「うーん、これはワールドエネミー超えたわ」
メリエルはぐっとガッツポーズ。
ひとえに帝具は凄すぎた。
何もバフを掛けていない状態での2倍というのは予想できたが、バフを掛けた状態でもバフごと2倍になることに。
そして、ちょっと自然破壊やりすぎた、とメリエルは周囲を見回して思う。
広大な森林地帯であったのだが、だいたい半分くらい吹き飛んで、でっかいクレーターが幾つも空いている。
「ただ、まだまだてっぺんには足りないわねー」
そう言って、ふとメリエルはツヴィリンクに視線を向ける。
ツヴィリンク、何故異世界にもドイツ語があるのか定かではないが、ともあれ、その意味は双子だ。
2倍となる能力ということはだ、もしかしてもしかすると――
「ねぇ、ツヴィリンク。できると思うんだけど、できるわよね?」
メリエルの言葉に応えるように、ツヴィリンクは淡い光を発し、ブレスレットが消失した。
そして、その光はメリエルの前へと収束し――
そこにはメリエルとまったく瓜二つの存在がいた。
「初めまして、メリエル様。私はツヴィリンクです」
声色もまったくメリエルと同じ。
メリエルは満足そうに頷いて、問いかける。
「ツヴィリンクというのも味気ないから、メリエラとでも名乗りなさいな」
「はい、分かりました」
「で、どの程度まで模倣できるの?」
「メリエル様の素の状態と同じです。魔法やスキルも使用できますし、その、経緯なども……」
「Yggdrasilってぶっ飛んでるでしょ?」
「……はい」
まあまあ、と言いながら、メリエルはツヴィリンクことメリエラを抱き寄せる。
「うーん、やっぱり美しいわ。理想なだけある……で、メリエラ。その状態になると、やっぱりというか、2倍は解除されてしまうのね」
「はい、メリエル様」
「それはちょっと惜しいけど、私が2人いると思えば、そっちのほうが強力ね。ようやく、私は私と戦えるし」
メリエルにとってまたとない機会だ。
能力値も同じ、魔法やスキルも同じ、唯一は装備くらいだが、適当な神器級を装備させれば事足りる。
「……あのメリエル様。このようにできるのは、いわゆる奥の手としてなるべく秘匿したほうがいいかと」
「それもそうね。なるべく誰もいないところで、模擬戦の相手をしてもらいましょう」
そのとき、メリエルとメリエラは同時にある方向へと視線を向けた。
メリエルはkm単位の広範囲索敵の魔法やスキルは持っていないが、それでも戦士系職の固有スキルとして、数百m程度なら完全不可知化《パーフェクトアンノウアブル》やそれに類するスキルを使われていない限りは察知できる。
高速で近づく輩を捉えたのだ。
「メリエラ、戻って頂戴」
メリエルの声にメリエラは即座にブレスレットへと戻った。
やってきたのは黒髪の少女だった。
なぜかセーラー服を着ているが、その腰にぶら下げた刀――おそらくは帝具でただの人間ではないことが分かる。
彼女は無言で、刀を抜き放った。
メリエルはピンときた。
顔はさすがに見ていないが、おそらくコレはクロメだろう、と。
日本刀の帝具使いというのはそれくらいしか今の帝国にはいない。
これは力試しのようなものだろう、とメリエルは考える。
帝具使いというのは基本的に力を尊ぶ輩が多いと聞く。
弱いヤツの下にはつきたくない、と考えてもおかしくはない。
「なら、手は抜けないわね」
上下関係をきっちりと仕込むのは基本だ。
しかし、いきなり全力でいくのも、メリエルとしてはよろしくない。
一瞬で終わってしまってはつまらないからだ。
というわけでまずは何も持たず、バフも掛けずに純粋なスペックのみでやってみることにした。
装備も勿論、単なるおしゃれ装備だ。
メリエルは前へと駆け出した。
踏み込みの力があまりに強かった為に地面が砕け散るが、そんなことは気にしない。
少女が驚愕した顔が間近で見えた。
1秒と掛けず、10mはあった距離を詰めたのだからそれも当然かもしれない。
メリエルはおもむろに拳を振るう。
その拳速は目にも留まらぬ程であり、風切音は拳が出していい音ではない。
少女はかろうじて初撃を回避するが、しかし、メリエルが一撃だけで済ます筈もない。
急所など狙わず、ただどこかに当たれば良い、とばかりにメリエルは拳を途切れることなく振るう。
いくら帝具使いといえど、基本は生身の人間であり、さほどに頑丈ではなく、ただの人間に毛が生えた程度の耐久力しかもたない。
つまるところ、メリエルの拳が掠っただけでその部位ごと抉り取られ、致命傷だ。
反撃を、とばかりに少女が刀――八房を振るう。
さすがに専門教育を受けた上に、さらにドーピングしているだけあってその剣速は素早く、そしてその太刀筋は鋭い。
だが、足りない。
拳と八房の刃がぶつかり合い、音を発するが、およそ肉体と刃が触れ合って出すような音ではないものが響き渡る。
刃と触れ合った部分から、ほんの少しだけ出血する。
メリエルはわずかに驚き、大してクロメは大きく目を見開いた。
メリエルは自らを傷つけたことに、対するクロメは帝具をもってしても、かすり傷しかつかないことに。
しかし、その動揺を見逃すメリエルではない。
彼女は八房の刀身をそのまま片手で握りしめ、もう一方はクロメの首を掴んだ。
