自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録- 作:しにかけ/あかいひと
バカやらかしてごめんなさい(土下座)
…………なにさ、こっちくんな。そんなこと言って、どうせキミもそうなんだろ?
私はバケモノなんだ、みんなみんな、手のひら返して私をいじめるんだ。
うるさい。そりゃあちょっとは希望を持った時期もあったさ。本音を言えば、誰かと一緒に生きていきたい。でも、手のひらを返されたときの絶望は、もう味わいたくないんだよ。
ほら、見てみなよ。今適当に石を投げただけでこのザマだ。おそろしいだろう? おっかないだろう? 分かったらとっととあっちいけ、こっちくんな。
…………しっつこいなぁ! ああ、その辺の有象無象よりかはマシだって認めてやるよ! でも邪魔だ、もう嫌なんだ、私はもう絶望したくない!
だから、死ね。
◆◆◆
「殺すなド阿呆─────!!!? …………あ、夢か」
「夢の中でも死んでんのかお前」
ガバリと起き上がると、かわいそうなものを見る目で見られた件。今更のことだが、中々心に刺さるネ!
「で、何処まで話が進んだ? 手合わせはした? どうせそこの吸血鬼嬢サマが来たのは、古巣が心配になったからだろう?」
「け、健太さん起きてたんですか!?」
「いや、単なる予想だよん?」
とりあえず、反動をつけて起き上がる。若干ボロっちくなった吸血鬼嬢サマを見て、息を吐く。場所を変えて十六夜クンと手合わせしたみたいだが、おそらく負けたのだろう。詳しく聞いてもだいたいその通りだった。なお、女性陣は風呂から上がったようで、最低限身支度整えてから急行するとのことらしい。
「とりあえず、出落ちしてすみませんでしたって言うのと…………なんてことしてくれんだテメェ」
「……簡単に言ってくれる。私にとってこの『ノーネーム』が、仲間が、どれだけの意味を持っていると思っているんだ」
「分からないけど察することはできるさ。というか、心配に思うことは悪くない。つか、自然な流れだと思うよ。ただ僕が言いたいのは、アンタと白夜叉サン、迂闊過ぎ」
「……え?」
え? じゃねぇよ、つか貴女が賞品のゲームを開催しているところが『サウザンドアイズ』って時点で誰が手引きしたかなんてお察し過ぎるんだよ。
「貴女は思わなかったのか……いや、思えるわけがないよな。だって『ノーネーム』はど底辺。ゲームが中止させられた段階で、動けないって思うのは当然。だから、最後の言葉を伝える為にもう一度捕まることを承知で逃走してきたってのは分からんでもない流れだ。でもな、新人入ってきたんだから、もしかしたら? ぐらいのことは考えても良かった。今まで取れなかった手段だって使えるようになってたかもしれないと思うべきだった。もう少し様子を見ても良かった。だが、貴女が此処に来た時点で、僕らは直接対決をせざるを得なくなった! 貴女が逃げたコミュニティ相手にね!」
しかも、古巣に逃げ込んだという構図がまずい! 交渉に持ち込めても絶対そこ突かれるパターンじゃん!
「腕は冗談にしても、交渉に使えそうなアイテムには心当たりがあったんだ! これ使えば、貴女を買いたいという相手とのゲームに持ち込めるとすら思ってたんだ! 全部パァだよ、嗚呼どうしましょう!!?」
まあ生まれてこの方思い通りに事が進んだことってあんまりないけどね!
「…………というわけで、愚痴ってすみませんでした」
「い、いや。大丈夫だ、気にしていない。しかし気になるのが、本当に納得させられる程の物があるのか、ということなんだが。そうであるならば、私を買う、という策も修正が効く」
「え、本当マジでやったーっ!」
思わずぴょんぴょんと飛び跳ね、喜びをこれでもかと表現…………と、冗談はここまでとして。
「それでは吸血鬼嬢サマ。お名前は?」
「…………ああ、そう言えば自己紹介の時、君は死んでいたのだったな。私の名前はレティシア=ドラクレア。ただの吸血鬼だ」
「……レティシアさんがただの吸血鬼なら、ほとんどの吸血鬼は吸血鬼に及ばない何かになってしまいますが」
「と言っても、私を魔王たらしめていたギフトは失ってしまった。故に間違いではないと思うぞ」
「あー…………とりあえずレティシアさんとお呼びしますね。あ、それでなんですが、手首と首、どちらが好きですか?」
「…………質問の意図が見えないのだが」
…………ん? あれ伝わらなかった?
