どこだ……ここは?俺は海に沈んだはずだ。
水面を力を入れずに歩くことに違和感を覚えた。俺は水面を走ることが出来る。その難しさを知っている。それ故にここはこの世とは思えなかった。
見ればジョセフターフに付けられた刀傷も消えている。やはりここは現実ではないようだ。もしかしたら本当の俺の体は今頃さんざん釣りあげて来た魚たちの餌にでもなっているかもしれない。
どこまでも続き、先が見えない水平線。雲ひとつない晴天。上も下も無限に続く真っ青な空間。死後の世界とはここまで殺風景なのだろうか……。
「やあ、ようやく来たね」
背後から話しかけられる。黒髪が腰まである少女。いや、幼女の方が近いか。ドレスを着こんでいて色は灰色、今にも雨が降り出しそうな雲の色。この真っ青な空間には不釣り合い、浮いた色合いで異質だった。もし死んだ後に純白の天使が死者を天国に連れて行くとしたら、こいつはさしずめ堕天使ともいえる風貌であった。
「誰だ……お前?」
「さあ……誰だと思う?」
そう彼女ははぐらかした。フフッっと微笑む。そんなに俺をからかうのが楽しいのか……。俺をからかって遊ぶのは刀奈だけでもう沢山だ。
それはさておき、もう一度見つめてみてもサッパリだ。心当たりは全くもってない。
「初対面で当てろって言うのは酷じゃないか?」
「初対面じゃないんだけどな……。確かに普段とは姿形は大幅に異なるからね、ヒントをあげよう」
そう言って右手首をトントンと叩く。これがヒントか?普段なら青天井が腕輪になっているが…自分の右手首には何もない。まあ、死後だと仮定すれば生前の持ち物は持ち込めないのは当然ともいえる。
「それがどうした?」
「え……分からない?馬鹿じゃないの」
「実際、馬鹿だからな」
「えぇ……」
呆れたようにそう言った。堕天使だからなのか、面倒なことが嫌いなようだ。馬鹿の相手は疲れるからな……。――俺が言う事じゃないが。
「あんなに私を大切にしてくれてたのに……。それでも分からないの?」
「俺に天使の知り合いはいないんだが……」
「私は天使なんかじゃないよ! ―――ひょっとして私を天使的な可愛さって褒めてくれてるの!? 嬉しい」
そう言ってはしゃぐ天使もとい、幼女。
もしそのような基準で天使を選定するのであれば、もちろんうちの妹達が最高ランクの天使に選ばれる。これは決定事項だ。選ばれたのは妹でした。
よし。結論が出た所で考え事はいったん止めて、彼女を落ち着かせよう。
「寝言は寝てから言えよ」
「酷い!?」
オヨヨヨ、とよろよろ座り込む。
「そんな……毎晩私の体を愛おしく撫でて、手入れしてくれているじゃない」
そんな事をしでかした覚えはない。そんな事をしたら刀奈や簪に幻滅されてしまう。シスコンであってもロリコンではないのだ。
「妄想はその程度にしておけよ……」
「私……う、噓つかないもん…ホントだもん」
今度は涙目である。表情がコロコロ変わる面倒な奴だな。
「じゃあ、お前は何者だよ。」
「あ、あ……て……う」
「え?」
「だから、あ……青天井よ」
耳を疑った。こいつは「青天井」と言ったのか?俺の青天井はただの、いや束によって改造されたがそれでも刀のはずだ。意思を持つとは斬〇刀じゃあるまいし……。
「むぅ、信じてないね。……なら」
彼女の体が光ると水面に刀が突き刺さっていた。透き通る青色の刀身、間違いなく青天井だ。
『これで信じてくれた?』
こいつ、直接脳内に……!?
「分かった、信じよう。だからその頭に響く話し方は止めろ。どうして武器のお前に人格がある?」
元に戻ると胸を張ってフッフ~と得意げに俺の目の前に立つ。
「まあ、正確に言えばISコアなんだけれどね」
「いやまて、男である俺にはコアは使えないはずだ」
疑問に思うのはそこだ、ISコアだったとしてもISは男性には動かせない。その事実は動かない。
「何事にも例外はあるんだよ、私はもともと男性用に創られたんだ。でも、訓練で適性を上げてもE+で止まることが分かったから実用化は諦められたんだ」
「E+ってどの程度なんだ?」
「部分展開が関の山といったところかな」
なるほど、知らず知らずのうちにISを起動していたようだ。束もなんかもったいないから使ってみましたみたいなノリだろう。文句の一つは言ってやりたいが、死んでしまっては何も言えない。「死人に口なし」というわけだ。
ハァっとため息をつく。
「死者の手向けとして思わぬ真実を掴まされたか」
「いえ、あなたはまだ死んでないよ。死にかけだけど……」
「……え?」
「気が付いてなかったんだ、通りでのんびりしていると思った。早く戻ってよ。私も海の底で暮らすのは嫌よ」
「でもどうやってあの状況から離脱するんだ?俺の体はズタボロだ」
「私が力を貸してあげるからさ、頑張ってみて。それじゃあ、いい結果を期待してるよ」
俺の視界から手を振る幼女と空間がゆっくりと消えていった。
▼▼▼
目を開く。海中には「
これなら多少の無茶も利く。展開して青天井を見る。
頼むぜと心の中で呟くと、頷いてくれた気がした。
青天井――――モード『
青の刃が黒く染まる。体が軽くなった。これならなんだってできそうだ。
手始めに目の前の邪魔物を切り裂くとしよう。両手で刀を持ち直すと全力で刀を上段で振り下ろす。
海が削り取られたように割れた、砂浜に立つテンペスタの背中が見えた。
「そうだ……まだ負けられないだろ!刀奈達の下に……帰るまでは!」
視界が全方向に広がり、バチバチと雷が俺の体を包んだ。
コアとの会合を果たし、覚醒を果たしたシスコン。その姉妹への想いは海をも切り裂く!
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