「俺に名乗る名など無い、といつもなら言うところだが……俺はジン。ジン・クロニクルとでも呼んでくれ」
俺はそう名乗った。憎らし気に一夏君は俺を睨みつける。
「どうして鈴を狙った?」
「邪魔だったからさ。俺が戦いたいのはお前だ、織斑一夏」
俺が束に依頼されたのは『織斑一夏の単体での戦闘能力の調査』だ。団体ではない。故に分かりやすく構え、中国の代表候補に庇わせた。
長く戦えるように素手でもISの絶対防御を貫通する俺は攻撃力を竹刀で威力を抑えた。
そして彼は自分を抑える癖がある。限界を図りたい俺はこうして『仲間のために戦う』状況に追い込んでその枷を外したかった。
「なら最初から俺を狙えばよかっただろ!!」
「狙ったさ、お前が鈍いから庇われた。違うか?」
「それは……」
「もし違うと言うのなら証明して見せろ!」
「くそ!」
一夏君は正面から突っ込み、剣を振り下ろす。竹刀で受け止めるのは不可能。ならばその太刀筋にそって合わせて軌道を逸らすしかない。
常人には不可能だが俺は針に糸を通すような正確さでそれを可能にした。
それに私的理由も相まってモチベーションも高ってるんだ……。この程度で終わらせてたまるか。
一夏君は分が悪いと判断したのか、スラスターを吹かして間合いをとった。
だがそれは悪手。その距離はまだ俺の間合いだ。
――月牙二閃!!
横薙ぎに一太刀、砂埃を立てるように切り上げる。対となっている衝撃波が空中の一夏君へ向かう。
一夏君は更に高度を上昇させてその衝撃波を回避した。正しい判断だ。だが、相手が悪かったな。
――月牙
振り返った一夏君の表情は凍り付いた。いい顔だ。予想できなかったって感じだな。こっちは上手く行き過ぎてゾクゾクしてるぜ。
――天衝――――!!
渾身の力を持って竹刀を振り下ろす。
衝撃波が来ると判断できたのかそれともただの勘なのか、しっかりと彼はガードをしていた。
勢いは殺しきれずに地面に向かって墜落し、クレーターのように穴が開いた。砂埃が巻き上がる。
ここまでか……。俺の目が狂ったか? とんだ期待外れだな。一歩一歩近づき、止めを刺しに行く。
上段に振りかぶった瞬間、殺気を感じ後ろに飛び退く。元居た場所にレーザーが降り注いだ。
「大丈夫ですか!? 一夏さん!」
邪魔が入ったな。ビットが俺の周りを飛び回っている。あれ全部が銃口か? 厄介だな。
再びビットからレーザーが放たれる。竹刀では相殺が出来ないので避けるしかない。
回避ルートを算出してレーザーの雨から抜け出す。
突き進んで来た一夏君が砂埃から姿を現す。獅子身中の虫、ずっと俺に一撃を加える機会を窺っていたという事か。
してやられたな。レーザーがあるせいでこれ以上動くことは出来ない。そして彼は既に必殺の一撃を振りかぶっている。回避は不可能。竹刀では剣による一撃を防ぐことは敵わない。そんな事をすれば竹刀は砕かれ、俺の体も致命傷を負う。
使うつもりは無かったが、仕方あるまい。
「こい――青天井!!」
腕輪が崩れて形を変えて俺の手に収まった。そして一撃を受け止めた。甲高い金属音が響く。重い一撃。腕が痺れる。そして彼の事を改めて認知した。やはり俺の目は正しかった。
思わず口元が緩む。
「なっ!?」
「悪いな。流石にこの状況じゃ出さざるを得なかった。そして、時間切れだ」
つばぜり合いの状態から押して間合いを開かせる。穴の開いたシールドが塞がるギリギリのところで外に飛び出た。
その上に着地する。俺を見上げる一夏君が見えた。
「次は最初っからこいつを出させるぐらい強くなって見せろよ」
青天井を掲げながらそう言って俺はアリーナを後にした。
▼▼▼
「どうしたのやっくん? やけにうれしそうな顔だね。何かいいことでもあった?」
ラボに戻ってくると束がそう問いかけて来た。いいこと…か、確かにあったな。彼は見立て通り成長しそうだ。
「それといっくんはやっくんから見てどうだった?」
「とっさの判断力が優れているし、ポテンシャルはかなり高い方だろう。これから大きく化けるかもな…」
「へぇ嬉しそうなのもそれが理由?」
「なあに、彼もまたシスコンだという事さ」
彼の一撃を受け止めた右腕はまだ痺れていた。
どうでもいい用語集
燕飛ばし:月牙天衝+燕返し=燕飛ばし。
月牙二閃:簡単に言うと月牙天衝二連発。前者のように同時に撃つわけでは無い。
次回は妹達視点をやります。
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