自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録- 作:しにかけ/あかいひと
「で、呼び出されたはいいけどよ、何で誰もいねぇんだよ。こういう場合って、招待状に書かれていた箱庭とか言うものの説明をする人間が現れるもんじゃねぇのか?」
少しして落ち着いた空気の中、逆廻クンがそう言った。
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「下手すりゃ死にかけちゃうものね!」
なにせ、異世界だ。前の世界とはルールすら違うことは考えられるし。
「…………そうね」
「なんでいそんな殺しても死なないバケモノを見る目つきをして」
事実だけどさ。
まあそんな風に、またあーでもないこーでもないと議論をしていると、春日部サンがボソッと口を開いた。
「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
うん、そのセリフは最もなんだけど…………
「……1番落ち着いてそうな君が言うの? 所謂おまいうってやつだよ?」
「「「いや、オマエ(貴方)(あなた)も人のこと言えない」」」
「何故に⁉」
いやいや、割と慌てふためいてる方なんだぜこれ!? 落ち着いてるように見えてね!!
「だって既に重傷でしょう貴方」
「普通はパニックになるはず」
「ま、アレ見て落ち着いてる俺たちも俺たちだがな」
あ、同類だと仰りたいので? わーいわーい!! …………こんな異常者と同類とか、死にたい。
とまあそれはともかく。
僕は、
「…………思ったんだけどさ」
呆れを滲ませて、僕は告げる。
「
「……ふぅん?」
「……へぇ?」
「…………」
やっぱり。全員気がついてやがった。
「じゃあ何故貴方も気がついたのかしら、教えていただけるかしら、自称凡人である景山くん?」
言葉に妙な強制力を感じつつ、それを無視し、少し悩んだそぶりを見せてやっぱり口を開く。
「うーん、あそこが『異常』だったから?」
「…………え?」
「別に『気配を読んだ!』とか、『生命の鼓動が!』とかそんな凄いパゥワーを持ってるわけじゃないんだけど…………どーも、歪みだけは感じることができるわけよ。普通と比して……この場合は一般的な人間という意味だけど、そこからどれだけ歪んでいるのか、だけは分かる。君らも大概にして歪んでる『異常』だけど、あそこの繁みの向こうの方から感じられる『異常』も大概だ。多分、あそこに居る何某が僕らを喚んだのでは? と拙いながらに推測するよ」
なーんでこんなスキルが身についてしまったのか…………いや、コレは元々あったものでしょうけど。普通ならお世話になる様なものじゃないと思うんだよなぁ。
「まあ、僕はそんな感じでどれだけ隠れようが否応にも分かってしまうんだけど…………どーせ君はそうじゃないんでしょう?」
「………まあ、風上に立たれたら流石に」
「あんなの隠れているうちに入らないわ」
「だな。隠れん坊なら出直してこいとぶっ飛ばすレベルだ」
そんなわけで、全員繁みに向かって視線を向ける。それに込められたのは、好意的ではない感情。まあ、一歩間違えたら死ねる様な登場の仕方をさせたのだ。僕だって怒ってる。
「早くしてくんないかなぁ…………悪いけど、気が立ってんだ」
イライラを隠そうともせずに、足で地面をタンタンと鳴らして言う。実際にこっちは死にかけたのだ。死んでないけど。でも、僕じゃなかったら取り返しのつかないことだということは分かっている筈なのに。
流石に耐え切れなかったのか、繁みからガサリと音がして…………そこから人間…………人間? が現れた。
「あ、あの…………」
人、と言うには、彼女は少々奇抜な容姿をしていた。
別に、醜悪というわけではない。寧ろこの上ない美女である。それも絶世の、と付けても違和感がないレベルだ。スタイルも、出るところは出て引っ込むところが引っ込んでいるという、ワガママ仕様。なにこいつ、無駄に綺麗で逆に違和感ありまくり。
じゃあ何故奇抜なのか。それは、頭上からまるでウサギの様な耳が生えていたのだ。ついでに、尻の上に尻尾も生えていた。
リアルバニーガールとでも言えばいいのか…………。ついでに言うなら服装も奇抜なのだけど…………ま、僕の語彙が足りないから語りはしないけどさ。
まあそんな彼女はこれでもか、というくらいに青い顔で震えていた。ま、十中八九僕のせいだけど。だが謝らない。僕に落ち度はないのだから。
と、思っていたら────
「本ッ当に!! 申し訳ありませんでした─────ッ!!!」
全力の謝罪。渾身の土下座。
うん、分かる。まあ謝ってくれたら許してあげようと思ってたけど、ここまでガチでやられるとは思ってなかった。
「え、ちょ、止めようよ!? 多分ワザとじゃねーんでしょう!? 土下座までさせるつもりは無いってば!!?」
「いいえ、止めません! 本来なら、この程度ですら足りないのですから!」
「いやいや、止めてよ!? じゃないと───────」
チラリと異常な少年少女軍団に目を向けると、
「女の子に土下座を強要させるとか…………最低ね」
「………女の敵」
「…………にゃー」
「おっと近寄るんじゃねえぞ? 俺も敵扱いされちゃかなわねえ」
「こうなっちゃうんですよねェェェエエエエエッッッ!!! ってか猫にまで責められてるゥゥゥゥウウウウウッッッ!!!」
ほらね(絶望)。全員絶対快楽主義だよ、馬を面白くすることに命かけてるに違いない。だってニヤリと笑いながら煽ってるんだもの!
