自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録-   作:しにかけ/あかいひと

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記録その16-その張り付けた顔故に、彼は『────(出力不可)』

さて、さて、さてさてさて。

 

向こうが指定してきた、サウザンドアイズの例の支店。予定の時刻の少し前にそこに付いた今回の作戦の本隊にあたる僕たちが、前回来た時もいた割烹着姿の定員らしき女性に案内されたのは店のはなれにある家屋。

 

そこにいたのは白夜叉サンと、件の『ペルセウス』のリーダーと思わしきイッケメーン…………ケッ、イケメン氏ね。

 

しかしそのイケメン…………確か名前はルイオス=ペルセウスだったか、黒ウサギがそう言ってた。彼は入ってきた僕らを…………いや、黒ウサギをロックオンし、思いっきり下劣な視線で舐めまわすように見始めた。…………俗物だー、恐れていた超・俗物だー。

 

「うわぉ、ウサギじゃん! うわー実物初めて見た! 噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった! つーかミニスカにガーターソックスって随分とエロいな! ねーキミ、うちのコミュニティに来なよ、三食首輪付きで毎晩可愛がるぞ?」

 

「………こ、これはまた、分かりやすい外道ね。先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」

 

あまりにも下卑た視線だったので、壁になるように久遠サンが黒ウサギの前に出た。しかし久遠サン、そのセリフはどうかと…………。

 

「そうですそうです! 黒ウサギの脚は…………って違いますよ飛鳥さん!?」

 

「そしてこんなときでもツッコミを忘れない黒ウサギの痛烈な一撃ィ!」

 

「健太さんも健太さんで実況してるんじゃありません!」

 

「あ、でもでも久遠サン。例え僕らのものだとしてもこれを生かさない手はないよ。題して、膝枕ビジネス! 濡れ手で粟的なあれだけど、結構稼げるはずだ!」

 

「そうですそうです! せっかくなので1分1万…………って健太さんもボケるんですか!?」

 

「よかろう、ならばその膝枕1時間分を購入だ!」

 

「や・り・ま・せ・ん! あーもう、真面目なお話をしに来たのですからいい加減にしてください! 怒りますよ!」

 

「馬鹿ね、黒ウサギは」

 

「馬鹿だなぁ、黒ウサギは」

 

可愛そうなものを見る目で、僕と久遠サンは溜め息を吐いた。

 

「な、黒ウサギの何処が!?」

 

「「最初から、怒らせるつもり」」

 

スパパァーン! とハリセンの快音が部屋で響いた。結構いたいけど、不思議と僕と久遠サンの心は通じ合い、レティシアさんとジンくんは頭を抱え、しれっと混じっていた白夜叉サンも親指を立てていた。

 

そして放置された形のルイオス氏、しばらくポカンとしていたが、ツボに入ったのか唐突に笑いだした。

 

「あっははははははは! え、何? 『ノーネーム』っていう芸人コミュニティなの君ら?」

 

「ええそうです、我ら『ノーネーム一座』の開幕ショートコントで、」

 

スパァーン! と、また黒ウサギからNGハリセンが入った。既に髪のが燃えるように真紅になってるので、そろそろ自重しようかと思う。

 

「あはははははっ! いやぁ、腹が捩れるってこれ! 芸人じゃないにしても才能あるぜ君たち、是非芸人として『ペルセウス』に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね、生涯面倒見るよ?」

 

「そりゃあ、非才の身に有り余る光栄ですなぁ。しかし、流石にその前に幾つか決着を着けておかねばならぬことがあるのも事実。勧誘にせよ何にせよ、まずはそちらを済ませておく必要があるかと。…………呼びつけておいて、なんなんですけどね」

 

「ふむ、まあそうだね」

 

少々茶番が過ぎたが、これでようやっと話し合いが始まりそうだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ではまず挨拶ですね。今回『ノーネーム』リーダー、ジン=ラッセルより交渉を任されました、景山健太と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

「『ペルセウス』のリーダー、ルイオス=ペルセウスだ」

 

