自称凡人も異世界から来るそうですよ?-『異常な普通』の箱庭活動記録-   作:しにかけ/あかいひと

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記録その3-覚悟を決めたからこそ、彼は異常な普通

 

ガボガボと1度死んだところで頭が冷えたなーって思ってたら、急に引っ張りあげられた件。

 

「健太さんッ!!!」

「あ、はろー黒ウサギサン」

「この……お馬鹿様ッ!!」

 

かるーく挨拶したら、頰っぺたをバチコン! とはつられた。

 

「ここまで追い込んだのは黒ウサギだということを承知で言わせていただきます!! それでも……軽々しく死ぬだなんてことはしてはいけません…………!!!」

「…………あ」

 

あ、やべ。黒ウサギサンのトラウマをつついたかもしらん。

 

ちょっぴりあわあわしながら土下座。困った時はコレだよね。

 

「す、すみませんでした…………落ち込んだ時は死んでから出直すと落ち着くからつい…………」

 

本当はやっちゃあいつにも半殺しにされちゃうけど、あのままいくと再起不能になりそうだったし…………。

 

「ですが、本気で死ぬ気はないのでご安心を! もう持ち直したので大丈夫です、もう自殺はしません(多分)!!」

「本当ですか……? 本当ですよね……?」

 

多分! だってなんだかもう一回死にそうな気がするし!

 

まあそれはもう置いておいて。

 

「とにかく、もう持ち直したのでもう大丈夫です。あの世界に戻るのが並大抵の努力ではどうにもならないと言うのなら、並大抵以上の努力で覆してやります。…………思うところはあります。誠実とはいえない対応にも文句を言いたい気持ちもあります。でも、そういう運命だったのでしょう。そんな理不尽、凡人らしくやり過ごしながらなんとか活路を見出そうかと思います」

「…………本当に申し訳ありませんでした。黒ウサギも、出来うる限りの─────」

「あ、それはいいです」

「へ?」

 

いやだって、これは僕の問題だものね。

他のみんながこの世界を楽しむ方向でいる以上、僕はやはり異物であり、異物は淘汰されるべきなのである。

 

「だから気にしないでください。それよりも、僕の分まで彼らにこの世界の楽しみを教えてあげてくださいな。本当ならこんな厄介者無視すればいいのに、それをしなかったところを見ると貴女は良いヒト……ヒト? だ。それだけで当面は戦えそうです」

「……………………」

 

あれ、今度は『悪いことしようとしてる悪人になれきれない善人』みたいな目をし始めたぞ?

 

「ま、とりあえず中断してすみませんでした。みんなも、雰囲気最悪にしてごめんなさい。目の前で自殺するなんて」

 

流石に人の前で自殺は配慮がなさ過ぎた。いくら絶望したとしてもアレはない。

 

「……いや、お前は死なないんだろう? だからどーでもいい」

「私達は頭を冷やそうと池に身投げする変な人を見ただけ。それでいいじゃない」

「…………とりあえず、私は気にしない」

「……にゃー」

「……………………」

 

あー、これ完全に気ィつかわれてるパターンだ。声の端々から労わるようなニュアンスが届いてきて一層申し訳なくなる。…………いや、本当にごめんなさい。

 

「それにしても、その…………本当に大丈夫なの?」

「まぁ、僅かな可能性を掴むために頑張るのは悪くないかなぁと。分の悪い賭けは嫌いじゃないし」

 

持ち直したのなら、僕がやることは決まった。

なんとしても、あのくそったれで素晴らしい世界に帰るために死力を尽くさなくては。…………死力と言っても、僕ちゃんは死ねないんですけど。

 

 

◇◇◇

 

 

さて、全ての説明を終え、逆廻クンの『この世界は面白いか?』という問いに『Yes』と答えた、実にいいタイミングで僕は更に水を差すことにした。

 

「質問!」

「は、はいなんでしょう?」

 

今度もまた空気読めよ…………的な視線が来るのかと思いきや、今度は不安そうな視線を向けられた。いやごめんね、というか君らのこと無駄に見目麗しゅうござっていやがる一癖も二癖もある少年少女集団だなんて思ってごめんなさい。

