【子蜘蛛シリーズ1】play house family   作:餡子郎
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No.ex-001/奇術師とおるすばん(2)



「──あれ?」

 おかしいな、と、ヒソカはホームの中をきょろきょろと見回した。
 ちょっとした用事があってクロロに電話をかけたら、なんと彼の子供だという幼児が電話に出た。なんとしてでもタイマンしたいとヒソカが望んでいるクロロの子供、と思うと興味が湧き、ヒソカは電話を切ったあとすぐにホームに向かったのだった。偶然だがわりと近場にいたこともあり、小一時間で到着することが出来た。

 が、しかし。

「シロノ、いないのかい?」
 一応声をかけてみるが、ホームの中はシンと静まり返っている。気配を探ってみても、誰もいない。
「おかしいなァ」
 お化け屋敷と呼ばれるこのホームとはいえ、まさか怪談でもあるまいし、とヒソカは携帯を取り出し、クロロの番号にダイヤルした。すると奥の部屋から、ドロドロデロデロと不吉な電子音が聞こえる。ヒソカは自分の着信をこんな音楽に設定されていることなど気にもかけず、鳴り続けるその音に向かって歩き出した。
「……確かに子供はいるみたいだね♦」
 音を辿って辿り着いたそこは、ソファとテレビとローテーブルだけが置かれているだけの部屋だった。誰の部屋というわけではないが、いつも誰かが寛いでいる場所。ローテーブルの上に放り出してあるリモコンをなんとなく手に取って電源をつけると、教育番組のチャンネルだった。幼児向けのカートゥーン・アニメが流れ出す。
 そしてソファの上でデロデロと鳴り続けるクロロの携帯の横には、食べかけのチョコロボ君が放置してある。しかも周りを見渡すと、剥き出しのコンクリートの壁に、あきらかに子供のものと見られる絵があっちこっちに描きなぐってあった。額に十字が書かれた人間らしきものの横に「パパ」と書いてあるのを発見し、ヒソカも思わず吹き出しかける。

 ──その、瞬間。

「ぎゃっ」
 ヒソカが勢い良く振り返ったことで、ヒソカのすぐ背後まで近付いていた影が、驚いたのか小さく声を上げて飛び退った。
 構えをとってじりじりと距離を保ちつつヒソカをじっと見遣っている子供は、警戒する猫よろしく身体中の毛を逆立てている。髪も肌も真っ白で、そして目さえも薄いグレーという小さな子供は、本当に白い子猫に似ていた。
 そしてヒソカは、この距離まで、……いや実際には子供の手が届くような至近距離まで寄って来られても気付かなかった、という事実に本心から驚愕し、

 ────満面の笑みを浮かべた。

 禍々しさ極まるオーラが一気に充満するのに加え、顔の全てのパーツを細く吊り上げるような彼独特の笑みに、シロノは思わず垂直に少し飛び上がるほどビクッと身体を跳ね上がらせた。

「……君が、シロノ?」

 尋ねるが、凄まじいヒソカのオーラに半ば硬直した子供は、目をまん丸く見開き、彼を凝視したまま動かない。それを見たヒソカは何とかオーラを幾分か抑えると、ひょいとしゃがんで前屈みになり、腕を組んだ。
「シロノでしょ?」
 小さな相手と目線をあわせるためにしゃがんだヒソカは、携帯を操作しながら言った。すると、ソファの上の携帯が再度デロデロと鳴り出す。するとシロノは僅かだけ緊張を緩め、僅かに首を傾げた。……構えは解かないままだが。

「四番の、ひそかさん」
「そうだよ♣」
 ヒソカが頷くと、シロノは構えを解いて手を下に下ろした。
「シロノだよね?」
「うん、シロノだよ。あのね、ヒソカさんかなあって思ったから、“絶”でね、見てたの」
「そうかい。君凄いねえ、もう念が使えるのかい? それにかなりの“絶”だ、全然気付かなかったよ♥」
 ヒソカは何故か酷く嬉しそうに、そして満足そうにうんうんと頷いた。
「“絶”は得意だよ、能力はないけど……」
「その歳なら、能力は無理だろうねえ。でもさすがクロロの娘だなあ、髪の色とか正反対だけど、顔はちょっと似てるかな……?」
「え、んっと」
 似ていると言われ、シロノは首を傾げた。
「似てないと思うよ。だって、えっと、パパはね、あたしを産んだパパじゃないからね」
「……うん、産んでたら本気でビックリだけどね……」
子供ならではのぶっ飛んだ発言にさすがのヒソカも少し驚いたらしく、言葉に妙な間があった。だが、つまり本当の父親ではないということか、と尋ねれば、シロノは「うん」と頷いた。

「そう。まあどっちにしろ親子揃って美味しそうですごくイイ…… あ、逃げないで逃げないで♠」
 “危ないと思ったら直ぐさま全速力で逃げろ”というマチの教えを忠実に守ろうとしたシロノであったが、ヒソカの長い腕が伸びてきて、しっかりそれは阻まれた。
「えっと……ヒソカさんは、パパに、ご……ご用事ですか?」
「そうだったんだけどね、別に大した用事じゃないから……。クロロは仕事だよね?」
「うん。あたし、おるすばん」
「じゃあ、帰って来るまで僕も待ってていいかな?」
 ヒソカは、ニコニコしながら首を傾げた。
「ヒソカさんもおるすばんするの? ……するですか?」
「うん、ダメ?」
「ううん。いいよ、あ、いいですよ」
「ありがとう♥ ……ああそれと、敬語も“さん”もいらないよ」
「そう? じゃヒーちゃん」
 ヒソカの細い目が見開かれ、そしてたっぷり二秒の間の後、彼はクックッと笑い出した。
「そんな風に呼ばれたのは、生まれて初めてだねえ」
「いや?」
 首を傾げるシロノに、ヒソカはひどく楽しそうに言った。

