自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録-   作:しにかけ/あかいひと

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記録その5-笑いを添えろ、模倣演者

 

「…………えっと、俺がやっといて言うのはどうかと思うんやけど、もういいのか?」

 

「いーもなにも、立ち止まってられないからねぇ。やることは沢山あるんだから」

 

流した涙を何度も拭って、なんとか折り合いをつけて立ち上がる僕に、『俺』が声を掛けてきた。…………正直、こいつのことを自分とは思えなかったけれど、それでも『景山健太』なのだと理解させられた。まあ、そんなことは今はいいけれど。

 

「事の起こった中三の夏以前から、似たようなことは何度もあった。僕も、彼女も、たまにどうしようもなく辛くなることがあってね。相方がいれば慰めてもらうけれど、いなければ一人で枕を濡らして折り合いをつける。いつもそうだった、だからそれからもそうだった。原因も一緒だ。無力感と、寂しさ。だからまあ、慣れてる」

 

「…………お前が無力なら、力ある人物は一体何人いるんだろうな?」

 

「んなこと知るかよ」

 

案外沢山いたりするかもしれんぞ。少なくとも、僕にマネーパワーは無かったしな。

 

「…………なんでそこまでできるんだよ?」

 

「あぁん?」

 

「お前、もう十分頑張っただろうがよ。他人のことなんざ無視して、あの女と二人で余生を過ごせばよかったじゃないかよ。そのせいでこれ以上の傷を負ったらどーすんだよ」

 

その言葉の中に、僕を心配するような意図はなかった。ただ、本当に言葉まま、疑問に思ったのだろうか?

でも…………

 

「それ、お前が言っちゃう?」

 

「は?」

 

「僕、『俺』のこと知ってる娘から聞いたんだけどさ。ムショから解放されてからが本番だって聞いたんだよね。でも、そこまでの功績だけでも、十分のことをしたと思うんだよ」

 

「……………………」

 

「それを踏まえた上で、君に問おう。僕()の『衝動』は、そんな頑張ったから、何かを達成したからで落ち着くようなものか?」

 

確信を以て、僕は言う。最初こそそうとは思えなかったけれど、今なら言える。目の前の男は、間違いなく別人だけれど、僕なんだ。

 

「僕はただ…………自分が辛い思いをしたから、その思いを誰かにしてもらいたくなかった。僕にできる範囲で、誰かを助けたかった。どうなっちゃっても、今までもこれからも変わらない、僕の『衝動』だ。…………『俺』のことは良く分からないけどさ、それでも『誰かの顔に笑いを添えたかった』とかなんとか言ってたからさ。そこでなんとなく分かった、そういうことなんだって」

 

「…………大した話じゃねぇぞ。近所にそれはもう無愛想で仏頂面で、感情死んでる様なヤツがいてな。誰かを笑かすことに自信のあった俺の、最初の敗北だ。だから最初は、たった一人を笑かすことから始めた。そこから、クソガキながら、世界が陰鬱としてるのを察して…………次はもっと沢山を笑かそうと思った。最初に俺を負かしたバカの協力の下な」

 

「…………そのバカって」

 

「やらんぞ、アレは俺のだ。『僕』は『僕』ので我慢しろよ」

 

「まだ何も言ってないしそんなつもりもないし、我慢するとか言ったらそんなつもりなくてもぶっ殺されるよ」

 

「お互い大変だな」

 

ため息をついて…………ようやっと笑えた。苦笑だけれど、ようやっと口の端が吊り上がった。

 

「ふう、ようやっと本気で持ち直したな。これで俺のせいにされたら面倒だったし助かった」

 

あんまりなことを言うのでテレホンパンチをお見舞いして屋根から突き落とした、間違いなく殺すつもりで。…………まあきっちり着地したけどね。

 

「このクソヤロウ、納得はしたけれど許しちゃいねーぞぶん殴らせてくれないかな」

 

「殴ってから言うの止めろよ!? というか今の何!? 俺ダメージ受けるとオートでそれを無かったことにするようにしてるんだけど!?」

 

「時間止めたから」

 

「クソチートがッ!」

 

「ふむ、現実ねじ曲げる様なヤツが良く言ったもんだね」

 

いやぁ、ブーメランの投げ合いかな? 片方は僕だけどね!

 

「いやまぁ、悪かったよ」

 

「わかった許す。『虚構演者』使えるようにしてくれたし」

 

「…………え、いや未だだが?」

 

「えっ?」

 

え、今のがその試験みたいなのじゃなかったの?

 

「いや、ほら…………今のは『完全ならどんなことができるのか』ってのと『注意事項』説明って感じだから…………」

 

「…………………………………………あー、うん」

 

使い方説明されたわけじゃないものね…………。

 

「だから…………余った時間で、訓練しようかと」

 

「…………うん」

 

なんというか…………締まらない感じになるのは『景山健太』の宿命なんだろう。不本意だが、そこは認めざるをえなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

月は沈み、日が昇ろうとしている。そして、タイムリミットが近いことを意味していた。

 

「いやぁ、お前に才能ないのが幸いして、そこまで『虚構演者』を使えないから教えることも少なくてなんとか間に合ったな」

 

「…………へーへーどーせ僕は凡俗のパンピーですよーだ」

 

それでも、確かに助かったのは間違いない。変にできることが多すぎると使いこなすのは不可能だったろう。既に『原点回帰』でキャパオーバーなのに、そこにそれに匹敵するチートギフトなんぞ付いて来てみろ、頭パーンするわ!

 

「いやぁ、しかし。現実をねじ曲げる力が、『自分』をねじ曲げることにしか使えなくなるとはな」

 

「そもそも、そんな大それたモノは要らないよ。世界を変える前に自分を変えなきゃ。それを後押しするためにこうなったと思えば、悪くない気分だ」

 

「へーへーさようか」

 

そう言って、モノクルが似合う老紳士は愉快そうに笑った。

 

…………老紳士?

