インフィニット・ストラトス〜古の英雄〜   作:ボイスターズ

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お久しぶりです。1年以上お待たせしてしまい申し訳ありません。
漸く最新話ができました・・次回の投稿もかなり時間がかかる可能性がありますので、ご了承ください。
今回は悪臭が半端ないあのゾンビ怪獣です。


第53話 怪獣が出てきた日

OP【TAKE ME HIGHER(V6&織斑一夏)】

 

 

早朝、普段は剣道部が使用している道場に、白胴着と紺袴を着た一夏と楯無の姿があった。

先日の亡国企業との戦闘でマドカに重傷を負わせてしまったことで、一夏達は己の未熟さを痛感した。

 

それから全員、更なる強さを得るべく部活や生徒会の合間を縫って、ここ数日間朝と放課後、休日にアリーナやこの道場での特訓を続けている。

 

今回は楯無との特訓のために朝から道場で組手を行おうとしていた。2人にとってこうして道場で向かい合うのは初めて出会って以来なので、懐かしい気持ちもあったーー原作第5巻参照ーー。

 

「それじゃあ一夏君、始めるわよ。どちらかが戦闘不能になったらそこで終了、いいわね?」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

一夏が返事すると同時に彼と楯無の間の床が裏返って畳が現れる。そこに立った2人は互いに構え、睨み合う。

 

「(凄い威圧感だ。初めて会った時とはまるで違う。ちょっとでも気を抜けば、こっちがやられる!)」

 

「(コレを受けてもまるで動じていない・・この様子なら、少し本気で行っても大丈夫かしら?)」

 

一夏が楯無から放たれる威圧感に内心身震いするなか、楯無は自分の力に怯まない彼に感心していた。

 

「ーーはぁ!」

 

「ふっ!」

 

静寂の後、一気に飛び出した一夏は楯無に右ストレートを放つ。

楯無も右ストレートで応える。2つの拳が衝撃波を引き起こさんばかりの勢いで激突した。

 

2人は左腕から右ストレート、右腕から左ストレートの順でぶつかり合い、一夏が再び放った右ストレートで楯無のそれを弾き飛ばした。

 

「はあああああっ!!」

 

「くっ・・フフフ♫」

 

更に左ストレートを放つ。楯無は咄嗟に両腕で防ぐが、後退させられる。一夏が自分の予想以上の一撃を放ったことに不敵な笑みを浮かべて、一気に踏み込む。

 

右の突きを左頬に放ってからの左ストレート、右上段回し蹴りからの左後ろ中段蹴りと、連続で攻め立てる。

 

一夏は右の突きを避けて左ストレートを腕で受けた。その重く速い一撃に腕が痺れる。

次の右上段回し蹴りを屈んで避け、足払いをしようとして、胸に左後ろ中段蹴りを喰らって吹き飛ぶ。

 

「ちぃっ・・!?」

 

背中から叩きつけられ、何度か転がった後に片手と片足を畳に付けて勢いを殺す。

だが、何かに気付いた一夏はすぐに空中に飛んだ。

 

「あらあら、避けられちゃったか」

 

見ると、一夏がいた場所に楯無の追撃の右手の突きが放たれている。だが楯無は避けられたことに特に動揺しておらず、むしろ涼しげな表情だ。

 

「(強い・・これが本気の楯無さんか!)」

 

一方で一夏は空中回転で真上を飛び越えて着地し楯無を見据える間、彼女の突きには相当な威力が篭っていたこと、そしてあと一瞬でも反応が遅れていれば直撃を受けていたであろうその光景が脳裏に浮かび、冷や汗を流していた。

 

そんな彼の心を読んだかのように、楯無は笑みを浮かべた。これを見て、一夏は即座に考え直す。

 

「(いや、違うな。あの様子からして楯無さんはいまだに本気を出していない・・この機会に確かめるか。どこまで届くのか!)」

 

今の自分の実力が何処まで楯無に通用するのか・・それを確かめるべく、一夏は切り札を使う決意をする。

 

「楯無さん、俺はここからは『全力』でいきます」

 

「!」

 

そう言いながら一夏は目を閉じて拳を握りしめ、意識を集中させる。脳裏で種が弾けて彼の瞳からハイライトが消える。潜在能力である《SEED》が覚醒し、先程までとは雰囲気が大きく変わった。鋭い目は殺気を宿し全身からは強烈な圧力を放っている。

