「……えーと?」
メリエルは困惑した。
Yggdrasilのサービスが終わったと思ったら、青い空には太陽、吸い込む空気は照りつけられたアスファルトの独特の匂いを感じさせた。
「ふむ」
とりあえずメリエルは通行の邪魔にならぬよう、傍のビルの日陰へと移動する。
こちらを通行人がジロジロと見てくるが、冷静に彼女は唱えた。
完全不可知化《パーフェクトアンノウアブル》
たちまちのうちに、彼女の姿は掻き消えた。
まるで最初からそこに存在していなかったかのように。
「とりあえず、私は私になったようね」
そう言いながら、虚空に手を突っ込んで彼女のインベントリ――無限倉庫から手鏡を取り出して、顔を映す。
よく見慣れたと言うのもおかしいが、メリエルの顔がそこにはあった。
さすが私、超美人――
とか何とか思いつつ、手鏡を仕舞って、視線をあちこち彷徨わせる。
日本語の看板であることから、とりあえず日本であるらしいが、少なくとも自分の時代ではない、と彼女は考える。
何も対策せず、外を出歩くことができ、あまつさえ、青い空に太陽など到底見られるものではない。
となると平行世界か、あるいは過去か。
何だかよく分からないが、とりあえず彼女は前向きに考えた。
「楽しみましょうか」
そう言って、視線を道路へと何気なく向けると、忽然と巨大な門が現れた。
「……は?」
思わず真顔となってしまったメリエル。
しかし途端に、彼女はその門から溢れ出てくる大量の気配を感知する。
100や200どころではなく、1000や2000、下手をすれば万にも達する。
「映画の撮影とかじゃないわよね」
とか言いつつも、メリエルの身体は動く。
ちょっとガチでやらないといけない――現実化したが故に、そしてこれから日本を楽しむ為にも、こういう面倒事は退場願わないといけない。
Yggdrasil時代と同じように装備を整えようとしたが、コンソールは出ない。
しかし、感覚で何となく分かった。
一瞬で身に纏うものが変化する。
見た目にも神々しいとすぐに分かるそれらに、現実化するとこうなるのか、とメリエルは妙に感心しながら、虚空に手を突っ込んで1本の剣を取り出した。
そうこうしているうちに、門から敵が溢れだした。
敵は人間にオーク、ゴブリンなどなどの、ファンタジーな輩だった。
Yggdrasilでもある意味見慣れた――当然見た目も強さも違うが――ちょっとだけメリエルは懐かしい思いがこみ上げたが、それも一瞬のこと。
鞘から剣を抜き放つ。
ガラスのような刀身、刀身中央には神聖文字が刻まれている。
「征くわよ、レーヴァテイン」
そう言葉をかければ、刀身は淡く光、また同時にその柄からは熱が伝わってくる。
それは決して嫌なものではなく、とても暖かなものだ。
ただ何となくだが、自分以外の輩が握るとヤバイ、とメリエルは感じた。
ちょうど良くというのもなんだが、ワイバーンと思しき輩が通行人に襲いかかろうとしていた。
おあつらえ向きだ。
故に、メリエルは跳んだ。
あまりの力の強さに、アスファルトが陥没してしまったのはご愛嬌。
大口を開けたワイバーン、その前に呆然と立つ女性。
メリエルはワイバーンの首を真横から斬り飛ばした。
それと同時に完全不可知化の魔法もまた解ける。
攻撃した瞬間に、この魔法は解ける仕様なのだ。
ただのワイバーン程度で、神器級の剣であるレーヴァテインの一撃を防げる道理はない。
ワイバーンの首はズルリ、と地面へと落ち、その身体もまた地面へと少し遅れて落ちた。
乗っていた騎士と思しき輩も地面に落ちたが、低空であったことも幸いして大した怪我はなく、半ば反射的に――おそらくは猛訓練の賜物であろう――手に持っていた槍を突き出してくるが、メリエルはその穂先を摘んでみせた。
そして、そのまま思いっきり自分の方に引っ張れば騎士はバランスを崩し、メリエルの側へと倒れてくる。
