きんいろモザイク~こいいろモザイク~   作:鉄夜

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第5話 新たな始まり

昼休み。

 

陽子は教室でエレンになにかが入った風呂敷をエレン向かってドヤ顔で突き出していた。

 

「陽子・・・なんだそれ。」

 

「私の手作り弁当、エレンのために作ってきた。」

 

「そっかぁ・・・でもほら、俺弁当あるし。」

 

陽子はエレンの弁当を奪い取ると素早く自分の口にかきこんだ。

 

「ごちそうさまでした。」

 

「」

 

「一瞬で完食したわね。」

 

綾が若干引きながら言う。

 

「遠慮するなよエレン、彼女の手作り弁当だぞ。

嬉しいだろ?」

 

「いや、嬉しいのは嬉しいんだけど。

・・・今日胃薬持ってきてないし。」

 

「なんだとぉ!」

 

陽子が掴みかかろうとするとエレンも対抗し、力比べの状態になる。

 

「なんでだよ!私の料理スキルがそんなに不安か!?」

 

「余ってたゆで卵躊躇なくレンジでチンしたやつが何言ってんだ!」

 

「知らなかったんだから仕方ないだろ!」

 

「料理するうえでの一般教養レベルのこと知らなかった奴をどう信用しろってんだ!

なにも知らずに食べようとした瞬間爆発して俺の口の中が口内炎だらけになったんだからな!」

 

「今回は大丈夫だから!ちゃんと母さん監修のもと作ったから!」

 

「監修?監視じゃなくて?」

 

「本当に一回殴るぞ!」

 

エレンはしぶしぶ弁当を受け取り蓋を開ける。

 

そこには食材が綺麗に並べられていた。

 

「うお!これマジでお前が作ったのか。」

 

「いや、ほとんど昨日の残りを私が盛り付けただけ。」

 

「おう、手作りはどうした手作りは。」

 

「で・・・でもその卵焼きは私が作ったんだぞ。」

 

「監視のもとで?」

 

「監!修!な!」

 

エレンは卵焼きを口に運ぶ。

 

「・・・ど・・・どう?」

 

陽子が緊張した面持ちで聞く。

 

「・・・普通にうまい。」

 

「よし!」

 

エレンの言葉に、陽子はガッツポーズをした。

 

「あ、そうだ!綾も食べてみてくれよ!

料理上手なやつの意見も聞きたいし。」

 

「え・・・ええ。」

 

綾も陽子の卵焼きを食べる。

 

「・・・美味しい」

 

「やったぁ!」

 

陽子は両手でガッツポーズをして喜んだ。

 

「しっかし、お前が料理勉強しだすとはな。」

 

蓮がからかうようにいうと陽子は顔を少し赤くする。

 

「いや、その・・・いつかエレンに私の手作りの料理食べてほしいから////」

 

「男っ気なんて全くなかった奴がそんなこと言うようになるとわな。

驚きや。」

 

「うるさいなぁ!

私だって女の子なんだぞ!」

 

陽子が頬を膨らます。

 

その陽子を愛おしそうに見つめていたエレンがいう。

 

「まぁ、それなら期待しとくか。

俺もお前の手作り料理食ってみたいしな。」

 

「おう、任しとけ!」

 

陽子は満面の笑みを浮かべた。

 

「・・・・」

 

綾は、そんな陽子を悲しそうに見ていた。

 

#####

放課後

 

「・・・」

 

「・・・」

 

綾と賢治は、分かれ道でほかのみんなと別れ二人で帰っていた。

 

賢治は前を歩く綾に聞く。

 

「・・・綾、大丈夫っスか?」

 

「・・・なにが?」

 

「今日はいつもより元気がなかったから。」

 

「私は大丈夫よ。」

 

「でも、あきらかn」

 

「大丈夫って言ってるでしょ!」

 

綾は大声で怒鳴って振り返った。

 

綾は両目から涙を流していた。

 

「・・・綾。」

 

「なんなのよアンタ!いつもいつも余計なお世話なのよ!

私が大丈夫っていってるんだからそれでいいでしょ!」

 

「それのどこが大丈夫なんスか!」

 

「うるさいうるさいうるさい!

あんたには関係ないでしょ!?」

 

「やっぱり気持ちだけでも伝えるべきッスよ!