 

「俺は今の自分の限界を知りたい。だから、楯無さんも本気で俺と戦ってください」

 

低く冷たい声で楯無に告げる一夏。彼の目を見ただけで楯無は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 

「(《SEED》・・何度か見たことはあるけれど、こうして向かい合うと凄い圧力を感じるわね)望むところよ」

 

《SEED》発動を真剣な表情で見据えた楯無は、静かに構えると同時に自身の威圧感を最大まで引き上げる。お互いから放たれる圧力に汗を流しながら、2人は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「来なさい!」

 

「デァアアアッ!」

 

一夏は嘗て習った篠ノ之流古武術の裏奥義である《零拍子》で畳を蹴って一気に懐に踏み込み、拳と蹴り、手刀の連打を放つ。2人は至近距離でラッシュを放ってぶつかり合い、弾き、避ける。

 

「(くっ、今の俺じゃこれが精一杯か・・!)」

 

《SEED》を使ったことで一夏のスピード、反応速度は通常時よりも大きく増す。しかしそれでも学園最強と呼ばれる楯無を簡単には押し切れない。

 

内心舌打ちする一夏だが、彼の攻撃は弾かれる度により速く重いものへと成長、衝撃で畳に穴を開けていく。少しずつ、確実に楯無のレベルへと近づいていた。

 

「(大したものだわ。本気になった私にここまで食らいつくなんて。あの模擬戦以来私も相当鍛えたつもりだったけど、これほどとはね・・それに今この瞬間にも彼は成長してる!)」

 

あの時ーー第18話参照ーー楯無は箒達1年生の専用機持ちと共同で一夏に挑んだが、碌にダメージを与えられずに敗れてしまった。その後、鍛錬を続けて今のレベルに達したが、それでも一夏は自分と互角に打ち合っている。

想い人の成長は嬉しいが、同時にそれが寂しく感じた。

 

連撃を放つ一夏は楯無の左ストレートを避け、その勢いで彼女を投げ飛ばす。

だが楯無は叩きつけられる瞬間に両手を畳に付けて回転、一夏の拘束から抜け出してカポエラキックを繰り出し転倒させる。

 

「スゥーーッ!」

 

深呼吸をした後に鮮やかなすり足で急接近した楯無は高速で掌打を肘、肩、腹の順に打ち、最後に肺に双掌打を叩き込む。

 

「うぐっ・・!」

 

ドンッ!!という衝撃音と共に次々と放たれたそれは、以前とは違い一撃一撃が重い。一夏は回避できず意識が飛びそうになるのを必死に耐えて、楯無の腹部に渾身の掌打を打ち距離を開ける。

 

「「はぁ・・はぁ・・」」

 

再び構える2人だが、どちらも予想以上の攻防で体力は限界に近づいている。一夏も《SEED》を維持する体力はもう僅かしか残されていなかった。

 

楯無が何気なく壁にある時計を見ると、既に始まって1時間以上が経過していて、畳も2人の拳圧で彼方此方に裏の床を貫通する程の穴が空いてボロボロだ。

 

「次で終わりにしましょうか・・」

 

「・・ですね」

 

一夏は最後の一撃を放つべく数歩後ろへ下がる。楯無は何故後ろに下がったのか不思議に思いつつも、迎撃すべく構える。

 

間合いを空けた一夏はまず両腕を開いて腰を落とした構えをとり、楯無に向けて走り出す。

 

「フッーーー!」

 

そしてタイミングを見計らって空中へ飛んで前方一回転ーー

 

「うぉりゃあああああっ!!!」

 

右足を前に出して強烈な跳び蹴りを放った。それはまるで、某皆の笑顔のために戦った英雄の如く。

 

「(回転を加えた跳び蹴り!?)はぁああああっ!!」

 

驚きつつも対抗するべく楯無も空中へ飛び、左の跳び蹴りを放った。

蹴りは空中で激突して2人は畳の上に背中から落下、その際に一夏の《SEED》は強制解除された。

 

「はぁ・・はぁ・・もうダメ・・・」

 

「・・・疲れた」

 

2人はそれから暫く痛みと疲労で動けず、漸く起き上がったのは手合わせを終えてから約30分後だった。

 

