要を悪く表現しているところがありますが、別にそういうわけではないのでご了承ください。
少し短いです
授業も終わり、誰もいなくなった教室に拓海は要といた。
話があるからと言われ、要と向かい合うように座る事10分経つが未だ要は喋らない。話があると言われた時はとうとうきたか、と気を引き締めていた拓海は要が口を開くのを待った。
さらに待つこと10分。計20分。閉じられていた瞼を開いた要は、喋りだした。
「拓海はさ、ちさきの事好きなんだよね?」
「当たり前だろ、いきなりどうした」
実はさ、と要は昨日の事を話し出した。
拓海がちさきと公園で逢瀬を楽しんでいる頃、光とまなかの三人で要は海岸沿いを歩いていた。地上へ上がってから日はあまり経っていないが、四人だった帰り道は三人になっている。
(今頃二人で、はぁ)
行きは四人。帰りは三人。ちさき一人いなくなるだけで楽しみが減る、気が落ちるとは思ってもみなかった。
それに加え、今は拓海と二人で帰っている。そんな関係に嫉妬してしまう自分がとても醜く、親友を応援できない自分がとても嫌いだ。
(チャンスはあったんだけどなぁ)
拓海が地上に上がり、ちさきを一番励ましたのはちさき、たくみを抜いた三人。その中でも一番傍にいたのは要だった。
彼氏が家庭の事情で引っ越し、再開できるかも分からない。そんなちさきを励まし続けた要に打算がなかったわけじゃない。
ちさきを手放した拓海が悪いと思ったし、自分なら光のお父さんの提案に乗り海村に残る選択をした。いないのが悪いとばかりに要は積極的にちさきを誘った。
でも、二人で話す時も遊ぶ時もちさきの笑顔には曇りがあった。自分じゃダメなのかと、つい感情的になりちさきに迫ってしまった時もあった。
自分らしくない、そんな事はわかっている。だが、ちさきが拓海に告白するシーンが頭から離れない消えない。あの日から自分は拓海に宣戦布告をし、傍観者としての自分を止めた。
だけど、拓海がいなくなってもちさきの男は拓海しかいない。それが励まし支えるうちに分かってしまっていた。
案の定、地上に上がってみると思った通りにちさきは拓海の事が好きだった。それは拓海も一緒で二人はまた付き合い出してしまった。
(諦めついたはずなのになぁ)
要は諦めた、諦めがついていた。拓海がいなくても、拓海を想うちさきを諦め、応援する事に決めていた。
でも、それでも拓海とちさきを見ると嫉妬してしまう。ちさきの隣に立つ自分を想像してしまう。素直に二人を応援できない。
「いたっ」
一人考えている要は、何かにぶつかりそこで思考を切った。
よく見るとそれは見慣れた背中であり、光だった。その斜め前にまなかがいる。
なぜ立ち止まっているのか、二人の視線をたどるとそこには光の姉である先島あかりがいた。
(あれ、あかりさん?……あ。)
要があかりだと確認すると同時にあかりは、キスをし海へ潜っていった。
その光景に光、まなかはトマトのように顔を赤く染め慌てていた。思春期に加え免疫がない二人には少々刺激が強いのだ。
「地上の男なんて上手くいかねえよ。どうせまた戻ってくるだろ」
「それは無理でしょ」
「無理?何で?」
「無理だよ、あかりさん、いいお母さんになりそうだもん」
二人のこういうところを羨ましいと思う。無知というか子供らしいところを。
「うん、そうだね」
ちさきと拓海の事もあるため要は口から出かかっていた言葉を戻し、いつもの笑顔で答えた。
「話ってそういう事か」
「僕の言いたいこと、分かるよね?」
要はどこか強気な口調で拓海に促し、拓海は右手の甲に顎を乗せ、思案している。
要がこうも強気に出るのには理由がある。地上と海村の恋は上手くいかない、幸せになれない。
幸せの定義は人それぞれだが、海村、汐鹿生には地上へと出て行ったら追放という掟がある。更に今は海村自体の過疎化が進みこの掟は堅く守られているし、追放された海村出身の人は家族とは疎遠になってしまう。
(卑怯かもしれない、惨めかもしれない…それでも僕は)
それでも、愛する人と一緒ならばという人はいるかもしれない。だが、それは奥村拓海に当てはまらないということが要は分かっていた。