じゃないと綾・・・壊れちまうっスよ!」

 

「・・・あんたに何がわかるって言うのよ。」

 

綾は賢治を睨みつける。

 

「人を好きになったこともない奴に!私の何がわかるって言うのよ!」

 

綾はそう言うと走っていってしまった。

 

「綾!」

 

追いかけて捕まえるべきなのに、わかっているはずなのに、賢治の足は全く動かなかった。

 

#####

 

1週間後、教室で陽子が綾の席を心配そうに見つめる。

 

「綾、今日も休みか・・・」

 

「風邪が長引いてるんだろ。」

 

「・・・それだけじゃ無いと思う。」

 

陽子は不安そうに俯いて言う。

 

「昨日、御見舞をしようと思って綾の家に行ったんだけど、綾が今は会いたくないって・・。」

 

「・・・」

 

エレンは横目で賢治の方を見る。

 

エレンと目が合うと賢治はあからさまに目を背けた。

 

「綾、大丈夫かな。」

 

俯く陽子の頭をエレンは優しく撫でた。

 

一方職員室では、さくらがひどく落ち込んでいた。

 

「桐谷先生・・・私は教師失格です」

 

「そんな事ないってカラスちゃん。

君はちゃんと先生出来てるよ?」

 

「でも、こんな時にこそ生徒を助けてあげたいのに。」

 

「教師だって万能じゃないんだからさぁ。

出来ないこともあるって。

大丈夫、カラスちゃんは立派な先生だよ、

俺なんかよりずっと。」

 

「・・・」

 

雅人はなんとか励まそうとするが、さくらはうつむいたままだ。

 

「・・・やれやれ。」

 

雅人は後頭部を掻きながらため息をついた。

 

そして保健室では、カレンがひどく落ち込んだ様子で零士と話していた。

 

「ダーリン、多分アヤが悩んでるのは、陽子のことだと思いマス。」

 

「だろうな、いつかこうなるかもとは思っていたが・・・」

 

「・・・私悔しいデス、大切な友達が大変な時に何も出来ないなんて、自分が嫌いになりそうデス。」

 

目に涙を浮かべるカレンの頭に零士はポンと手を置く。

 

「大切なダチなら信じて待ってやれ。

お前がそんな顔してたんじゃあ帰ってきた時綾が不安になるだろ?」

 

「・・・はい。」

 

零士に慰められてもなお、カレンは落ち込んでいた。

 

#####

 

放課後。

 

エレンは賢治の襟首を掴み、保健室へと引っ張って行っていた。

 

「な・・・何するんスかエレン!何怒ってんスか!?」

 

エレンは保健室の前に着くと、扉を開けて中にほおり投げた。

 

「痛て!」

 

尻餅をついた賢治が後ろを振り向くと、そこには雅人と零士が居た。

 

「雅人さん、零士さん。」

 

「やっほー。」

 

「・・・」

 

雅人は気楽に手を振るが、零士は無言で賢治を睨みつけていた。

 

「賢治、なにがあった包み隠さず全部話せ。

わかってるとは思うが、黙秘権なんてねぇからな。」

 

「・・・はい。」

 

賢治は起こったことをすべて話した。

 

「なるほどな。」

 

「あーららー。」

 

「予想はしてたが、結構やばいな。」

 

エレンと雅人と零士は3人で腕を組んで言う。

 

「で?お前はどうすんだ?」

 

「・・・え?」

 

ずっと黙ってばかりの賢治に零士が言う。

 

「まさかこのまま放っておくわけにも行かんだろ?」

 

「そうは言っても、俺に出来ることなんてないっスよ。」

 

エレンは賢治の胸ぐらをつかむ。

 

「てめぇ、いい加減にしろよ。

一度首突っ込んだなら最後まで責任もちやがれ。」

 

「じゃあどうすればいいんスか!

俺はエレンたちみたいに肝すわってないんっスよ!

それに・・・おれにそんなことする資格なんてないっスから。」

 

「このやろう・・・」

 

雅人はエレンの肩にポンッと手を置く。

 

「まぁまぁエレン、一旦落ち着きな。」

 

雅人がそういうと、エレンは賢治を放した。

 

「賢治はさぁ、綾のことが好きなんでしょ?」

 

「・・・はい。」

 

「ならそれでいいじゃん。」

 

「・・・え?」

 

雅人は笑みを浮かべながら続ける。

 

「資格なんて大層なもん無くても、それだけで好きな子助ける理由にはなると思うよ?」

 

雅人の言葉に零士が続く。

 

「そうだな、だから、

惚れた女のためにくらい、腹くくれ。」

 

零士がそう言うと、賢治はゆっくり立ち上がる。

 

「まったく、お節介な人たちッスね。」

 

賢治は顔を上げる。

 

「俺、行ってくるッス。

どこまでできるかわからないけど。

綾を好きな気持ちは誰にも負けないつもりっスから。」

 

