きんいろモザイク~こいいろモザイク~   作:鉄夜

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第9話それぞれの夏休み(カレン・零士編)

とあるマンション、零士の部屋。

 

零士は、ベッドの上で寝転がり、漫画を読んでいた。

 

ピンポーン。

 

「はーい。」

 

インターホンがなり、零士が扉を開くと、

一人の少女がいた。

 

つばのついた帽子を眼深にかぶり、サングラスをかけ、口にはマスクを着用している。

 

そして何よりも特徴的だったのは、見覚えよある長く、美しい金色の髪であった。

 

「ヘイダーリン!遊びに来まシター!」

 

目の前の少女は、間違いなく、九条カレンであった。

 

零士は、反射的にカレンの腕を掴んで部屋の中に引きずりこんだ。

 

そして扉の鍵を締めると叫ぶ。

 

「何やってんだお前!!」

 

「遊びにきまシタ!」

 

「それは分かったよ!

いやまだ認めたくない現実だけど!

どうしてお前が俺の家知ってんだよ!」

 

「マサトさんに聞いたら教えてくれました。」

 

カレンがそう言うと、零士はスマホで雅人に電話をかける。

 

『はいもしもし、桐谷です。』

 

「雅人、お前殺すぞ。」

 

『いきなりご挨拶だね零士。

何かあったの?』

 

「何かあったの?じゃねぇよ!

てめぇ何勝手に俺の家の住所教えてんだよ!

しかも一番教えちゃまずい相手に。」

 

『あー、カレン無事に着いたんだね。

よかったよかった。』

 

「よかねぇよ!何勝手なことしてくれてんだゴラァ!」

 

『いやぁ、「みんなが知ってるのに私だけ知らないのは不公平デス!」って言われちゃってさ、教えないわけには行かないでしょ。』

 

「建前はいい、本音を言え。」

 

『面白いからに決まってるじゃん。』

 

「ぶっ殺す!」

 

『あ、ごめん、俺今からすちゃんとデート中だから。

じゃあね。』

 

「あ、おい待て!」

 

電話はそこで切られた。

 

「あの野郎・・・。」

 

「ねぇねぇダーリン!」

 

「なんだ、九条。」

 

カレンは頬を膨らませる。

 

「また名前で呼んでくれませんでシタ。」

 

「当たり前だろ、お前は生徒で俺は教師なんだから。」

 

「それならヨーコ達だって生徒デスよ?」

 

「だから学校では苗字で呼んでるだろ。」

 

「でもここは学校じゃないデスよね?」

 

「うっ・・・。」

 

カレンはニコニコと笑いながら零士を見ている。

 

「なんだ・・・カレン。」

 

「そうデス!それでいいんデス!

それでダーリン、実はこんなものがあるんデス!」

 

カレンはポケットからチケットを二枚取り出した。

 

「なんだそれ。」

 

「遊園地の無料入場券デス!

ダーリンのところに行くって言ったらマムがくれまシタ!」

 

「なんでお前の母親俺とお前のことそんなに応援してんの!?

普通は止めるところだろ!。」

 

「親の了解がある以上!

もし学校の関係者に見つかってもいくらでも言い訳は聞きます!

だがら問題ありません!」

 

「なんでそんな所だけ流暢な日本語になるんだよ!」

 

「エレンとヨーコ、それとアヤとケンはデートに行ったらしいデス!

私たちも行きまショウよ!ダーリン!」

 

「そいつらは付き合ってんだから当たり前だろうが!

ていうかダーリンっていうな!」

 

「・・・ダーリン。」

 

カレンは涙目上目遣いで零士を見て言った。

 

「ダメですか?」

 

#####

 

(どうして・・・どうして俺は。)

 

レールを登っていくジェットコースターの上で零士は自分に問うていた。

 

隣では楽しそうな笑顔を浮かべるカレンがいる。

 

(どうして俺は、生徒と遊園地にいるんだろう・・・)

 

そう思った瞬間、ジェットコースターが坂道を急降下する。

 

「いやっほおおおおお!」

 

「・・・」

 

楽しそうに声を上げるカレンの横で、零士は終始無表情だった。

 

#####

 

「ジェットコースター最高でしたね!ダーリン!」

 

「・・・ああ。」

 

「次は何に乗りまショウか!」

 

「・・・ああ。」

 

「さっきからどうしたんでデスか?

何だかとっても暗いデスよ?」

 

「いや、ごめん、今自己嫌悪中だから。」

 

「来ちゃったものは仕方ないんデスから、

一緒に楽しみましょうよ。」

 

零士はため息を吐く。

 

(確かにカレンの言う通りだ、なんで俺がこんなに落ち込まなけりゃあいけないんだ。

もとはと言えばこれは全部・・・。)

 

零士が顔を上げると、カレンの後ろに見覚えのある顔を見つけた。

 

こちらと目が合って固まっているその男は、正しく今回の元凶、雅人であった。

隣には、一緒に来ていたのか、さくらもいる。

 

「まぁぁぁぁさぁぁぁぁとぉぉぉぉ!」

 

零士は雅人に向かって全力で駆け出した。

 

雅人も零士から逃げようと駆け出すが、

タックルで押し倒され無理やり立たされたと思えば、足を掴まれドラゴンスクリューで地面に叩きつけられる。

 

その後、倒れている雅人に零士は4の字固めをキメた。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!!