 

 

 

「強くなったわね〜一夏君。初めて組手した時とは桁違いじゃない♫」

 

「楯無さんこそ流石でしたよ?俺が考えていたよりもずっと凄かったです」

 

「へへへ〜そう?」

 

漸く動けるようになったのでスポーツドリンクを飲みながら互いを評価する2人。楯無は一夏に褒められたこともあって頬を赤らめている。

 

「(《SEED》を使っている間、一夏君の戦闘力はどんどん引き上げられていった。まるで限界などないかのように・・でも本人はそれに気付いていない。今のところは何ともないようだけど、あの力は警戒するに越したことはないわね)」

 

しかし内心では一夏の《SEED》に関して思考していた。簪から情報を得ていたとはいえ、実際に彼が持つそれがTVと全く同じものとは限らないのだから。

 

「でも《SEED》を使わないと本気の楯無さんと戦えないのはちょっと悔しいですね・・・」

 

「まあそこは地道に鍛錬を続けるしかないわ。焦って鍛えたところで自分が痛い目をみるもの」

 

怪訝そうな表情を浮かべる一夏だが、楯無の言う通りなので納得するしかなかった。

 

「はぁ〜・・それにしてもどうしようかしらこの畳」

 

「・・・少し、やり過ぎちゃいましたね」

 

途中からお互いに本気で戦った衝撃で畳は穴だらけになっている。後で説教を受けることは確定だが、それを考えるとついため息が出てしまう。

 

「こうなったら腹を括りましょう・・」

 

「はい・・」

 

その後、千冬に事情を説明した2人は修理届けを書いた後にタップリと説教を受けるのだった。

因みに2人が説教を受けている間、剣の鍛錬にやって来た箒ら剣道部員は余りの床の破損状況に唖然とし、修理が終わるまで暫く体育館での練習を余儀なくされたそうな・・。

 

 

 

 

その日の午後、本来なら生徒達が昼休みを終えて5限目の授業を受けている頃、学園や周囲の街は大混乱に陥っていた。

 

「現地から中継でお伝えします!先程、彼方に見えるIS学園の海岸に怪獣の死体らしき物が漂着し、周囲は悪臭で満ちています!」

 

大型ショッピングモール『レゾナンス』の近くにある海岸では、各局のTVキャスターやスタッフがガスマスクを付けて中継を行っている。だがそれでも悪臭を完全には防げないらしく、皆苦しげな表情を浮かべている。

 

「頼む! 俺の子を診てくれ!」

 

「何を言ってんだ! うちの子が先だ!」

 

「私の子を優先しなさい! まだ小学1年なのよ!?」

 

「お願いです、娘を助けて下さい!」

 

一方、都内の病院の入り口には子供を連れた親達が殺到していた。どうやら怪獣の悪臭を吸い込んだことで身体に異常を起こしてしまったようだ。殆どが顔が真っ青になっていたり呼吸が不安定な状態で、親達の中にも顔色が優れない者もいる。

 

「押さないで!落ち着いて下さい!」

 

「順番に対応致しますので、どうか落ち着いて!」

 

看護師達も彼らに落ち着く様に呼びかけるが、状況が状況なだけに収まる様子がない。

 

 

 

 

「「「「「「・・・・」」」」」」

 

学園の海岸では、怪獣を南へ数キロ離れた孤島で爆破処理すべく、GUTSや教員部隊が移送作業の準備を行っていたが、全員機嫌が最悪の域に達していた。というのも昼食を食べ終えていざ授業をと思った矢先にこの非常事態、気を悪くするなという方が無理がある。

 

皆、何故このタイミングでと内心苛立ちを覚えながらも、住民や生徒達の『速やかに処理して欲しい』という要望もあり黙々と、そして素早く準備を進めていく。怪獣の悪臭はISのシールドバリアーが防いでくれてはいるが、それでも死体なんて気持ち悪いことこの上ないのだから。

 

「あ〜・・嫌な感覚・・!!」

 

そんななか、手に持つワイヤーが死体にズブっと食い込む感覚が伝わってきて思わずそう呟いてしまう鈴。ワイヤーを捨てたい衝動を必死に耐えていると、開放通信(オープンチャネル)でラウラが通信を入れて来た。

 

「今は耐えろ鈴。目的地まで運べば後は爆破して終わる!」

 

