地上本部襲撃数分前、機動六課ーー
「……暇だねぇ……」
「そうですね……それとも嵐の前の静けさでしょうか?」
機動六課の待機所で準警戒態勢の状態で美由希とサーシャが暇そうにしていた。 そこにアリシアが両手に飲み物を持って待機所に入室してきた。
「美由希、もしもの事の時もすぐに動けるようにちゃんとしておいてよね。 美由希はスイッチが入らないとてんでダメなんだから」
「わ、分かってるわよ」
「それにしても……仮にここが襲われたら、大丈夫なんでしょうか?」
本来居るはずの交代部隊までも地上本部の警備に割かれている。 それに対して、六課の防衛戦力はヴォルケンリッターの2人と1匹を抜けば実質アリシア、サーシャ、美由希のたった3人……
「うん、無理だよ」
「ええっ!?」
「相手にもよるけど物量でこられたら逃げの一手しかないよ。 六課が潰れるのはイヤだけど……命には変えられないから」
「それは、そうですけど……」
『ーーアリシアさん!』
「うわびっくりした!」
その時、シャリオからの通信が入り、美由希がソファーから飛びがった。 それをシャリオはスルーし……
『地上本部に襲撃です! AMFが展開されていて皆さんと通信ができません!』
「! 始まってしまったね……!」
アリシアはすぐに気持ちを切り替え、六課全体に指示を出した。
「通信は予定通りツァリからの応答を待って……六課も警戒レベルを上げるよ。 近隣部隊に救援要請、バックヤードスタッフは念のために避難を始めさせて。 後の指示はグリフィスに任せるから」
『了解!』
次にザフィーラとシャマル、リンスに回線を開いた。
「ザフィーラ、リンス、聞こえてたね。 イットとヴィヴィオの事頼むよ」
『承知した』
『ヴィヴィオとイットは任せておけ』
『私も頑張りますよ!』
『はいでフー!』
アリシアはファリンとビエンフーがやる気満々なのに苦笑し、次の指示を出した。
「シャマル、敵の反応があったら教えて。 私達がすぐに迎撃に出る」
『分かったわ』
的確に指示を出しながら、アリシアは美由希とサーシャと共に隊舎の外に向かって走り出した。
「ま、魔力の問題じゃ無くこれは私の腕の問題。 私の魔法がどこまで通用するか……やってやろうじゃないの……!」
「ていゆーかさー、これどっちが本命なんだろうね? 地上本部か、ヴィヴィオちゃんかイット君か……」
「両方という可能性もありますよね?」
「それを考えるのはレンヤの仕事。 私達は目の前ことだけを見ていくよ」
『アリシアちゃん、高速でアンノウン2名を含む大量のガジェットが来たわ』
会話を止めるようにシャマルから連絡が届いた。 敵の目的を模索している内に事態は進んで行っている。
「ーー了解。 グリフィス、聞こえてる!?」
『はい!』
「地上本部にいるライトニング1、3、4を呼び戻して。 その次はロングアーチの避難、隊舎は放棄……殿は私が引き受ける」
「え……」
『なっ!? し、しかし!』
アリシアの命令に、グリフィスはもちろんサーシャも驚きの声をもらす。 だがアリシアはとても真剣な表情で決断している。
「これは命令だよ。 全責任は私が負う、いいね?」
『……了解。 アリシアさん達もお気をつけて』
「心配しないの。 これでもそれなりに修羅場はくぐってきてるし、いつもはヘラヘラしてるけどやる時はやるから」
通信を半ば強制的に終え。 アリシアとサーシャは迎撃の為前衛として空に上がり、美由希は後衛という陣形を取った。
「敵の迎撃をしながら徐々に後退。 ライトニングが来るまで持ちこたえるよ!」
「りょ、了解です!」
「やれやれ、大変なことになったもんだね!」
『ガジェットは約60機。アンノウンは変わらず2名です』
「了解。 とりあえず、先制の一撃といきますか!」
《サウザンドストーム》
アリシアは2丁拳銃を構えると周囲にガジェットの方向を向きながら無数の魔法陣が展開された。
「ーー無事で帰れると思わないでよッ!!」
そのまま正面に展開された魔法陣に砲撃を放つと……それが周囲の魔法陣に転送、魔法陣と同じ数の砲撃が放たれた。 砲撃は次々とガジェットを撃墜させていくが……
「ーーレイストーム!」
真下からアンノウンによって放たれた射撃魔法らしきもので妨害された。
「っと……!」
それと同時にもう1人のアンノウンがアリシアの背後から斬りかかられるが、アリシアは余裕で避けた。
「やりますね……さすがは翡翠の剣舞姫と言った所ですか」
そう褒め称えるのはカチューシャをつけた茶色のロングヘアーの少女。 両手にはエネルギーの刃で構成された双剣を構えている。 そして先ほどの射撃魔法を放った人物……短い茶髪の中性的な少女が正面に飛んできた。
