――男の話をしよう。正義の味方に憧れた無力な男の話を――
――女の話をしましょう。力を持ったが故に無力にされてゆく女の話を――
――男は、正義の味方に憧れた。しかしそんな完璧な正義など、その世界では疎ましく思われた。男になんの力もなかったこともそれに拍車をかけたのだろう――
――女は生まれた時から天才でした。齢五つでできぬことなどなく、神子として扱われるのは、自然な話でした――
――やがて男は、大衆という正義によって、殺された。しかしそのあと二度目の生を得られる事となった。理由などない。ただ単にそう願ったからだ――
――女の力は凄まじく、やがてそれは、どんな願いでも叶える杯と同列に扱われるようになってゆきます――
――二度目の生で、男は自分がこがれた正義の味方の力を手に入れた。しかし、男にはそれを使いこなす力がなかった、足りなかったのだ。彼と違い、男には針すら満足に生み出せない、その程度しかなかったのだ――
――七つを超える頃には、宗教が出来始め、九つを超える頃には、既に両親は私を金儲けの道具としか見ていませんでした――
――男にできたのは、暗殺。たったそれだけだった。打ちのめされたのだ、限界という自分そのものに、ままならない現実に――
――十二を数える頃には、私は願いを叶えるだけの人形になっていました。男を覚えたのは、十五のことでしょうか――
――あるとき、はたと耳に入ったのだ。願いを叶える存在のことが、男はその拙い希望にすがった。英霊にすらなれない、無力な自分と決別するために――
――やがて女は願いました、誰か私を見て欲しいと、そして私を壊して欲しいと、既に女は、自分が人であるという自覚すら、なくしていました――
――そこについたとき、男は抗いようのない何かによって導かれていると感じた、そして導かれたその先で見たのは――
――自ら願って、少しして、女は男と出会うのです――
――まるで囚人のように手足を鎖でつながれた女だった――
――男に女は頼みます、壊してくれと、もうここは嫌だと――
――女に男は頼まれた、自分を壊してくれと、もうこの世に居たくないと――
――男はひとつだけ条件をつけます――
――男はひとつだけ条件をつけた――
―――もしも、願いが叶うなら、ここではないどこかで二人で暮らそう―――
――願いはかないました、しばらくは二人、仲睦まじいものでした――
――願いによって男と女は平穏、あるいは自身の力に縛られない自由を手にれた――
――しかし、女には子ができません。道具とされたが故に、子を作る事ができなくなっていたのです――
――女は知らなかったようだが男は、ある仕事でヘマをして、こを作ることができななっていたのだ――
――男と女は理由は違えど、子を願いました――
――男が知らぬ間に女もまた子を願ってしまったのだ――
――しかし、それは世界の修正力に、そして知らず知らずのうちに溜まっていた。願いの代償によって、ねじ曲がって叶えられました――
――願いを叶える杯は杯自身が願えば、その願いによって、いやそうでなくとも、既に限界だったのかもしれない、なにせ叶えた願いの九割が呪殺かまたは暗殺、ないし、社会的抹殺などのどうしようもない、負の願いだったのだから――
――溢れた、泥のようなものとともに、女と男は飲み込まれました。そして、無垢な魂に、つながれました――
――本来交わるべきではない、命の奇跡が起きてしまったんだ。奇跡は対価として、その誰かを私たちにゆかりあるものとして確定して、今も私たちがここにい続けるのだ。ここに孤独に――
――誰かは、自分がどうなっているのかを知っています、でもそれ以上は知りません――
――自分がどうなっているのか、それを知っていてもなお、出会った奇跡を否定はしないだろう――
―――存在しない出来事を覚え続ける限り―――
視界が歪む、夢の終わり、現実の始まり、人理救済の旅の続き、二人の話が一体どんな意味を持つのかは何びとにも知ることはない。
救いを求め、孤独を嫌った者たちの終着点がそこにはあった。