「そうは言ったってね、島までずっとこのままなのよ!?結構精神削られるわ・・!」

 

ウンザリとした表情の鈴に、理恵も通信を入れてきた。

 

「それは皆同じよ鈴ちゃん。私だって今日ほどISを動かせることを悔やんだことはなかったわ・・・後でみっちり身体を洗わないと・・」

 

「先生、それ私も付き合っていいですか?」

 

「では私も」

 

「私も行きます!」

 

「(・・俺も後で行っとこ)」

 

そんなやりとりをしながらも、引き続き準備を行う一同。しかし彼らは相手が物言わぬ死体だからと、決して動く筈がない死体だからと思っていた故に誰一人気付かなかった・・・怪獣の眉が僅かにピクリと動いたのを。

 

 

 

 

同時刻、亡国企業の幹部11人が会議室に集まっていた。黒いスーツとサングラスを付けた彼女達は全員が専用機持ちで、それぞれに実働部隊を持つ隊長達である。

 

「あら、もう揃ってたのね。ひょっとして遅れたかしら?」

 

全員が声がした方に視線を向けると、胸元を大きく開いた赤いVネックラインドレスを着たスコールが入ってきた。彼女も、モノクローム・アバターという実働部隊(オータムやレイン達が所属する部隊)の隊長だからだ。

 

腰まである長い金髪をなびかせながら尋ねる彼女に、幹部の1人が答えた。

 

「心配は無用よスコール、まだトップの人が来てないから。寧ろ私達が早いのよ」

 

「それは良かったわ」

 

まるで友人同士のような軽いやり取りだが、この場にいるのは全員現役のテロリストであることを忘れてはいけない。

 

「全員揃ったわね?」

 

そこへ最後の1人が入ってきた。彼女が姿を現しただけで、先程までの和やかな雰囲気から一変して刃のように鋭いものへと変わる(以降、彼女はリーダーと呼称)。この女こそ、亡国企業の頂点に立つ存在だ。

 

「先ずはスコール、先日のIS学園への襲撃、よくやってくれたわ。面白い見世物だったわよ」

 

「ありがとうございます」

 

スコールに称賛の言葉を贈ったリーダーは、でもと呟いて続きを話す。

 

「大丈夫なの?部下から聞いたけど、結局あの襲撃でエムの奪還は出来なかったみたいじゃない。彼女は貴女にとって重要な戦力じゃなくて?」

 

「ご心配なく。あの作戦での奪還失敗は、私の想定内でしたので。それに・・・例えあの日連れ戻すことができたとしても、間違いなくあの子は抵抗するでしょう。それならばもう二度と抵抗しないようにすればいい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のです」

 

スコールの言葉の意味が分からず騒めく幹部達。すぐさまリーダーに落ち着くように言われ、静まる。

 

「それ、詳しく説明してもらおうかしら?」

 

「勿論ですわ。これは私1人では不可能なので、ゼットにも手伝ってもらったことなのですがーーー」

 

それからスコールは自身が考えた計画をリーダーと幹部達に話した。それは幹部達を恐怖で身震いさせ、リーダーをご機嫌にさせる恐るべき内容だった。

 

「ではエムは・・」

 

「えぇ、ゼットからは順調に進んでいるとのことです」

 

「ふふふ、とんでもないこと考えたわね貴女。いくらエムをこちらに戻すためとはいえ」

 

「あの子は大切な部下(・・・・・)ですもの。取り戻すためなら手段は選びませんわ」 

 

冷酷な笑みを浮かべながら話すスコールにリーダーは満足げに頷く。

 

「いいわ、エムのことは貴女に任せる」

 

「わかりました」

 

そこでマドカに関する話は終わり、会議は次の話題に移った。

 

 

 

 

学園では全員の準備が終わり、いよいよ島への移送が始まろうとしていた。

 

『全機、上昇開始!』

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

千冬の指示でGUTSと教員部隊の全員がスラスターを起動。それによりワイヤーが怪獣を引っ張り少しずつ上昇していく・・のだが、ワイヤーで引っ張られた拍子に腹が裂け、内臓か食べ物と思われる物が飛び出して地面に落下した。

 

「うぅ・・!」

 

「き、気持ち悪い・・」

 

「ミテナイミテナイワタシハナニモミテナイ・・・!!」

 