「そりゃどーも。 てゆーかその名前どこで調べてきたのか気になるね。 ほとんど一般には知られてないないはずだけど?」
「それはご自分でお考えになられては? それに私達と話していると隊舎に被害が出ますよ?」
「問題ありません、すでに避難誘導は完了しました。 私達のやるべき事はあなた方をここで拘束すること……それだけです」
「……流石に僕達だけでは分が悪いですね……」
短髪の少女はパチンと指を鳴らすと……地鳴りが始まり、背後の海から巨大な何かが上がってきた。 上がって来たのは……
「……え、ええ!?」
首が痛いくらい見上げるほどの巨大な岩で構成された巨人だった。 額には丸くて黒い装置が取り付けてある。
「ドクターが地球の神話を元に複製したグリード……神話級グリムグリード。 地母神、ガイア」
「贋作なのでせいぜいAAAクラスですが、充分でしょう」
「マ、マジですかー……」
アリシア達の目的は撤退であって敵の殲滅ではないが……あの質量を前に2人で耐えられるか自信がなかった。その間にも、ガイアはゆっくり腕を上げ始めた。
「……………………」
「はあはあ……」
ミッド上空……そこでは息を上げてボロボロのヴィータと少し服が汚れている程度のフェローがいた。 不意に、フェローが地上本部の方を見た。
「……彼らが動き始めましたか」
『こりゃここを退けても突破は無理そうだね』
『! ヴィータちゃん! シグナムがこっちに向かってくるです!』
フェローとコルルが話している時、リインが念話でシグナムの応援を聞き。 応援が来るとわかりヴィータは少し安堵する。
「……ここまでのようですね」
『騎陣隊の皆に連絡したよ。 すぐに撤退するって』
ランスを下ろして構えを解き、フェローは撤退しようとすると……
「逃すか!」
ヴィータはアイゼンを構えて飛び出す。 隙を付いたと思われるが……フェローも同様に飛び出し、一瞬でランスを構えて神速の突きを放った。
「ぐううっ!」
ヴィータは放たれたランスを上に避け、柄をぶつけてランスの軌道を逸らし……
「シャルフシュラーク!!」
フェローの頭上に柄頭を突き出した。 フェローはとっさに左手の籠手で防ぎ、ヴィータは攻撃の反動で離れる。
「ちっ……!」
防がれたとヴィータは舌打ちをするが……
ピシッ……
フェローの面にヒビが入り、真っ二つに割れて壊れた。
「………ぁ………」
『綺麗……』
面はフェローの顔から離れ、空気にさらされたフェローの素顔は言葉にできないくらい美しく、ヴィータとリインは思わず呆けてしまった。
「ーー見事です。 我が面を砕くとは……」
「っ!」
その言葉に2人は正気に戻り、ヴィータはフェローを見据え、リインは自身の両頰を叩いた。
「ならばこの一撃、手向けと受け取りなさい!」
「なっ!?」
一呼吸の間に……まるで瞬間移動のようにヴィータの前に現れ、渾身のランスで薙ぎ払いってハンマーの中心に直撃し……ヴィータは地上に物凄い速度で吹き飛ばされた。
「うわああああ!!」
「次にまみえる時は決戦……覚悟して挑む事です」
『大丈夫かなぁ……リイン』
フェローは静かに闘気と魔力を静めながらそう呟き。 コルルは吹き飛ばさたリインの身を案じた。
そして吹き飛ばさたヴィータは地上のビルの一角、その屋上に物凄い速度で墜落した。
「痛ッ……あのやろ……」
痛む身体を持ち上げ、意識を保つように頭を左右に振った。 ヴィータは立ち上がろうとすると……ユニゾンをしているリインの反応が小さい事に気がついた。
「!? リイン? おいリイン!」
ヴィータが必死に呼びかける中……上空では、先ほどの地点にシグナムが向かっていた。 その途中、シグナムは進行方向正面に立っている人物を視界に捉えた。
「…………む?」
その人物はフェローだった。 フェローとシグナムは一瞬だけ目が合わさる。 そしてフェローは少し微笑むと……転移して消えて行った。
「今のは……」
『シグナム!』
シグナムは柄にもなく思考を巡らせていると……ヴィータから念話が届いた。 その声はどこか焦っており、悲しそうだった。
地上本部地下ーー
「はあはあ……くっ……」
「ーー終わりだ。 これ以上抵抗するな、傷は少ない方がいい」
ギンガは地下を捜索している途中、銀髪の少女の戦闘機人と交戦していた。 だが彼女が増援を呼び……現在はボロボロの状態で地に伏せ、それを3人の戦闘機人が見下ろしていた。
「なんだこいつ。 さっきのタイプゼロより弱ぇし」
「何だか拍子抜けっスね。 気を張って損したっス」
「手間が省けていいだろう。 ウェンディ、早く確保しろ」
「了解〜」
ウェンディはどこからか白いケースを取り出した。 おそらくあそこにギンガを収納する気だろう。
(まだ……まだ諦めたくない。 こんな所で……自分も見出せずに終わりたくない……!)