自分の両親を早くに亡くしている拓海が、ちさきの家族の事を考えずに地上でちさきと暮らす。そんな事は月が地球に落ちるよりも有り得ない。
全て計算の上で要はこの事を拓海に話した。拓海は小さい時から一緒にいる幼馴染、親友だ。それでもちさきの事だけは諦めきれなかった。
「お前の言いたい事はよく分かった」
拓海は要の葛藤など知らんとばかりに口を開いた。
「お前が何を考えて俺にあかりさんの事を教えてくれたか分かった。正直もう一回会えて浮かれてたよ、教えてくれた事はありがとう」
それなら、と身を乗り出した要を拓海は落ち着けと言わんばかりに右手で肩を押さえながら話し出した。
「それでも今のお前じゃちさきは無理だぞ」
「そ、そんなこと」
「よく考えてみろ、仮に今俺達が将来の事を考えて別れるとする。中校大と学生生活が続く中ちさきなら残された時間を過ごしたいったいうはずだ。将来的な事を考えれば今ちさきと友達に戻るのが正解なのかもしれない、それでも俺は一緒に過ごせる時間があるなら迷わずにちさきといるし、ちさきもそうするはずだ」
「そんなの、結局ちさきがまた悲しむだけじゃないか!僕はずっと泣いてるちさきを見てきたんだ、拓海がまたちさきを泣かせるなら僕は拓海を許さない」
「なら要は俺とちさきが別れてまたちさきを泣かした方がいいって言うのか?違うだろ?一回落ち着け、今のお前は少しおかしい。お前の気持ちも分かるけど冷静になれ、要らしくない」
そこまで言われて要はやっと落ち着きを取り戻した。先程までの剣幕はなくなりいつもの優しい雰囲気を取り戻したが、何かそれはいつもと違っている。
どこか焦ったような、自分を恥じているようなそんな雰囲気が今の要にある。
「最後に、俺は何があってもちさきを手放さないぞ」
鞄を持ち教室から出て行く拓海を要は見送る事しかできず、右手に握られた機器を強く握りしめた。
♦︎
すっかり陽も落ち暗くなったいつもの帰り道を拓海は歩いていた。
周りに街灯しか灯りがなくなった海岸沿い歩きながら拓海は要の話していた掟について考えていた。
地上の人と付き合うと海村を追放される。それを承知で地上の人と付き合い追放された人もいるが、それを拓海はよく思っていなかった。
自分が両親を亡くした事も関係あるが、家族は大事だ。生きていく中で仕事やお金も大事だがそれでも拓海は家族が大事だと思う。
それでもちさきと将来的に離れ離れになる事など考えられない、考えたくなかった。それほどまでに拓海はちさきを想っていた。
(俺は追放されたわけじゃない、家族の理由でしょうがなく地上にきた。俺が鱗様や光の父さんに頼んで海村に戻って生活をする事ができれば…いや、やめよう)
追放される事は分かっていたが、拓海は掟を詳しくは知らない。
それでも自分は元々海村出身で、自分が海村に戻れればと考えた拓海はそこで思考を切った。
掟は掟でありいくら理由があるとはいえそれを破る事は出来ない。それに自分を引き取ってくれた叔父達に申し訳ない。
詰まる所八方塞がりだった。
(でも、ちさきが隣にいない未来は想像できない)
もうちさきを離したくない、拓海にはそんな独占欲が出てきていた。
一度離れちさきが自分の事を想って悲しむ姿は想像に難しくなかった。それは拓海も同じで、両親の葬式から強くなろうと決め弱みを誰にも見せない代わりに人知れず泣いた事もある。
あの時の喪失感は未だに忘れない。自分は本当は弱い人間だというのは分かっている。攻めは強いが受けに回ると拓海は弱い。
それを無理やり気を保ち、紡や叔父達に支えられ何とか今の自分がある。
そんな状態の今ちさきがまたいなくなってしまったら自分はどうなるか、考えたくもなかった。
かといって掟から逃げるわけにはいかない。いつかは当たる壁に今当たっただけ、と簡単に割り切れる事も出来なかった。
それでも拓海はちさきとの未来を信じた。そこまで甘くないのは分かっているし、掟をどうにかしなければ話にならない。
「それでもちさき、お前のためなら俺は」
小さく呟いた言葉は風に乗り、拓海は一人歩いた。
三年前から傍観者をやめた要さんって最強じゃねって思いました。