたのでそれ以来その行為に甘えることにしている。
荷物を預けてから入場ゲートをくぐり中に入る。今日は三人で最高に楽しい思い出を作ろうと心に決めて兄さんと簪ちゃんの手を取って最初のアトラクションを目指して歩き出した。
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めいいっぱい限界までアトラクションを乗り回して過ごした一日目を終えて、風呂から上がるとさっきまではしゃいでいた妹達も眠りについていた。この可愛らしい寝顔が見れるのは兄の特権だろう。
写真に収めようと携帯を手に取ろうとしたとき、ひとりでにそれは振動する。ディスプレイには親父の名前が表示されていた。今朝の約束の確認か…それとも押し付けた仕事の愚痴か? バイブレーションが三回目に突入したところで電話に出た。
「俺だ。安心しろよ親父、あの情報は墓場まで持っていく。そう心配せずともいいさ」
「ああ、そうしてもらわないと困るが……それとは違う話だ」
思ったより真面目なトーンで話を切り出して来たので何となく内容は察する。
「どこからの依頼だ?」
「話が早くて助かる。政府から直接だ。そろそろISの世界大会がドイツで開かれるのは知ってるか?」
今日刀奈がそんなことを並び時間に言っていたのを思い出す。全世界に中継される大規模なものらしい。
「その親族の現地での護衛を依頼された。期間は二週間後の五日間だ」
「了解した。詳しくは帰ってから聞かせてくれ」
「取りあえず今は楽しめ、しばらくは忙しくなるだろうからな。じゃあな!」
親父はそう言い残して電話を切った。
今やISの世界大会といえば国力をアピールする重要な場だ。そんなところで親族に何かあっては国の信用にも関わる。うちに仕事が回ってきたのも当然と言えた。
「―――まあ今から仕事の事を考えても仕方がない。俺も明日に備えて寝よう」
明日に備えて二人が寝ている隣のベッドで眠りについた。
後にこの依頼を受けたことを人生最大の失敗と彼は振り返るのだが……今の彼には知る余地もなかった……
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