自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録-   作:しにかけ/あかいひと

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記録その4-■を■■、景山健太

 

やることが多いと聞いて、僕はこの面が全く同じ同姓同名の別人から、何らかの演技指導を受けるものと思っていた……………………のだが。

 

「…………なんで僕は、高校の授業を受けてるんですかねぇ」

 

「それはお前が高校生だからだ、普段なにやってようと東高にいる内は特別扱いしないぞ景山」

 

「あいてっ」

 

不意に漏らした独り言に反応した先生が、僕の頭を丸めた教科書で軽く叩いた。同時にクスクスと響く笑い声に居心地が悪くなって、多分顔がすげぇむすっとした。

 

「…………済みませんでした、せんせー」

 

「いいや、許さん。上の空になってた罰だ、黒板に書いてある問題を解いてみろ」

 

「うげぇ…………」

 

いやまあ、(夢の中の出来事とはいえ)授業中に上の空になってる上に独り言であんなこと言われたら誰だって気分が悪くなるだろう。寧ろ苦笑してこの程度で納めてくれる数Aの加納先生には頭が上がらん。そんな、1限目の数Aの授業だが…………

 

(そういや、前も似たようなことがあったような…………)

 

似たようなこと、というか過去の出来事をなぞってる気がしてならん。そうだ、あのときも上の空で独り言を呟いて、それで加納先生に言われて黒板に書いてある確率の問題を解かされたんだ…………。

 

(記憶の追体験か…………? そんなことになんの意味が…………分からない)

 

前にも解いた気がしないでもない問題を見て、黒板に回答を白チョークで記入しながら、先程言われたことを思い出す。

 

 

◆◆◆

 

 

「この夢の世界は、まあ俺が構築したわけだけれど…………大きな嘘の上で成り立っている」

 

「はぁ…………」

 

「そしてその嘘に、お前は騙されている」

 

「はぁ…………?」

 

「んで、その嘘を見破るのがお前の仕事。ゲームの期限は24時間で区切っちゃいるが、クリアできるまで何回も何回もやってもらおう」

 

「あのー、それでいいの? 僕がこの世界で過ごすことに満足しちゃったら、意図的にクリアしなくなるかもよ?」

 

「お前は自分の肩に乗った荷物を捨てれるようなタマか?」

 

「いや、まあ、そうだけど…………」

 

 

◆◆◆

 

 

(大きな嘘、ねぇ…………僕には普通に記憶の追体験してるだけの様に思えてならないんだけど)

 

そんなことを思っても仕方がないんだけどね…………大きな嘘、かぁ。

 

と、そんなことを思いながら記入が終わる。答え合わせをしてもらおうと先生の方を向くと、口を真ん丸と開けて驚いていた。

 

「……景山、どこか調子が悪いのか?」

 

「あの、何故にそげなことを言われにゃならんのでしょうか?」

 

「これ、難関私立の入試問題で、間違えてもらった上でこれを教材に授業するつもりだったんだが…………」

 

「さらっと酷いことしますねせんせー、まあ自業自得ですけど…………」

 

…………だが、しかし、なるほど確かに僕の不調を疑ってしまうだろう。何せ、僕は平均ボーイ。余程な状況下じゃないと僕は単なる基準値でしかないのだから。

 

(単純に、答えを前にも聞いたから、なんだと思うんだけれど…………)

 

前回は間違えた…………はず。だからという訳ではないが、更に居心地が悪くなってしまう。どうしようもない疎外感を覚えて、頭を揺らす。

 

「…………真面目に体調不良かもしれません。保健室行ってきてもいいですか?」

 

「お、おう。…………その、なんだ。無理は、するなよ…………?」

 

真剣に心配してくれる先生の言葉が、何故か僕の背筋をぞわりとさせた。

 

…………なにか、大事なことを見落としてる。ハッキリと、そう思った。

 

 

◇◇◇

 

 

居心地の悪さは、消えなかった。

 

午前中は保健室で寝て過ごし、午後からの授業に戻って、なにも答えを見つけられないまま放課後を迎えて…………。

 

「というわけで、どうにも調子が良くないので…………今日の外練習休もうと思うんですけれど」

 

「うぅん、他の子なら『あまったれんなー!』って言ってやるとこなんやけど、真面目な景山くんやしなー…………。よし、今回だけやで?」

 

「ざっす、キャプテン」

 

「本当にありがたく思うなら、是非とも来期のキャプテンは君がやってくれへん?」

 

「丁重にお断りします」

 

「フラれたー!」

 

軽いやり取りをしつつ、部活を休む。もしかしたら部活にもあるのかもしれないけれど、多分違うと僕の直感がそういっていた。…………嫌なとき程、残酷なまでに僕の勘は当たる。

 

とりあえず、最低限の報告を済ませて僕は帰ろうと、プールを後にする。正直、中学でやってたバスケットボールを高校でする気力は沸かず、泳ぐのは嫌いではないので水泳部に転向したんだった。えっと、なんでバスケットボールをやめたんだっけか…………

 

『──は、……って───メなのか───?』

 

(……………………ッ)

 

頭にノイズが走る。何人もののセリフをごちゃ混ぜにしたような、聖徳太子連れてこいってレベルの雑音と一緒に。

 

(…………これが、嘘?)