「だから、ね! ね!? やめて下さいってば!! 僕はもう気にしてませんからァァァアアアアアッ!!」
なんだってこんな目にあうのだ…………もう嫌だお家帰りたい。
→暫くお待ちー→
「───あ、あり得ん、あり得んぞ…………事態の収束に一時間も掛かるなんて」
「ううっ…………すみません」
どうにかしてこのバニーガール…………えっと、名前は『黒ウサギ』だっけ? を落ち着かせ、とりあえず僕は気にしてないという旨を何回も伝えることでようやく落ち着いた。勘弁して欲しいとはまさにこのこと。
「コントは良いからサッサと進めろ」
「コント染みたやり取りをせざるを得ない原因の一つのアンタが言うなッ!!」
とはいえ、説明してもらわなければならないというのは事実であり。
「えっと黒ウサギサン、で良いのかな? 用意してる定型文とかカンペ見てもいいから、説明していただけると嬉しいかなぁ?」
そう言うと、まるで水を得た魚のように表情を光らせ、へたらせていた耳をシャキンッ!! と伸ばした。
「分かりました! 不肖この黒ウサギ、全力で説明させていただきます!」
そして、説明が始まった。
「ようこそ《箱庭の世界》へ!我々は皆様にギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」
それは、日常という平和なぬるま湯に浸かり続けてきた僕の、平穏の終わりを告げる、鐘の音。
◇◇◇
黒ウサギの話を要約すると、
・ここは『
・ここでは生活するにあたり、活動の拠点となる『コミュニティ』に属さないとやってけない
・ここでは様々な『ギフトゲーム』と呼ばれるものに参加可能、だが参加資格が定められているものもアリ
・ギフトゲームでは、自身のギフトも含めていろんなモノを賭けたり手にいれたり出来る
・ほぼギフトゲームが箱庭のルールみたいなモノだが、『殺人は罪』みたいな一応の禁止事項もある(優先されるのはもちろんギフトゲームの方だが)。
ザッと纏めるとこんな感じか。
しかし、これはおそらく基本中の基本だろう。
「質問!」
「はい、なんでしょう?」
「ぶっちゃけ巻き込まれたくないので帰りたいんですが」
「…………え?」
「「「…………」」」
空気読めよ、というみんなの視線と…………まるで殺人犯が探偵に『犯人はお前だ』って言われた時の様な進退窮まった様な目をしている黒ウサギ。
…………あまり想像したくはないけど。聞かずには、いられないか。
「悪いけど。僕にはそんな大した才能があるわけでもない…………ぶっちゃけると、死なない程度だ。それ以外はやっぱり平凡な人間で、こんな人外魔境でやっていこうとは思わない。第一、僕はそんなギフトだっけ? かを試したいとも思わなければ、家族も友人も財産も世界の全てを捨てようとも思ってなかった。なんなら今日は僕の誕生日で、僕の大切な人が僕を祝ってくれようとしてるのをワクワクと楽しみにしていたくらいだ。…………覚悟はしてるから正直に言って。僕は、帰れるの?」
本当は覚悟なんてできちゃいない。『そばにいてくれるよね』と言い合ったあいつを放置するぐらいから、僕は死んだっていい。でも、聞かなけりゃ死ぬことすらできない。
「申し訳ありません…………黒ウサギでは送り返すことはできません」
「それは、『すぐには帰れない』という意味と取っていいの?」
「ええ。あるギフトを持つ方なら、外界と箱庭を繋げることも不可能ではないでしょう」
「それは、現実的な案?」
「…………極めて、非現実的です」
「……………………そうか」
つまりは…………ほぼほぼ僕はあの世界に帰れない、ということ。
スマホを見る。圏外だ。もう友人達と連絡を取ることすらできない。
家を放置した。たくさんの思い出が残る、家族がいた証を意図せずとはいえ放置した。
な、なんて顔をすればいいんだろうか…………ははっ、高校生にもなったのに視界が歪んでくる。
「ど、どうしよう僕…………リアルに生きる気力が湧いてこないよ」
「ほ、本当に申し訳ありません。非現実的とは言いましたが、アテはないこともありません。どうにかして──────」
「いや、いいよ…………なんかもーどうでも良くなったからほっといて…………」
差し出された手を振り払ってヨロリと立ち上がる。あ、そういえば近くに池があったよな…………死に続けるならもってこいだ。
「それではさようなら…………」
「ちょ、ちょっと!?」
死因→溺死