――――――気まずい。
私は口数は少ない。だからか普段は聞く側に回ることが多い。自分から積極的に話しかけることが苦手なのを自覚している。お兄ちゃんやお姉ちゃんが話したがりというのも影響しているのかもしれない。
沈黙に耐えかねて、顔を目の前に向ける。銀髪の彼女は器用に箸を使ってサバの味噌煮を食べている。見つめていると同じように彼女も顔を上げて、私と目が合った。
「どうかしたのですか?」
「い、いや、なんでもない」
「そうですか」
やってしまった……。せっかく話しかけてくれたのに早くも会話の流れを切ってしまった。突然のチャンスをものに出来ないのは私の弱点だ。どうにかしてこの状況を打破したい。状況を変えるには攻めないと。
「「あの……」」
か、被った。でも、せっかく話しかけてくれたから、譲って話を聞こう。
「そちらからどうぞ」
「いえいえ、簪様からどうぞ」
「え?じゃ、じゃあその様付けを止めて欲しい。なんだかこそばゆい」
「では簪嬢と」
「いや、そうじゃなくて……私は上司じゃないんだからそう敬称を使う必要はない。呼び捨てで良い」
「ですが……いえ分かりました。では簪。私の事はクロエとお呼び下さい」
そう言って彼女は微笑んだ。よし、何とか第一のステップはクリア。次は別の話題を提供してみよう。お兄ちゃんが会話をする時のコツとして相手との共通点を探すといい、って言ってた気がする。ちょっと
クロエと共通の話題といえばお兄ちゃんの事だ、私達以外から見たお兄ちゃんの様子も気になる。
「クロエから見てお兄ちゃんってどんな感じ?二年ぐらい会えて無かったからちょっと聞きたい」
「刃様ですか?そうですね……なんでもできる完璧超人、人をからかうのが好きなお兄さんって感じでしょうか」
表情が苦笑いに変わる。その反応からしていなくなっていた間も向こうでハチャメチャやってたみたいだ。
「そうそう、お兄ちゃんは昔からそんな感じ。でも結構弱点もあるでしょ?」
「そうですね、細かい計算とかはサッパリです。円周率を隣で聞かせてあげたら頭を抱えてました」
そこもやっぱり変わってないみたいだ。お兄ちゃん撃退術の一つ『円周率読み聞かせ』は未だに有効であるらしい。おかしくて思わず笑う。
「あら、楽しそうね簪ちゃん。私も一緒にいいかしら?」
「お姉ちゃん?いいよ。クロエもいいよね」
「問題ありません」
お姉ちゃんは私の隣にお盆を置いて椅子に腰かけた。メニューはクロエと同じ日替わり和定食。
「あなたは確か、刀奈様でしたか」
「あれ?私の真名知ってるんだ」
「ええ、刃様からよく聞いております」
「そっか。でもここでは名前を変えてるから、楯無って呼んでね。もしくはたっちゃんでも可」
そう言ってお姉ちゃんはどこから取り出したのか扇子を広げる。書かれていた文字は『よろしく』、珍しく何のひねりも無かった。
「分かりました楯無。私のことはクロエ、もしくはくーちゃんでも可です」
クロエはオウム返しに答え、お姉ちゃんは気に入ったのかニヤリと笑った。
「いや~面白いねクロエちゃんは。それで何の話してたの?」
「刃様の弱点について話してました」
「あー成程ね。兄さんはああ見えて面白い弱点は多いからね」
納得したように何度か頷く。運動や戦闘能力では弱点らしいものはあまり無いけど、学業や事務といった方面はボロボロだ。
「そういえば……中学生の時に先生から聞いた話は面白かった」
「そうそう。あの兄から想像できないぐらいに頭が良いって言われてね」
「刃様の学生時代ですか?面白そうですね」
クロエはどうやら興味津々らしい。お姉ちゃんは話す気満々で、思い出しながら語った。
「多少の脚色も入ってるだろうけど、運動部では助っ人としてあらゆる部活を地区大会優勝まで連れてったって言ってたわね」
「私達も応援に行ったりしてた」
「あの化け物染みた運動能力は昔からですか……」
どうやらクロエもお兄ちゃんの運動能力を見たことがあったみたいだ。まあ、一緒に行動してたならそれはそうか。
「そこで見せつけたカリスマ性で生徒会長にもなってたみたいね。運動部からの投票をかっさらえただろうし、元から勝ちは見えてたようなものだけどね」
「でも仕事を放りだしてどこかに逃げそうですね」
「それは、想像できる……」
「ええ、お嬢様も現にこうして仕事を私に押し付けて食堂に来てますしね。兄妹で嫌な所が似て、従者としては困ったものです」
あれ?聞きなれた声が背後からする。隣を見るとお姉ちゃんがは箸を片方お盆に落としていた。そしてその先にお盆をおいて
「逃がしませんよ。この間の面倒事で仕事が増えているんです。なんとしても仕事を手伝ってもらいます」
どうやらまた、お姉ちゃんは仕事を抜け出したらしい。でも後は生徒会長の印が必要な書類だけだったはずだけど……。
「まさか、あれっきり進めていないとか言わないよね。お姉ちゃん?」
「そのまさかです。簪様。夕食を残すことは食堂の方に失礼なのでこの場は許しますが、それ以降は徹夜してでも終わらせて貰います」
夕食後、虚に引きずられるお姉ちゃんをクロエと共に見送る。助けてとか見捨てないで~とか言っていたけれど、自業自得なので別に同情はしなかった。
シスコン(中学時)「因数分解ってなんだよ。勝手に分解すんなよ。自然のままにしておけよ」
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