結構飛びます。
太陽が顔を出し始めた早朝の海岸沿い、奥村拓海は日課であるランニングを終え帰宅するところであった。
「今日で三年か」
居候をさせてもらっている叔父の家に住み始めて三年。地上の生活に慣れない事は多かったが、叔父である誠や誠の家族のサポートもあり、今ではすっかり慣れていた。
家に着き、拓海は真っ直ぐ浴室へと向かう。汗の染み込んだランニングウェアを脱ぎシャワーを浴びる。
シャワーを浴び制服に着替えたところで拓海はリビングに向かった。
「おはよう拓海」
リビングには細長いテーブルにテレビとシンプルだがどこか落ち着いた雰囲気がある。
「おはよう叔父さん、恵は?」
「もう直ぐ来ると思うんだけど」
誠が返事をしたと同時に目をこすりながら恵はリビングに入り、拓海の横に座った。
テレビを見ながら朝食を待つ事五分。明美がそれぞれのご飯をテーブルに置いたところで、奥村家は朝食をとった。
「拓海君、今日始業式?」
「はい、午前中で終わると思います」
白米に味噌汁に焼き魚。とてもシンプルな献立だが明美の料理は美味しいのだろう、拓海と誠はもう米のお代わりをしている。
「なら、作り置きしておくからね」
「はい、ありがとうございます」
「今日美海とさゆと遊ぶから」
拓海と明美の会話に未だ寝ぼけている顔で朝食をとっている恵は言った。
三年前に比べると、身長も伸び短かかった髪は背中にかかるほどに伸びている。年齢が年齢のため可愛いという表現しか出来ないが将来が楽しみな容姿だ。
明美と恵が会話をしている間に拓海は洗面台に食器を持って行き、洗面台にむかった。
歯を磨き愛用のジェルで髪をかき上げアップバング気味に髪を整えたところで自室に戻り鞄を取りに行く。
「お兄ー、もう紡さんきてるよ」
初めて会った頃には警戒されていたが今では兄と慕われるまでに拓海は恵との距離を縮めていた。
声をかけては無視をされ、好きなものを聞きプレゼントを送っても無視されめげずに続ける事一年。恵は拓海に返事を返すようになった。
それからは早かった。何かあるとついてくるようになり、風呂に入る仲ににまでなった。こんな喜びがあるなら最初の一年なんぞ屁でもない。この男シスコンである。
閑話休題
「おう、行ってきます」
靴を履き玄関を開け外に出る。庭に置いてあるベンチに、先ほど紡と呼ばれた少年はいた。
「おはよう拓海」
「おはよう紡。少し遅れた」
「そんなに待ってない、行こう」
拓海が地上に上がり生活を始めた時に一番困ったのは友達である。海村にいた時は物心つく前から友達はいたし、何より海からという事だけでイジメの対象には充分である。
そんな転入初日に声をかけてくれ、地上で初めてできた友達が木原紡だ。互いの家が近い二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。
「そういえば今日、多分海村の子だと思うけど網にかかった」
「は?」
紡の家は紡と祖父の二人暮らし。両親の詳しい事は拓海は聞いてはいないが、漁をして生活をしてそれを紡が手伝っている事は知っていた。
「何か網を上げたら、同い年くらいの制服着た目のまん丸い子がかかってた」
「よく分からんけどそれ、多分友達だ」
いきなりの事で少し面食らった拓海ではあったが、誰が網に引っ掛かったのか分かっていた。
よくドジをし、みんなの後ろを付いてくるばっかだったあの子だと。
自分が行く予定だった波路中が廃校になり美浜中と統合されるのは聞いていたし、同い年くらいで目がまん丸といえば完全にまなかだ。
最初統合されると聞いた時はみんなに会えると嬉しいと思ったがそれ以上に拓海には罪悪感があった。
両親が死んだ事を地上の叔父に伝え次の日に葬儀を行ってもらった次の日。拓海は四人との約束を破った前科がある。
ズルズルいくと別れが辛くなるとありきたりな理由ではあったが、拓海の当時の精神状態ではとても耐えれるものではなかった。
そんな事を思いつつ、紡と会話をしながら歩く事十五分。門を超え下駄箱で上履きに履き替えた拓海と紡は、クラスメイトに挨拶をしながら教室に向かう。
