私の好きな人は、お世辞にも真面目とは言えない。
いつもヘラヘラ笑っていて、話すことは適当。
世間の目から見たらチャラいと言われる、
子供のまま大人になったような人だ。
そんな彼を好きになったのは何故だろう。
同じ夢を持った仲間同士だから?
なんだかんだで優しくて誠実だから?
時々、忘れてしまう自分がいる。
「雅人さんは、どうして教師になろうと思ったんですか?」
夏、半ば強引に連れてこられた天体観測。
星が綺麗に見える山の上で、楽しそうに笑う彼に聞いた。
「似合わない?」
「はい、あまり。」
「Oh、辛辣~」
いつものようにヘラヘラと笑いながらも彼は頭上の星を眺めながら答える。
「うーん、かっこいいからかな。」
「かっこいい・・・ですか?」
「傍から見たら教師って地味でお硬いように見えるかもだけどさ、
次の世代に何かを伝えるって・・・凄いやりがいがあるって思わない?」
そう言って笑った彼の横顔に、私はつい見とれてしまった。
(ああ・・・そうだ、私は彼のこういう顔が好きなんだ。)
どこか達観した、それでいて少年のような笑顔を私はしばし見つめていた。
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「ふぅ、着いたぁ。」
夕方、雅人はさくらを連れて山を少し登った開けた場所に来ていた。
頭上には紅く染まった空が広がっている。
「絶好の天体観測日和ですね。」
「そうだね。
それじゃあ準備しようか。」
雅人は、さくらと共に天体観測の準備を始めた。
「それにしても、毎年付いてくるなんて酔狂だねぇからすちゃん。
たまには断ってもいいんだよ?」
「私も好きで来てますから。
それに、昔無理やり連れてきてた人の言うことじゃありませんよ?」
「はは、そりゃそうか。」
天体観測と言っても、天体望遠鏡を使った本格的なものではない。
地面にシートを敷き、そこに仰向けに寝転がって星を眺めながら駄べる。
本職の天文学者が助走をつけて殴りかかりそうなそれを、雅人は天体観測だと言って譲らない。
地面にシートを敷き終わり、四隅に錘の石を置いて、二人はそこに座り込む。
「アリス、出してあげたら?」
「あ、そうですね!」
さくらが持ってきていたペット用のキャリーバッグを開くと、中からピョンピョンと一匹の兎が出てきた。
さくらが、足元に寄ってきたその兎を優しく撫でる。
「ねぇからすちゃん、ペットに生徒の名前つけるってどうなの?」
「えー、だって可愛いじゃないですか。」
「まぁからすちゃんがそれでいいなら何も言わないけどさ。」
そう言って笑っていると桜が鞄から弁当箱を二つ取り出し、一つを雅人に差し出す。
「どうぞ、雅人さん。」
「ありがとうからすちゃん。
ありがとうね、毎年弁当作ってくれて。」
「腹が減ってはなんとやら、ですから。
アリスにもちゃんとご飯用意してますからね。」
そう言って、さくらは兎のアリスに餌を与えると、持ってきた弁当箱を開く。
中には色とりどりのおかずが詰められていた。
雅人も弁当箱を開き手を合わせる。
「「頂きます。」」
そう言って2人は食事を始めた。
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食事を終え、雑談をしている間にすっかり夜になっていた。
夜空には星が瞬いていた。
雅人とさくらはシートに仰向けに横になると星空を眺める。
「綺麗ですね。」
「そうだね・・・。
からすちゃん、夏の大三角、どれがどれだか言える?」
さくらはクスッと笑うと夜空の星を指さす。
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ、ですよね。」
「お、ちゃんと覚えてるね。」
「これでも先生ですから。」
それは建前だった。
高校生の頃、初めて連れてこられた天体観測で雅人に教わったことを未だに覚えているのだ。
「雅人さん。
雅人さんはどうして、星が好きなんですか。」
「うーん、そうだなぁ。」
雅人は少し考えて答える。
「星ってさ、俺達が生まれる何百年、何千年、それ以上も前から地球を照らしてるんだよ?
それって、純粋にすごいって思わない?」
「・・・そうですね。」
少年のように楽しそうに語る雅人をさくらは微笑んで見つめる。
その後も2人は夜空の星星をながめていた。
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「そろそろ帰りましょうか。」
「あ、ちょっと待ってからすちゃん。」
さくらと共に立ち上がった雅人は、気恥ずかしそうに後頭部をかく。
「どうしたんですか?雅人さん。」
「えっと・・・俺もそろそろ覚悟決めなきゃって思ってさ。」
その言葉を聞いた時さくらは、『ついに来た』と思った。
しかしそれを表情に出さず雅人の次の言葉を待つ。
「烏丸さくらさん。」
「・・・はい。」
雅人はさくらの目を真っ直ぐに見て言う。
「俺と
結婚してください。」
予想外の言葉に、さくらはパチクリと瞬きを繰り返し。
「え・・・・えええええ!?」
顔を真っ赤にして絶叫した。
「驚いた?」
「驚きますよ!
なんですか結婚って!
色々過程を吹っ飛ばしすぎじゃないですか!」
「いやぁ、散々色々引っ張り回してるから付き合ってなんて言うのは今更な感じがしてさぁ。
だからこの際勢いで囲っちゃおっかなぁ、なんて。」
「勢いで!?」
「それにさ・・・俺がヘタレてたせいで長い間待たせちゃったみたいだしね。」
その言葉にさくらは驚いた顔をする。
「・・・気づいてたんですか?」
「俺、そこまで鈍感じゃないよ。
好きでもない男にデートに誘われて毎回ついていくほど、カラスちゃん安くないでしょ。」
「それならもっと早く告白してくれてもいいじゃないですか!」
「しょうがないでしょ、ヘタレてたんだから。
それに、告白する前にカラスちゃんに俺のこともっと好きになってもらいたかったからさ。」
雅人が笑いながらそう言うと、さくらは顔を耳まで赤くする。
「もう!もうもうもうもうもう!」
「痛っ、ちょ、からすちゃん痛い!
ごめん、ごめんってば。」
頬を膨らませて自分をポカポカと叩くさくらを雅人は肩を掴んで引き剥がす。
「・・・からすちゃん、返事聞かせてよ。」
雅人の言葉に、さくらは顔を俯かせる。
「・・・ずるいですよ・・・こんなの。」
そして顔を上げると、
「私でよければお願いします。
絶対幸せにしてくださいね。」
涙を流しながら笑顔でそう言った。
「うん、任せて。」
雅人はそう言うと、さくらの頬に触れ、親指でさくらの涙を拭う。
さくらはその手に愛おしそうに自分の手を添える。
「でも、少し寂しいですね。」
「なにが?」
「私の青春、終わっちゃいました。」
「何言ってんの?
からすちゃんいつも言ってるでしょ?」
雅人はニッコリと微笑んで言う。
「楽しめればいつだって青春、でしょ?」
「・・・はい、そうですね。」
2人の口付けを夜空の星と一匹の兎が見つめていた。
自分で書いててなんだが・・・壁が欲しい。