「……強い。負けた」
その声にメリエルはクロメと八房から手を離す。
「うーん、やっぱりこんなものかしらね」
そう言って、メリエルは傷ついた拳を見ると、もはやそこに傷はなかった。
それにクロメはまたまた驚愕し、まじまじと八房で傷ついた筈の拳を見る。
「あ、私、並大抵の攻撃は無効化しちゃって、たとえ傷ついてもすぐに回復しちゃうんで」
クロメはその言葉が信じられなかったが、現に今、そうなっていたのだから信じるしかない。
「あなたはクロメね。私はメリエルよ。それじゃ早速、72時間くらい殺し合いしよっか?」
花の咲くような素敵な笑顔で、メリエルはそう宣った。
耳を疑うクロメ、しかし、メリエルは本気のようでシャドーボクシングをし始めた。
風切音がヤバイ。なんかもう銃弾か何かではないかというような風切音だ。
さすがのクロメもちょっと命の危険を感じた、そのときだった。
1匹の伝書鳩がメリエルの頭の上に舞い降りた。
くるっぽー、と一鳴きする鳩をメリエルは両手で抱えて、その足に括り付けられたメモを取った。
戻ってこい、とたった一文であった。
しかしそれだけで十分事足りた。
「オネストが呼んでるから帰ろっか」
メリエルの言葉にクロメは安堵したのだった。
「メリエル様、どうしてくれるんですか、あの森林破壊!」
私怒ってます、と猛烈にアピールするオネスト。
しかし、彼の小脇に抱えられたクッキー缶のおかげでまったく締まらない。
おまけに大臣の私室であることから、色々とお菓子が引っ散らかっていて、汚いことこの上ない。
「あれはきっと危険種の仕業ね。私が討伐してあげる。ただちょっと被害大きくて帝国消えちゃうかもだけど、許してね」
いけしゃあしゃあとそんなことを言うメリエルに、オネストは深くため息を吐く。
「……それで、クロメはどうですか?」
問いかけるオネストにメリエルはクロメをちらっと見ながら、告げる。
「まあ、いい感じよ。で、他は?」
メリエルの問いに、オネストは頷いて、入ってくるよう告げる。
すると、出入り口から2人の男女が入ってきた。
1人はメリエルの要望通りのスタイリッシュ。
見た目は良い男なのだが、その実、オカマというちょっと残念な人物だ。
とはいえ、頭と腕は確かである。
で、もう1人は――綺麗というよりは可愛いという言葉がぴったりな少女であった。
ガチガチに緊張している様子だ。
「そちらがDrスタイリッシュ、で、もう一人は帝都警備隊から引っ張ってきたセリュー・ユビキタスです」
「あら、可愛らしいお嬢さんだこと。よろしくねん」
「せ、セリュー・ユビキタスです! よ、よろしくお願いします!」
うんうんと、メリエルは満足げに頷く。
「ところで、セリューとやらはどんな子なの?」
メリエルの問いに、オネストは自信満々に告げる。
「ええ、正義に燃える、とても良い少女と隊長のオーガから聞いています。彼からの推薦でしてね」
「が、がんばりましゅ!」
噛んだ、とセリューは落ち込むが、メリエルは気にしない。
むしろ、正義という単語にたっち・みーを思い出して、少し懐かしく感じる。
「彼女は賊の手により両親を失っていましてね……そこからまあ、正義に目覚めて色々とアレコレ」
「なるほど、なるほど」
そう思いつつ、メリエルはセリューの前に立ち、にこりと微笑む。
そして、深呼吸をして、絶望のオーラを最低レベルで発動させる。
たちまちのうちに空気は一変する。
オネストは無論のこと、クロメやスタイリッシュですらもメリエルの雰囲気に呑まれ、その恐怖に身体を震わせる。
セリューは言わずもがなだ。
その反応を見て、メリエルは内心ほくそ笑みながら告げる。
「我は神の代理人。神罰の代行者。我が使命は我が神に逆らう愚者を、その魂の一片までも絶滅すること……Amen」
言いたいことを言って、メリエルは満足げに絶望のオーラを切った。
「め、メリエル様、そーゆーのはやめてください。本当に心臓に悪いので」
死にそうな顔でオネストは言った。
「かっこいい……」
え、と皆の視線が一斉にその声の主――セリューへと向いた。
「悪は一切許さない、絶対の正義って感じでいいです!」
目を輝かせるセリューに、えぇ、とさすがのオネスト達もちょっと引いた。
「うーん、どうしよ?」
「いや、私にふられても困ります」
オネストは冷や汗をかきながら、そう言った。
「まあいいか。じゃあ、とりあえず、かるーく模擬戦みたいなことしよっか」
にっこり笑顔でそう告げるメリエル。
クロメは無論、メリエルの戦いっぷりを知らないセリューやスタイリッシュすらも、悪寒が走った。
ただでさえ、あんな恐怖を振りまけるのだ。
どれほどに強いのだろう、と。
「メリエル様、それでしたら適当な賊を討伐してみてはどうですか? 実戦が力を見るには最高かと思います」
暴れられてはかなわない、と言外に込められたオネストの言葉にクロメらは内心かつてない程にこの肥満の大臣を褒め称えた。
「ちょうど良く、目障りな連中がいますので……規模もそれなりに大きいので、ちょうど良いかと。あ、その賊は北方へ向かう途上ですので、そのままエスデス将軍のところへ向かって下さい。将軍宛の書状はこちらで用意しておきますので」
にこにこ笑顔でオネストはそう言った。