教室に着いた拓海は自分の席を確認したのち席に向かう。教卓からみて一番右の列の一番後ろ。その前の席に紡という席順だ。
「席近いな」
「そうだな」
ありきたりな返事をしながら担任教師が来るのを待つ。暫くすると担任教師と四人の男女が入り、黒板に名前を書いていく。
「波路中学が廃校になってねぇ、うちの美浜中学と統合される事は言ったと思うんだけど、みんな仲良くできるよねぇ?」
黒板の前に立つ四人は拓海を探し、そして見つけ食い入るように見た。
対する拓海はというと、気まずさからか最初は顔を窓の方に向けチラ見を繰り返すという普段の彼からは想像出来ない行動をしていたが、一人一人自己紹介をしていくうちに前を向いた。
「じゃあ、後ろの席が空いてるからそこに座ってくれるかなぁ」
促された四人は光のおバカなハプニングがあったが、各列の空いている一番後ろの席に着いた。
右から拓海、ちさき、光、まなか、要の順番だ。
「た、拓海」
「分かってる、後でみんなで話そう」
ちさきは頷き前を向いた。
地上に行くとは聞いていたとはいえ次の日はいなくなって、言いたい事がたくさんあるのだ。
光の姉である先島あかりから、たまに見かけると聞くだけで全く音沙汰なしなのだ。ちさきだけではなく担任の話など関係ないと言わんばかりに他の三人も拓海を見ていた。
始業式も無事に終わり、帰りの会が終わったところで拓海は紡に一言をいれ四人のところへと向かっていた。
「言いたい事があるのは分かってるから、とりあえず外で話そう」
廊下を出たところで四人が逃がさないとばかりに立っていた。特に一人は笑顔だというのに目が笑っていない。拓海は声が震えるそうになるのを抑えながら、歩き出した。
門を超え、近くにある公園に向かう五人は誰も声を発さなかった。
拓海が二、三歩先を歩きその後ろを四人がついて歩く事十分。五人は公園に到着した。
「本当にすいませんでした」
公園に着きバッグをベンチに置いた、拓海がとった最初の行動は土下座である。
これにはされた四人が驚いた。自分達のまとめ役で誰よりも大人びて見えた彼がとる行動がまさか土下座とは誰も予想だにしなかった。
「た、拓海!流石に土下座なんて」
「いいんだ光。あの時はまだ俺がガキだった」
「わ、分かったから頭上げろって!」
「そ、そうだよ!たっくんそこまでしないでいいよ!」
光とまなかが必死に頭を下げるのを止め、拓海はそこでやっと頭を上げた。
「はいはい。そんな事より久しぶり、でしょ?」
「うん、久しぶり拓海」
「久しぶりだね、たっくん!」
「だな!久しぶり拓海!」
この四人とこうして話すのはもう三年ぶりになるのか、拓海は内心つぶやいた。
いつも一緒にいた幼馴染み。この四人といる空間がひどく懐かしく、とても居心地がいい。
「でも、俺はお前らに」
「もう気にしてねぇっての、そりゃ最初は怒れたけどよ、あん時のお前が一番つらいのは分かってたし、一言ほしかったけど今こうして一緒にいるんだ。だからもう気にすんな!」
「ひー君の言うとうりだよ!だからもうこの話終わりね!」
光とまなかの言葉に拓海は張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、やっと笑顔になった。
「あー僕今日お母さんにお使い頼まれてたんだった、光とまなかもでしょ?」
「は?……あー、そうだったわ、わりぃな、今日あかりのとこ行くんだった。な!まなか!」
「へ?…あ!そ、そうだった!お使いがあるんだった!ご、ごめんねたっくん」
とてもベタな言い訳かつ、無理やりな感じもあるが三年ぶりのカップルの再会を邪魔するほど三人は野暮ではなかった。
「貸し一、だね」
「その性格は相変わらずだな」
「そりゃ僕だからね、また明日ね」
要、光、まなかと別れの挨拶をし公園には拓海と二人だけになっていた。
「ベンチ座るか」
拓海の言葉にちさきは頷き、ベンチに腰掛ける拓海の横に少し間をおいて座った。
いくら久しぶりに会えて嬉しいとはいえ何を喋ればいいかわからない。あれから三年もたちちょうど思春期に入る年頃の女だ、ちさきは今までにない位に緊張していた。
