綾の自室。
「木組みの家と石畳の街?」
電話をかけてきた賢治の口から出た言葉に、
綾は首をかしげる。
「聞いたことないわね。」
『実は隠れた名所らしいんっスよ。
そんで気になって調べたら最寄りの駅から直通の電車が出てるらしくて、
だからその・・・明日、一緒に行かないっスか?』
賢治の言葉に綾はドキッとして、聞き返す。
「そ・・・それって・・・デートってこと?」
『いや!その!別に嫌ならいいっていうか!
無理強いはしないっすよ?
でも出来れば綾と2人きりで行きたいなーなんて。』
綾は少しの沈黙の後、口を開いた。
「分かった・・・行く。」
『ま・・・マジすか!?』
「うん。」
『そ・・・それじゃあ明後日の朝9時に駅前でどうっスか?』
「ええ・・・いいわよ。」
『よ・・・よかったぁ、それじゃあまた。』
「・・・うん。」
綾は電話を切るとしばらくボーッとする。
「どうしよ・・・。」
綾はつぶやくとベッドの上でゴロゴロと転がり始めた。
「デートってなに着ていけばいいの!?
髪形とか変えたほうがいいのかしら!
化粧とかした方がいいの!?
どうしよ!どうしよう!」
涙目になりながらしばらく悶えると綾は携帯を手に取る。
「そ・・・そうだ!
陽子に相談すれば!」
と、電話をかけようとした手をピタッと止める。
(ちょ・・・ちょっと待って、
陽子とはあんな事があったばかりなのに、本当にいいの?
で・・・でも他に心当たりなんてないし・・・。)
綾は少し考え込むが。
「ええい!ままよ!」
そう言って電話をかける。
少しすると、陽子が電話に出た。
『もしもし綾?どうかした?』
「えっとあの・・・陽子に相談に乗ってもらいたい事があって。」
『相談?何?』
「あの・・・今度ケンと初デートする事になったんだけど・・・どうしたらいいか分からなくって。 」
『・・・』
「ご・・・ごめん、こんなこと相談されても困るわよね。」
『ううん、相談してくれた事は嬉しいよ。
でもその・・・期待には答えられないと思う。』
「え?」
『私も初デートの日に、張り切って自分なりに着飾って待ち合わせ場所に行ったんだよ。
そしたらエレンのヤツ哀れむ目をしながら、
『陽子に女子力とか期待して無いからあんまり無理すんな。』って・・・』
「なんというか・・・さすがエレンね。」
『女子力って何!?どうやったら手に入んの!?私が綾に聞きたいよ!』
「お・・・落ち着いて陽子!」
『・・・ごめん、取り乱した。
まぁとりあえず私が言えることがあるとすれば2つ。
下手に着飾らない!自然体が一番!
それと時には大胆に!』
「そ・・・そう。」
『だいたい綾はいつも通りで充分可愛いんだから問題ないって。』
「・・・うん、ありがとう。」
『また何かあったら相談してくれよ、あんまり力になれないかもだけどさ。』
「うん、じゃあまたね。」
『うん、またね、綾。』
その言葉を最後に電話は切れた。
綾はベッドに仰向けになり、天井を見上げる。
陽子の先ほどの言葉が脳内で再生される。
『綾はいつも通りで充分可愛いんだから問題ないって』
「フフッ、陽子らしいわね。」
昔は、顔を赤らめていた陽子の言葉に、
今は笑顔がこぼれる。
どうやら、陽子のことは完全に吹っ切れたようだ。
そう思うと、綾は安心すると同時に一つの悩みが浮かんでくる。
「このままでいいのかなぁ。」
あの日。
賢治に告白されたらあの日。
綾はそれを受け入れた。
だがそれは自分のすべてを受けとめてくれると言った賢治のことを信頼しているからである。
賢治と共にいて、ドキドキすることはある。
だがそれが恋心によるものなのか、綾には分からなかった。
そんな状態で付き合うのは、賢治に対して不誠実ではないか。
綾はそれで悩んでいた
(私、賢治の事、好きなのかしら。)
綾は、大きくため息を吐いた。
#####
2日後
駅前で待っていた賢治に綾が近寄る。
「お・・・お待たせ。」
「いや、今来たとこッスよ。」
「そ・・・そう。」
「・・・・」
「ど・・・どうかした?」
「いや、その・・・服。」
「服?」
綾は、白いワンピースを着ていた。
「な・・・何か変?」
「いや!そんなことないッス!
