自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録- 作:しにかけ/あかいひと
「…………悪趣味な」
見慣れた天井に、顔が歪むのが分かった。
何者かに襲撃された僕は、自室のベッドに横になっていた。…………ノーネームの本拠ではなく、僕の実家。
下手人が誰か…………いや、何かなのは分かっている。だからこそ、今ここに僕がいることがひっじょーに悪趣味であることが分かる。
「家に帰りたい僕に、こんな夢を見せるなんて…………悪趣味にも程があるだろうが」
だがまあ仕方がない、嘆いていても仕方がない。さっさと現況を探すに限る。
そう思って、僕は身体を起こして立ち上がる。感覚は夢とは思えないな…………現実感もないけれど。
「…………マジで僕の部屋だな」
クローゼットを開ければ制服以外はジーンズとパーカーのオンパレード。本棚には教科書に参考書、あと漫画が幾つかならび、勉強机の上には文房具とノートが散乱し、引き出しには仕事道具と
…………待て、契約書類だと? 自然に紛れていたからさらっと流しかけたけれど、もしかしてこれはゲームなの?
ルーズリーフから1枚破り、ボールペンで適当に殴り書きしたようなそれを丁寧に取りだし、僕はそれに目を通した。
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演目:『分光器に影を当てて』
世界は救われた…………一人の少年の手によって。
しかしそれは物語の終わりではなく、これから語られる少年の真実を明かすための序章に過ぎなかった。
謎の男『虚構演者』が騙る、少年の真実とは…………。
◯脚本
・『虚構演者』
◯演出
・『虚構演者』
◯出演
・主演『』
・助演『虚構演者』
◯日時
・チラシ完成より24時間
◯場所
・夢幻泡影の町『
◯総監督
・『虚構演者』 印
いつだって、心に夢を
いつだって、未来に奇跡を
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「……………………」
分かってたよ、うん。分かってた。でも、ここまで大っぴらにされるとその…………必死に頭を捻ろうとした僕が馬鹿みたいじゃん。
それにしても、本気でここは螺丘市なのか…………。関西圏にある、とある街。なんでもあるけれど、目を引く何かはない。過ごしやすいベッドタウン…………マジで僕の出身地だよたまげたなぁ。もしかしたら、件の『虚構演者』ってのもここ出身なのかもしれんけどね。
「とりあえず、此所に名前を書けばいいのか?」
明らか怪しさ満点で、まだ契約書類というものを一度しか見たことのない僕でも分かる変則的な形式のそれに、敢えて僕は、主演の欄に名前を…………いや、僕の称号である『異常な普通』と記入する。現時点が既に最悪なので、これ以上悪化はしないだろう…………多分。
「だからお前はあの女に怒られるんだよ、『自分の命軽く見すぎ!』って」
「いやいや、軽く見てるわけじゃないよ? ただ、その気になれば死に戻りできるから色々とハードルが下がってるだけで…………」
声がしてきた方向を向くために振り替える。
モノクルを着けた僕と瓜二つの男がいた。
「…………ごめん、想像以上の衝撃に吐きそうなんだけど」
「んん? お前、ドッペルゲンガーには逢ったことあるだろうが」
「違う、違うんだ…………想像以上に『僕』でビックリしたんだよ、『虚構演者』…………」
ずっと昔に、もう一人自分がいたらどうする? って相棒に言われたことがあったけれど、そのときは『気持ちの悪さで多分死ぬ』と言った。
そして今がその時である。
「うえっぷ…………────────」
「…………え、死んだ!?」
◇◇◇
ていくつー、気を取り直して。
「それでやっぱりお前が下手人で僕の敵か、『虚構演者』」
「下手人だけど敵じゃぬぇ! ちゃんと読んだのか契約書類! まあ分かりづらいか、だよな、じゃあ説明するから耳の穴かっぽじってよぉく聞け!」
そう言って『虚構演者』はモノクルをキラン! と光らせて、不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「改めて、俺は『虚構演者:景山健太』。今回お前に『虚構演者』の使い方をレクチャーするために現れた、スーパーでミラクルな一流エンターテイナーだっ!」
「ついでに三流脚本家」
「そうそう幾つになっても全然上達しないんだよなー…………ってやかましいわ!」
否定はしない…………ということは、春日部サンが語った内容に嘘はない、と。うっわぁ…………僕と同じ顔したヤツに、才能がくっついてるとかまた気持ち悪死しそうなレベルで受け入れがたいんだけど。
「それに一人称『俺』だし…………」
「そこそんなに重要か?」
「重要だよ、だって僕だよ!? 景山健太だよ!? 一回罰ゲームで『俺』にしたときどれだけ気持ち悪がられたかと思ってるの!?」
「知らねーよ、同姓同名で大きな流れでは同じものかもしれねーけど、そもそも辿った過去にこれから辿る未来も違う別人だぞ。あれだ、キレイなジャイ◯ンとでも思っとけ」
「え、えぇ…………?」
いやまあ分かるけど、その例え方でいいの…………?
