自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録- 作:FGMe/あかいひと
基本的に、僕が勝負事に勝てる確率は言うほど高くはない。そもそもが凡俗の類いで、才能には恵まれなかったからね、アレのせいで。そのことをとやかく言うつもりは全くない。
だが、しかし…………虐殺となれば、話は別。
勝負の体をなさないフィールドで暴れることにかけては、僕は誰よりも、相棒よりも、長けているのだった。
◇◇◇
血を抜いてはそれを氷球処理し、また血を抜いては氷球処理をして失血死を繰り返し終わり、使い終わった氷球の補充が終わったところで、僕はノーネーム本拠にあるとある一室に入った。既にそこにはこれからの作戦に参加するメンバーが集まっていた。
「……さて、大体の仕込みが終わった訳ですが」
部屋にある黒板の前に立ち、今回に限り作戦指揮を執り行うことになった僕は、これから大まかな流れを皆に指示する。
参加者は箱庭組からはジンくん、黒ウサギ、レティシアさん。異世界組からは十六夜クン、久遠サン、春日部サン、である。
「ここからの立ち回りが、ひっじょーに重要になります。ですが、最早舞台は全てがこちらのちゃぶ台の上、台本通りに動く演者であればなにも問題は起きず、それ以外の要因で脚本が弄られても、ちゃぶ台をひっくり返せるのはこちらです。あとで
そしてチョークを手に持ち、『遊撃:逆廻十六夜』と書く。
「まず十六夜クンには、ペルセウスへの挑戦権利を得るための試練を突破して欲しい」
「ほお?」
「黒ウサギ、説明よろしく」
先を促されたので、専門家にバトンタッチ。
「任されました! 力のあるコミュニティは自分達の伝説を誇示するために、伝説を再現したギフトゲームを用意することがあります。彼らは特定の条件を満たしたプレイヤーにのみ、そのギフトゲームの挑戦を許すのです。自らの持つ伝説と、旗印を賭けて」
「なるほど、ペルセウスにもその伝説に則ったゲームが存在している、と」
そういうことです、と頷く黒ウサギを見て色々と理解したらしい十六夜クンは、少し不服そうな目でこちらを睨んできた。
「お前が言うには、もう事態はこっちが握ってるんだろう? だがお前はその次善の策の為に俺を使おうとしているようだが…………」
「言いたいことは分かるよ。ぶっちゃけ誰の目から見ても君は優秀な人材だし、僕の指示が無くても君がいるなら勝確みたいなところはある。でも、今回どうしても僕が先導して動かないといけない以上、君を本拠で護衛に充てるぐらいにしか動かせないんだよ」
とは言え、そんなヤバイときのゴリ押しみたいな理由で君を動かそうってんじゃないぜ?
「君をこの役割に充てたのは、僕よりも、誰よりも早く、その条件を満たせると思ったからだ。単純な身体スペックはノーネーム内で断トツ、頭の回転も速けりゃ知識も豊富。たかがゲームの挑戦権ごとき、多分この面子なら誰だって取りに行ける。僕が期待してるのは、全ての主導権を握ったあとに、ダメ押しとして敵の首魁の頸動脈にあてるナイフの早い到着だ」
「…………なるほど? お前の
とりあえずは納得してくれたらしい十六夜クンが、フン! と鼻を鳴らして表情を緩めた。
「では次に、春日部サンは……」
今度はその隣に『護衛:春日部耀』 と書く。
「君には、本拠に残って子供達の護衛をしてもらいたい」
「いいけど…………なんで私?」
「身体スペックの高さと聴力、それ以上に対応力の高さ。どこぞのウサミミには及ばなくても襲撃者に対する察知はしやすいだろうし、友達になった動物の力を使えるということは、相手に合わせた行動を取りやすいだろう。あの鷲獅子とも友達になったと聞いたし、飛べない相手なら一方的にフルボッコだってできる。十六夜クンも大体に対して強いだろうけどハメワザ食らったらお仕舞いかもしれないし、久遠サンはそもそもがピーキーで恩恵が君らに比べて荒事に向いてない。今回はそもそも選択肢がないけど、僕だって永遠と殺し続けるシステム相手に嵌められたら致命的な隙になるし」
「分かった、頑張る」
むん! と拳を握る彼女を見て微笑ましい気分になりながら、黒板に『本隊:ジン、黒ウサギ、レティシア、久遠飛鳥、僕』と記入。