むしろその・・・スゲェ可愛いっス。」
「え////」
綾は、顔を耳まで真っ赤にする。
「あ・・・ありがとう////」
「じゃ・・・じゃあそろそろ行くっスか?
電車の時間もあるし。」
「そ・・・そうね////」
2人は駅まで歩いて行く。
賢治の隣を歩く綾は、賢治の手元に目をやる。
(手とか繋いだ方がいいかしら・・・。)
綾は、ゆっくりと賢治の手に自分の手を近づける。
すると賢治の手が動き、綾の手に当たる。
「うお!」「きゃっ!」
二人は同時に声を上げる。
「ご・・・ごめん!」
「こ・・・こっちこそごめんッス。」
そう言うと2人は沈黙してそのまま駅に着いた。
「切符はもう買ってあるんで、あとは電車を待つだけっすよ。」
「へぇ、準備がいいのね。」
「綾との初デートッスから。」
「っ/////」
綾は再び顔を赤くする。
賢治も言って恥ずかしかったのか目を背ける。
「あ、ちょうど今日行く場所のパンフがあるッスよ!?」
「あ・・・あら本当ね、せっかくだから貰っていきましょう」
パンフを取り、しばらく待つと電車がやってきた。
その電車を見て、綾が呆然とする。
「・・・ねぇ、ケン。
私達が今から行くのって日本国内よね?」
「そ・・・そのはずッスけど。」
「どう見ても外国仕様なんだけど・・・」
「いや、ここから外国に電車でつながってるなんて聞いたことないっすよ?」
「・・・とりあえず、乗りましょうか。」
「そうっスね。」
二人は電車の中に入り席に着く。
綾の隣に賢治が座る。
「ここからどれくらいかかるの?」
「えっと、2時間くらいっすね。」
電車が動き始めると綾は、先ほど手に入れたパンフレットを読む。
「へぇ、街の雰囲気も外国みたいで素敵ね。
水先案内人もいるのね、楽しそう。
・・・ん?」
綾は、パンフレットの一文に目をやる。
「・・・街にはたくさんの野良うさぎが生息。」
綾がそういった瞬間賢治は体をビクッとさせる。
「ケン、もしかしてこれが目的だったりする?」
「いや!もちろんメインは綾とのデートっスよ!?
でもどうせなら自分も楽しみたいなーていうかそのー・・・はい、すいませんでした。」
謝る賢治をみて、綾はクスッと笑みをこぼす。
「別に怒ってないわよ、賢治が動物好きなのは知ってるし。
獣医目指してるくらいだものね。」
「いやぁ、ははは。」
「まぁそれを叶えるなら、もっと勉強しないとね。」
「そ・・・それは言いっこ無しっすよ綾!」
「フフッ。 」
「でも良かったっす。」
「なにが?」
「だって綾、やっと笑ってくれたっす。」
「え?」
賢治は頬をぽりぽりと掻きながら言う。
「全然笑ってくれないから俺とのデート楽しくないのかなぁって思ってたっす。」
「そ・・・それはその・・・初めてのデートで緊張してたから////」
「え?綾もっスか?実は俺もなんスよ。
お互いに緊張してたらそりゃ会話弾まないっスよねー。」
「フフッ、そうね。
でも今日はせっかくだし楽しみましょう。」
「え?いいんスか?ウサギモフリまくるっすよ?
