学園祭の準備を進めつつ、今日も更識さんの特訓を受けた訳だが……。
「まだまだだね~一夏君。こんなんじゃ私に勝てるのは何十年かかるかな?」
この通り完封負けを喫した。槍や刀を用いた変幻自在の攻撃パターンに俺はまだついていけていない。更識さんは『完全勝利』の文字が入った扇子を見せて来た。どうなっているんだろうか? あの扇子は。
それより今の数十年というのは気に食わない。
「そんな事無いですよ! 今日はこの前よりも動きについて行けてます。数か月後には……」
「そういうことは私に本気を出させてから言いなさい。国家代表を甘く見ないでくれる?」
まだ手加減してるなんて……。言われてみれば、更識さんはまだあの水の装甲をまともに使っていない。底の見えない強敵であることを改めて実感した。
「ねえ、一夏君。のど乾かない?」
「そりゃこれだけ運動していれば乾きますよ」
なんだかんだ言って一時間近く動きっぱなしだ。体が水分を欲している。そんな当たり前なことをどうして聞くのだろう?
「ちょっとお茶しましょう♪」
▼▼▼
そう言われて連れてこられたのは生徒会室だ。何でも、生徒会の「
「みんなお疲れ様! 疲れてると思うけど一旦お茶にしましょう。今日は特別ゲストも連れて来たから」
「ゲスト……ですか。なら仕方がありませんね。待たせるのも失礼でしょうし」
「話が早くて助かるわ虚ちゃん。一夏君、入ってきて~」
呼ばれたので扉を開けて中に入る。机を挟んでソファが二脚、そして一番奥に更に机と椅子が一脚。あれがおそらく生徒会長席なのだろう。
「わ~おりむーだ~。いらっしゃい~」
この部屋に予想外にして聞きなれた声が響く。クラスに居るときとほぼ同じようにくつろいでポッキーを食べている…。目をこすってもう一度見てもその姿は変わりない。間違いない、のほほんさんだ。
「のほほんさんって生徒会役員だったのか…」
「意外って顔だね~おりむー。見ての通りだよ~。ちゃっかり仕事もこなしてるよ~」
「あなたは”しっかり”仕事をこなしなさい……」
眼鏡に三つ編みの女性がそう言った。ネクタイの色からして三年生みたいだ。
「織斑さん、いつも妹が迷惑かけしてます。姉の虚です」
「これはご丁寧にどうも。えっと……失礼な事を伺いますが苗字は…」
「
聞き覚えのない苗字だ。誰の姉なんだ?知り合いのどの人にも似ている気がしない。
「ちなみに~私の苗字も布仏です」
「本音、下らない事言ってないでお茶請けを用意しなさい。確かそこの棚にクッキーがあったはずよ」
はーい、と言って従うほほんさん。似ていないが本当に姉妹らしい。……信じられないが。見てるだけなのも悪い気がしたので手伝おうと席を立つ。
「一夏君は座って待っていて。お客さんなんだから今はこっちを立ててくれると、お姉さん嬉しいな~」
「……はい」
行動を先読みされて抑えられてしまった。まあ言われてみれば確かにそうだ。俺がもてなす側でも同じようなことを言っただろう。大人しく元の場所に座りなおす。
「そういえば一夏君のクラスは何やるんだっけ?」
「学園祭ですか? うちはメイド喫茶ですよ。みんな張り切って準備してます」
「へぇ、メイド喫茶。いいわねー一夏君はさしずめ執事ってところかしら?」
「あたりです」
「あら? 冗談だったのに。一夏君はそういうのNGかと思ったわ」
『驚愕』の文字を扇子に刻む。俺だってNGを決め込みたかったが別案に比べれば格段にましだったのでつい承諾してしまった。あれらの出し物に決定していたらと思うとぞっとする。
「気まぐれですよ。更識さんもよかったら来てください」
「ええ、ぜひ行かせて貰うわ。簪ちゃんの出し物も見に行きたいしね」
「簪…さん?って誰ですか?」
「あれ?紹介してなかったっけ?私の妹よ、自慢の」
そういえば、あの人の見ていた写真に写っていたのは三人だった。今でもハッキリと記憶している。楯無さんと更識さん。それともう一人。最後の一人がその簪さんのようだ。
そして妹自慢を忘れない当たり、実にあの人の妹らしいなと思った。血筋なんだろうか。
「お待たせしました」
そんなのことを考えているとお茶の準備をしていた二人は戻って来た。丁寧にティーカップを並べてそこに紅褐色の液体を注ぐ。いい香りが鼻を衝いた。
「どうぞ」
差しされたカップを手に取って一口。俺はどちらかと言えば緑茶派だけどこれは旨い。なんというか、茶葉の旨味が体に染み込んでいく感じ。いつまでも味わっていたいと思わせるほどの逸品だった。
「どう? 一夏君。おいしいでしょう?」
「はい……とっても」
「そう言っていただけるとは恐縮です」
「そういえば虚ちゃん、簪ちゃんがどこ行ったか知ってる?」
「簪様なら先ほどお嬢様とすれ違いに書類を提出しに行かれました。そろそろ戻ってくる頃かと」
噂をすればなんとやら、という奴で俺が先ほど入って来た扉がゆっくりと開く。だが俺が想像していた人物とは異なる人物が立っていた。
「織斑、なぜお前がここにいる。部外者は立ち入り禁止だ」
「ち、千冬姉……どうしてここに……?」
「生徒会の顧問だからだが、文句あるか?」
「ないです……」
鋭い目つきで俺を睨みつけると、机の上のティーカップを見て何やら含みのある笑みを浮かべた。
「ほう……お茶まで出してもらうとは良いご身分だな? 織斑。まあ初犯だから許してやる。
「かしこまりました。ティーカップを持ってくるので少しお待ち下さい」
「そう急がなくていいぞ、気長に待つさ。それより
持って来たクリアファイルから二枚の書類を生徒会長席に置くと俺の隣に座る。更識さんとは反対側だ。これで三人掛けのソファが埋まった。
「それと妹の方は今日は調整がしたいから戻らないそうだ」
「そうですか……私達が手伝ったので後は試運転ですからね。気合が入ってるんですよ」
「そうか、ならいい」
千冬姉は虚さんが淹れた紅茶に息を吹きかけて少し冷ますとおいしそうに口にした。
という訳で今回は生徒会にてお送りしました。
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