「おう、行ってこい。」

 

賢治は保健室を飛び出して行った。

 

「いやぁ、若いねぇ」

 

「おっさん臭いですよ、マサさん。」

 

「うるさいよ。

・・・それにしても。」

 

雅人はニヤニヤとしながら零士の方を見る。

 

「俺やエレンはともかく、零士がカレンちゃんのために動くなんてね。

なに?とうとう好きになっちゃった?」

 

「そんなんじゃねぇよ・・・ただ。」

 

零士は今にも昼休みの時のカレンの顔を思い出す。

 

「・・・目の前であんな顔されちまったらな。」

 

#####

 

綾の家の前。

 

賢治がインターホンを鳴らすと玄関の扉を開けて綾の母親が出てきた。

 

「あら、賢治くん。

ごめんなさいね、綾、今は誰にも会いたくないって言ってるのよ。」

 

「そうですか・・・。」

 

賢治は拳を固く握る。

 

「あの、上がらせてもらってもいいですか?」

 

#####

 

綾の部屋の前、賢治は深呼吸をするとノックする。

 

「綾?起きてるっすか」

 

少しの沈黙のあと声が返ってくる。

 

「・・・何しに来たのよ。

私のことはほっといてって言ったでしょ?」

 

突き放すようにそういう扉の向こうの綾に賢治は続ける。

 

「綾、そのままでいいから聞いて欲しいっス。」

 

賢治はもう一度深呼吸をすると、

 

「俺は、綾のことが好きだったんス。」

 

そう言った。

 

「今思えば、きっと一目惚れだったんス。

初めてあった時の綾は子犬みたいに震えて、

儚げで、守ってあげたいって思ったんス。

その後綾が陽子とあって、よく笑うようになって、気が付いたらその笑顔をずっと見ていたくなって、あぁ、これが恋なんだって思ったんス。」

 

帰ってこない扉の向こうの声に賢治は続ける。

 

「それからずっと綾のことを見てきたんっス。

綾が陽子に恋をして苦しんできたところも。

陽子のことを諦めようとして諦めきれずに苦しんでるところも。

全部見てきたんっス。」

 

同じ性別の相手を好きになった。

 

それが許されないと知っていた。

 

それでも諦めきれずにずっと苦しんだ。

 

そんな少女を守れるように少しでも強くなろうと口調を変えたりした。

 

でも結局は何も出来なくて、苦しんでる姿を見ることしか出来なかった。

 

だが今は違う。

 

「俺、綾には笑ってて欲しいから。

だから全部吹っ切って欲しいんッス。

そしたら俺もまた始められるから。」

 

ガチャ。

 

目の前の扉が開き中から綾が出てくる。

 

綾は、泣き腫らした目で賢治を見上げる。

 

「もし、陽子に拒絶されて傷ついたら、アナタが助けてくれるの?」

 

賢治は綾の目をまっすぐ見て言う。

 

「綾の寂しさも、悲しみも、痛みも不安も涙も、全部まとめて俺が引き受けるっス。」

 

そう言うと賢治は、優しく微笑む。

 

「綾の笑顔より大事なものなんて、俺には何も無いッスから。」

 

#####

 

翌朝。

 

「みんな、おはよう。」

 

いつもの待ち合わせ場所に賢治と共にやって来た綾は、みんなに挨拶をする。

 

陽子たちが綾に駆け寄る。

 

「綾!もう大丈夫なのか?」

 

心配そうに声をかける陽子に綾は笑顔で返す。

 

「うん、ゴメンね心配させて。」

 

「よかったです。」

 

「心配したよ、アヤ。」

 

「・・・」

 

ガバッ!

 

「ちょっ、カレン?」

 

カレンは綾に抱きつくと耳元で囁く。

 

「頑張ってくださいネ、アヤ。」

 

「・・・うん。」

 

その様子を見ていたエレンは、賢治に聞く。

 

「これで、一件落着か?」

 

「・・・いや、まだ終わってないっス。」

 

綾は陽子に近づいて話しかける。

 

「あの、陽子。」

 

「ん?なに?綾。」

 

「今日の放課後、二人っきりで話したいことがあるの。

教室に残ってくれない?」

 

「うん・・・わかった。」

 

真剣な目で言う綾に、陽子はうなづいた。

 

#####

 

放課後

 

誰もいなくなった教室に陽子と綾はいた。

 

「綾、話って何?」

 

「・・・陽子、私・・・。」

 

言わなければいけない、でも言おうとすると恐怖で足が震える。

 

「私・・・私ね・・・」

 

息が詰まり声が出ない。

 

冷や汗が止まらない。

 