リミッター外しちゃうっスよ?」
「人前では恥ずかしいから自重してよ?」
2人はその後、駅につくまで談笑した。
#####
駅に着き、電車を降りた2人は呆然としていた。
「・・・ねぇ、綾。」
「なに?ケン。」
「俺、パスポート持って無いんスけど、
捕まっちゃうんっスかね。」
「落ち着いて、ここは日本よ。」
賢治は目の前に広がる日本とは思えない光景に愕然としていた。
「駅でこれって外に出たらどうなるんスか。」
「もっと凄いんじゃない?」
二人は駅を出て外に出る。
そこには日本とはかけ離れた光景が広がっていた。
あちらこちらに木組みの家が並び、通路は石畳で出来ている。
水路にはゴンドラが浮かび、水先案内人が観光客を案内している。
「…( ゚д゚)」
「ケン!?大丈夫!?」
「オレノシッテルニホンジャナイ。」
「ショックのあまり片言になってる!?」
「なんスか・・・ここ、本当に日本っスか。」
「パンフでも見たけど、実物を見るとさらに凄いわね。」
2人はしばし呆然とする。
「でも、楽しそうっすね。」
「・・・そうね。」
綾が微笑むと賢治は照れくさそうにいう。
「それでその・・・綾。」
「何?」
「お・・・俺と、手をつないでくれないっスか?」
「え////」
賢治の急な申し出に綾は顔を赤くする。
「そ・・・そうね、初めての場所ではぐれちゃ駄目だもんね。」
「いや、そうじゃなくて・・・えっと。」
賢治は決心したように真剣な目で言う。
「俺が、綾と手を繋ぎたいからとかじゃ、ダメッスか?」
「/////」
綾は顔を真っ赤にして首を横に振る。
「ううん、駄目じゃない////」
そう言って綾右手を差し出す。
「よ・・・よろしく・・・お願いします。」
綾がそう言うと賢治は綾の手を恋人つなぎの形で握る。
「//////」
「//////」
二人共、顔を真っ赤にしている。
賢治は深呼吸をすると。
綾に微笑んで言う。
「綾、行くっすよ。」
「・・・うん。」
綾も賢治に優しく微笑んだ。
#####
「いやぁ、ゴンドラ楽しかったっスねぇ。」
「そうね、甘味処も美味しかったし。」
「メニューの名前凄かったっスけどね。」
「でもホントにウサギだらけね、この街。」
「滅茶苦茶モフモフだったっスね。」
「たしかに可愛かったわね。」
「綾、次どこ行きたいっスか?」
「うーん、そうね。」
綾はパンフレットを見てしばらく悩む。
「せっかくだし、パンフレットに載ってないような地元の人しか知らないところに行ってみたいわね。」
「ああ!いいっスねそれ!
早速人に聞いてみるッス。」
賢治が聞き込みをしようとしていると。
「いやあああああ!」
どこからか悲鳴が聞こえてきた。
「な・・・なんスか?」
綾と賢治が辺りを見渡すと。
「こっち来ないでええええええ!」
一人の少女がなにかから逃げていた。
「何かに追いかけられてるみたいだけど・・・アレって・・・」
「・・・ウサギッスね」
ウサギに追いかけられている少女は悲鳴を上げながら裏路地に逃げ込む。
「ねぇ賢治、助けた方がいいんじゃない?」
「そうっスね。」
2人は少女を追って裏路地に行く。
と、そこではちょこんと座るウサギと、
「そ、それ以上近づいたら、舌噛み切って死んでやるから!」
そのウサギの前で物騒なことを叫んでいる金髪の少女がいた。
賢治はウサギを持ち上げる。
「コラ、女の子怖がらせたらダメっスよ。」
そう言って賢治は、路地裏の外にウサギを逃がした。
綾が少女に駆け寄る
「大丈夫?」
「は・・・はい。」
少女は立ち上がると、ペコッと頭を下げる。
「た、助けていただいてありがとうございました。」
「別にいいっスよ。
あ、そうだ、俺達観光客なんスけど、ここら辺で地元の人しか知らない所ってあるっスか?」
賢治が聞くと、少女は言う。
「それなら━━。」
#####
「ここっすね、ラビットハウス。」
「外観はいい雰囲気ね。」
「とりあえず入ってみるッス。」
賢治と綾は、扉を開き店の中に入った。
「貴様ぁ!私の背後に立つな!」
「ヒィィィ!ごめんなさいリゼちゃん!」
目の前でツインテールの少女が、オレンジの髪の少女に銃を突きつけていた。
「あ。」
リゼと呼ばれた少女がこちらに気づいた。
「し・・・失礼しました。」
「待ってください!誤解です!誤解ですから!」
リゼは必死に賢治たちを引き止めた。
#####
「いやぁ、ビックリしたっスよ。
平和な街の闇の部分を見たかと思ったっス。」
綾とともに席についた賢治は目の前で顔を赤くしているリゼに言う。
「これは護身用だ。
私は父が軍人で、小さいころから護身術とかいろいろ仕込まれているだけで・・・、
普通の女子高生だから信じろ。」
「普通の女子高生は護身用とはいえ銃は携帯してないわよ。」
リゼはごほんと咳払いをする。
「ご注文はお決まりでしょうか、お客様。」
無理やり誤魔化したリゼに苦笑いをしながら
2人は注文する。
「じゃあ、私、アイスココア。」
「俺もそれで、あとお手洗い借りていいっスか?」
「はい、あちらでございます。」
「すいません綾、ちょっと行って来るっス。」
「ええ、いってらつしゃい。」
賢治がトイレに行ったのを見送ると、ため息を吐く。
「どうしたの?」
声をかけられそちらを向くと先ほど銃を突きつけられていた少女が心配そうに見つめていた。
「おいココア、お前急に・・・。」
「だってリゼちゃん、この子何か悩んでるみたいだし。」
「・・・たしかにな、歳も近いようだし私達でよければ相談に乗るぞ?」
「・・・ありがとう。」
親切な2人に綾は話し出す。
「今日一緒に来ている彼、
最近までただの友達だったんだけど、
ついこの間告白されて・・・。
それで信頼できるから付き合いだしたんですけど、
彼のことを好きなのかどうかよく分からなくて。
このままで付き合ってて本当にいいのかなぁ・・・って」
言い終えてリゼの方を見ると、顔を赤くしていた。
「ど・・・どうしたの?」
「すまない、余りにも乙女な悩みだったからつい・・・ココアはどう思う?」
ココアは少し考えて言う。
「うーん、私はこのままでいいと思うけどなぁ。」
「好きでもないのに付き合うって、お試しで付き合ってるみたいじゃない?」
「なんで?信頼してるから付き合ったんでしょ?」
「・・・うん」
「信頼して付き合ったって事は。
これからこの人の事を好きになれるって思ったからでしょ?
