逃げに逃げて、大橋の方まで来た。
サーヴァントはともかく、マスターたちの方の息が上がっている。
しかしあちらの存在は、まるで意に介さないように、こちらを捉え近づいてくる。
その仮面に、記憶が揺さぶられた。
『相手はアサシンのサーヴァントだ』
ひどく冷静な、どこからともなく聞こえてくる声に、覚悟を決めたようだった。
逃げることをやめ戦闘態勢を取る。
駆け出すのと構えるのは、同時に見えた。
しかし何かがおかしい。
相手はアサシンで、しかも記憶が正しければ、一撃必殺持ちだ。
なのにのらりくらりと、決定打を受けないようにしている。
二人の猛攻が、きちんとした連携になっていないことは、素人目に見てもわかる。
なのになぜ、切り崩さないのか。
その答えにたどり着いたとき、アサシンから、何かが放たれる。
放たれた何かがライダーに二本、自分の体をすべり込ませるようにして一本防ぎ、もう一本は、杖で弾いた。
それでもかすってしまったらしく、小さな傷が彼女の肩にできた。
この、一撃で十分だと言わんばかりに、シールダーの一撃を無防備に受ける。
致命傷ではないが、戦闘不能には追い込んだ。
だというのに、これで役割は果たしたとばかりに、大きく下がる。
とたんその背後で、ライダーが膝をついた。
ナイフに毒でも含まれていたのか、ファエナとライダーは揃って片膝を付いた。
「ライダー! キャスター! だいじょうぶ?!」
少しだけ、離れていたもうひとりのマスターが声をかける。
ライダーが辛そうにしながらも、右手を上げて来るなと示していなければ近づきたかったのだろう。
だがこれで、こちらの戦力は激減し、アサシンが戦えなくなった。
そんな時、Dr,ロマンからの通信でその目的を悟った。
その目的――時間稼ぎ――と追撃の迎撃戦力の減少という目的をまんまと達成させられてしまったのだ。
やってきたサーヴァントはランサー、同じく何かモヤのようなものに包まれており、確実にこちらを仕留める気だ。
何やら話しているようだが、こちらには少し遠くて聞こえない。
「マシュ! 狙いはあなたたちサーヴァントだ!!」
その狙いが明らかとなれば、もうこれは詰に近い。
サーヴァントとしての戦いができないだけで、マスター狙いなら何とでもなるアサシンと全くの無傷でいるランサー相手に勝目がある方がどうかしている。
だが、それでもマシュは諦めたくないらしい。
「先輩、指示を」
勝つという言葉はとうにどこかへ行っているにもかかわらず。それでもなお負けたとは言わないこのひたむきな後輩に、心が動いた。
へこたれている訳にはいかない。
「マシュ、ライダーとキャスターをこっちに連れてこれるか?」
それは大博打だった。
狙いがサーヴァントというだけで、マスターを殺すのはあとだろうという。
実際サーヴァントがいなければ、マスターの命など風前の灯でしかない。
「先輩、令呪を使ってください、あれならすぐに打破できるかもしれません」
「そうか、令呪を持って命じる。ライダーとキャスターを即座にこちらに!!」
即座にマシュが、二人を掴んで戻ってきた。
はずだった。
「なぜ?!」
キャスターだけがその場に残された。
掴んだはずのその手には何もなく、もう片方の手に掴んだライダーの感触が嫌に強調された。
最悪だ、大外れだ。
これでは、彼女を生贄にしてしまったようなものではないか。
凶刃は容赦なく向かう。
幼子の首を狩りに。
手は届かない。
少なくとも俺たちには。
「そんな子供相手に、大の大人が大人気ねぇだろ」
火球一発、たったそれだけで、二人のサーヴァントが離れた。
きた方向を見れば、フードをかぶった怪しげな男。
しかしその能力から見て、
「キャスター?」
「おう、正真正銘この聖杯戦争に召喚されたキャスターだ。そこの嬢ちゃんみたいなイレギュラーと違ってな」
イレギュラー? キャスター――いやファエナの方を見ると、
「はぁ、騙すつもりはなかったんだけどね」
まるで何事もなかったかのように、立ち上がる彼女に恐怖さえ覚えた。
「俺が来るのを待ってたみたいだな、そっちのライダーと違って、ナイフにかすりもしなかったくせに、くらったふりまでして」
膝やすねについたであろう土を払い落としながら、彼女はこともなげにいう。
「狙いがわかったのが、アサシンに大振りな攻撃をされた後ですし、何より私はこの聖杯戦争で最後に待つであろう人とタイマンしたいですから、そこまでに道中露払いの戦力の増強は必要でしょう」
「誰が待っていると思ってるんだ」
「可能性は二人、出来ることなら二人とも戦いたいのですが、私の実力と実戦経験のなさは、弓兵に対しては致命的だと思いまして」
「それ以外にも理由はありそうだな」
「見ての通りです、今の状態では非常に守りが薄い。こんなふうに、奇襲に対処するための層が薄い」
言われて気がついた、アサシンがいない。
まるで空中を、滑るように一歩虚空をうがった。
その穿たれた部分を中心に現れる、骨の仮面をかぶった男。
「ぼさっとしてんじゃねぇ、アサシンはもう沈んだ。こっちでランサーを仕留めるぞ」
キャスターの言葉にハッとして、ランサーに向き直る。
「やれるか、マシュ」
肯定を示す、頷き。
焦りはない、心は穏やかだ。
勝てる、そう確信が持てた。
危なげなく指示をし、キャスターとシールダーがランサーに襲い掛かる。
「なぜ、私の位置がわかった?」
自らの消滅を悟った、ハサンの言葉が漏れる。
「当たり前、あなたは私の体内に入った異物、それを捉えられないどうりはない」
「なるほど、ならば貴様は――」
それ以上は喋らせるつもりはない。
腕を降る勢いで上半身と下半身を別れさせた。
消滅してゆく二人のサーヴァントに、感傷が浮かぶことはなかった。
余談だがキャスターとの契約に関しては、彼の方がすることになった。
それまでの私以外へのセクハラが決めてだろう。