「私・・・。」

 

逃げだしたい。

 

今すぐ扉から外に飛び出したい。

 

『綾の寂しさも、悲しみも、痛みも不安も涙も、全部まとめて俺が引き受けるっス。』

 

だが少女は、もう逃げないと決めた。

 

「私、あなたの事が好きだったの。」

 

綾は、陽子の目をまっすぐ見て言った。

 

「・・・」

 

陽子は黙って聞いている。

 

「はじめは気になるだけだったの。

初めてあったあの日、私の手を引いてくれて、本当に嬉しかった。

そして、気づいたら好きになってた。」

 

綾の目から一筋の涙がこぼれる。

 

「ダメだってことは分かってたのに、そう思えば思うほど思いは強くなって、諦めようとしても無理だった。

陽子がエレンと付き合いだして、今度こそ諦めようと思ったの。」

 

綾の目から涙が溢れ出す。

 

「でも、やっぱり無理だった・・・。

陽子がエレンと仲良くしてるのを見るたびに、

なんで私じゃないんだろうとか思っちゃって、

そんなことを繰り返してる内に心が真っ黒になっていって・・・。」

 

綾は、あふれる涙を拭いながら言う。

 

「ごめん・・・ごめんね。

私嫌な女だよね・・・。」

 

陽子は立ち上がると、綾を優しく抱きしめる。

 

「陽子・・・」

 

「綾・・・ごめんな。

綾がこんなに苦しんでるのに、私全然気づけなくて。」

 

陽子は涙を流して綾に言う。

 

「ごめん・・・ごめんな・・・。」

 

「・・・気持ち悪いとか思わないの?」

 

「思うわけないだろそんなこと。

綾は私の大切な親友なんだから。」

 

陽子に抱きしめられながら、綾は思い出していた。

 

(あぁ、そうだ。

私は、陽子のこういうところを好きになったんだ。)

 

陽子が離れると、綾は涙を拭って言う。

 

「陽子、私ね、全部吹っ切ってもう一度0から始めたいの。

だからお願い、あなたの返事を聞かせて。

それで全部、終わりにするから。」

 

「・・・分かった。」

 

陽子は涙を拭うと、綾の目を見て言う。

 

「綾、私は綾が大好きだ。

綾だけじゃない、シノもアリスもカレンも、

私にとって友達はみんな大切な存在だ。」

 

「・・・うん。」

 

「でも、それとは違う、もっと特別な意味で、

エレンのことが大好きだ。

だから・・・ごめん。

そして、こんな私の事を好きになってくれて、ありがとう。」

 

陽子は頭を下げてそう言うと。

 

「うん、私も、あなたを好きになってよかった。」

 

綾は涙を流しながら笑顔でそう言った。

 

「それじゃあ私、今日は1人で帰るわね。

・・・また明日。」

 

「うん・・・また明日。」

 

綾は、陽子を教室に残して教室を出た。

 

廊下に出ると入口のそばに、エレンが立っていた。

 

「陽子をよろしくね、私の初恋の人を泣かせたら、承知しないから。」

 

「あぁ、分かってる。」

 

綾は急ぎ足でその場を去っていった。

 

エレンが教室に入ると、陽子が今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。

 

エレンが近づくと陽子はポツリとつぶやく。

 

「エレン・・・私、すごく・・・苦しい。」

 

陽子がそう言うと、エレンは黙って抱きしめる。

 

「今日はうちで飯食うか?」

 

エレンの胸の中で陽子はうなづいて言う。

 

「うん・・・でももう少しこうしてたい。」

 

「はいよ。」

 

エレンは陽子の頭を優しくなで続けた。

 

#####

 

(これで、全部終わり。)

 

綾は学校の玄関まで歩いて向かっていた。

 

気を抜いたら溢れてしまう涙を堪えながら、少しづつ歩みを進める。

 

そして玄関につくと。

 

「綾。」

 

そこでは、賢治が待っていた。

 

「帰るっスよ、綾。」

 

「賢治・・・ずっと待ってたの?」

 

「何言ってんスか?」

 

賢治は綾に笑顔を向ける。

 

「全部受け止めるって、俺言ったスよね。」

 

そう言って賢治は綾に向かって手を差し出した。

 

「う・・・ひぐっ・・・うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

綾の目から抑えていた涙が溢れ出す。

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!

