自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録- 作:しにかけ/あかいひと
「『フィクション・ディスチャージャー』、本名『景山健太』。通称、
なんだその設定。本当に僕か?
「流行り廃りのサイクルにも限界が訪れ、人々が想像に、妄想に、夢想に、幻想に、見切りを付けて捨て去ろうとした時期があった。物書きは筆を折り、役者は舞台を降り、ドラマも、演芸も、歌も。そこにないものを否定し、価値はないと切り捨てた…………らしいよ?」
「なんだその娯楽限定ディストピア」
「私がいた頃はそんなこと無かったし、私も信じられないんだけれどね」
そんな世界で生きていける気がしねぇ…………行き過ぎた現実主義か? ちがうか。
まあでも、わかった。それを何とかしたのが『景山健太』なのか。
「ちなみに、なんでそんな事になったのかとかって分かったりする?」
「うーん…………確か最初は、創作表現の行き過ぎた規制だったって」
「おおう」
なんか聞いたことあんぞそれ…………行き過ぎたかどうかはともかく、そういうことをする条例に改正するだとかしないとか…………どうなったか知らないけども。
「そして、そんな創作活動とそれに関連した活動、更には過去の創作物までほとんど絶滅した中で現れたのが、性別不詳の何某か。もうニュースを垂れ流すだけのラジオ放送を電波ジャックして、ラジオドラマを放送したんだって」
普通に犯罪じゃねぇか。そいつ本当に僕と似て非なる存在かよ。
「その出来は、お世辞にもいいものとは言えなかった。まさに素人の書いた妄想作文。私もその保存されていた音源で聴いたことがあるけれど…………まあひどい」
「自分のことじゃないけれど傷付くなそれ」
「…………でも、それは脚本に限った部分だけ。その演技力は、
ふぅん…………演技力、ねぇ。
「そして何よりも重要だったのが、『こんな夢を見たかった』と聴いたすべての人に思わせたこと。日によって、その内容も変わるし、喜劇もあれば悲劇だってある、そもそも普通ならば酷い出来の脚本。それでもその何某の語るその嘘を、誰もがそうであれば良かったのに、と想像し、妄想し、夢想した。人々に、幻想を取り戻させた瞬間だった」
「…………スケールがでけぇなぁ」
「『景山健太』も、健太には言われたくないと思うな」
そう言って春日部サンは笑い、話を続けた。
「そして、何某かは人々に幻想を取り戻させた。でもその影響はそれだけに飽き足らず、かつてそうした活動をしていた人にも火を入れた。私もあの誰か達の様になりたい……なのか、私の作品をあの集団に演じてもらいたい……なのか。とにかく、バックドラフト現象の様に、爆発したんだ」
「ふむふむ」
「でも、電波ジャックをした人物は捕まった。それも一人の男。集団だと思われた存在は、実は一人の青年…………『景山健太』による行動だったの」
「余程変態的な演技力だったんだなぁ…………」
そしてやはり自分のこととは全く思えん…………そんな大それた犯罪をする程、僕の心臓は強くない…………はず、多分。
「世界レベルで広まった彼のラジオドラマは唐突に終わることになった。当時は留置場や拘置所にデモが押し掛けて大変だったんだって」
「で、判決は?」
「重要な無線局への妨害として250万円の罰金」
妥当なところか…………というか払えたのか、懲役刑になってないってことは。
「『フィクション・ディスチャージャー』の活躍は寧ろここからなんだけど、彼がやったのはこういうこと。人類に夢を取り戻したっていう、ね」
◇◇◇
話を聞いて思ったんだけれど…………
「……これっぽっちも自分のこととは思えねぇな」
「私もそう思った。ありふれた名前だから、同姓同名の別人かもしれないって。けど…………」
現実に、僕とそいつを結び付ける線が、分かりやすい形で構築された、と。
「だとしても、疑問がある。私の知ってる『景山健太』に、健太みたいなギフトは無かったし、現実世界を救ったなんて話も聞いたことがない」
「まぁ、だろうね」
「で、私は思ったんだけど」
ピッ! と人差し指を立てて、生徒に分かりやすく解説をする教師のような仕草で、春日部サンは言った。
「もしかしたら健太は、幾つかの可能性が纏まった存在なのかも知れないって」
…………それは、どういうことなのか? ダメだ、わっかんねー。
「健太のギフトカードには元々、待機中のギフトが3つあったんだよね? その内の1つが『虚構演者』になった」
「うん」
「じゃあ、残りの待機中のギフトも同じものだと考えるべきなんじゃないかな?」
「ッ!」
なるほど…………残りの2つも含めてこの先僕がなり得る可能性の僕が持つギフト、そして『孵らずの英雄』というのは、可能性が孵ることが…………少なくとも前の世界で孵ることがなくなったからこその烙印とも受け取れる。
「凄いな春日部サン、良く分かるもんだ…………」
「この程度なら時間を掛けたら誰にでもわかると思うよ」
なるほどなるほど…………。と、なればですよ。
「よっと」
「ストップ。部屋を出るつもり?」
ベッドから這い出て立ち上がろうとした僕に、制止の声がかかった。
「当たり前でしょ。公然に休暇もらってんだ、このタイミングで自分のやりたいこと消化しておかずに何時やればいいのさ!」
「流石、睡眠時間を削って勉強時間に充てたおバカは言うことが違う」
ちょ、毒舌レベル上がってない!? 傷付かないと思ったら大間違いだよ!?
