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「昨日はまなかがお世話になりました。一つだけ言っとく、拓海と仲良いのか知らねぇけど、地上の奴らが海の村に関わるな」
授業間の長放課、拓海の席の周りには光、紡、まなかがいた。
「そしたら俺はどうなるんだ?」
「拓海はいいんだよ!」
「ま、まってよひーくん!」
光は紡に関わるなと告げると不機嫌に教室を出て行く。それを後から追いかける形でまなかも出て行った。
(はぁ…全く)
光が地上の人達を敵視しているのは分かっているし、基本的に汐鹿生の大人達は地上の事をよく思っていない。それは地上も然りだが、拓海は三年前に地上に上がり生活をしている。
両親が他界し自分を引き取り受け入れてくれた叔父の家族には感謝しているし、最初は自分も持っていた地上への偏見もなくなっている。
それに元の元をたどれば自分が今こうして生活出来ているのは地上のおかげともいえる拓海からすると少し複雑な気持ちになる。
なにより地上に上がり初めて出来た友達の紡と光達海村出身の幼馴染と仲良くしてほしいのだ。
(しかもまなか絡み、か)
先島光は向井戸まなかを好ましく思っている。それは自分達幼馴染は分かっているし、もしかしたら紡も分かっているかもしれない。
とにもかくにも態度に出やすいのだ。それに加え負けず嫌いな性格に自分に真っ直ぐな光は照れると顔に出るし、気にくわない事があると不機嫌になり口調が荒くなる。何かと対抗心を燃やし、自分の意思を通す。
そんな光がまなかの事になるとさらに酷い。強引な行動やつい言ってしまう言葉。それはもう癖の域にはいっているのだ。
(今回は何時もより面倒くさいな)
光は物心つく頃には一緒にいたし、何よりずっと一緒にいた幼馴染であり大切な親友。
紡は地上に上がり初めて出来た友達で、家も近くこの三年間一緒にいた親友とも言えるまでに仲良くなった大切な友達。
光のまなか絡みの厄介ごとは小さい時からなかったわけではないが、今回は相手が悪い。どちらかを味方する事はできないし、今回の厄介ごとは経験してきた今までより面倒くさい気がしていた。
「紡、気にするな。悪いやつじゃないんだ」
「うん、大丈夫だ」
拓海は紡に一言いれ席を立った。何より拓海は慣れているとはいえ、目の敵にされている紡からするとたまったものではない。だが今は紡の精神年齢の高さに感謝した。
「お、いたいた。まなか何時もの悪い癖が出ただけだ気にするなよ」
「く、癖?でも紡君は」
「あー、分かったから。とりあえずちさき後は頼むな、俺は光んとこ行くから」
「うん、分かった。光の方お願いね」
拓海が全体を見つつちさきと要がそれを助ける形で光とまなかの間を持つ。海村にいた時は少し面倒くさいと思っていた事が、今はどこか嬉しい。
それは昔みたいにみんなが
「お、要じゃん。光見たか?」
「ううん、見てないけどなんかあったの?」
「何時ものやつだよ」
要と合流した拓海は光を探しながら歩き、ふと窓に目を向けたところで光を見つけた。
まだ赤いランドセルを背負った子供がなぜか一緒にいるが、見覚えのある後ろ姿を見つけた拓海の行動は迅速だった。
「こら恵、学校はどうした?」
「仲間連れてくるなんて卑怯者ー!」
「お、お、お兄!?あの、その、これは違くて」
外に続くドアを開け光達がいるところまでにかかったタイム約三秒。小学生の頭を押さえる光という状況にも関わらず拓海は恵の前に移動していた。
「問答無用。家に着いたら説教だ」
「お、おい拓海。何もそこまで怒んなくても」
「あ?」
「すいませんでした!」
拓海が怒った時にでるなぜかとてつもないオーラにやられ小学生三人組は震え、光は過去に拓海を怒らせた時の事を思い出し遠い目をしていた。
「叔父さん達には内緒にするから、次からはダメだぞ?」
「う、うん。ごめんなさい」
「おう、今日は久しぶりに一緒にお風呂に入ろう」
肩を震わせ今にも泣きそうな妹的存在を、拓海はすぐにアフターケアにはいる。
お風呂と聞いた恵は目を輝かせ拓海に抱きついた。伊達に三年も過ごしていない、恵への対処は完璧である。
「ダメじゃん光、小さい子いじめちゃ。大丈夫?」
遅れてやってきた要は光に突っかかっていた女の子に近づくとまるで妹にするような手つきで頭に手を置いた。
「うぅ…。磯臭い手で触んなぁ!」
「あぁ、ごめん」
要は空気を読むのが上手い。常に一歩引いた所から周りを見て行動ができる。だがそれは遠慮とも言えるし、拓海はいつか聞いた
するともう一人の女の子が光に近づき、
「いってぇー!」
光の脛を蹴った。小学生の女の子とはいえ脛を蹴られるのは大分痛い。
「さゆ、めぐみ」
「ザマァみたらし団子ー!」
「お兄ー!また後でね!」
「な、なんだぁ?」
光の脛を蹴るや小学生三人組は、走り去っていった。正直何がどうなっているのかは分からないが、今はそんな事より優先する事がある。
「そんな事より光お前、紡には今はいいけどまなかには謝っとけよ」
「な、なんで俺が!」