「おっかしいなぁ…………僕のいた時代の吸血鬼は、この話で結構盛り上がるんだけど…………」
「ああ成る程、血を吸うときどちらを選ぶかということか。しかし、一般的に私達は首から吸うんだが…………」
「あー、確かとある奇妙な漫画に出てくる手首フェチの殺人鬼に影響を受けた吸血鬼が増えてそうなったって聞いた覚えがあります。成る程、普通は首からカプリ、と」
──────じゃあ、手首ですね。
「「「…………は?」」」
次の瞬間、僕の手はポロリと落ちて、付け根の部分から思いっきり血が噴き出した。
ああ、意識が遠のくぅ…………─────────
っと、何分も死んでる場合じゃねー。素早く再起動、手首をくっ付け、ドボドボと垂れ流した血から水分だけを浮かせ、残りを[消し飛ばす]。
「…………なにをやるつもりかは分からないが、水が欲しいのは分かった。でもな、態々自殺しなくても水路から持ってくりゃ良かったんじゃないのか?」
「サービスシーンだよ!」
「(手首)ポロリもあるよってか? いっぺん謝ってこい色んな何かに」
「むっ、痛烈なツッコミ。ボケもツッコミもこなせるとか、ハイスペック過ぎねぇ? くそ、不良優等生とか美味しすぎんじゃねーか………あいてっ!?」
うぅ…………ニッコリと青筋たてて殴られた。そこまで怒ることかよ。
「…………コントはそこまでにしてくれないか。私のせいとは言え、色々と時間がない」
「あ、そうでしたね。ついでに、レティシアさんが手首って答えてたら、(首)ポロリになってました」
「「「早くしろッ!!」」」
「すみませんでしたッ!!」
ふざけ過ぎたので真面目にやろう。さて、浮かせた水を適当な大きさの球に分ける。
「開始、表面を[0℉]で[固定]、中身は古典物理学に於ける[絶対零度]でセット、終了」
そうして、見た目と表面だけは普通の氷の球が手のひらに収まるように落下。ぶつかり合い、カツンと鳴る音が妙に軽い。
計10個のソレを、自分のギフトカードに入れてみる。『
「というわけで、量子力学的に絶対存在しえない、全てのものが動きを止める[絶対零度]の氷球。零点振動もしてない、正しく絶止状態だねっ!」
一応触れるように表面だけ0℉で固定し、中身が色んな意味で漏れないように区切ってはあるけれどね。0℃じゃないのは単純に0℉の方が確実に固体、凍ってるから。[0]じゃないと上手く異能が働かないのだ。
「まあ仮に現代物理学の方の絶対零度でも、人間の手で再現できないし、どっちにしたってありえないシロモノなんだけどね! コレは使えるでしょ!」
「つ、使えるんでしょうか…………?」
「……反応を見ないことには、なんとも言えないな」
ありゃ、箱庭組の反応は悪いね。
「それに、高位の神霊ならばできるかもしれませんし…………」
「まあ、そうだね。
多分わかっているだろう規格外サマに視線を流す。そしてやはり案の定、その口の端を吊り上げて面白そうに笑っていた。
「成る程、『神秘を貶める』か。ヤハハハ、随分過激じゃねえか」
彼の言葉で理解したらしい2人の視線が僕に向く。うん、いいねぇそのビックリした顔! 愉快痛快ってね!
「何を今更、僕は前の世界で色んな幻想、神秘を殺してきた『最後の神秘殺し:異常な普通』さ。生憎、
「ま、待ってください! と言うことは、絶対零度を人の手で再現させるつもりなのですか!?」
「だよ。神の権能そのものだと言えたイカヅチは、かの天才科学者:ニコラ・テスラによってヒトの手に貶められた。だから、同じことができるかもしれない。
無論、上手くいくかはわからない。と言うか無理だと思う。でも、可能性が絶無なのと少しでもあるのとでは話が変わってくる。それだけでも、この小粒の氷球にしか見えない[絶対零度]の種は価値のあるものだと思う。学者なら、垂涎のシロモノなハズだ。
「上手くいかなくても、これは『絶対零度』に対応する何かの霊格を持つ何某は、人間が進歩する度に貶められてきた。全てを停止させる
単なるお金では生み出せない価値が、『絶対零度』という概念にはある。本来、ポンポンと振りまいていいものじゃないが、使うべき時には切るべき切札だ。そして、今がその使い所のように思える。
「……随分と、頭が回るのだな。異能以外は、度胸のあるだけの
「…………そうなんだよねぇ。他の誰よりも、自分が一番驚いてる」
なんでか知らんが、箱庭に来てから頭が冴えている。理解できずに頭の中で滞留していたガラクタが、面白いように機能している。多分それは…………出力されていない恩恵の、どれかなんだろうなと思う。
…………さて、そろそろヤバイかな? 本拠の端の方から、ネズミの足音が聞こえてきたし。
「さてリーダー。決めるのは君だ」
「え……ですが、それは健太さんの力で」
「ああ、僕の呪いが生み出した。でも、僕は『ノーネーム』に所属した歯車、道具だ」
無論、道具のように扱われたいとか、そういうことじゃない。
「敵がいるならば倒そう、必要ならば殺そう。金が無いのなら稼ごう、必要ならば生み出そう。力が必要ならば集めよう、必要ならば与えよう。僕は、出来うる限りで全力でことに当たろう。だが、その指示を、その意思を、その責任を、その功績を、その罪を。全てを背負うのは………リーダー、ジン=ラッセル君、キミ以外の誰でもない」
「僕、が…………」
「組織の長は、そうであるべきだ。無論、キミの下にいる皆を切り捨ててしまっても構わないと言うなら話は別だがね」
まあ、そうでないことは分かっているがな!
「で、如何しますかね、リーダー?」
挑発的に、そして威圧を込めて言葉を、視線を向けた。
程なくして、それは返ってきた。強い意思のこもった視線と一緒に。
「交渉のために、恩恵が必要です。健太さん、必要と思われるだけ生産をお願いします」
「承知、任せてください」
それでは、水路の方に行きますかね。
…………ついでに、ネズミさん達にはお帰り願おう。
死因→失血死