「とんでもない♥」



 
++++++++++++++++++++++++++++




「どういうこと」

 帰ってきたマチは、ドアを開けるなり、かなり据わった目でドスのきいた声で言った。

「おかえり、マチ姉!」
「ただいまシロノ」
「おかえり、マチ♥」
「死ねヒソカ」
「ひどいなァ♠」
 ヒソカはクックッと笑いながら、その表情にあわない台詞を返した。
「ちょっと、なんでアンタがここにいるのさ」
「僕だって蜘蛛だよ。団員がホームにいちゃおかしいかい?」
「どう呼んだって滅多に来ないくせに……。それと、聞きたくもないけど」

 ──なんで亀甲縛り?

 マチが、心底嫌そうな声で言う。
 ヒソカはロープで亀甲縛りを施され、ソファの上でイモ虫のように転がっていた。

「シロノと遊んでたんだよ。ねぇシロノ」
「うん。あのねマチ姉、フェイ兄に教えてもらった縛りかたでね」
「……そう」
「子供と遊ぶなんて初めての経験だけど、なかなか楽しいよ」
「アンタちょっと黙れ」
 亀甲縛りを施されてにやにや笑っているヒソカをまるで汚物を見るような目で見下ろしつつ、マチは吐き捨てる。しかしヒソカはその視線に更に笑みを深くしただけで、マチは心の底からうんざりした。

「ただいまー、いや久々にドジっちゃっ──……うわ、なにこのキモい光景」
 部屋に入ってきたシャルナークは、ソファの上で恍惚の表情を浮かべている亀甲縛りのヒソカというかなり見たくない物体に、あからさまに顔を顰めた。あとに続いてきたクロロは嫌悪感のある表情は浮かべなかったが、これ以上何も感じられないような表情は無いだろうな、というくらいの無表情になっている。

「おかえり! シャル兄、ケガだいじょうぶ? 痛い?」
「んー、マチが完璧に縫ってくれたからね。一週間も静かにしとけば平気だよ」
「そしてなぜお前がここに居る、ヒソカ」
 団長モードのクロロは、静かにそう尋ねた。

「君に電話したらシロノが出てね。一人で留守番してるっていうから来たんだよ。いくら念が使えても、こんな小さい子一人じゃ危ないだろ? 変質者も多いしさあ」
「あんたが言うかい、それを」
 きっぱりと言ったのは、やはりマチだった。
「ひどいなあ、見ての通り、身体を張って遊んで留守番をつとめたっていうのに」
「言う割には楽しそうだがな」
「まあね。……でも本当、親子揃って美味しそうだよね君たち……♥」
 身動きの取れないまま、しかし例の満面の笑みでねっとりとしたオーラを増幅させつつ、ヒソカはフフフフフフ、と身体を震わせて笑った。クロロは相変わらず無表情だが、その脚が僅かに後ずさったのをシャルナークは見た。

「ヒーちゃん、パパ帰ってきたから縄ほどこうか?」
「そうだねえ、名残惜しいけど」
 ありえない呼び名に皆が驚愕している間にシロノはヒソカの縄をほどき、そしてその縄をおもちゃ箱にしまおうとする。しかしマチが「焼却処分しろ」と言ってそれを窓の外に捨ててしまった。シロノはお気に入りのオモチャを捨てるはめになって不満そうだったが、ちゃんと新しいのをやるから、と言われて仕方なくその通りにした。

「おなかすいたー」
「あれ、ちらし寿司食べてないの」
「ヒーちゃんと遊んでて、忘れてた。今から食べる」
「手を洗ってきな。……汚いもん触ったんだから、念入りにね」
「はーい」
シロノはマチの言いつけに特に疑問も抱かずとことこと洗面所に行き、部屋からいなくなった。ヒソカは笑みを浮かべながら、小さな後ろ姿を見送っている。

「子蜘蛛か。……いいね♥」
「げ、シロノにも目ェつけたの? マジで何でもいけるんだな」
 シャルナークが口元を曲げると、ヒソカは相変わらず楽しそうに笑った。
「いやァ、さすがに今のシロノは青い果実どころか実ったばかりぐらいの感じだからねえ……。でも育ててるのが一流なんだから、美味しくなる確率は限りなく高いだろ?」
 ヒソカは笑みを深くしながら、クロロを見遣る。

 ヒソカは、クロロと闘ってみたいがために前の4番を殺し、団員になった。それは誰もが知っていることで、そしてその動機の為、蜘蛛としての活動に協力的でないことが反感を買っている理由にもなっていた。
「君となかなかタイマンできないのがすごくもどかしいって思ってたけど……。でも、シロノがもっと美味しそうになってから親子丼っていうのもなかなか素敵かもねフフフフフフ」
 鳥肌を立てたマチが苦虫を噛み潰しまくった挙げ句にそれを吐き戻しそうな顔をしているが、ヒソカはひたすら楽しそうだ。

 ねっとりとしたヒソカのオーラが、部屋に充満する。
 その時、手を洗い終わったらしいシロノが戻ってきて、きょとんとした顔で言った。

「親子丼じゃないよヒーちゃん、ちらし寿司だよ」

 ラップを剥がしながら言った子供に、ヒソカを除く全員が脱力したのだった。







お読みいただきありがとうございました。

ちょっと成長し、ハンター試験原作沿いの第二部『Deadly dinner』もよろしければどうぞ。
https://novel.syosetu.org/87173/






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