君の名を呼ぶ時の僕の気持ちを君は知らない   作:坂下郁@リハビリ中

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鳳翔の手を握りしめ眠っていた榛名も
すぐに目を覚ます。見守っていた鳳翔も
大将も集まり、拓真を待つ。


第20話 二人の手がかり

 『宝生』にはるなさんがいるから迎えに来い、大将(元店長)はそれだけ言って電話を切った。

 

 今大学なんですけど…。

 

 俺は困惑しながらも、とにかく器具の洗浄と乾燥を済ませ、ノートパソコンを閉じると、実験室を後にした。本当は実験結果をまとめてレポートしなきゃだが、後回しだ。とにかく駐車場へと急ぐ。

 

 途中、指導教官の西松教授とすれ違い、呼び止められた。急いでる時に限って…。

 「穴吹、今日の実験結果のレポートだが……何か急いでいるようだが?」

 「教授、明日の朝までには必ずメールで出すので、済みませんが…」

 

 徹夜覚悟で仕上げよう。そもそも俺がこの大学への進学を決めたのは、生化学の国際的権威であるこの教授の元で学びたい、そう思ったからだ。念願かなって指導教官になってもらえたのにいい加減なことはもうできない。はるなさんのことが大切なら、二択ではなく両立、そうしなきゃ。

 

 

 

 そんなこんなで『宝生』に来たわけだが…というかなぜはるなさんがここに? なんだかよく分からん状況だ。

 

 玄関の引き戸に手を掛けると鍵はかかっていない。中には人の気配がする。

 

 「失礼します、穴吹です」

 

 そう言いながら引き戸を開け中に入ると、奥から大将の声がするのでそっちへと向かう。小上りの方か。そこには、大将と女将さん、そしてはるなさんがいた。

 

 「拓真君、座ってください」

 女将の声で、はるなさんが少し場所をずれて俺の場所を空ける。俺もごく自然にそこに座り、はるなさんとアイコンタクトをする。

 

 「あらあら、来た途端に二人の世界ですか。若いって羨ましいですね、ねぇ、あなた?」

 俺とはるなさんは二人して顔を赤くし、大将は話を切り出す。

 

 「…拓真、こないだは理由も良く聞かずに悪かったな。今日はわざわざ呼んだのには理由がある。お前と、そこの()()()お嬢さんの役に立つかもしれない情報があるからだ」

 隣り合って座り、お互いに視線を送り合う大将と女将さん。年の差を感じさせないアツアツっぷりなんだよな、いつも。

 

 

 …………………………………………はい?

 

 

 聞き逃しそうになったが、今確かに『艦娘』って…。そんなことを話したのか、と思わず非難めいた視線をはるなさんに送ってしまった。彼女は少し気まずそうに目を伏せている。

 

 「あー拓真、お嬢さんを責めるな。大将と鳳翔(俺達二人)はちょっと訳ありでな、その辺の事情には詳しいんだ。拓真、学生のお前には荷が重いかも知れないが、人を一人探せ。そいつの協力を得られれば、お嬢さんに色々便宜を図ってやれる可能性がある」

 

 俺は息を飲む。目の前の二人は、ついさっきまで腕の立つ料理人とその奥さんだった。だが突然その背後にある、俺のまったく知らない世界を見せてきた。この人たちは一体…。

 

 「そいつは、艦娘をこの世に送り出した国家プロジェクト『天鳥船(あまのとりふね)』計画で、艦娘の生体機能部門の責任者をしていた。今はどうか分からないが…」

 

 いわゆる軍事機密ってやつか…。確かに、そんな人の協力を得られれば心強い。けど、どう聞いてもハードルの高い人探しだな。一瞬見えたと思った光が遠のいた気分だ。俺は無意識にはるなさんの手を握っていた。

 

 大将がお茶を飲んで一息つき、話を続ける。

 

 「そいつの名前は西松 天周(にしまつ たかのり)…本名かどうかは分からないが。大学教授、医学博士、遺伝子工学博士、分子生物物理学博士、あといくつかあったと思うが、学術系の肩書を名乗ることが多かったな。まぁあれだけの頭脳だ、嘘八百ということはないだろうが、とにかく正体不明だった」

 

 ……うん、ほんの2時間前に会ってた人と同姓同名でほぼ同じ経歴ですね?

 

 怪訝な表情の俺を見て、大将は意味ありげに深々と頷き、熱く語り始める。

 「拓真、気の遠くなるような話だろう。だが、お前がお嬢さんを本気で何とかしたいなら、死ぬ気で探せ。男を見せる時だっ!」

 

 「じゃあ、とりあえず大学で会った時に聞いてみますよ」

 

 俺の答えに大将は引き続きうんうんと頷く。

 「そうだな、大学で会った時にな…………って?」

 

 俺は自分の指導教官について、経歴、容姿や喋り方など、特徴になりそうなことを伝えた。どうやら同一人物の可能性が高そうだ。それにしても世間って広いようで狭いね。

 

 がっくりと肩を落とし、あんなに謎っぽく語ったのに…と落ち込む大将と、唖然とした後でころころと笑い出す女将さん。はるなさんはぽかーんとした顔で俺を見上げている。

 

 一杯やっていけという大将をなんとか振り切り、俺とはるなさんは帰宅した。道すがら、話を聞いて色々驚いた。はるなさんがバイト探しを諦めていなかったこと、駅前で変なヤツに絡まれたこと、女将さんに偶然助けられたこと…。それにしても、西松教授は軍と密接な関係にあるとされる研究者だが、まさか艦娘に関わっていたとは…。

 

 「生体機能部門の責任者と言うことは、その方は、私たちのこの体を作った父親のような存在なんですね…」

 胸に手を当て目を伏せながら、はるなさんがポツリと言う。

 

 その夜、というか明け方近くまでかかり何とかレポートを仕上げた俺はメールでそれを送り、後ろ髪を引かれながらもそのまま学校に行き、教授の部屋へと直行した。

 

 

 

 「それを私に問う穴吹の意図が不明だが、日本神話について研究したいなら専攻を変えるか?」

 

 取り付く島もない、とはこのことだろう。天鳥船のワードを出しても教授は全く動じない。仕方ないので俺は、女将さんが授けてくれた『魔法の言葉』をケータイのメモに入力し、教授にずいっと突き出すように見せる。しかし何の意味があるのかな、この言葉に。

 

 教授の顔色がさっと変わった。おお、何か効果があったようだ。が、必ずしも期待した効果ではなかった。

 

 「引き続き何を言いたいのか意図が不明だが、一般論として、艦娘は一個人の手に負えるものではない。しかるべき立場の人物に移管するのが無難だろうな」

 

 むしろはるなさんを手放せ、と暗に言われてしまった。これ以上は無理か、そう判断し、俺は教授の部屋を出ようとドアへと向かう。その時ケータイにメールが届いた。差出人不明で電話番号だけが記されている。

 

 その気になったら連絡しろ、という教授の言葉を背に、俺は部屋を出た。こんなことをしてる場合じゃない。

 

 

 翌日から俺は学校を休み続けた。はるなさんが再び発熱し、今度は下がらないからだ。

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