君のために   作:E G

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プロローグ

白い貝殻の中に珊瑚が飾られ、周りを御霊火に包まれる貝殻の中心に二人の夫婦が安らかな顔をして眠っていた。

 

海の村。汐鹿生で一組の夫婦の葬儀が行われている。

 

「さざめく光り、あらゆる命を紡ぐ海よ」

 

守り神たる鱗の言葉と早すぎる死を惜しむ泣き声が会場を包む中、貝殻に一番近いところで一人の少年が何かを手に握りしめながら佇んでいた。

 

「拓海」

 

「何ですか?」

 

赤茶色な髪に少年にしては高い身長、整った容姿。

拓海と呼ばれた男の子は必死に笑顔を作り、泣き笑いのような顔で声をかけられた方に振り向いた。

 

声をかけた汐鹿生の宮司を務める先島灯はその姿に我慢が出来なくなったのだろう、少し間を置き話しかけた。

 

「お前さえよければ家に来い」

 

「いや、でも」

 

「子供が遠慮するな。一人増えたところで変わらん」

 

親が死に汐鹿生に身内は居らずこれからどうするという時に声をかけてくれて嬉しかったのだろう。拓海は溢れる涙を手でおさえ、顔を隠すように下を向いた。

 

涙を拭き顔を上げた拓海はどこかさっきとは違うように見える。

 

何かを決意したそんな顔だった。

 

「誠叔父さんのとこに行きます」

 

「待て、あいつは今地上にいる。なら家に来た方が」

 

「いえ、これは家の問題ですから。光のお父さんありがとう」

 

灯の言葉を拓海は遮るようにお礼を言った。

 

親が亡くなり村の厚意で葬式まで開いて貰ってこれ以上迷惑をかける事は出来ないと11歳の少年は本気で思っていたし、周りが何と言おうと拓海は誠の事を好いていた。

 

これから一緒住むかは誠次第だが、拓海には叔父は断らないという確信がある。

 

拓海の決意に折れた灯は小さく頷き、鱗のとなりへと戻って行った。

 

鱗の言葉が終わり参列者が帰るのも気づかない程に拓海は手の中にあるロケットを握りしめ両親を見ていた。

 

そんな少年を心配そうに見る影が四つある。男の子が二人に女の子が二人の少年少女。

 

「拓海…」

 

「光、今はそっとしておこう」

 

「拓海が一番辛いと思うしまなかも、ね?」

 

「う、うん」

 

握りしめたロケットを首に下げた所で拓海は先程から声が聞こえる方へと足を向ける。

 

「何やってんだ、お前ら」

 

「「あっ!」」

 

ため息混じりに拓海が聞くと話し合っていた四人は話に夢中で気付かなかったのか、声が重なった。

 

「拓海!お前…」

 

「あーそういう重い感じのパスな。大丈夫だから」

 

「で、でも!」

 

「だから大丈夫だっての。心配すんな」

 

一人拓海に声をかけた少年、先島光は焦りながらも拓海に声をかけた。

いくら大丈夫と言われても今の拓海の顔は酷い有様だ。

 

そんな顔を見て小さい時から一緒に過ごし育ってきた四人が心配しないわけがない。

 

「拓海はこれからどうするの?」

 

「誠叔父さんのとこに行くと思う」

 

先島光の片割れの少年伊佐木要の質問に拓海は当たり前かのように答えた。

 

それしか道がないわけではないが、まだ身内がいるのに頼らないわけにはいかない。

 

「えっ?たっくんの叔父さんって、確か今地上、だよね?」

 

「まなか、たっくんはやめろって言ってるだろ。まぁ、まなかの言うとうり誠叔父さんは地上で暮らしてるよ」

 

奥村誠。海村出身の人。

地上の女性と恋に落ち一緒になるために数年前に海村を出た奥村拓海の父の弟であり奥村拓海の叔父である。

 

「うぅ、ごめん。って事はたっくん地上にいっちゃうの?!」

 

「おい!拓海!それ本当か!」

 

「光そんなに大声出すな。まぁしょうがねーよ、身内が叔父さんしかもういないし」

 

「で、でも親父が家で暮らせばいいって!」

 

「こんな大きな式もやってもらったんだ。これ以上は迷惑はかけられないし、かけたくない」

 

拓海の言葉に誰も口を開かなかった。

 

沈黙が支配している中一人の女の子が一歩拓海に近づく。

 

「拓海」

 

「ちさき」

 

「本当に行っちゃうの?」

 

「あぁ、叔父さんのとこに行くって決めたからな」

 

そっかと一つ呟きちさきは俯いた。

目から溢れる涙が止まらない。やっと気持ちが通じ合ってこれからという時に拓海の両親の死に、引っ越し。

 

両親が他界した事が理由とはいえ、地上で暮らすという事は掟を破る事になる。つまりは離れ離れという事だ。

 

「それでも、いつかきっと会える」

 

「ほんと?」

 

「本当だ。俺が嘘ついた事あるか?」

 

拓海の言葉にちさきは何も言えなかった。

奥村拓海という人は嘘をつかない、いやつけない人なのが分かっているからだ。

 

それでも今まで当たり前のように一緒に過ごしてきた存在が遠いところに行ってしまうのは小学校も出てない少女には辛いものがある。ましてやそれが自分の想い人となれば相当なものだろう。

 

だが、それ以上に比良平ちさきという少女は奥村拓海という少年を信用していた。

 

「分かった、待ってる」

 

「おう、待ってろ」

 

別れを惜しむカップルにしては短い言葉であったが二人の顔はまた会える事を確信している顔だった。

 

その後様々な話をした。今すぐと言うわけではないが残された時間は少ないと言える。

その間はずっと遊ぶ事やたくさんの思い出を作ろうと約束をした。

 

だがその次の日には拓海は居らず地上に行ったと聞かされる事になるのは数時間後の事である。

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

鷲大師の山の麓にどこか年季を感じさせる屋敷の庭に一人の少年がいた。

 

「思ったよりいいとこ住んでるな」

 

庭は綺麗に手入れされ、車が一台停まっている。玄関へと続く道を歩くと玄関が見えた。

 

玄関の前には180cm位のメガネをかけた優男が立っていた。近づくにつれだんだんその姿は明らかになりその後ろに誰かがいる。

 

「久しぶりだね、拓海君」

 

「誠叔父さんも。あの、前も言ったと思うんだけど」

 

「全然大丈夫だよ。無駄に広いし、空き部屋がある」

 

「うん、ありがとう」

 

拓海はお礼を言うと頭を下げた。二人の話が終わる頃を見計らって一人の女性と子供が誠の横に立った。

 

「初めまして、誠さんの奥さんの奥村明美です。自分の家だと思って過ごしてね」

 

「初めまして、奥村拓海です。今回は本当にありがとうございます」

 

「いいのよ、全然。男の子が欲しかったしね」

 

明美はそう言うとウインク一つ送り、背に隠れている娘を前に出した。

 

「ほら恵、挨拶して」

 

「奥村恵、よろしく」

 

恵はムスッとした顔で挨拶すると、また背に戻った。

自分以外をかまう親が気にくわないのだろうそんな姿を拓海は微笑み一つ浮かべ挨拶を返した。

 

「今日からよろしくお願いします」

 

 

 

この物語は海と陸の二つで生きる人々達の中の一人である奥村拓海の物語である。

 





友達が凪のあすからを見たと聞いて、そういうのあったなーと思ってたら書いてました。

読んでいただきありがとうございます。
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