会話の席に着くと、黒ウサギを舐めまわすような視線こそ変わらないものの、スイッチが入ったのか雰囲気が切り替わる。まるで蛇だな…………ノーネームごと取り込もうとでもしてるのかね? 油断ならないなぁ…………。

 

「とりあえず、そのヴァンパイア連れてきたってことは、返してもらえるってことでいいんだよね?」

 

「ええ、なんにせよ一旦はそのつもりで。……黒ウサギ」

 

「……はいな」

 

そうして黒ウサギは、手錠を付けたレティシアさんをルイオスの方までつれていき、こちら側に戻ってきた。

 

「それと、そのヴァンパイアを回収するために派遣されてきたそちらの私兵達は、我が『ノーネーム』にて、特別待遇で過ごして貰っています」

 

「今日は連れてきてない、と。なんで?」

 

「連れてきて、長時間放置というわけにもいきませんので」

 

なお、特別待遇というのは嘘じゃない。死んだように目を開けている彼らは、丁重に看病しているとも! …………壊したこと、随分責められたけどな。

 

「なので、話し合いの結果次第直ぐにそちらの方にお返しします」

 

「ふぅん? まあ、死んでなければなんでもいいよ」

 

「……………………」

 

ここで微妙な顔をするんじゃない、黒ウサギ。死ぬどころか怪我すらしてないだろう、誓って!

 

「それで、聞いたところによると…………僕らに文句があるんだって?」

 

「文句、というよりは懇願でしょうか? 僕らは知っての通り『ノーネーム』、吹く嵐に為すがままにされる圧倒的弱者。なので、強者にあたる『ペルセウス』、ルイオス=ペルセウス様には何卒、慈悲をいただきたく」

 

よいしょ、よいしょをするのだ…………屈辱だろうとなんだろうとよいしょをするのだ…………! だから久遠サン、親の仇でも見るかのように僕を睨まないでくれないかな!?

 

「客観視ができる割には、随分と身のほど知らずな真似をしてるけど。本来なら、君らが自分から僕の元に来るのが筋だろうに、此所に呼びつけやがって…………まあでも気に入った。ちょっと気分がいいし、僕に何を望んでいるのか言ってみてよ?」

 

「ご配慮感謝します。ではまず早速…………その吸血鬼の所有権を、なんとしても欲しいのです」

 

「ふぅん? それは、嘗ての仲間だったからかな?」

 

…………そこの情報は握ってんのか。まあ、その辺りは調べて然るべきだな。何もおかしなことはなく、想定内だ。

 

「いいえ。ある意味ではそうなのかもしれませんが、その意味するところは全くの逆。戻ってきて欲しいのではなく、許せないからその身柄が欲しいのです」

 

一応演技なんだけど、目に憎悪の炎を灯し、涙を流してレティシアさんを見る。

 

「貴方の管理不行き届きで、その吸血鬼は『ノーネーム』の本拠にやって来ました。その結果、再始動しようとノーネームが迎え入れた新人の一人が彼女の一言で、再起不能に陥りました。再始動を前にして、出鼻を挫く所業。嘗ての仲間であっても…………否、嘗ての仲間だからこそ許しがたい行為です」

 

「ふむ」

 

なお、隠し事はあるが嘘は言ってない。こいつの管理不行き届きでレティシアさんはうちに来て、レティシアさんが首から血を吸うと言ったので僕の手首がポロリと落ちた。あとは一般論を語るだけ。ほら、嘘はない(強調)。

 

「次に、貴方が差し向けた私兵達のせいで、これもまた新たに迎い入れた新人が犠牲になりました。職務に忠実なだけの彼らを責めることはできませんが、恨みがない、と言えば嘘になります」

 

これも本当に嘘はない。僕は彼らにそれはもうスプラッタ映画真っ青な目に合わされたからね!

 

「本音を言うならば、貴方が、『ペルセウス』が憎い。どうしてその吸血鬼の手綱をちゃんと握っておかなかったのか…………! でも、僕らは『ノーネーム』…………『ペルセウス』は大手のコミュニティ…………矛先を向けるに向けられない、あまりにも大きな壁がありすぎて…………!」

 

はいここで悔しそうな顔のまま机に拳をドン!