メリエルは何のためらいもなく、その剣の切っ先を騎士の胸へと突き刺した。
呆気なく死んだ騎士の死体をそのまま適当なワイバーン目掛けてぶつけて地面へと落下させる。
ちらりと襲われた女性を見てみれば、茫然自失のよう。
「さっさと逃げなさいな」
そう声をかければ反射的に、叫びながら逃げ去った。
それを見送り、メリエルはゆっくりと振り返る。
今度は何やら外人らしき一団が襲われそうになっていた。
メリエルはそちらへも駆けつけ、ワイバーンの首を落とし、ついでに乗っていた騎士の首も落とす。
彼らは雄叫びを上げて、メリエルにガッツポーズしてみせる。
余裕あるなー、とメリエルが思いながら、今度は別の連中が襲われているのが見え、そちらへと跳ぶ。
またまた同じように助けて、門を見ればどんどん敵が溢れ出している。
敵もメリエルを強敵と見たか、いつのまにかワイバーンで包囲する形となりつつあった。
しかし、メリエルのスキルでもってそのレベルを調べてみれば、まことに取るに足らない存在であった。
通行人の一部は端末で何やらパシャパシャと写真を撮っているようだが、メリエルは気にしないことにした。
むしろ、彼女は心得ていた。
こういうときの振る舞い方を。厨二的な意味で。
メリエルはレーヴァテインを足元へと突き刺し、その柄に両手を載せてみせる。
そして、魔法である天空の雄叫びを使用する。
天空の雄叫びはその名前の通り、全体通信のようなもので、無差別に広範囲に声を届ける。
「我が名はメリエル。異界の軍勢よ、何物にも変えがたい、この国の穏やかなる日常。それを奪おうというならば――」
メリエルはそこで一拍の間をおき、睥睨する。
軍勢は怯んだ。
オークが、ゴブリンが、人間が、たった1人の少女に気圧された。
「抵抗することを許す。天に奈落に木霊する、断末魔の叫びを上げて、惨たらしく死ぬが良い」
そう言い終えると、天空の雄叫びは効力を失った。
そして、一斉に、軍勢は動いた。
彼らは本能で察したのだ。
コレは全力で潰さねばならぬ。潰さねば恐ろしいになる、と。
無数のワイバーンはその包囲を完了し、上空より攻め寄せる。
オークやゴブリンが無数に突撃し、弓兵が味方撃ち覚悟で多数の矢を放つ。
しかし、メリエルは全く動じない。
この程度、窮地のうちにも入らない。
魔法か、スキルか、あるいは通常攻撃か。
とりあえず、メリエルは一掃する為に、とある魔法を選択した。
「天空登る炎の渦《タイフーン・オブ・フレイム》」
たちまちのうちに、メリエルの周囲から炎の渦が巻き起こる。
彼女を中心として、それは天へと届く勢いだ。
突撃してきたワイバーンの群れ、放たれた数多の矢はたちまちのうちに炭すら残さず燃え尽きた。
唯一、巻き込まれなかったのは地上を走ってやってきたオークやゴブリン達、その後に続いた歩兵と騎兵。
彼らは止まって、炎の渦を呆然と見上げている。
メリエルは少し驚かしてやることにした。
炎が周囲にあるのだが、メリエルは全く脅威を感じない。
彼女は直感していた。
この炎が自分にはまったくダメージを与えないことを。
故に、彼女は手にレーヴァテインを持って、ゆっくりと歩いて炎の中へ。
5m程度歩いただけで、炎を抜けた。
そこから10m程のところにいたオーク達がぎょっとした顔でメリエルを見た。
ちょうどその時、炎の渦が消えた。
効果時間が切れたことによるものだ。
「か、かかれ! 囲んで潰せ!」
指揮官と思しき騎士の声に、我に返ったように兵士達が動いた。
またこちらは統制が取れていないのか、オークやゴブリン達は一斉に襲いかかってきた。
囲むとかそういう指示が聞き取れていないのか、単純に真っ直ぐに突っ込んできた。
メリエルはレーヴァテインを地面に刺して、ゆっくりと彼らに向けて両腕を向ける。
「魔法最強化《マキシマイズマジック》、魔法三重化《トリプレットマジック》、魔法の筒《グレーターマジックシリンダー》、連鎖する龍雷《チェイン・ドラゴン・ライトニング》」