「ふん」
「うっ……」
思いに反してチンクに髪を乱暴に鷲掴みにされ、為す術もなく上に引っ張られ無理やり顔を上げさせられる。
「抵抗できないように腕の一本はもらっておこう。 心配しなくてもドクターがすぐに治してやる」
「ーーギンガさん!」
ギンガが収納されかけた時、正面の通路からソーマが現れた。 その姿は満身創痍で複合錬金鋼の傷ついてインジェクターも常に熱を排出している。 ソーマはギンガに向かって走り出したが、ソーマが出てきた通路から2つの影が飛来。 両者の間に割って入ってきたのはウルクとファウレ、2人は所々甲冑が破壊されていた。
「ちっ……おい、そいつを食い止めておけ」
「命令しないでください。 我らが従うのは偉大なるマスターただ1人」
「……弱いあなた達に命令させる筋合いはない」
「やっぱりあんたらとはソリが合わないっスね〜」
一応手を組みあっている同士だが、両者は険悪そうに睨み合う。 その隙にソーマはこっそり通過しようとするが……
「………………………」
「………………………」
「うわああああっ!?」
ファウレによってあっさり看破され、目の前の壁に鎌が突き刺さった。
「……抜け駆けは禁止」
「こんな抜け駆け嫌なんですけど!?」
問答無用でファウレは壁から鎌を抜き、手の中で回しながら襲ってきた。 道を阻まれ、ソーマは突破できないもどかしさに苦痛が顔に出ていた。
「ソー……マ……君……」
ギンガは痛みに耐えながらも目を開けてソーマを見る。 そしてソーマは鍔迫り合いになり、ファウレ越しにギンガに向かって語りかけた。
「ーーギンガさん! ギンガとスバルの境遇は……僕には分かりません。 その苦しみも因縁も。 けど、ギンガさんは温かかったです!」
「………え………?」
「スバルに紹介されて初めて会った時握手しましたよね? その時のギンガさんの手、温かかったです。 ギンガさんは確かに戦闘機人かもしれません……でも! それでもギンガさんは人間として、ギンガさん自身で今まで生きて来たんでしょう!? それを否定する気ですか!!」
「ーー!」
「口ばかり動かさない事ですね!」
「っ……ああっ!!」
騎陣隊の2人を相手しながらソーマは自身の想いを素直にそのまま伝えるが……ウルクの一撃で床に叩きつけられてしまう。 想いを受け取ったギンガは呆けるように思考を巡らせ、ノーヴェは痺れを切らす。
「無駄話はもういい。 さっさと……」
「……発……動……」
「あん?」
ノーヴェは下を見ると……うつ伏せの状態のギンガが左手を地面に力強く掴んでおり……
「ーーIS……発動……ヴォイドシェル!!」
突如ギンガの身体から膨大な魔力が放出された。 それにより戦闘機人3名は吹き飛ばされ、次にギンガの足元に独特な形状をした魔法陣……テンプレートが展開、周りに薄い膜が形成されていく。
「な……!?」
「何っ!?」
「ーーやっと分かったよ……すっごく簡単で当たり前の事で……」
ゆっくりと立ち上がり、顔を乱暴に拭って吹っ切れた顔をし、黄色い瞳でソーマを見つめた。
「ギンガさん……」
「結局。 どうやっても私は私でしかない……それを認めない限り前にも進むことも後ろにも戻る事もできない。 例え私が何者であろうと、母さんに拾われてから色んな事があって、そしてここに立っている事に嘘はない」
カツカツと地面を鳴らしながらソーマの元に歩いていくギンガ。 その道を戦闘機人3名はいざ知らず、騎陣隊の2名は塞がずむしろ道を開けていた。
「ありがとう……ソーマやスバルのおかげだよ。 ううん、皆やお世話になった全ての人の……」