「いい加減学習しろ。分かってんだろ?」
光は自分が悪い事は分かってはいるが、なかなか自分から謝れない。それは思春期という年頃もあるがただ単に意地を張っているだけなのだ。
(てか、さっさと告れよ)
そんな事を思いながら光と要に続き、拓海は教室へと戻って行った。
♦︎
「はい、今日の授業はこれでおしまいねぇ。あ、そうだ、こん中でおじょし様作ってみたい人っている?」
「おじょし様って?」
「お船引にのせる人形の事?」
「そうそう、元々のお船引は生贄の女性を船に乗せて、海の神様に捧げたのが始りだけど。いまは本物の女性の代わりに、おじょし様と呼ばれる木彫りの人形を乗せてやるんだ」
クラスの生徒が質問をする中、担任の教師は続けた。
「今年はお船引やらないんだよねぇ。そこで、ウチのクラスで有志みたいなのをやりたいんだけど、誰かいるぅ?」
中学二年生の時期にそんな時間を潰してまでやりたいと思う方が珍しい。教師が騒がしい中、二つの手が挙がった。
「はい、拓海と紡ね」
拓海が手を挙げ紡があげる。それを見たまなかとちさきが続き光に要と続いた。
若干光が不機嫌な感じではあったが有志のメンバーは決まった。
「とりあえず木を取りに行こう」
帰りの会も終わったおじょし様有志のメンバーは、拓海の提案した木を取り行く事に決めた。
木工室からノコギリを持ち、靴に履き替え焼却炉から伸びる階段を登るとそれぞれの作業にはいる。
拓海と紡に光が木を切り他が木を集めるといった振り分けだ。
「地上の奴の仕事だろ、何で俺が」
「なら帰ればいいだろ」
「何で俺にそんな厳しいんだよ!」
こうして光をいじるのはいつ振りだろうか、拓海は思わず頬が緩んだ。三年前は当たり前の様にこうして光をいじっては遊んでいたが今はとても懐かしく、またこうして戻れたことがとても嬉しい。
「どうしておじょし様作りやろうって?」
汐鹿生の四人に拓海がやるのは分かるが、地上にずっと住んでいる紡がおじょし様作りをするのは少し意外に思えた要は紡に尋ねた。
「うちは漁師だから、海のおかげで生きてるから。ちゃんとお船引しないと」
「ま、そういう事だからみんなも紡と仲良くしてくれ。特に光な」
「だから、何で俺にそんな厳しいんだよ!」
「え?理由言ってほしいの?」
「だぁー!やめろ!」
まるで拓海は光の秘密をバラすかの様に言った。光は慌てて拓海を抑えにかかるが、身長差と長年の経験により昼に小学生の女の子にしていたように光は頭を押さえつけられていた。
「そろそろ時間だぁ、海っ子達はもう帰りなぁ」
「はーい!」
楽しい時間ほど早く過ぎるものだ。気づけば空はオレンジ色にそまっていた。教師の言葉に返事を返した光達四人はカバンをとった。
「じゃあ拓海お先、じゃあな!」
「拓海と紡君もまた明日ね」
「たっ君と紡君また明日って、ちーちゃんは?」
光を先頭にかなめとまなかが続こうとしたところで、まなかは振り返った。いつも一緒に帰るちーちゃんことちさきがいないのだ。
「今日から一緒に帰る事にしたんだ。光達には悪いけど」
「いいって気にすんなよ!お熱いね〜二人は」
「ほぉー、いい度胸だな光」
「ひ、ひかり!」
光はさっきのお返しとばかりに茶化そうとするも拓海が肩を鳴らし始めたところで一目散に走った。まなかが追いつけるか心配なスピードで。
こういう茶化しには慣れている拓海は紡や教師がいるからか少し顔が赤いが、隣でトマトの様に赤くしているちさきのおかげが目立っていなかった。
「レアな拓海発見だね」
「本当にお前いい性格してるな」
「そりゃ僕だからね」
否、バッチリ見られていた。それも拓海が一番知られたくない相手に。
「先生俺とちさきは先に帰ります。紡先上がるけどいいか?」
「気をつけてなぁ、あんまり遅くなるんじゃないぞぉ」
「あぁ大丈夫。また明日」
「おう、さよなら」
「先生と紡君さよなら!」
紡や一人を残すのは少し悪い気がするが拓海はちさきと帰る事にした。
カバンを持ち階段を降り、門を超え暫く歩き公園のベンチに腰を下ろす。
昨日と同じ場所だが、どこか落ち着くこの場所が拓海は気に入っていた。
「そういえば今日の光のあれ、なんだったんだ?」
「どこから話したらいいのか分かんないんだけど、まなかが紡君の事気になってるとか好きだと光は思ってるみたい。それで多分どこか対抗心燃やしちゃって。今日のまなか見てそんな感じはしなかったんだけど、よく紡君の方見てるし…」
「言われてみればそうかもな。よく紡の方をボーッと見てるとこ見たし」
「はたから見たら光がまなかの事好きなんて分かるのにまなかは気づかないし、光はもっと男らしく告白すればいいのに」
「男らしくって、みんなの関係が壊れるーとか言ってたのに告ってきたちさきが言うと俺が男らしくないってなっちゃうんだけど」
「そ、そんな事ないよ!拓海はみんなをまとめてくれるし何時も引っ張ってリードしてくれるしって、何笑ってんのよ!」
自分の好きな人と帰り談笑する。こんな時間が来るとは思ってもいなかった。
もう自分達は再会できたのだ、そう思っていた二人は次の日過酷な現実を聞く事になる。