その両腕から龍のような巨大な稲妻が次々と出現し、暴れ狂う。
魔法を最強化し、三重化し、さらに9連続で放つ魔法の筒《グレーターマジックシリンダー》による、連続発動だ。
合計で27。
メリエルからすれば戯れにも等しい一撃であったが、あいにくと相手にとっては即死の一撃であった。
この一撃により、敵は幾分目減りしており、メリエルは3分の1程度は消し飛ばしたと判断した。
稲妻が通った後には死体すら焼き尽くされ、周囲にいた者も重度の火傷を負うか、ショック死したような状態だった。
メリエルはそのような中を再度、レーヴァテインを持って平然と歩いて、敵へと近づく。
そして、敵の軍勢の先鋒と20m程度のところで歩みを止めた。
敵は戦列を組み、盾をがっしりと構えてそこから槍を突き出している。
正直、紙にも等しい儚い抵抗であった。
メリエルが適当に視線を周囲に巡らせると、通行人は既におらず、警官隊がメリエルの後方に展開しているのが見えた。
昔、映画で見た機動隊というのもいるようだ。
その顔には困惑しているような、感謝しているような、なんとも言えない微妙な表情が垣間見えた。
手を出されないようにしておくべきか、とメリエルは考え、ユグドラシル時代のロールプレイを少しだけすることにする。
設定的に通じる筈だ、と。
メリエルは飛行《フライ》の魔法を唱えて、ゆっくりと空へと舞い上がる。
その光景に敵はどよめきの声を上げた。
後ろの警官達も似たようなことになっているに違いない。
そして、彼女は白い翼を展開する。
4対8枚の熾天使たる証明だ。
同時に、絶望のオーラとは対になる浄化のオーラを低レベルで発動する。
効果としては似たようなもので、絶望のオーラが恐怖させるのに対し、浄化のオーラは畏怖させる。
効果は覿面のようで、敵は間の抜けた顔で誰も彼もがメリエルを見ていた。
おそらくは後ろの警官達も同じであるに違いない。
「死を汝らに与えよう」
ゆっくりとメリエルがレーヴァテインの切っ先を向ける。
その様子に、敵は皆、絶望の顔をした。
死を直感したのだろう。
事実、メリエルもそうするつもりであった。
「ま、待ったー!」
突然に背後から響き渡る声。
焦った男性の声だった。
再度のどよめき。
敵からは勿論、後ろの警官隊からも。
メリエルがゆっくりと背後を振り返ると、そこには拡声器を持った男性が1人。
肩で息をしていることから、大慌てで出てきたのだろう。
メリエルはその男性の前へと高度を下げながら、ゆっくりと近づいていき、彼の目の前に降り立った。
見たところ、普通のそこらへんにいそうな男だった。
「あ、えーと、じ、自分は陸上自衛隊の三等陸尉、伊丹耀司であります!」
上ずった声だ。
なんにも考えずに飛び出してきたような、そんな雰囲気にメリエルはジト目で彼を見る。
「えー、その、天使であるメリエル様におかれましては、その、日本国の国民を助けて頂いたことに誠に感謝するのでありまして、その、あとの始末は我々にお任せ頂ければ……」
そう言って愛想笑いの伊丹耀司に、メリエルはどうしようかな、とこれみよがしに首を傾げてみせる。
「これからあの不届き者達の世界に押し入って、ちょっとお仕置をしようと思っていたのだけど?」
「そ、そのー、日本は属地主義をとっておりますので、できれば天使のメリエル様にも日本の法律に従ってほしいなー、と思う次第でありまして……その、日本の法律だと決闘は禁止でして……」
「決闘というのは対等な者同士がするものよ。私とあの連中が対等だと?」
「そ、そのようなことは全然ないですはい! ただ、我々も仕事ですので……その、もうちょっとだけ、そういう意味で助けて頂けると……」
お願いします、と全力で頭を下げる伊丹耀司に、メリエルはどうしたものか、と再度考える。
正直、どちらでも良いというのが本音だ。
しかし、身分保障や案内役は必要である。