 

「だからせめて…………だからせめて、その吸血鬼の身柄が欲しい…………ッ! このままでは、犠牲になった者が浮かばれない、せめて発端となったその吸血鬼を、我らの手で始末しなければ、苦しくて気が狂いそうなのです…………ッ!」

 

「でもさっきコントしてたじゃん?」

 

「あ、それはそれ、これはこれです」

 

流石に涙は演技だって分かるよねー。演技くさく見せたし。

 

「一応、うちの新入りが惨殺された現場も残してるので、確認が取りたければ今すぐにでも」

 

「いいや、いいよ。嘘は言ってないみたいだしね。当たり散らす捌け口としては、その女も使えるだろうし」

 

…………我慢、我慢だ。というか本人に許可は貰ったけど謂れのない罪を被せてる時点で人のことは言えないのだ僕は。

 

「でも、残念ながら買い手がついてるんだよね。既に賞品にするはずだったゲームを中止してまで取引してるからさぁ、それに見合うものがないと、流石に引っ込みがつかないよ、こちらとしても」

 

「それはこちらも承知しています。てなわけで、そちらのお眼鏡に叶うかどうかわかりませんが、こちらをどうぞ」

 

そう言って、僕はギフトカードからウサギのマークが印字された木製のケースを取り出し、テーブルの上においてケースを開く。

 

「これは…………ただの氷の玉じゃないか。ガッカリだね、これの何処が」

 

「まぁまぁまぁ、まずは一つお手にとって、ギフトカードに入れてみてくださいよ」

 

訝しげなルイオス氏、一つ手にとってそれを自身のギフトカードに入れて…………目を少し見開いた。

 

「ふぅん…………弱小コミュニティが差し出せる、精一杯の小さなお宝ってところか」

 

「ええ、そんなところです」

 

…………表向きの価値には気がついたか、零度氷球の。でも真の価値には気が付かなかった。これはまずい。

 

「でも、こんなのじゃ足りないよ。あの吸血鬼の価値とそれに加えて取引反故で落ちる信用には見合わない。これに付け加えて、そうだな…………黒ウサギぐらいがないと」

 

「「「ッ!」」」

 

「……………………」

 

黒ウサギとジンくん、久遠サンの肩が跳ね、僕は落胆するように肩を落とす。

 

「これなら平等な取引だ。落ちる信用の補填にもなるし。一目惚れしちゃったんだよねー、『箱庭の貴族』って箔も欲しいし。君も、古巣の新たな巣立ちに貢献できて本望だろう?」

 

嘲笑うかのように、ルイオス氏が言う。小細工を弄して来たのだろうが、全ては無意味だと嘲笑ってる。

 

…………残念だ、無念だ。僕の力量不足だ。

 

 

 

 

 

彼を含めたハッピーエンドは、消えた

 

 

 

 

 

ここからは、虐殺だ。もう既に、全ては終わっているのだった。

 

「じゃあ交渉決裂ということで。さっきの氷球も返してください」

 

「えー、一個くらい…………いやまあこんなオモチャ要らないけどね。でも本当にそれでいいの?」

 

「ええ、所詮余興でしかありせんでしたからね、貴方が僕らの足元を見た瞬間に。黒ウサギ、例のものを」

 

僕が促すと、黒ウサギは、ギフトカードから封筒を一枚取り出した。

 

「代わりに、これをどうぞ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、分かった」

 

「…………は? おいおいおい、なにさらっとその吸血鬼持って帰ろうとしてんの。黒ウサギ置いてってくれるんなら話は別だけど」

 

「詳しくは、その封筒の中身をご覧ください」

 

僕に促されるまま、ルイオス氏は封筒を開け、折り畳まれていた中の紙を開き、それに目を通し…………顔が急激に真っ赤に染まった。

 