 

「なんで黒ウサギサンは、僕らを『箱庭』に召喚したのかな?」

「それは、皆さんにこの『箱庭』で面白おかしく過ごしてもらおうと…………なんて、本心から言えたらよかったのでしょうけど」

 

目に諦めの色を映しつつも、腹を括った様に、黒ウサギサンは切り出した。

 

「今回黒ウサギ達があなた達を喚んだのは…………知らぬ間に黒ウサギ達のコミュニティ『ノーネーム』に参加させて、その復興に協力してもらおうとしたからです」

「ハン! まぁ察しはついてたぜ。別に異世界から使える()()()()()()人材を召喚するより、確実に使える人材を探す方がよっぽど効率的だ。それをしなかったのは…………それすらも儘ならない程、黒ウサギ達のコミュニティ…………その『ノーネーム』だっけか? が、崖っ淵なんだろうな」

「…………度重なる不義理な真似、申し訳ありません」

 

…………え、そうだったの?

 

「……道理でさっき十六夜くんがコミュニティに属したくないと言った時に強く反応したのね」

「…………でも、なんで今言ったの? 十六夜は分かってたみたいだけど、私と飛鳥……多分健太も、気が付いてなかったから、そのままなし崩し的に」

「そ、そうだよ! 僕の発言なんて煙に巻いたらよかったのに!」

 

なんでそんな…………あ”。

 

「お前が質問したからこそだ、景山。いや、もしかしたらその前にゲロってた可能性はあるがな。ただでさえ『意に沿わない召喚』『召喚の不手際で殺害』『絶望させて精神を病ませる』なんてことをしたんだ。おそらく根は善人そうなこいつが、良心の呵責に耐えきれるわけがない」

「ぐ、ぬぉ………!?」

 

ま、マジか!? 僕のせいか!?

 

「とりあえず、騙そうとしやがった件については、なし崩し的にコミュニティに加入させる前に説明しようとしたってことと、一応は面白いらしいこの世界に喚んでくれたってことでチャラにしてやる。だが、」

「分かっています。せめて、なぜ我々がそこまで追い詰められたのかを、説明しようかと思います。言い訳の様に聞こえるかもしれませんが」

 

そこから彼女の口から語られたことは、ちょっと…………どころではない、想像の斜め上を行く内容だった。

 

 

◇◇◇

 

 

正直、舐めていたと言わざるを得ない。

 

黒ウサギサン達のコミュニティが、崖っ淵が、これ以上ない位の崖っ淵ってのは分かっていた。…………分かった気になってた。

 

かつては栄えた、人間がリーダーを務めるコミュニティ。それなりに名の通ったコミュニティだったそうだ。

 

それが、一瞬にして崩れ落ちる。

 

働き手、ゲームプレイヤーは奪われた。

残されたのは、働くことすらままならない子供達。

コミュニティを支えていた恩恵もまた根こそぎ奪われた。

残されたのは、使い途のない広大なだけの死んだ土地。

名前と旗印も奪われたらしい。この箱庭では、それはこれ以上ない位の屈辱らしく。『名無し(ノーネーム)』は、これ以上ない蔑称なのだ。

 

地に落ちた、なんてレベルじゃない。

何も…………何もかもがない。

 

「我らをここまで突き落とし、何もかもを奪い去ったのは…………『魔王』。箱庭にて特権を悪用する存在を、そう呼称します」

「へぇ? 中々に素敵なネーミングじゃねぇか」

「それよりもその特権って?」

「…………飛鳥。多分それは、『ゲームを強制させる権利』だと思う」

 

僕と同じ疑問を持った久遠サンに、春日部サンが予想を述べる。そしてその予想は…………間違ってないだろう。

 

だって、箱庭ではある意味『ギフトゲーム』が法律だ、そのギフトゲームを強制させる権利があるのなら…………そういったことも、容易いはず。

 

「…………Yes. その権利を『主催者権限(ホストマスター)』と呼びます」

 