「じゃあ、わかったわ。あとは任せるから。この後、私はどうすればいいの? 私がしたいことはあるけれど、あなた方も私に聞きたいことが山程あるでしょうし」
「は、はい! えー、つきましては、その、自分についてきてくれると凄く助かります!」
「じゃあ、それでいいわ」
こちらです、と伊丹の先導で、メリエルは警官隊の方へと悠然と歩いて行く。
そのとき、警官隊の中から「検挙!」という掛け声と共に一斉に軍勢達へ突撃していく。
勿論、メリエルはノータッチだ。
こうして後に銀座事件、あるいは天使事件と呼ばれる騒動は幕を閉じた。
「頭が痛い」
その言葉を発したのは誰であったのか、しかし、誰も彼もが心の中で思っている言葉であった。
銀座事件に関する対策というお題目で閣議が開かれているが、その実態は現れた天使メリエルへの対応であった。
「まあ、こりゃあ、どうにもならんわな」
防衛大臣兼特地及び幻想関連問題対策大臣である嘉納はそう言って、書類の束を机の上に投げ出した。
彼の幻想関連問題対策という肩書は表向きにはファンタジーな現象に関する全ての問題を扱うものであったが、実態はメリエルへの対策だ。
その彼が机の上に投げたのは。これまで綿密に聞き取り調査をしたメリエルに関する結果報告書だ。
1枚目を読んで、彼は匙を投げた。
銀座事件で民間人の避難誘導にあたり、さらにメリエルにも怯まず、日本の法律に従ってくれと呼びかけた伊丹耀司による苦難の日々の結晶ともいえる。
彼はこれらの功績により、昇進したり何だりしたが、彼にとってはそんなことより平穏な日々を返して欲しいのが切実な思いであったりする。
要するに、メリエルにつきっきりで色々と日本のことを教えたり、聞き取り調査をしたり、健康診断に付き添ったりしたのが伊丹耀司であった。
天使を説得できるような奴は他にいない、伊丹本人も特殊作戦群にいたから最低限自衛はできるだろう、という上層部の考えによるものだ。
伊丹本人からすれば堪ったものではない。
「ユーラシア大陸を1分少々でこの世から消し飛ばせるとか、超広範囲の生きとし生けるもの全てに対して裁きを与えられるとか……」
「質の悪い冗談にしか思えません」
嘉納の言葉に総理である本位はそう答えた。
「本位さん、俺もこりゃ、質の悪い冗談にしか聞こえんが……だが、本当のことなんだろうな。戦略核とかそういうののほうがまだマシだ。あっちはモノだからな」
それに、と嘉納は続ける。
「本人が言うには、ある程度の威力がないと彼女が無意識的に張り巡らせている結界を貫けないとか……伊丹三尉……おっと、二尉の話によればナイフを思いっきり首に押し当てても、傷一つつかなかったそうだ」
「その後、彼は生きていましたか?」
「本人が承諾した上での実験だったから生きていたとも。彼の見立てによれば、戦車でも持ってこない限り傷つけるのは難しいのではないか、とさ」
「我々はどうすればいいのでしょうか……あちこちから圧力が凄まじいですよ」
一時期よりは鳴りを潜めたものの、世界中の宗教団体から問い合わせが殺到している。
大きいところはバチカン、小さいところはど田舎の小さな教会まで。
「もう本人に丸投げしても良い気もするがな……」
嘉納はそう言いながら、再度、報告書に視線を落とす。
釣られるように、本位や他の閣僚達も視線を落とす。
無言で報告書を一同は読み進めていく。
荒唐無稽としか思えないようなことが書かれていたが、何重ものチェックを経た上で、ここにこうして報告書としてあるのだから、正しい事実なのだろう。
チェックした者達の心労は凄まじかっただろうことも想像できる。
「……死者蘇生がどうとか、何でも願いを叶えられるとか書いてあるようにみえるのだが」
とある閣僚の言葉に、別の閣僚もまた目を擦りながら同意した。
「……天使だから、できるんだろう。俺としては本人が物質界に特化した天使という言い回しが気になる」
