更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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理不尽な三択

 地面に着地して荒天を解除した。電気で逆立った髪がもとに戻る。

 何度呼んでも正面に対峙している刀奈の返事を聞くことは出来ない。完全に乗っ取られてしまった。ネットワークを掌握した奴は束が危惧していた通り、どんなタイミングでもコントロールを奪えるようだ。

 IS学園の生徒だけにとどまらず、よりによって俺の妹にまで手を伸ばしやがって……!

 

 「ただでは帰さねぇ、生まれて来たことを後悔させてやる……」

 

 そう呟いて、まだ見ぬ敵への憎しみが募る。切り損ねていた指の爪がめり込み、血が滲む程強く左手で拳を作った。

 落ち着け、それをぶつけるのは当分先だ。

 

 まずは状況を整理しよう。刀奈の意識が奪われて三対一。理想はワイヤーで拘束することだが…それは難しい。彼女たちはその場で出せる最善の動きをしている。

 これが一対一なら力ずくで押し通せるが、それを多人数のアドバンテージでカバーされてしまう。

 ならばもっと力強く押して隙を作れと言われれば出来なくもないが……エネルギー切れになってしまえば自爆される可能性もある。どうすればいい……どうすれば刀奈達を助けられる?

 

 『マスター』

 

 頭の内側から響くような女の声。青天井か。

 

 「どうした青天井」

 『忠告。荒天……四分使ってるよ』

 

 もう四分も使っていたのか? 『荒天』は神経や筋組織に負荷をかけて身体能力を上昇させるという仕様上、どうしても長時間の使用は出来ない。最大五分が限度、それ以上は神経がズタズタになる。以前束はそう忠告していた。

 残り約一分。『荒天』を使って全力で動ける限界。

 

 「分かった、頭に入れとく」

 『そうしてくれると助かるよ。やり過ぎたら全身麻痺とかあるからね。気を付けて』

 

 目線を上空に向ける。相変わらず三機が機械的な視線で見下ろしていた。一度青天井を腕輪に変える。他の武装はワイヤー、ナイフが二本。

 

 「リスクはあるが……やるしかないか」

 

 この程度の障害、乗り越えられずして兄は名乗れない。そう思う事にしてモチベーションを上げる。輪っかにしてあるワイヤーの両端をナイフのハンドルに結び付けた。これで準備完了。

 

 妹の為に頑張るお兄ちゃんに不可能は無いってことを見せてやる。

 

 ☆

 

 整備室に鈍い音が響いた。整備室に来始めた頃は戸惑ったが、ここではよくあることだ。

 

 「……何の音ですか?」

 「アリーナから聞こえるんだよ、模擬戦でもやってるんじゃないかな?」

 「そうなんですか……まあ、すぐ横ですからね」

 

 最近はすっかりここに入り浸っているクロエとそんな雑談を交わす。クロエは篠ノ之博士の助手ということもあって結構為になる話をしてくれる。それに性格的にも一緒に居て気が楽だ。

 

 「ん? 何々~何の話?」 

 

 奥の方からスパナを片手に篠ノ之博士が出てくる。博士は先日から私の打鉄弐式(うちがねにしき)の整備を買って出て貰って、手伝ってくれていた。

 

 「いえ、随分大きい音だったので」

 「ああ、あれね~。おかげで集中切れちゃったよ~。そろそろ一旦休憩しない? くーちゃん、かんちゃん、ちょっとジュース買いに行こうよ」

 

 スキップで出入り口へと向かう、その動きには大人っぽさを微塵も感じさせない。ドアは人を感知して自動的に……開かなかった。

 

 「あれ~どうしたんだろ」

 「開かないんですか?」

 「故障……?」

 

 篠ノ之博士がノックして音を聞く。取っ手が無い自動ドアなので手動で開けることは出来ない。

 

 「ん~困っちゃったな~。ハァ……こんなチープな安物作った凡人は誰だよ~」

 

 呆れたようにスパナを地面にそっと置くと「少し離れて」と私達を遠ざける。ドレス姿のまま数回ジャンプ。その後助走をつけて、扉を飛び蹴りで破った。

 

 「一発で壊れるとかさ~耐久性に難ありだよ~」

 「いや、束様相手じゃ防火扉も段ボールと大差ありませんよ……」

 

 この瞬間、やっぱりお兄ちゃんと同類なんだなぁとしみじみと思う。

 

 『……繰り返します。何者かが学園に侵入しました。至急、生徒は体育館に避難してください』

 

 警報…? いや、侵入者程度でこの警告を出すのはおかしい。お兄ちゃんが対応するとしたら秘密裏に、そして迅速に処理するはずだ。

 それが出来ない状態ってことなのだろうか?