ゲームを開くから主催者ってか…………笑えないねぇ。

 

「確かにそれなら、何もかもを奪うこともできてしまうのだろうね…………それで、黒ウサギサン達のコミュニティは、一気に没落することになった、と」

「……Yes. 名乗るべき名、掲げるべき旗を守れなかった我らの信用は地に堕ち、再興の足掛かりを得ようとゲームに参加しようにもプレイヤーがおらず、今はなんとか黒ウサギの得る収入で、最低限食いつなげてはいるのですが…………」

「………そんなに苦しいのなら、新しくコミュニティを立ち上げたらいいんじゃないかな?」

 

至極もっともな意見である。背負わずに済む苦労は背負うべきではない。…………だが、それでは片付けられないのが、心である。

 

「春日部サン……多分それは、黒ウサギサンにはできなかったんだ。いわば、コミュニティは帰る場所。故郷であり、家のようなものなんだと思う。捨てきれないんだ、かつての同志が帰ってくる可能性を。それまで、例えどれだけ蔑まれ様と、かつての同志の帰る場所をなんとしてでも守りたかった。…………多分、そうだよね」

「その通りです…………!!」

 

そして僕の同意を求める声に、堪えきれなかったのか、黒ウサギサンの目から涙が溢れる。

 

「自覚はあるのです……無駄なことをしていると……!! ですが……ですが、我々が解散してしまえば、散り散りになった同士達は、何処に帰れと言うのですか……!! 残された我々が、諦めてはならないのです……!! 例え、砂漠で一粒の欠片を見つけるような、希望がほとんどない確率だったとしても……絶対に、絶対に!!」

 

…………帰るべき家を守りたい。その気持ちは痛い程に分かる。それ以上に、それまで積み上げた思い出の場所を無くすのは、それこそ本当に死んでも嫌だ。

 

「質問。死なない人間は役に立つかい?」

「「「「ッ!!」」」」

 

僕の発言に、みんなが息を飲んだ。

 

「高所落下しても死にません。窒息しても生き返ります。おそらく、ミンチにしても生き返るでしょう。…………まぁ、肝心のスペックの方が情けないんですが」

「い、いえ。そんなことはありません。ですが、黒ウサギは健太さんから帰る場所を奪った、いわば『魔王』と同類の存在なのですよ!? 何故自分を売り込むような……!!」

 

うーん、だって。

 

「個人的に、その『魔王』ってのが心底気に食わない」

「……え?」

「本当、ふざけんなって話だよね。相手が太刀打ちできないことをいいことに、理不尽を振りかざすヤツ。…………僕も、そんなヤツに色んなものを奪われた経験があってだね。他人事のように思えない」

 

そう……色んなものを奪われたのだ、あのクソ異常共に…………ッ!!!

 

「それに、『魔王』を倒していけば、名は当然売れるでしょ? そうなればもしかしたら、僕が元の世界に戻ることも現実味を帯びてくるんじゃない?」

「そ、それはそうですが、危険です! 『魔王』は、ただの理不尽とはわけが違」

「うるさいッ!! もう決めた、決定事項だ!!」

 

悪魔で、僕のためだ。別に同情だけでそんなことはしない。

 

 

 

「その『魔王』とか言う理不尽なクソ『異常』…………この『異常な普通:景山健太』が請け負った」

 

 

 

理不尽は許さない。クソ異常も、許さない。

 

あらゆるクソ異常共をねじ伏せてきたこの僕が…………『異常な普通』が、『魔王』を許さない。

 

「分かったか!! もし僕に対して申し訳なく思ってるなら、その『ノーネーム』とやらに僕を加入させ─────」

 

詰め寄るように一歩を踏み出すと、自分の服から垂らした池の水によってできた泥濘に足を滑らせ…………

 

(あ…………これ後頭部ルートだ)

 

ドジをやらかしたなー、と思うと同時に、これから来るであろう死の痛みに対して覚悟を決めて、僕は目を閉じた。

 




死因→後頭部強打
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