嘉納の言葉に、黙っていた本位が口を開いた。
「彼女の詳細な情報が欲しいですね。特地に関しては予定通り自衛隊派遣ということで……うるさい野党連中には最悪、メリエルさんを国会にお呼びして、一喝してもらいましょう」
本位の過激な発言に嘉納以下全ての閣僚が悟った。
これは相当疲れているな、と。
「本位さん、ちょっといいか? 茶でも飲もう」
嘉納はそう本位を誘った。
勿論、彼が個人的に本位に話があるが為でもあった。
「まったく、北条さんももう少し頑張って欲しかった」
本位はそう言って、深く溜息を吐いた。
門の先を特地として、日本の領土としたところまではファインプレーであったが、結局はそこで終わってしまった。
具体的な対応はほとんど丸投げだった。
とめどなく吐き出される愚痴に嘉納は苦笑しながら、相槌をうつ。
そして、ひとしきりにその愚痴を吐き出し終えたところで、嘉納はゆっくりと口を開く。
「実はな、報告書には載せていない、とんでもない爆弾……それも世界をひっくり返す程のものがある」
「それは良い意味ですか?」
「良い意味ではある。うまくすれば財政を好転させられる」
ほう、と本位は興味深そうな表情となる。
自衛隊の特地派遣も控えている以上、カネはいくらあっても足りない。
「メリエルさんなんだが、彼女は最低でも数百トンの金塊をはじめとしたレアメタル、レアアースの類いを個人で持っている上に、作り出せる。しかも、神話とかにあるオリハルコンとかそういうのも普通に持っている」
本位は深く深く溜息を吐いた。
「最低でも、というのはどういう根拠で?」
出てきた問いに、嘉納は顎に手を当てる。
「少なくとも、ホテルの地下駐車場を金塊だけで埋め尽くす程度には。伊丹の前で実演してみせたそうだ。一部を伊丹が本人の許可を取ってもらって、それを分析に回しているが……まあ、偽物ということはないだろう」
「……宗教界からの圧力なども色々と酷いのですが」
「そこはこちらに言われてもな。一個人のこと、知らぬ存ぜぬでいくしかない。まあ、一番いいのはメリエルさんに談話なり何なりを発表してもらうのが手っ取り早いかもな」
「もうそれでいきましょうか。野党連中も流石にこの件に関しては腫れ物扱いですから、文句はでないでしょう」
「それで、メリエルさんの法的な扱いなんだが、現行法ではもうどうにもならん。外国人というにはアレだしな……」
「天使がやってくるなんて、誰も想定してませんからね。相当の資産は有していますから、何とかなります。というか、します」
そう断言する本位に、嘉納は深く頷く。
「もう一つ。メリエルさんは監視カメラとか盗聴器とかそういうのを容易く察知できる上、覗いている連中を目の前に空間転移させて、話を聞いているそうだ。今までのところ、アメリカ、ロシア、EU、中国といった各国工作員に対して故郷の話を聞いたり、家族について聞いたりしている」
本位はしばし唖然とし、そして、深く深く溜息を吐いた。
「本物ですね、どう考えても」
「ああ……工作員の連中もそれで本物だと確信したのか、任務以外のことなら、メリエルさんに話しているそうだ」
「だから、あちこちから圧力が酷いわけですか」
「まあ、そうなるな。こればかりはメリエルさんの仕事というか、そういうものだから、非難するわけにもいかんし、そもそも我々人間が彼女の考えを推し量ることができるわけもない」
「あの方にとっては私達人間に敵も味方もなく、人の子という単なる括りなんでしょうね。それこそ、子供に接しているようなものなんでしょう」
「おそらくはな。子供達が戦争ごっこ、謀略ごっこをしているくらいにしか思わないだろう……」
2人は深く深く溜息を吐いた。
現状、日本政府ができることがない。
精々がメリエルと友好関係を保つことくらいだが、いかんせん思考が違い過ぎて目的などを推測することもできず、どうにもならなかった。