「というか、やっぱり納得できないことがあるんだけども!」
「ま、そうだよな」
そこで彼はニヤリと笑って言葉を吐く。
「[ワタシの言葉はセカイを捻る。歪めて殺せ優しい嘘、ワタシは立派な教師である]」
『虚構演者』の姿がブれ、僕と同じ灰色パーカーにジーンズだったその格好が、いわゆるアカデミックドレスと言われる式服に変わる。
「…………瞬間お着替えするためのギフトなの、『虚構演者』って」
「違うぞ!? もっとこう…………
はぁー、と溜め息をついた彼は頭に手をやり、出来の悪い生徒を見るように僕に視線をやった。
「コスプレに見えるのが悪いのか、それともこいつが鈍いのか…………まあいいや。[歪めて殺せ現実を、此所は『螺丘東高等学校』]」
呪文のようなものを呟いて、指を鳴らした瞬間…………景色が一瞬にして切り替わる。…………箱庭に喚ばれるまで通っていた高校、その2-3教室…………僕のクラスだった。
「俺の言葉は現実になる。現実の方を歪めることで俺の嘘を殺す。俺が舞台で垂れ流した幻想を信じたい、俺が望んだ願望もそうであって欲しいと願った誰かが歪めた、そういう『
「…………わぁお」
「まあ限度はあるけどな」
「十分こえーよチート野郎」
「はいブーメラン乙」
まあしかし、なるほど分かった。そもそもそういう力が備わってたとか、そういうことじゃなかったんだな安心安心。
「そしてまだ疑問には答えてもらってない件」
「今から説明してやるよせっかちが。女にモテんぞ?」
「モテなくてもいいですぅ~! ありのままの僕が良いっていってくれる奇特な趣味の方を見つけますぅ~!」
「つまり永遠に独り身、と」
「そういうことっ!」
僕みたいなバケモノを好きになるような奇特な趣味をお持ちの方はいないだろうし、いたら全力で正気を疑って、正気だったら丁重にお断りする自信がある。僕の事情に付き合わせるとか、ねーから。絶対ねーから。
「ふむ、後が気になる発言はともかく…………とりあえず、お前が気になってるのって『異常な普通には才能なんであるはずがない』という点だろ?」
「その通り。僕に可能性という素晴らしいものは存在しない。オマケに悲しいことに、既に僕の成長は頭打ち。功績や『原点回帰』はともかく、僕に
「ああそうだ。確かにどの可能性に至る可能性がある世界にお前がいても、そのどれもになれない。それはお前が言う『原点回帰』とやらがそうさせてるんだろう」
だが、と言って彼は指を一本立てた。
「箱庭という世界が、何かを観測するための舞台だったのが問題だ」
「…………観測?」
「ああ、俺もその場にいるわけじゃねーから本当の意味で分かってるわけじゃねーんだけどよ。こんな大掛かりな仕掛けのある世界が、ただただ人外どもの遊び場なだけじゃねーだろ。今がどうであれ、少なくとも最初期に関しては」
「……………………」
それは確かに思ったけど、思っただけで深く考えなかったなぁ。そんな余裕ないし。
「で、それの何が問題だったのさ」
「『原点回帰』ってのは、決まった
「うん、多分」
「それ、世界を跨いだことで、縛られる法則が変わったんじゃないか?」
……………………はぇ?
「多分お前は、干渉がなければ俺を含めた複数の
「え、いやでもだからってそもそも僕に才能が無いことには変わりないじゃん。無いものはでっちあげようがねーぞ」
「そこは俺もよー分からん。分からんが、お前が辿る可能性のある平行世界の『景山健太』の功績がまるっと収束してるなら、そういうこともあるんじゃね?」
「んなアバウトな…………」
「現地にもいない、そもそも学者でもない、ただのエンターテイナーに多くを求めすぎだバァカ。そういうのは専門家に聞け。ざっくりとした説明ならこれで十分だろう」
いやまあ、そうだけどぉ…………。
「補足しておくと、可能性を観測されて出力されただけで、十全に使えるわけじゃないからな。そもそも俺とお前は別物だ」
「うん、あんまり期待してなかった」
けれど、『虚構演者』の使い方をレクチャーするためにとか言ってなかったかお前。
「いったぞ。あくまで十全に使えないだけで、使うだけならできるさ」
「本当かぁ? 基本的に
「本当だ。そもそもが世界を…………法則を歪める類の信仰だ。十全に機能していたら、さっきの…………ギフトゲームとやらをするための契約書類ってあったろ? あれのゲームのルールも、鬼ほどある縛りに沿って、クッソ時間を掛ければ、ある程度は書き換えられるぞ多分」
「え、なにそれこわい。…………あー、そういうことか。ルールに干渉する力だから、ルールで縛られてる僕でも使えるってことか」
「その通り。まあでも異物ではあるから制限時間付きだろうし、身体への負担も尋常じゃないと思うけどな」
そうかぁ、負担かかるのかぁ…………まあいつものことだけどなぁ、うん…………。
「ところで、割と親切に色々教えてくれてるけど、これお前にメリットはあるの?」
「メリットデメリットの前に、お前に死なれると困る」
「あ?」
「死なれると言うより、『虚構演者』を奪われるなり壊されるなりされると…………」
「あー、把握」
そりゃあ、誰でも真剣になるわな、僕でも真剣になる。
「さて、そうこうしているうちに10分も経っちまった。他にもやることあるからな、気合い入れろよ」
「はぁ…………りょーかい」
面倒なことばっかり起こるなぁ僕の周りは。
そう思わずにはいられなかった。
死因→気持ち悪死(嘔吐物による窒息)