「ど、どういうことだ…………なんであの好事家が、お前らにその吸血鬼を譲ることになっている…………ッ!」

 

「ちゃんと交渉はしましたよ。ただ本人連れてったり袖の下渡したり、ちょっと世間話で『『古巣で暴れた吸血鬼ですよ? 自爆もしそうだしやめといた方がよろしいかと…………』って囁いただけですけど。それに、もう貰うもん貰ってるんでしょう? 何処が不服なんですか」

 

そう、ちゃぶ台とは『レティシアさんの所有権』。前提としてそれが『ペルセウス』にあるという事実をひっくり返す切り札(ジョーカー)を、既に用意していたのだった。

 

「くっ…………お前、僕に恥をかかせてタダで済むと、」

 

「そういえば、コミュニティの最大戦力が元魔王のくせして、購入した他の元魔王の手綱握れてなかった阿呆がいるらしいっすね。いやー、どこのだれなんだろー、白夜叉サン知ってますー?」

 

「…………ッ!」

 

すっとぼけながら白夜叉サンを見る。僕らが言いふらすならともかく、彼女がそう言いふらせばその効果も変わってくるし、何より彼女は比較的こっち側の味方である。事実を吹聴することに、なんの縛りもないだろう。

 

「そんな管理が杜撰なコミュニティがいるなんてあぶなーい。信用もがた落ちだよねー」

 

「な、何が目的だ?」

 

「なにも? だってレティシアさんは正式に僕たちに所有権がある。貴方はしっかり取引をした、僕らは買い手から譲り受けた。パーフェクト、文句なしの結末です。あ、それともそれとも、脅しをかけて僕ら『ノーネーム』にギフトゲーム強制しちゃいます? きゃーこわーい!」

 

だから、逆にこちらから脅しをかけましょうねー、と呟いて部屋の入り口に視線を向けると、全く同時のタイミングで少し煤けた姿で風呂敷を担ぐ十六夜クンが現れた。

 

「やっぱ、ネックだったのは移動距離だったな。お前の最初の瞬間移動がなければ流石の俺でも無理だった。RTAでもしてる気分だったぜ」

 

「お疲れー、流石だね十六夜クン。タイミングもバッチリ!」

 

そう言って風呂敷を受け取り、その中のものをテーブルの上に置く。そこにあったのは、『ゴーゴンの首』の印がある紅と蒼の宝玉。『ペルセウス』への挑戦権を示すギフトだった。

 

「もし何か良からぬことをやってみなさーい? その前に僕らがその旗印、奪ってやるからねっ!」

 

「そ、それは勝てたらの話だろうがッ!」

 

「まあそうだねー」

 

そう言って僕は自分の頸動脈を掻き切り、血をダラダラと流して死亡…………復活の瞬間、その姿を消しつつ出しっぱなしの零度氷球を細い針に変形させてルイオス氏の頸動脈に突き付けた。

 

「ひっ!?」

 

「ペルセウスの伝承から考えると、おそらく不可視の兜を被ってゴーゴンの首を落とした逸話にあやかって、ゲームマスターの下に辿り着くまでは見られてはいけないというルールがあると推測。そして僕は全員を容易く不可視にできるし、こうやって不意を突くのは得意だ。例え手駒が強くても、大ボスがこのザマじゃ、ヌルゲーとしか言いようがないね」

 

そう言って氷針を溶かし、姿を元に戻す。

 

「僕らが望むのは、不干渉です。取引は既に終わったんですから、ゴダゴダ言わないでください。もしなにかちょっかいを僕ら『ノーネーム』にかけることがあれば、白夜叉サンの口が思わず本当のことをしゃべっちゃうかもしれませんし、僕らもつい思わず旗印を賭けたゲームを挑んでしまうかもしれません」

 

「…………くそッ、悪魔め!」

 

「残念、人間です。どこまでも悪辣な、ね?」

 

全く、二兎を追うから一匹も捕まえられないんだ。いい教訓になったんじゃないかな?

 

 




死因→失血死

◆◆◆

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虚構演者(フィクション・ディスチャージャー)
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