「鈴ちゃんしっかり!?」

 

あまりの気持ち悪さに一同は顔を背けたり口を抑えて湧き上がる吐き気に耐える。鈴に至ってはショックで顔が青ざめて身体がブルブルと震え、ブツブツとひたすら呟いている。佳恵が必死に声をかけるが聞こえていないようだ。

 

そうこうしている間に腹以外の箇所が裂けてワイヤーが次々に外れてしまい、やがて怪獣は地上に落下した。

 

「おいおいウソだろ・・?」

 

「はぁ・・・」

 

「勘弁して欲しいですわ・・」

 

また付け直すのかよとうんざりする一夏の横で、シャルロットやセシリアももう嫌だとばかりにため息をつく。

 

『あー・・全員、気持ちは痛いほど分かるが、改めてワイヤーを接続してくれ・・』

 

「「「「「「了解・・・」」」」」」

 

このままでは終わらないので全員渋々とワイヤーを再接続するべく怪獣に近づく。

 

「グォォォォ・・!」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

だが唸り声が聞こえたために咄嗟に全員止まる。そんななか鈴は冷や汗を流しながら問いかける。

 

「ねぇ・・コイツ実は生きていたなんてことはないわよね・・?」

 

「そ、それはないはず・・だって、生命反応ないし・・!」

 

「そうよね!? 死体が生きてるわけn「グォオオオオッ!」うそぉん・・」

 

鈴が簪に怪獣には生命反応がないと言われ無理矢理納得しようとした直後、雄叫びと共に怪獣が起き上がり絶句する。

名付けるなら、《ゾンビ怪獣シーリザー》といったところか。

 

『移送作業中止!全員直ちに攻撃しろ!街への侵攻を防ぐんだ!』

 

千冬の声で我に返った一同はそれぞれの武装を展開してシーリザーに挑む。

 

「死体が動くなんて、一体どうして・・!?」

 

「考えるのは後!とにかく応戦するわよ!」

 

「っ! はい!」

 

佳恵がそう言ってアサルトライフルを頭部に、簪も続いて山嵐を背中に撃つが、シーリザーはまるで効いていないようだ。

 

「「はぁああああっ!」」

 

一夏とシャルロットは瞬時加速を発動、雪片弐型・真打とラケルタビームサーベルで首を斬り裂くが、やはりダメージを与えられない。それどころか斬られた部分が再生して傷が塞がったのだ。

 

「なに!?」

 

「なんなのだコイツは!? 何故死体なのに身体が再生する!?」

 

「もう気味が悪い!!」

 

「全くだ!」

 

「同感ですわ!」

 

箒と鈴、ラウラにセシリアや他の教員達も続いてビームライフルやレールカノン、スターライトにマシンガンを連射。命中した箇所から火花が散るが、シーリザーは気にも留めずに海をザブザブと歩いて街へと進んでいく。

 

「おい! 怪獣がこっちに来るぞ!?」

 

「嘘!? 死んでたんじゃないの!?」

 

「全員今すぐ避難しろ!急げっ!!」

 

一方、海岸で中継を行なっていたTVキャスター達もシーリザーに気付いて慌てて避難する。

 

「このまま進めば、街に被害が出るわ!なんとしても抑えないと・・!」

 

シーリザーの正面に回り込んだ楯無は、ミステリアス・クィーンから大量のナノマシンを放出し、シーリザーの周りを霧で包み込んでいく。

突然視界が真っ白になったため、シーリザーは辺りを見回して首を傾げる。ハイパーセンサーでその様子を見てニヤリとしつつ、楯無は指を構える。

 

「コレを食らいなさい!」

 

フィンガースナップが合図となってナノマシンが一斉に爆発を起こした。楯無の得意技であるクリア・パッションだ。

 

「グォオオオオッ!」

 

爆炎に包まれて鬱陶しそうに雄叫びを上げるシーリザーに、楯無は追い討ちをかける。

拡張領域から水色の砲塔を取り出して腹部に装着する。

 

「デキサスビーム砲、発射っ!!」

 

ロックオンの表示が出ると同時に楯無は金色のビームを発射。これがデキサスビーム砲だ。

直撃を受け、シーリザーは海岸に倒れる。

 

「お姉ちゃん、やったの!?」

 

