もう少しでドイツにて開催される第二回モンドグロッソ、国から観戦チケットが送られてきた。
第一回でも優勝した千冬姉は注目されており、弟としても誇らしい。その活躍を直接見られるというのだからその誘いに乗らないわけがなかった。
そのチケットを持って航空に向かうと、そこには藍色の短髪にサングラス、黒のスーツ腰には鞘に収まる日本……刀? まあここは日本だからそれはないだろう。まあ、とにかく奇妙な姿の男が話しかけて来た。
「君が織斑君でいいのかな?」
「え、ええ……あなたは?」
「俺は更識楯無。今回日本政府から君の護衛を任された者だ」
男はサングラスを外して深紅の瞳を俺に見せながらそう名乗った。
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楯無さんは代々政府直属のボディーガードのような仕事をしている人らしい。俺よりも頭一つほど背も高いし体つきもがっしりしていて、鍛えているのがわかった。
飛行機の中で話をしてみると気の良いお兄さんといった感じで、そのことを言うと妹が二人いると話してくれた。それと妹のことを話すときは他の話題のときより三倍ほど力が入る。きっと家族を大切にする人なのだろう。
ドイツに着くまでに昼食を取ったのだが楯無さんは手作り弁当を持ってきていた。中には白米とから揚げ、卵焼き、ミニハンバーグ…他にも定番のおかずがたくさん詰まっていた。料理まで完璧にこなすとはすごい人だと思って作り方を聞くと彼が作ったものではなく、
「そんなに興味を持つとは…まさか欲しいのか? うらやましいか? まあやらんがな」
そう言って鞄から写真立てを取り出し、机に置いてからそれを見ながらその昼食を済ませる。当然のことながらその写真には楯無さんに少し似ている姉妹が二人で写っている。ここまで来れば俺にだって理解できた。楯無さんは家族を大切にする人というよりシスコンだ。
☆
織斑少年は割と謙虚で気遣いのできる好青年といった感じで資料通りの人物像といえた。この調子ならきっと女子受けも良いだろう。
だがそれと同時に彼の根本的なところは俺に近いことが伺えた。彼の小さい頃の話や武勇伝にはほぼ確実に姉の話が絡んでいる。
そう……彼の心の奥底の
同族の匂いと言うかなんというかこう…感じるのだ。息使いや語り方から。まだきっと本人は気が付いていないだろうが、そのうち目覚めることになるはずだ。
だが所詮なりかけ、俺の域に到達するにはまだまだだ。もしこの先、彼が目覚めることがあるのならば盛大に迎えるとしよう。
☆
その頃、織斑千冬は弟の護衛に付く人物の名前を聞いて、高校時代に剣道の非公式大会で見かけた男のことを思い出していた。
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楽々と女子部門での優勝を決めて、表彰までの待ち時間に男子の決勝を見ることになった。正直興味はほとんどなく、早く終わって欲しいと思っていた。
しかし彼女の表情はその後驚愕に染まった。一人の男によって…それが更識である。聞けば弱小校の剣道部からの快進撃、に次ぐ快進撃。その圧倒的で流れるような剣技。そして…
「「お兄ちゃ~ん頑張って~」」
彼を応援する小さくて可愛い妹達が彼を有名にしていた要因のようだ。
左手に竹刀を持ち、右手を突き上げてその歓声に答え、試合に臨む。ギャラリーがざわめき審判も再三確認をしている。特に変なこともない普通の状態だと思うのだが…。
「あの…更識って奴、準決勝まで二刀流だったよな。なんで急に一本になってるんだ?」
「わからない。でも本来あり得ない事態だな。だから審判も確認したんだろう」
それを聞いて千冬は混乱する。二刀流は完全習得は難しいが手数の多さや防御力の高さといったアドバンテージがある。それを決勝戦で捨て去るのかが最後まで理解できなかった。
試合が始まり正面に構えた竹刀を鞘に納めるように構えなおす。それは篠ノ乃道場で
相手から繰り出される斬撃を全て紙一重で回避、軽いフットワークでじわじわと確実に追い詰めている。
「――――胴」
静かで小さい声だったが観客席まで通った。それと同時にパァン!と竹刀を打ち込んだ音が響き、決着がついた。
表彰式が終わった後、彼に質問する。
なんであれほどの剣術が使えるのに最初から使わなかったのか…と。
すると彼はこう答えたのだ。
「妹達のリクエストだったから」
このとき千冬は彼のわけのわからないシスコンっぷりに混乱した。
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思い出してみればよくわからない人物像に加えて、一つの疑問が新たに生じた。
果たして彼は妹以外もちゃんと護衛してくれるのだろうか……と。
ブラコンの姉の苦悩がまた一つ増えた。
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