ソーマの前に着くと手を伸ばし、ソーマは手を取って立ち上がった。 ギンガは一瞬微笑むとクルリと一転し……チンク達の方を向き一歩踏み出した。 その一歩で床に衝撃とヒビが走る。
「ーーリベンジさせてもらうよ。 気をぬくと腕の一本じゃ済まないから」
「ちっ……」
「舐めるなよ!」
「いい気になるなっス!」
身体の調子を確かめながら挑発するギンガに、戦闘機人3名は怒りを露わにし、ギンガに襲いかかってきた。
「くっ……」
「大丈夫、下がっていて」
応戦しようと剣を構えるソーマを制し、ギンガは地面を踏み込み……一瞬でウェンディの前に出た。
「なっ……ぶはっ!?」
ウェンディは驚く間も無くギンガの膝蹴りが腹部を強打し、軸足のローラーブーツが逆回転。 火花を散らしながら急速にバックし……
「はああっ!!」
「うあっ!」
振り向き間際にノーヴェに回し蹴りを喰らわせた。
「貴様……!」
チンクは無数のナイフを投げ……爆発させた。
「ギンガさん!」
「………………………」
ソーマは身を案じて叫ぶが、煙が晴れると……そこには無傷のギンガが立っていた。 チンクはその事に驚愕を露わにする。
「何っ……!?」
「IS……ヴォイドシェル。 身体中の表面に真空領域を薄い膜のように展開するインヒューレントスキル。 それにより外からの衝撃を通さない防御力、空気摩擦をゼロにする事によって発生する超加速、そして……」
両手を目の前で広げ……空気を握りつぶすように音を立てながら勢いよく閉じ、拳を握った。
「壊れない拳が得られる! ま、スバルのと違って派手じゃないけど……ね!」
チンクに狙いをつけ……一瞬で移動して拳を放った。 が、同じように瞬時に現れたウルクの盾に防がれ、衝撃が辺りに響いた。
「っ……確かにそのようですね」
「……せい」
横からファウレが胴体を刈り取ろうとするが……ギンガを覆う膜によって寸前の所で止められてしまう。
「……硬いってもんじゃない。 衝撃が吸収されてる?」
「……はあああああ……」
するとギンガは屈みながら身をひねり、呼吸とともに魔力を練り上げ……
「はあああっ!!」
一気に解放、その場で跳躍しながら回し蹴りを放ち。 ウルクとファウレを吹き飛ばした。
「……厄介な」
「ーーギン姉!」
「! 潮時ですか……」
ウルクは現れたギンガを一瞥し、腕を横に振り払うと……自身とファウレ、そして戦闘機人3名の足元に不可思議な魔法陣らしきものが展開された。
「あ……!」
「此度は戦えた事、そしてあなたが前に進めた事を喜ぶとします。 ですが、決して安心しないよう」
「……すでに鏡界は始まっている」
「な、何を……」
質問する暇もなく、彼女らは転移していった。 それと同時に糸が切れたのか、ギンガが倒れ込んだ。
「っ……」
「ギンガさん!?」
「ギン姉!?」
2人は慌てて近寄り、ギンガを起こすと……左腕と右足の一部分の皮膚が裂け、そこから破損した機械のようなものが出ていた。
「腕が……!」
「ギン姉、大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。 袋叩きにされてからISを使ったから身体に限界が来ちゃっただけよ。 これ使うと息するのが辛い上に身体への負荷が大きいのが欠点ね。 それにブリッツキャリバーもごめんね、こんな持ち主で」
《そんなことはありません。 あなたは私にとって誇れるバディです》
「ありがと……」
ギンガは残っている右手でローラブーツにあるブリッツキャリバーのコアを取り、お礼を言いながら胸に当てた。 と、ちょうどその時。 向かい側の通路からレンヤとなのは、ティアナが到着し。 3人はレンヤ達に連れられて地上に向かった。