「・・ううん、まだよ」

 

通信してきた簪に楯無が静かに答えると同時に、唸り声が周囲に響く。確かにデキサスビーム砲は直撃したが、シーリザーはそれすらも耐えていたのだ。雄叫びを上げながら両手で地面を掘っていく。

 

「アイツ逃げる気か!!」

 

一夏は逃走を阻止しようとルプスビームライフルを発射し続けるが、シーリザーはそれに構わず地底に姿を消してしまった。

 

「ちっ・・」

 

「逃げられた・・!」

 

シーリザーが逃げて行った穴を、一夏達は悔しげに見つめるしかなかった・・・。

 

 

 

 

シーリザー逃走から2時間後、寮で待機していた一夏達GUTSは地下作戦室に呼ばれた(因みに全員部屋に戻った後すぐにシャワーを浴びた)。

 

「まさか、死体が動き出すなんてな」

 

「どうして生き返ったんだろう?生命反応はなかったのに・・」

 

「復活した理由は気になるが、一先ず置いておこう。問題は奴の進路だ」

 

一夏とシャルロットにそう告げた千冬は、真耶に視線を送る。モニターに地図が映され、次にシーリザーの現在地と進行方向を示す光点を表示してもらう。

 

「この赤い丸が怪獣、点は奴が向かうと予想される方向だ。現在怪獣は休憩を挟みながら地底を移動しているが、このまま点の示す方向に進むと、液化天然ガスコンビナートに到達する」

 

「もしや、怪獣はそのガスを狙って?」

 

「はい。恐らく自分のエネルギーとして吸収することが目的でしょう。そして先程の戦闘で分かったことがあります・・山田先生、お願いします」

 

「はい!」

 

同席している轡木が箒に答えた後、真耶にモニター操作を頼む。すると映像が変わり、楯無がシーリザーに攻撃する場面が映る。

 

「あの怪獣は、更識さんのクリアパッションやデキサスビーム砲の攻撃を受けた際に、皮膚の表面が爆発で乾燥していました。その際に熱を嫌う素振りをしているのに気付いたんです」

 

真耶の言葉に、楯無はそういえばそうだと思い出す。その間にも真耶の説明は続く。

 

「そして、回収した怪獣の皮膚の破片を解析した結果、1000度以上の熱を加えれば再生が無効になることが分かりました」

 

「せ、1000度以上・・!?」

 

「それほどの熱でなければ倒せないということですのね、まさに不死身ですわ」

 

「しかし、ISの攻撃でも流石にそこまでの火力は出せん・・何か方法はありますか?」

 

鈴、セシリアの順に話した後、ラウラが轡木に質問する。

 

「現在、コンビナート会社に連絡して、政府のIS部隊がガスタンクを吊り上げて輸送する作業を行っています。本来の作戦で使用する予定だった爆弾も、学園の部隊が回収してこの作戦区域に輸送中。到着後にタンクの各部にセットし、遠隔操作で怪獣の体内から爆破させます。皆さんにはこの作戦区域まで怪獣を誘導していただきたいんです」

 

切り替えられたモニターを指差しながら告げる轡木。そこは人1人住んでいない山間部で、シーリザーを倒すには有効の場所だ。その内容に簪が驚きの声を上げる。

 

「誘導はともかく、ガスタンクを利用するなんて大丈夫なんですか!?いろいろ問題が発生するんじゃ・・!」

 

「ええ・・頭が痛くなりますが、今はやむを得ません」

 

「聞いた通りだ。全員、直ちに出撃してくれ!」

 

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

こうして、シーリザーの掃討作戦が開始された。

 

 

 

 

「っ!いたぞ!」

 

IS学園を出撃したGUTSは、地上を歩くシーリザーを発見。ガスの臭いに反応しているのか、ガスコンビナートに真っ直ぐ進んでいる。

 

「このまま誘導するわよ!攻撃開始!」

 

楯無の指示で一夏達はビームライフルやスターライト、レールカノンを展開。シーリザーに向けて発射する。

 

「グォオオオッ!」

 

攻撃が当たったことで一夏達に気付いたシーリザーは、怒りの雄叫びと共に口から茶色のガスを放ってきた。

難なく避けた後、簪から通信が入る。

 

「気を付けて!今のガスには猛毒が含まれてる!」

 