ひぐっ・・・えぐっ・・・。

うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

子供のように泣きじゃくる綾の手を引いて、

賢治は学校をあとにした。

 

#####

 

工藤家のリビング。

 

ソファーの上で陽子は、エレンの膝の上に座りながら腰に手を回して抱きついて胸板に顔を埋めていた。

 

「陽子ー?オーイ、陽子さーん?」

 

「うー。」

 

「さすがにずっとこの体勢だとおもいんですけどぉ?」

 

「うー!(抗議)」

 

(なんだこの可愛い生き物。)

 

後ろで見ていたマリーが心配層に声をかける。

 

「ねぇ、陽子姉どうしちゃったの?」

 

「あー、まぁいろいろあるんだよ。」

 

「ふーん。」

 

陽子と長い付き合いであるマリーは、こういう時自分はどうするべきか分かっていた。

 

「じゃあ私、部屋で宿題してくるね。」

 

「あぁ、悪いな。」

 

マリーは自室へと向かった。

 

「ほら陽子、もうマリーはいないぞ?」

 

エレンがそういうと陽子がポツリと漏らす。

 

「本当に自分が嫌になる・・・なんで気づいてやれなかったんだろ・・・」

 

「まぁ俺の時も大概だったからな、ましてや同性からなんて思ってもみねぇだろうよ。」

 

「・・・明日学校休もうかな。」

 

「おい、せっかく綾が戻ってきたのに次はお前が不登校になる気か?

つーかそんなことしたら綾を傷つけちまうぞ?」

 

「うぅ・・・」

 

「そんなに悩まなくても、いつもどうりにやればいいだろ。」

 

「それができれば苦労しないってー。」

 

「たしかに普通はできないけど、

お前は猪熊陽子だろ?」

 

「・・・」

 

恨めしそうには睨んでくる陽子にエレンは笑って言う。

 

「いっちょ前に純情気取ってないで、鈍感に、無神経に、バカみたいに、お前らしくやればいいんだよ。」

 

「おい、バカにしてるだろ。」

 

「してねえよ。

そう言うところも含めて好きになったんだからな。

俺も、綾も。」

 

そう言ってエレンは微笑む。

 

「・・・うん、わかった。

やってみる。」

 

「おう、頑張れ。

じゃあそろそろ膝の上から降りるか?」

 

「ヤダ。」

 

「はいはい。」

 

エレンは陽子の頭を優しくなでた。

 

#####

 

翌日

 

綾はいつもの待ち合わせ場所で賢治と共に立っていた。

 

「はぁ、やっぱり気まずいわ。」

 

「大丈夫っスよ綾、きっとエレンがうまい事やってるはずっスから。」

 

「・・・うん。」

 

「ほら、来たっスよ」

 

綾が前を向くと、エレンと陽子とマリーがこちらに向かって歩いてきていた。

 

陽子は、いつものように笑顔でエレンと話をしている。

 

そして綾と目が合うと、笑顔を向ける。

 

「綾!おはよー!」

 

そう言って元気に手を振って近寄って来る陽子を見て、綾も自然と笑顔になる。

 

「おはよう、陽子。」

 

「綾、昨日の宿題やってる?」

 

「やってるけど・・・見せないわよ?」

 

「・・・えー、そんな事言うなよー。」

 

目の前でじゃれつく綾と陽子を、エレンと賢治は安心して見守っていた。

 

「とりあえずこれで一件落着・・・だな。」

 

「まだちょっとだけ引きずりそうっすけどね。」

 

「で?お前はどうすんだ?」

 

「・・・」

 

賢治のスマホには、メール作成画面が開かれており、そこには、

 

『改めて話したいことがあるんで、放課後、

残ってもらってもいいですか?』

 

と書かれていた。

 

賢治は深呼吸をするとメール送信ボタンを押した。

 

#####

 

放課後

 

賢治は緊張した面持ちで教室の前に立っていた。

 

(綾は・・・また新たに歩き出した。

・・・だから俺も。)

 

深呼吸をすると、賢治は教室の扉を開ける。

 

綾は、教室の中心で賢治を見つめていた。

 

「賢治・・・話って何?」

 

賢治は綾の目の前に立つと意を決して口を開く。

 

「綾、俺は━━」




佐藤賢治

高校一年生

男子メンバーきってのお調子者。













どうも作者です。

とりあえず今回の話で一区切りです。

次の話から時間は一気に飛んで夏休み編に入ります。

一話から今回の話まで、一応始まりをテーマにしています。

物語の始まり。

それぞれの恋の始まり。

そして、綾の新たな始まり。

と言った感じです。

ちなみに今回の話の中で、一部某アーティストの曲の歌詞を引用している部分があります。

みんなわかるかな?☆

最後に、今までを通してみてくださっている方々、本当にありがとうございます。

これからも宜しくお願いします。

評価、感想、お待ちしております!

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