 

いや、でも僕が水泳に転向したのは嘘じゃない。だけど、それに至る理由が思い出せない。人間なので、いろんなことを忘れるけれど、強烈な出来事を忘れるほどポヤポヤはしてないつもりだ。…………僕は、バスケットボールが好きだった。だから、それをやめるとなると相当な何かがあったはずなんだけれど…………。

 

「…………手掛かりが見つかっただけ、マシかな」

 

そう思いながら校門を出て…………そう言えば、今日は一人だな、と思った。基本的に僕と行動を共にする相棒が、いない。思い出そうとして…………今度はしっかり思い出せた。そうだ、あの阿呆は今学校サボって遠出してるんだった。心配しすぎて授業も上の空で…………あ、それでなんか皆僕を心配してたのか。なんというか、無理矢理普通の空気を演出しようとしてくれてるような…………。

 

…………今の僕はまあ不安定にしても、その時の僕も心配される程だったっけ? そっちは単純に思い出せない。数ヵ月も前の話だからな…………。

 

それはそうと、アイツがいないと一緒に帰る友達もいなかったっけ僕。そこまで寂しいやつではなかったような…………ああ、部活を休むからこうなってるのか。それなら仕方がない。

 

一人であることに妙な孤独感を覚えつつ、帰り道の途中でスーパーに寄る。あの阿呆はいなくとも、僕がご飯の用意をしてやらないと…………、

 

「…………してやらないと?」

 

そう、してやらないと、困る…………、

 

「…………困る、誰が?」

 

そりゃ、うちの家族が…………、

 

「…………家族」

 

お父さんと、お母さん、あと弟に妹。弟と妹は小学生で、両親は家を空けがちだから、僕が二人の面倒をみてやらなきゃ………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、一体いつの話だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………あ、ああ、」

 

嫌だいやだイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ

思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな

 

「……………………そもそも螺丘市は地図から消えて、」

 

今なら引き返せる何も知らない状態に引き返せる

信じたいことを信じれば良いじゃないか

 

でも、気が付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………家族なんて、もういないじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが割れる音がした。

 

 

◇◇◇

 

 

多くを語る気分にはなれそうにない。

 

ただ、1つ思い出したことがある。

 

『虚構演者』の垂れ流す嘘は、誰かにとってそうであって欲しい嘘。

 

このゲームの場合は…………そういうことなんでしょうよ。

 

思いっきり凹んだ僕は今、誰もいない廃墟になっている元・螺丘市にある僕の家の屋根の上で月を眺めていた。

 

今となってはこの街に頻繁に足を踏み入れる人間は片手で数えられる程。住んでる人間に至っては僕と、相棒だけ。夢幻泡影とは確かにその通りで、さっきまで見ていたのは、僕の願望がそうさせた、あるはずのない、僕がいなければあり得たかもしれない螺丘市の姿だったのだ。全く、すがり付きたくなる様な嘘だ。周りが『そうであって欲しい』と願い、ヤツの嘘をねじ曲げたくなるのも分かるというものだ。

 

何もかもを、守れなかったというわけではない。この街で失われた人命は、たったの4つだけだった。起きた事件に対してこの犠牲者の少なさは、あり得ないだろう、めでたしめでたし…………まあ、それが僕らが一番守りたかった家族じゃなければ、の話だけれど。あのときほど、死にたいと思ったことはないし、死ねない自分を怨んだことはない。

 

「それで、墓守の如く廃墟の街に住んでた、と」

 

「…………別にいいでしょ。褒められることじゃないけれど、この街を、この家を離れるのはとてもじゃないけれど、ね」

 

いろんな功績を認められて、螺丘市は実質僕らのものになったようなものだった。まあその実態は、得体の知れないモノを隔離するためってところだろうけれどね。一国を相手に二人で戦い抜いて勝ち切ったバケモノがいて、僕が本当に普通の人間だったら、怖くて隔離したくもなる。それでも頻繁に会いに来てくれる物好きな友達や、熱心な高校の先生はいたけれどね。

 

「それはそうとおめでとう、気分はどうだ?」

 

「ご丁寧にどうもありがとう、最悪だよ」

 

「そういうことだ。程度の差はあれど俺の嘘は、聴衆にとってはすがり付きたい、そうであって欲しい嘘だったんだ。俺は単に、せめて嘘の世界でぐらい幸せで、顔に笑顔を添えられたら、ぐらいの気持ちだったんだけどな」

 

「…………さよか」

 

まぁーしかし、それにしたって今回のこれは、悪趣味にも程がある。一瞬心を壊して精神崩壊したぞ。一瞬で元に戻ったけどな、『実質[死]』と捉えられたらしい。

 

「だがまぁ、気にするな。俺の家族も死んでいる。質の悪い悪女に目をつけられてな」

 

「そんなこと聞いちゃいないよ」

 

それともなにか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? …………そんなの、糞食らえ、だ。

 

「それは分からんし、心の中で折り合いがつかんのも分かる。俺だって8()0()()()()()今だから落ち着いてられるけれどな」

 

「じゃあ、何故」

 

年齢についてはあえてツッコミを入れずに、問う。

 

「『虚構演者(フィクション・ディスチャージャー)』を使う上で一番危惧したのが、『嫌な現実を歪める』ことだ。自己暗示程度で済むならいい。でも、辛い過去から逃避するような嘘で現実を歪めると、残酷な形で夢から醒めてしまう。民衆を騙せても、自分だけは騙せない」

 

「他ならぬ、自分が嘘だと知ってるから、か…………。それで、そんな気が起きないように、ってこと?」

 

「…………別に不幸にしたいわけじゃないしな」

 

その横顔を見て、『そんな経験があるのか?』とはとてもじゃないけれど、聞けなかった。

 

しかし、辛い思いをすると分かっているけれど、気が付かなければ、僕は皆に会えていたのだろうか? そう思うと、久しぶりに涙が止まらなかった。

 

 

「嗚呼、畜生。自分が憎くて仕方がない」

 

 




記録その4-己を憎め、景山健太

死因→精神崩壊
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