「ちっ、面倒な能力を・・!」

 

舌打ちしたラウラはビームライフルの銃身下部にあるグレネードランチャーを2発発射。シーリザーの胸に直撃したが・・。

 

「不発っ!? ならばーー」

 

なんとラウラの弾丸はシーリザーの身体にめり込んで爆発していない。

まさかの事態に流石の彼女も驚きの声を上げるが、すぐに冷静に右肩の『アグニ』というビーム砲を起動させる。

 

砲身がシーリザーに向き、ロックオンの表示が出ると同時にラウラはアグニを発射。砲塔から放たれた赤く巨大なビームは胸にあるミサイルに真っ直ぐ向かっていき、爆発させる。

 

「グォオオオオッ!?」

 

デキサスビーム砲にも匹敵する攻撃が命中して悲鳴をあげるシーリザー。

やはり高威力のビーム砲が最もダメージを与えるようだ。

 

続けて一夏が周囲を飛び回りながらルプスビームライフルを発射して自身に注意を向ける。

彼の狙い通り、シーリザーは一夏を追い始めた。

箒達も彼に続いて攻撃、シーリザーを作戦区域へ誘導していく。

 

 

 

 

「まもなくGUTSが作戦区域に到着します!」

 

「了解!」

 

その頃作戦区域では、政府と学園のIS部隊がシーリザーを撃破するべく、ガスタンクの準備を終えて緊迫した表情で待機していた。

 

待つこと5分・・シーリザーを誘導するGUTSが見えて来た。

餌が見えたからか、シーリザーは歩く速度を上げる。

 

「あそこか!」

 

「一夏君!怪獣の足を止めて!」

 

「はい!」

 

楯無の指示で反転した一夏は、腰のクスィフィアスレール砲を起動。折り畳まれていた白い砲身が展開され、シーリザーの足元に弾丸を放つ。

 

左足を踏み外したシーリザーはバランスを崩して転倒。この間に楯無・簪・シャルロット・ラウラが爆弾付きのガスタンクを受け取り、特殊剛性のワイヤーを各機体に接続して頭上へと運んでいく。

 

シーリザーが目の前にやってきた餌に喜ぶなか、楯無達は慎重にガスタンクを下ろして行くのだが・・・

 

「グォオオオオッ!」

 

「きゃっ!?」

 

「く、首が伸びた!?」

 

何とシーリザーの首が何メートルも伸びてワイヤーに噛み付いたのだ。シャルロットと簪が悲鳴を上げ、すぐにワイヤーを切り離そうとするが、シーリザーが暴れるために機体が揺れて上手くいかない。

 

しかもだんだんと作戦区域から離れて街がある方向に進んでいく。

 

「やばっ・・!」

 

離れて待機していた一夏は、全員の視線がシーリザーに向いている間にこっそりと後ろに下がり、拡張領域(パススロット)からスパークレンスを取り出して胸の前で展開。

光に包まれて、等身大のウルトラマンティガに変わった。

 

「テァッ!」

 

「「「「わっ!?」」」」

 

すぐに楯無達のもとへ飛んだティガはハンドスラッシュに放ってワイヤーを切断。一瞬バランスを崩すが、すぐに立て直す。

 

「え、ティガ・・!?」

 

自身を見て驚くシャルロットをよそに、ティガは巨大化しながらシーリザーの前に降り立った。

 

 

 

 

「グォオオオ・・!」

 

構えるティガの前で、シーリザーはガスタンクを両手で腹部に押し込む。すると、ガスタンクはシーリザーの体内に吸い込まれていく。あとは体内の爆弾を起爆させるだけだ。

 

突っ込んで来るシーリザーに対して、まず街から距離を離そうと判断したティガは、格闘戦で挑む。

 

「ハッ!チャッ!」

 

右上段蹴りを打ち込んだティガは左のチョップを放つ。

シーリザーも右・左の順で殴りかかって来るが、そもそも死体なので動きが鈍く読みやすい。あっさり避けたティガは左中段蹴りを腹部に放つ。

 

「グォオオオ!」

 

「デァッ!」

 

組み合ったティガは軸移動しながらシーリザーの向きを変え、レッグホイップで投げ飛ばす。

次に尻尾を掴んでその場で回転。3回転した後、ジャイアントスウィングで街とは逆方向へと投げ飛ばす。

 

