更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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孤軍奮闘

 「遅いわ……馬鹿者」 

 

 千冬姉はそう言うと少し笑った。スーツの左肩は裂けて内側の皮膚もえぐれている。

 無事……とは言い難い。

 

 「千冬姉……」

 「大丈夫だ、動けない程ではない。まだやれる」

 「でも!」

 

 「問題ないと言っているだろう。お前が心配されるほど私は(やわ)じゃない」

 

 千冬姉は肩を押さえて俺の隣に立った。ダメージが大きいのか、足取りに違和感を覚える。

 

 「その傷で見栄を張るじゃないか……姉さん」

 

 正面にいる敵がそう言った。千冬姉に似ていて、似すぎていて、数年前の姿を彷彿とさせた。

 

 「何者なんだよお前」

 

 睨みを利かせながら敵を見る。千冬姉の事を姉さんと呼んだあたり、俺も無関係では無いと思うけど、生憎心当たりは無い。

 

 「そうか……私の事を覚えていないのか。無理もない」

 「覚えていない……?どういうことだ」

 「私はまどか。織斑まどかだ。お前の姉にあたる」

 「なっ!?」

 

 千冬姉は家族について聞いたとき、「私の家族はお前だけだ」と言っていた。そのときの悲しそうな表情を見てその疑問は頭の奥底にしまっていた。

 それがこんな形でそれが解かれるとは思わなかったけど……。

 

 「知らなかったみたいだな。――言える訳がないか……だって姉さんは私達を捨てたんだからな!」

 

 ――――焼き尽くせ、黒騎士!!

 

 怒号(どごう)と共に解放された灼熱の炎は地を()い、冷たい金属の床を加熱した。炎を推進剤にして加速。俺を無視して千冬姉に向かって切りかかる。

 俺は急いでその間に入り、剣を受け止める。発動したままの零落白夜(れいらくびゃくや)が炎を打ち消す。

 ハイパーセンサーで背後の千冬姉を捉える。顔を伏せたきりで口を開かない。

  

 「そこを退()け一夏。邪魔をするなら容赦はしない」

 「――――退かない。退くもんか!」

 

 きっと俺が見た事無いような表情を浮かべている。どんな事を思っているのかは俺には分からない。それは千冬姉が抱え込んできた物だから。俺の代わりに抱えてきた物だから。

 せめてここからは俺が頑張らなくちゃな。その重みを背負えるように。

 

 「だから、優しさに甘えるのはもう……やめる」

 

 頭が急速に冷えて、何か枷が外れた気がした。

 

 ☆

 

 雰囲気がガラリと変わった。鋭利な視線が私を突き刺す。つばぜり合いの状態から押し飛ばされる。

 パワーで負けただと……? 一夏の力量はデータから見るにオータム以下。オータムに圧勝できている私には逆立ちしたって及ばない。いったいどんな手品を使ったのか。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で直接的に突っ込んでくる。スピードは凄まじい。だが単調。間合いに入った瞬間に叩き切ってやる。

 そう意気込んで剣を構え、一秒も満たない時間の後、横薙ぎに振り払う。しかし私の剣は一夏を切り裂くことは無かった。

 

 「なっ!?」

 

 一夏が行ったことは単純に減速、トップスピードから限りなくゼロに近いスピードに落としたのだ。タイミングを早く見誤った剣は(くう)を斬った。

 

 「雪羅(せつら)

 

 再加速し、エネルギーで出来た鉤爪(かぎづめ)を振りかぶる。剣を振り切った後で隙だらけ、この一撃を貰えば容赦なくエネルギーを削り取られ敗北する。防ぐしかない。

 剣に収束していた炎を開放し、一夏と私の間にカーテンを敷くように炎の壁を展開する。

 一夏が振るった鉤爪はたやすくその障害を消滅させる。剣だけではなくあの腕の武装はエネルギーを打ち消すのか。相性が悪すぎる。だが、時間を稼ぎ、体制を立て直す事に成功した。

 

 互いが得意とする間合い。剣のリーチが最も活かせる距離に入った。一夏はそのまま利き手で雪片(ゆきひら)を振るう体制に入っていた。

 対ISでは必殺の一撃。零落白夜。だがそれは諸刃の剣。それを使い続けているのだ。もう一夏のエネルギーは限度いっぱいのはずだ。故に、避ければ私の勝利が確定する。

 スラスターを逆に吹かして後退。間合いの外に出る。これで……

 

 「フッ!」

 「っ!?」

 

 ここで一夏は雪片を至近距離で投合した。完全に虚を突かれたが、剣を弾き飛ばして防ぐ。

 剣に目を取られていた視点を、一夏に戻す。既に姿は無い。どこに行った!?

 

 「こっちだ」

 

 冷淡な声が聞こえた。音源に目線を向ける。私の頭上、砲撃を外しようが無い至近距離。そこで手の平を構えて見下ろしていた。

 殺気に当てられ、体が凍り付いてしまったかのように動かない。

 そして放たれたエネルギー弾に私の意識は呑まれていった。

 

 ☆

 

 プラズマの剣が脇腹を掠めた。痛みで遠のいた意識を何とか繋ぎ止める。そしてこの隙を待っていたかのように指を弾く音が耳に届く。

 

 「チィ……!『荒天』!!」

 

 刀から肉体に電気が流れ込み、筋肉が活性化する。空を踏みしめ、その場から一気に三十メートルほど離れた。間一髪のタイミングで避けられたつもりでいたが、爆炎が背中に触れる。

 

 「がっ!?」

 

 皮膚が焼ける。肉体は意識に逆らって脊髄反射でのけ反った。そこを停止結界が捕らえて動きを止められた。それを振り解くのに発生した数秒のラグ、そこを狡猾に青の機体が残されたショートブレードで付け狙う。

 青天井を握っている右手をえぐった。

 

 「くそったれ……」

 

 時間が経つにつれて徐々に俺を追い詰めて行く。今の状況は均衡が崩され()()()、最悪だ。

 

 「刀奈! おい聞こえないのか! 返事をしてくれよ、頼むから……」

 

 俺の叫びは誰の耳にも届くことなく、空気へと融けていった______

 




次回に続く……
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