そうじゃなければ告白された時断ってるはずだよね。」
「そ・・・それでもあっちは私のことが好きだから告白してくれたのに・・・」
「恋人同士なる前でも後でも、」
ココアはニッコリと笑って言う。
「人を好きになるって、それだけで素敵だと、私は思うな。」
言い切ったココアに綾は何も返せなかった。
「ココア、お前すごいな。」
「え?なにが?」
ココアはキョトンとして首をかしげる。
「そっか・・・そうよね。」
綾がそうつぶやくと同時に、賢治が戻ってきた。
「お待たせッス、ん?なんか話してたっスか?」
「ううん、なんでもない。」
「あ!そうだ!アイスココア!」
「あ、ちょっと待って!」
仕事に戻ろうとするココアを綾は慌てて呼び止める。
「えっと・・・ありがとね。」
ココアは綾に笑顔で返事を返す。
「どういたしまして!」
#####
ラビットハウスを出た賢治と綾は、
土産屋でお土産を買い、公園で休んでいた。
賢治が膝の上でウサギをマッサージしている。
「ここをマッサージしてやると喜ぶんっスよ。」
「フフフ、ほんとに気持ちよさそう。」
綾は夕焼け空を見上げる。
「楽しかったけどそろそろ帰らないとね。」
「あ、帰る前に綾に渡したい物があるんスよ。」
「え?何?」
「えっと、とりあえず腕を出して目を閉じてもらってもいいっスか?」
綾は言われたとおりにする。
「もういいっすよ。」
綾が目を開けると、
「賢治・・・これ。」
綾の腕にはうさぎの刺繍が入ったブレスレットがつけられていた。
「さっきの土産屋で買ったんっすよ。
綾に似合うと思って。」
賢治がそう言うと綾は自分の胸を押さえる。
(あぁ、まただ、またドキドキしてる。)
告白されてからいままで、賢治と一緒にいて感じてきた感情。
それは自分がよく知るものだと、今の綾は確信を持っていた。
「ケン・・・ううん、賢治。
私ね。」
綾は賢治に笑顔を向けると、
「貴方のこと、好きよ。」
そう言った。
「ど・・・どうしたんすか綾、そんな急に////」
「フフッ、ちょっと言いたくなっただけ。」
「そ・・・そうすか。
・・・綾。」
賢治は、意を決したように綾の目を見つめる。
綾も覚悟を決めて目を閉じる。
そして少しすると、獣臭く、柔らかい感触━━
(獣臭い?)
綾が目を開くと、目の前で賢治が顔を赤くしてウサギを持ち上げていた。
「賢治・・・」
「・・・ごめんなさいっス。」
「私が覚悟決めたのにどうしてそこでヘタレるのよ!」
「いざやるとなったら無理だったんスよ!」
綾は思い出していた。
賢治も自分と同じく、いや、それ以上のヘタレである事を。
それと同時に、陽子のアドバイスも思い出していた。
(時には・・・大胆に!)
綾は顔を赤くすると、賢治の胸ぐらをつかんで引き寄せると、
「ちょっ!?綾!?むぐっ!」
賢治に口づけをした。
というわけで今回は
『ご注文はうさぎですか?』とのクロスでした!
こういうクロス回をこれからもちょいちょい出来ればいいと思ってます。
出来れば余り誰も知らないマニアックな作品とのクロスとか出来ればいいなぁと思っています。
あと、クロスする作品名はタグに追加しません。
サプライズ方式で楽しんで欲しいので。