地面に叩きつけられ、立ち上がろうとするシーリザーの頭部を掴んだティガは、そこから強烈な右のアッパーを放つ。

 

「ハッ!ハッ!ハッ!チャアッ!」

 

右・左のストレートの後に右上段回し蹴りを受けて後退するシーリザー。

ティガは右中段蹴りの追撃を放つが、何とシーリザーはズブリという嫌な音を鳴らしながら腹部にティガの足を飲み込んでしまった。

 

驚いたティガは脱出しようとチョップやパンチで抵抗する。

だがシーリザーはそれに構わず口から毒ガスを放つ。

 

「グッ・・!?」

 

至近距離から毒を浴びたために倒れ込んでしまうティガ。だがその拍子に足が抜けたので脱出には成功した。

 

「グォオオオオッ!」

 

シーリザーは雄叫びを上げてティガに伸し掛かり右・左と殴る。反撃したいティガだが毒ガスのダメージで身体が重い。

頭を掴んで立ち上がらせたシーリザーは、そのまま自身の腹部にティガを押し込んでいく。

 

ティガまで飲み込む気かと全員が援護に動こうとするが、このまま黙って飲み込まれる彼ではない。

 

「ンンンンッ・・!ジュアッ!!」

 

ティガは両腕をシーリザーの腹部に当ててエネルギーを集中、青い光を発光させるウルトラ・ライトパワーを発動。

上昇した腕力でシーリザーを跳ね飛ばした。

 

「グォオオオ・・!」

 

カラータイマーが点滅を始めるなか、シーリザーはまだ立ち上がり此方に向かって来る。

これを見てティガは賭けに出ることにした。

 

「(一か八か、俺の光線を引火させて吹き飛ばす!)」

 

それは、ゼペリオン光線を腹部にあるガスタンクに引火させて内部からシーリザーを破壊すること。だがこれで倒せるかどうかわからないため、念には念を入れる。

 

ティガはゼペリオン光線を打つべく両拳を握り腕を腰に引いて前方で交差させた後、楯無に顔を向ける。

首を傾げる楯無だが、すぐに彼の意図に気付き学園の部隊に通信する。

 

「教員部隊に連絡します!ティガの光線の命中と同時に爆弾を爆破させて下さい!それで怪獣を倒せます!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

通信を終えて此方を向く楯無に頷いた後、両腕を左右に広げてエネルギーを充填。腕をL字に組んでゼペリオン光線が放たれる。

 

光線はシーリザーの腹部に発生した白い渦に吸収されていく。

その瞬間、教員の1人の指示が響いた。

 

「爆破っ!!」

 

その声と同時に教員部隊全員が起爆スイッチを押した。一方シーリザーは何ともないといった様子でそのまま向かって来る。

 

「ッ!」

 

まさか失敗したか?そう思い構えるティガだが、突然シーリザーの動きが止まった。

 

「グォ・・!グギュアアアア・・!」

 

シーリザーは身体が激しく振動した後、断末魔を上げて爆散。発生した熱によって破片は一つ残らず消滅し、爆発はシーリザーが立っていた場所に収まった。

それを見て全員安堵の表情を浮かべる。

 

「良かった、爆発があそこだけですんで・・!」

 

「ふぅ・・これでやっと休めますわね」

 

「私、もう二度とあんなのの相手したくないわ!!」

 

シャルロットとセシリアがそう言うと、鈴は二度とごめんだとばかりに叫んでいる。まああれ程の悪臭を放つモノなど誰だって嫌になるだろう。

箒や楯無、簪にラウラ、教員達もうんうんと頷いている。

 

「ジュアッ!」

 

そんな彼女達の声を聞きながら、ティガは空へと飛び去って行った。

 

余談だがシーリザーが撃破されたと同時に、悪臭で身体に異常が発生していた人々は全員健康な身体に回復できたとのこと。

 

 

 

 

ED【Brave Love,TIGA(インフィニット・ヒロインズ)】




次回予告

マドカの回復を信じ、ひたすらにトレーニングを続ける一夏・・そんな彼の前に自らをティガの影と称する魔人が現れ、己のテリトリーである異空間に引き摺り込む。

次回、インフィニット・ストラトス〜古の英雄〜

『現れし闇の権化』

お楽しみに!

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