雅人、折れる!折れるって!!」

 

「むしろ折れろこの野郎!」

 

その様子をさくらは微笑みながら見ていた。

 

「フフフ、男の子はいくつになっても元気ですねぇ。」

 

「烏丸先生もデートデスか?」

 

「私達も・・・ってことはカレンさん達もですか?」

 

「はい!ダーリンとデート中デス。」

 

「あらあら、それは良かったですね、カレンさん。」

 

「はい!」

 

「カラスちゃん!和んでないでたすけてええええ!」

 

雅人の悲鳴が遊園地に響いていた。

 

#####

 

零士は雅人と2人で観覧車に乗っていた。

 

「なんで野郎と観覧車乗らなきゃいけないのよ。

そんなにカレンと一緒に乗るのいや?」

 

「うるせぇ。」

 

雅人は零士の態度にため息を吐く。

 

「何を怖がる必要があるの?

アチラさんの両親はOK出してるんでしょ?」

 

「親がなんて言っても世間が許さねぇだろうが。

それに・・・まだハッキリしねぇんだよ。」

 

「そんなふうに言うってことは、気になってはいるんだね。」

 

「・・・」

 

「あっはっは。

いいねぇ、女っ気なかった奴が悩んでる姿っていうのは。

まぁ、あそこまで真っ直ぐ来られたら揺らいでも仕方ないか。」

 

「お前、まだ殴られたりねぇか?」

 

「ごめんごめん・・・でも、いつかは決めなきゃいけないよ?

教師としてじゃない、零士として、決断しないと。」

 

「・・・決断・・・か。」

 

「実は、もう決まってたりする?」

 

その問に、零士は答えることは無かった。

 

#####

 

「迷惑じゃないか・・・ですか?」

 

「・・・ハイ。」

 

さくらは、観覧車のゴンドラの中で、カレンから相談を受けていた。

 

「私は、ダーリン・・・レイジさんが大好きデス。

だからいつもストレートにアプローチをかけてマス。

私は、こんな方法しか知らないし・・・出来ないから。

でも・・・それがレイジさんの迷惑になってるんじゃないかって。」

 

「・・・カレンさん、少し昔話をしましょうか。」

 

さくらはカレンに優しく語りかける。

 

「私には、好きな人がいます。

その人のことは高校の頃から好きです。

でも、なかなか勇気が出なくて、素直に想いを口に出来ませんでした。

そのまま・・・気がついたらたくさん時間が経ってしまいました。」

 

さくらはカレンの手を握る。

 

「カレンさん、気持ちを正直に伝えるのは悪い事じゃありません。

むしろ、伝えられるだけ伝えればいいんです。

少しくらい迷惑でも、

想いを形に出来るのは素晴らしいことですよ。」

 

「烏丸先生・・・ありがとうございマス。」

 

さくらはカレンに優しく微笑んだ。

 

「ところで、先生が好きな人ってマサトさんデスか?」

 

「フフ、そうですね。

そして自惚れていなければ、雅人さんが私の事をどう思っているかも知っていますよ。

あちらは・・・私の気持ちには気づいていないようですけど。

お互いに言い出せずにここまで来ちゃいました。」

 

「先生、私たちより青春してマスね。」

 

そう言ったカレンに、さくらは微笑む。

 

「カレンさん、楽しめればいつだって青春ですよ。」

 

#####

 

零士はカレンを家まで送っていた。

 

「遊園地、楽しかったデスね、ダーリン!」

 

「・・・そうだな。」

 

目の前を楽しそうに歩くカレンを見ながら、零士考えていた。

 

(決断・・・か。)

 

零士は足を止めると、カレンを呼び止める。

 

「カレン。」

 

「なんデスか?」

 

零士は、深呼吸をすると、カレンに近寄る。

 

「カレン、お前が俺に特別な感情を抱いてるのは充分分かった。

それは男として嬉しいと思う。

でも、俺は教師でお前は生徒だ、付き合うことは出来ない。」

 

何時だったか、保健室で言われた事と同じようなセリフに、カレンは俯く。

 

今ここでそれを自分に言ったということは・・・きっとそういう事なのだろう。

それなら今回こそ、キッパリ諦めよう、そう思った。

 

「だから・・・。」

 

零士はもう一度深呼吸をする。

 

「もしお前の気持ちが、学校を卒業した時も変わってなけりゃあ、

その時はお前の気持ちに答えたいと思ってる。」

 

「・・・え?」

 

まさかの言葉に、カレンは顔を上げる。

 

「それってどういう」

 

カレンが言葉を言い終える前に、零士はカレンの額に口付けをする。

 

「・・・」

 

「今はそれで勘弁な?」

 

零士は固まってしまったカレンの横を通り過ぎる。

 

「はっ!ちょ・・・ちょっと待ってくだサイ!

流石にそれはズルイデスよ!

ちょっと!ダーリン!」

 

「ズルイもなんもねぇ、

今言ったことがすべてだ。」

 

「あれだけじゃ分かりませんよ!

もっと具体的に気持ちを言ってくだサイ!」

 

「言えるかそんなもん、卒業するまで我慢しろ。」

 

「じゃあせめて!せめてもう1回だけ!

次はほっぺに!」

 

「駄目だ、卒業までおあずけ。」

 

「そ・・・そんなセッショウなー!」

 

零士は顔を赤くしながらも、とても満足気だった。


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