更識家長男はシスコンである。【完結】   作:イーベル

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番外編
番外編 更識姉妹はじめてのおつかい


 お兄ちゃんが起きてこない。

 昨日仕事から帰ってきて「明日はいっぱい遊んでやるからな!」と宣言してから床に就いた。私とお姉ちゃんはとても楽しみに早起きして居間で待っていたのだけれど時刻はそろそろ正午。

 

「あら? 簪に刀奈は今日は遊びに行かないの?」

 

 お母さんが部屋に入って来た。いつもはこの時間公園に遊びに行ったりしているので残っていることを疑問に思ったらしい。

 

「今日は兄さんが遊んでくれるって言うから待ってる」

 

 お姉ちゃんは少し拗ねた様子でそう言った。確かに疲れているのだろうけど約束したからにはちゃんとして欲しい。お母さんもそう思ったのかムッとした表情に変わる。

 

「じゃあ起こしに行きましょう。約束を破るのは人としてしちゃいけないことだから、叩きのめ、いえ、叱りに行こうか」

 

 居間から出て長々と続く廊下を歩いて最も奥にある部屋に向かう。お兄ちゃんの部屋は遠くて中々出向く気になれないけれどお母さんが一緒なのもあって今日はすんなりと来ることが出来た。

 さて、とお母さんが手の平に拳を叩きつけて、意気込んでいるけど気にしないことにしよう。

 先行してお姉ちゃんが襖を開けると奥にある布団は敷きっぱなしだけど相変わらず殺風景な部屋だ―――足元に人が倒れていなければ。

 

「刃! 簪と刀奈に約束したんでしょう?すっぽかすとは何事だ!?」

 

 倒れこんでいたお兄ちゃんの胴体に全力の蹴りが直撃した。

「ぐぅ!? ……けほ、けほ……」

「あれ? やけに静かね。いつもならここで反撃が来るんだけど」

「好き勝手やりやがって……いくらおふくろでも許さん。今日は刀奈や簪と遊ぶ約束してるんだ……そこを……退け」

 

 いつもの覇気は無くよろよろと立ち上がる。顔は心なしか赤みがかっているように見えた。

 

「――あんた、もしかして……」

 

 ▼▼▼

 

「40℃ジャスト。完璧に体調崩したわね……。今日は大人しくしてなさい。バカは風邪引かないって言うけどそうじゃなかったみたいね、良かったじゃない」

「フォローになってねぇよ…タイミングが最悪だ」

 布団に横になっているお兄ちゃんは残念ながら今日は行動不能に陥ったようだ。

「ゆっくり寝て今日中に治しな、どうせ疲労からだろうしね」

 そう言って私達は廊下にでる。

 

「お母さん、兄さんとは今日遊んじゃだめ?」

「う~んごめんね刀奈。今日はゆっくりとさせてあげて、お兄ちゃんだって疲れない訳じゃないから」

「え~やだ約束したもん」

 

 お姉ちゃんは駄々をこねる、楽しみにしていたお休みがこんな形で無かったことになったから仕様が無い。『ふほんいながら』と言う奴だ。私だって遊んで欲しいけど今日は諦めよう。

 お姉ちゃんの袖を引っ張って止める。

 

「なによ~簪ちゃん。兄さんと遊びたくないの?」

「いや……そうじゃないけど……」

「じゃあ一緒に母さんにお願いしてよ」

 

 困った。上手く断る理由が思い浮かばない。お母さんに目配せして助けを求める。

 

「仕様が無いわね……じゃあ代わりに、お兄ちゃんが元気になるように手伝ってくれる?」

 

 ☆

 

 小銭入れを簪ちゃんに任せて片手にマイバッグを持ってすぐ近くのスーパーマーケットにやって来た。体調の悪い兄さんには普通の食事だと厳しいとのことでその買い出しを母さんに頼まれたのだ。ちなみにメニューはうどんだ。消化にも良く、兄さんが好んでよく食べる。

 

「お姉ちゃん、まず何を買うんだっけ?」

「ええっと――そうね……」

 

 かごを持ってきた簪ちゃんに聞かれてバッグの中からメモを取り出す。来るときに母さんに書いて貰った物を確認する。

 

 ◦うどん 

 ◦しょうが 

 ◦たまご 

 ◦ねぎ 

 

 と全てひらがなで書いてある。……でも何から買うのかよく分からないので取りあえず近いものから買おう。

 

「ねぎとしょうがはすぐ近くあると思うから探しに行きましょう」

「そうだね」

 

 簪ちゃんと私は歩いて野菜コーナーに向かって歩き見つけたねぎに手を伸ばすけど届かない。背伸びするとねぎに指先がかするけど、掴むには至らなかった。簪ちゃんに届くかどうか聞こうとしたけど、私より少し背の低い簪ちゃんには届かないだろう。

 気合を入れて思いっきり足のバネを使ってジャンプ、ねぎを掴み取った。

 よし、って心の中でガッツポーズ。ここで油断してしまったのがいけなかった。着地に失敗して尻餅をついてしまった。

 

「……痛い」

「お姉ちゃん大丈夫?怪我してない?」

「うん何とか」

「……なら良かった。――次、行こう」

「そうね……えっと……次は、あれ?」

 

 バッグの中に手を入れて動かしても紙の感触が無い。ポケットの中に入れてもそれは変わりなかった。血の気が引いて空気が心なしかヒンヤリと感じた。

 

「どうしよう簪ちゃん…メモ―――落としちゃったみたい」

 

 どうしよう、どうしよう、どうしよう………! あと何を買えばいいんだろう? お兄ちゃんに何かして上げたいと思って来たのに……。

 

「焦っちゃダメ、お姉ちゃん。今日はうどんだからまず麺を買おう」

 

 なるほど、そうだうどんだ。麺が無ければ始まらない。後は……具だ。うどんの具と言えば何があるだろう? 油揚げ、かまぼこ、ねぎ…。

 

「簪ちゃんは何がいいと思う?」

「山かけうどん、山芋を()ってうどんにかけるの。ネバネバする食べ物は体に良いってこないだテレビで言ってた」

「じゃあオクラなんかいいかも……その路線でいこう!」

 

 ☆

 

 突拍子もない話だが俺はうどんが好きだ。妹の次に好きだ。

 たまに気まぐれで自分で麺から手作りしたりする。いろんなうどんを見て、作り、食べた。

 だが、目の前のどんぶりに収まっている者はこれまで見たどんなうどんよりもまがまがしい。

 

「簪と刀奈が自分達で作るって聞かなかったからやらせたけど……。まあ、無理に食べろとは言わないわ」

 

 おふくろはそう口にして去って行った。なるほど…初の単独いや、コンビでのお使いの結果がこれか……決していい結果とは言えないが、初めてじゃこんなものだろう。

 なら、俺はお兄ちゃんとしてきちんと受け止めてやらなくちゃな。

 

 

 

 

 その日の15時半、更識家の長廊下には空になったどんぶりが日に当たって輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで番外編でした。

番外編リクエストを投稿後活動報告にて募集します。よかったらどうぞ。

感想評価等お待ちしております。

おやすみなさい。
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