 

「なんの騒ぎでしょうか……?」

 

 辺りの空気を焼き尽くすかのような強烈な爆発音。外に出たとたんにさっきとは比べ物にならないくらいに、ボリュームが大きくなった。

 

 「――――どうやらただ事じゃなさそうだね」

 「みたいですね」

 

 二人ともさっきまでの柔らかい表情から打って変わって、目つきが鋭くなる。

 

 「かんちゃん、これ返すよ」

 

 そう言って指輪を投げて渡して来た。打鉄弐式の指輪だ。

 そして真っ黒なハンマーがISを展開するみたいに取り出される。柄の部分が腰のあたりまであって、ヘッドの部分もそれに合うように私の片腕ぐらいの幅、打撃面には突起が付いていた。

 とてもじゃないが人が持てるとは思えないし、引きずることすらままならないように見える。

 

 「よっと」

 

 だが、博士はそれを軽々と肩に担いだ。やる事成す事がお兄ちゃんと同レベルで滅茶苦茶だ……。

 

 「くーちゃん、かんちゃん、アリーナに行くよ。ついて来て!」

 

 私は指輪を右指にはめて、走って後を追った。

 

 ☆

 

 槍に仕込まれた銃から放たれた弾丸を掻い潜る。何発か避けきれずに体を掠めるが気にしない。本命はこの後だ。

 

 正面にAICを操る機体が待ち構える。AICによって一時的に動きを止め、俺の隙を拡大するための布陣。ここまで随分と苦戦を強いられたが……

 

 「何度も同じ手に引っかかるほど馬鹿じゃないんだよ!」

 

 俺の後ろに控えていた青い機体めがけてナイフをジャンピングスロー。胴体に巻き付くように拘束した。次がこの策の要だ。タイミングを逃したらハチの巣にされてもおかしくない。このときばかりは、手に汗握る緊張を感じた。

 

 敵が俺に向けて手を伸ばす。この戦闘で何度も見たAICを発動するときの予備動作。

 発動まで一秒も無いこのタイミング。それを待っていた。

 

 力強くワイヤーで引く。拘束されていた機体が俺に引き寄せられ、その背中を踏み台に、AICを操る機体の背後、つまりは射程圏外に移動した。俺が元いた位置にはあの青い機体。

 そしてAICを俺の代わりに受けて拘束される。

 

 フィニッシュを決める役目のこいつが拘束されれば、この瞬間、俺を攻撃する敵はいない。

 背後から銀髪の少女を蹴り飛ばす。刀奈以外の敵が丁度正面から抱き合うような形で一カ所に集まった。そして持っていた最後のナイフを投げて、余っていたワイヤーが彼女達をまとめて簀巻きにした。

 

 あとは刀奈だけだ。一対一なら何とかできる。振り返り上空を見る。思考が一瞬凍り付いた。

 

 「嘘……だろ」

 

 構えた槍に纏っていた水が収束していく。ミストルテインの槍。直前の模擬戦でみた技だ。刀奈の技中ではかなりの高威力を誇る。

 直線的で避けるのはたやすい、たやすいのだが……

 

 「俺が避けたら間違いなく後ろの二人は――」

 

 死ぬ。そう言いたくなくて言葉を呑み込んだ。無意識とはいえ刀奈に殺人をさせる事になる。それは駄目だ。

 

 じゃあ抱えて逃げるか? それは不可能だ。ISに乗っているのであればこの距離二秒とかからない。その間に『荒天』を使ったって彼女たちのいる場所までは届かない。仕留められる。

 

 残る手段は……ISの動作を停止させる。一見名案の様に思えるが、それはエネルギー切れを起こさせるってことだ。つまりは刀奈を倒すってこと……。その後に待っているのは……。

 

 「自爆……!」

 

 選べるわけがない……。

 

 混乱する俺を嘲笑(あざわら)うかのように、理不尽な三択問題は出題された。




更識刃さん(24)に出題。

 以下の選択肢からあなたが取る行動を選べ。(解答時間は2秒弱とする)

 A.避ける。

 B.後ろの少女達を抱えて逃げる。

 C.最愛の妹を自爆させる。
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