 

「…………おい『俺』。いつの間にそんなに老けたのさ。しかもサラッと燕尾服に着替えてやがるし…………カッコつけかキモいわ」

 

「キモいとか言うなよ…………そもそも、俺はもう終わってるんだからよぉ…………」

 

「…………あ?」

 

「既に人生は全うした上で此処にいるって言ってんだ。死んでんだよ、満足して逝ってる最中だ」

 

そりゃ、そのなんというか…………コメントし辛いな。

 

「沢山の孫に囲まれて…………とまでは言わねぇが、まあ最低限のヤツらに看取られて、意識が飛んで、死んでる最中。最期の夢を見てるんだ…………まあ、夢だけど夢じゃないがな」

 

「色々アウトなネタをぶっ混むんじゃないよ…………」

 

「ハッ! 復活させたの俺だぞ? この世のクリエイターと物語は皆俺に感謝すべきだ!」

 

「傍若無人!? くっそ、そろそろ死んどいた方がいいだろこの老害…………」

 

「別位相のお前だがな!」

 

…………こんな人間にはなりたくないなぁ。そう思いながら、手を差し出す。

 

「でも、ありがとう。最期の一時を僕に使ってくれて」

 

「そうかい。最期まで全うした甲斐があったってものだ」

 

そして、しわくちゃの手で、握られる。

 

「あんまりにもクサいんで、言うのが恥ずかしいんだが…………最初で最後の願いを聞いてはくれないか?」

 

「その通りにするかは別…………だけど、いいよ」

 

そういうと、力の抜けた様な笑顔になった。

 

「多分、『箱庭』とやらには笑えない現実が多いと思う。『僕』のいる『ノーネーム』とやらは、その筆頭だろ?」

 

「うん」

 

「本当なら、俺が其処に行って、その現実を嘘にしてやりたい、誰かの顔に笑いを添えたい。だけど、二重の意味でそれは不可能だ。だから…………」

 

一呼吸置いて、偉大なエンターテイナーは言った。

 

 

 

 

 

 

「お前が代わりにやれ、クソガキ」

 

 

 

 

 

…………言うだけ言って、『俺』は逝った。

 

一人遺された僕は螺丘市の中で、ため息を吐くしかない。だってさ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「元々やるつもりだったことをやれって言われても困るよ、クソジジイ」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

…………意識が浮上する。

 

目を開ければ、今となっては見慣れ始めた天井。ノーネーム本拠にある、僕の部屋。

 

そして多分、横を向けばいつもなら春日部サンがいるというお決まりの────────

 

「…………あら? 気が付いたのね景山くん」

 

「意外、まさかの久遠サン」

 

「春日部さんかと思ったのかしら?」

 

「いや、なんとなーく気絶して目を覚ましたら春日部サンが俺の監視してるってのがお決まりのパターンっぽかったからさ…………」

 

身体を起こして背筋を伸ばす。ボキボキとなる音が心地いい。

 

「それにしても、体調管理はしっかりしなさいね? 貴方が気絶してるこの一週間、色んなことがあったのだから。肝心な時に役に立たない盾じゃダメよ?」

 

「あー…………うん、ごめんね。ほんっとーに反省してる」

 

それはそうと、一体何があったのかしらん? ちょっと気になるんだけれど。

 

「まず、魃が来たのよね」

 

「ほむほむ、よく分からないけれど災害系幻獣と見た」

 

「あと貴方が重体だって聞いた誰かがその隙を狙ってノーネームを襲撃しに来たのよね」

 

「…………あ?」

 

「下手人は『ペルセウス』。貴方にやられた仕打ちのせいで『サウザンドアイズ』での幹部の地位を降ろされて、その報復と言ったところでしょうね。もちろん私達で撃退。その流れで例の挑戦権使って…………まあ、色々搾り取ってやったわ」

 

「えっ…………え?」

 

「全く、何故あの程度で失うものは何もないと勘違いしたのかしら…………目の前に旗も名前もないコミュニティがあったのに…………それとも旗を取られる危機に陥るとは夢にも思わなかったのかしら?」

 

う、うっわぁ…………なんというか、うん。バカではないと思ったんだが、なぁ…………。それとも『ノーネーム』に追い詰められて地位も失いそうで色々と思考が狭まったのかな? 本当、あのとき僕の足元を見てなかったらこんなことにはならなかったのにねぇ。

 

「…………あとで詳しく聞くとして、何日間寝てたわけ?」

 

「一週間よ。特に身体に問題があるわけじゃなかったから、精神的に追い詰めてしまったのかも、と皆気が気でなかったわ」

 

「んー、申し訳ない!」

 

とはいえ、良いものと…………偉大な男の魂を手に入れられたので、それを使って取り戻していこうじゃないか。

 

まずはそうだな…………と思いを廻らせてニヤリと笑った。

 

「[ボクの言葉は夢幻泡影、ただ5分の奇跡。願って変われ新たな自分、ボクは友の力を真似る]…………」

 

「…………あの、景山くん。それは、新手の呪文?」

 

「ううん、もっと素敵なものだよ…………というわけで、[Stand up please!!]」

 

「…………!?」

 

椅子に座った久遠サンが、勢いよく立ち上がった。それはまるで…………久遠サンがあのクソ虎にやったように。

 

「さて、じゃあ皆のところに行こうかな。謝らないと~♪」

 

「待って、待ちなさい! どういうことか説明しない景山くんっ!」

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

→『虚構演者(フィクション・ディスチャージャー)

→『模倣演者(フェイク・パフォーマー)

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 




死因→老衰
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