拓海と別れてからもちさきは拓海の事を思ってきたし、いつか会えると自分に言い聞かせながらも頑張ってきた。そんな彼女は何とも健気とも言えるし、重いとも言える。
「綺麗になった」
暫くの沈黙の後拓海は言った。
「本当に綺麗になった」
拓海が最後に会ったのはまだ11という幼さが抜けない子供の時だ、だか今は三年が経った。そんなちさきを拓海は純粋に綺麗になったと思った。
「そ、そのありがと。拓海も、か、カッコよくなったよ」
「ありがとう、ちさき」
「ふ、普通に返さないでよ!照れてる私がバカみたいじゃない」
こう恥ずかしい言葉を普通に言ったりするのがズルいのだ。ちさきは思わず顔を両手で隠し、照れ隠しなのか拓海の肩をたたいた。
「そんなに怒るなよ、ほら、おいで」
「ず、ずるいよ。いつもそうやって誤魔化すんだから」
「でも嫌いじゃない、だろ?」
ちさきを抱き寄せ拓海は微笑んだ。少し恥ずかしさがあるものの、久しぶりに会えた事が何より嬉しく落ち着く。
だが、昔と今じゃ少し体を当てるのではだいぶ意味が違ってくる。同年代より発育がいい胸。少しムッチリとした肉感に、女特有の甘い香り。
理性を総動員した拓海は、少し名残惜しいが寄せていた手を戻した。
「今更なんだけど、その、拓海は他に好きな人できちゃった?」
「さぁ、どっちだと思う?」
「ま、真面目に答えて!」
ちさきは前のめりになりながら拓海の肩を押さえた。ここで違うと言われるとは思わないが、それでも不安になるものだ。
「今まで結構な人数に告られたなぁ、何でか分からんがやたらモテた」
背は高く、勉強もスポーツもできて顔も十分イケメンの部類に入る。それに加え落ち着いた雰囲気がどこか大人びて見えるのだ。モテないほうがおかしい。
「でも、ちさきの足下にも及ばない」
続ける。
「本当は照れ屋で、暴力女のちさきの足下にも及ばない」
さらに続ける。
「綺麗な海色の瞳は他のみんなと違って、とても澄んでいて綺麗だ」
さらにさらに続ける。
「好きな人に一途で、それでも周りの事を考えちゃう、そんなちさきが俺は大好きだ」
微笑み一つちさきに送るとちさきは、恥ずかしさと嬉しさのあまり背を向け、淑女がしてはいけないだらしない顔をしていた。
そんなところも可愛いと思う拓海である。
「あのね、その、私も拓海の事が」
「うん」
「ずっと好き、だよ」
言った途端ちさきは再度抱きしめられていた。先ほどの優しく包むような抱擁とは違い、少し痛く激しい、そんなハグ。
自分も手を背に回して抱きしめた。今まで失った時を取り戻すようなそんなハグをかわした。
「明日またいなくなる、何てこともうないよね」
「あぁ」
「本当?」
「本当だ」
「分かった」
お互いに回した手を戻した二人は、色々な事を話し合った。地上の生活の事や海村の事。気づけば時間を忘れ話しこんでいた。
「近くまで送るよ」
公園を出た二人は手を繋ぎながら、海岸沿いを歩きちさきが潜るポイントまでついた。
「また明日ね」
「あぁ、また明日」
別れの挨拶をし再度軽くハグをしたちさきは潜っていった。
ちさきが行ったのを確認した拓海は家へと向かった。そんなに遠くなく庭についたところで、飛び出してくる影が一つ。
「あ、お兄おかえり!」
「ただいま、恵」
「お兄遅いから先に食べちゃったけど、机にお兄の分あるからね。ってか何でそんなニヤついてるの?」
遊びに行くのだろうか、拓海は恵と鉢合わせた。拓海が恵に対して過保護のように恵も相当なブラコンな毛がある。今も拓海に会えて嬉しいのか抱きついている。
「うーん、内緒」
「えー、いじわるー」
「ほらほら、早く遊びに行っておいで。はやめにかえってくるんだぞ?」
分かったーと言いながら恵は元気よく走っていった。
鍵を開け玄関に入り靴をぬいだ拓海はリビングに着き頭を抱えた。
「ニヤけるとか、キモイって思われたらどうしよう」
どうしようもなくシスコンである。
書いてみると普段自分が読んでる作者さん達の凄さがよく分かりました。それにあんなに面白い何てマジ尊敬です。