「今日は寝なさい。別に私は必要以上には心配してないけど、あんまり無理してるように見えると黒ウサギがうるさくなる」
「それ、黒ウサギにとってもあんまりな言い方じゃないか!?」
「恐らく毎度毎度トラウマを刺激されてるようにも見える。そもそもが月の兎、その献身で帝釈天に認められた種族。お株を奪われてアイデンティティクライシス」
「シリアスなのかギャグなのかはっきりしてくれない? どんな顔をすれば良いのか分からなくなるよ」
「笑えばいい…………なんて言うと錯覚していた?」
「混ざってるよね!? 1番目の子供に五番隊隊長が混ざってるよね!?」
「全く、そこは『なん…だと…』って言わないと」
どうしよう、元から愉快な性格とは思ってたけど、春日部サンが想像以上に愉快すぎる。
「かくなる上は…………三毛猫」
「にゃー!」
んぃっ!!? いたのか春日部サンの三毛猫ォ!!?
「にゃっ」
そして春日部サンの三毛猫は僕のベッドの枕にしがみつき…………
「このまま出ていくようなら、健太の枕の命は無いと思って」
「にゃーにゃー!」
「三毛猫も『お嬢の手を煩わせるんなら容赦せんぞ!』って」
ひ、人質ならぬ枕質!? というか関西弁!? だ、だがしかし、忘れたのか春日部サン!
「多分、元に戻せるんだよねこういうことも。…………そして、それをするために健太はどうしなきゃいけないんだったっけ?」
「ん? そら、サクッと死んでしまえ、ば…………」
…………あ、枕を修復した瞬間に僕が死んだこと、バレるんじゃ?
「くっ、中々の策士だね春日部サン…………この異常な普通:景山健太、ここまで追い詰められた記憶は数えるほどしかない…………!」
「…………ぶい」
「にゃーにゃー…………(特別訳:こ、こないなしょうもないことで追い詰められるんかこの雄…………)」
仕方がなく、本当に仕方がなく、僕はもう今日は部屋から出ないことにした。ちくしょーっ! 暇を潰せるものがあればいいのに!
◇◇◇
完全にあきらめたことが分かったようで、もう既に監視の目は無く、完璧に暇を持て余していた。今なら『死因→暇死』も逝けそうな気がする。
(それにしても、『
確かに、
でも、僕にそんな技能も、才能も、経験も、努力もない。確かに人を騙し、話を騙る技術は身に付けたけれど、それだけを演技と言うには少々問題があるように思うのだ。僕には荷が重すぎる…………。
(そもそもが、才能ナシが故の『原点回帰』のはずなんだけどなぁ)
正直、自分が自分じゃない誰かになるようで余りいい気分はしない。異常が関わらなければ、何やらしても平均平凡が僕のアイデンティティなのに。
困ったなぁ、困ったなぁ、何とかしたいなぁ。まあ、そんな妄想してもしかたないか。
「まあそれよりも、暇で暇で仕方がない」
『暇? 暇って言った?』
「んー? 言ったよー」
『そんなに今が退屈?』
「ここ最近は刺激的だけど、今局地的に暇過ぎて」
…………ん? 今僕は誰と喋ってるんだ? 少なくとも僕の異常センサーに反応はない。
『そっかぁ、それなら…………いっぺん死ね』
「ッ!!?」
ガ、アァッ…………!? 意識が……………………ッ!?
『それじゃあ少し遊ぼうか、その方が面白いだろう?』
死因→???