「もう残り物って感じだけどちゃんと役割はあるからね全員。既に仕事を済ませてもらったも同然なジンくんに黒ウサギ、レティシアさんには申し訳ないけど。まずジンくんにいてもらうのは、単純に旗頭としての仕事をしてもらいたいってことだね。あと、今回は僕が君から交渉を任されることになるけれど、こういう仕事を君にやってもらいたいからね、これからは。なので今回は僕に着いてきてください、以上」
「わ、分かりました。足を引っ張らないように頑張ります」
「ん? そこに関しては全くもって心配しとらんよ、僕は。第一既に成果を挙げてるわけだし、例え黒ウサギにおんぶにだっこだったのだとしても、それでも『ノーネーム』がコミュニティの体を保ってられたのは君のお陰だろう? むしろ思ったことがあるなら、ジャンジャン口を出してくれ、間違ってると思うなら僕を止めたっていい。リーダーは君だ、誰が認めなくても僕は認めてる」
「は……はいっ!」
さてさて、本当のことを並べての焚き付けは成功したみたいだから、次は黒ウサギか。
「黒ウサギは、ルール違反がないかどうかのルールブック代わり、あとゲームにもつれ込んだ時の審判役をお願い」
「分かりました、全力でその役割を全うします」
「あれ? 理由は聞かなくていいの?」
「ウサギとしては若輩でも、それなりに場数は踏んでいるのデス。黒ウサギは伊達じゃありません!」
うん、頼もしい。流石は僕らが来るまでの『ノーネーム』の大黒柱。あと、俺の予想が正しければ、仮にゲームにもつれ込んだ場合でも彼女は戦場に立てるはず。箱庭のウサギ種が持つ『審判権限』と呼ばれる権限のデメリットとして、主催者が認めない限りゲームに参加できなくなるなどの縛りがあるが、交渉で認めさせることはできるからな。相手が俗物で助かったぜ…………。
「そしてレティシアさんは、まあ向こうに所有権があるから、どうしても連れていかないといけないから、着いてきてねっていう話なんですけれど…………」
「ああ分かった。お荷物になって済まないな」
「いいえとんでもございません! というか今回に限り、お荷物でいてくれる方が助かるのですぜ。もっとも、謂れのない扱き下ろしを堪えてくれるのが前提ですが…………」
「そのくらいならお安いご用だ。君の思うように、話を進めていってくれ」
あざます…………と頭を下げる。まあ確かにこうハイスピード解決せざるを得ない切っ掛けこそ彼女と白夜叉サンが作ったけれど、その気持ちは十分に理解できるし、その事実を利用できるので問題はなかったりする。やったね健ちゃん、仲間が増えるよ!
「んで、久遠サンは、」
「ここまで来たら、大体のことは読めるわよ、流石に。交渉の場に私を連れていくということは、そういうことなのでしょう?」
「…………ごめんね久遠サン。本意でない力の使い方させることになって」
まあ、そういうことだ。久遠サンの恩恵『威光』は、本人曰く相手に言うことを聞かす能力だ。まあ敵全員に効くとは思っちゃおらんが、ノイズシャットや黙らせるぐらいならできるはず…………。
「まあ、いいわ。その代わり貴方がしくじって作戦が失敗した時…………分かってるわね?」
「そこはまあ、安心してよ」
ちょっと背筋が震えるような声を聞いてビビりつつ、最後に自分の動きかたを軽く説明することにする。
「んで、肝心要の僕。今回の交渉担当。交渉材料を使って、レティシアさんの所有権を得る方向に持っていく。ぶっちゃけ僕じゃなくてもできる勝確ヌルゲーなのですけど、まあ交渉材料を用意したのが僕なので、一応って形ですネ」
基本的な動き方は、袖の下を渡し、機嫌を良くしつつ、レティシアさんの不始末を握り潰した上で、こちらで始末をしたいと言って、所有権を貰う方法だ。…………俗物ならこれでいいけど、超・俗物相手の場合はどうしようか…………下手したら袖の下もレティシアさんも、オマケに黒ウサギまで要求されちゃう可能性があるなぁ、ノーネームというハンデのせいで。まあその時はちゃぶ台返しすりゃいいし、十六夜クンの持ってくるナイフで脅し、必要とあればそのままぱっくり切っちゃってもいい。既に主導権は、こちらにあるんだから。
「決行は今から、本隊は今夜向こうに行くことを伝えてあるからそれまで待機。十六夜クンは作戦指示書持って早速お願いしますね!」
さぁ、悪巧みの始まりだ。
…………しかし、何故だろうか。僕はふと後ろを振り返り、これ以上ない寂しさを覚えた。
死因→失血死