メリエルを放り込んだり何だりする短編集   作:やがみ0821

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そんなこんなで聖杯戦争に参加することになった2人。
とりあえず、彼女達は最初のエモノを誰にするか、割り箸くじで決めたらしい。


ケイネス先生が苦労する話 その2 アインツベルン爆発

 

「おお! 奏者よ、なんかいろいろあるぞ!」

 

 冬木の街並みに目を輝かせるネロ。

 対するメリエルもまた、昔の街並みに目を輝かせていた。

 

「思ったんだけど、ネロがこの時代の知識まるっと取り込んで、なんか国作ったら最強じゃない?」

「それだ! 余は国を作るぞ! ローマを再びこの時代に!」

 

 うははは、と笑うネロにメリエルは周囲に視線を巡らせる。

 誰も彼もがこっちを見ている。

 メリエルもネロも大変に美しいから、それも当然。

 

 物見遊山ついでに、聖杯戦争に参加という非常に気軽なものだ。

 2人とも、聖杯戦争が終わった後は日本のあちこちを観光することで一致している。

 

「それで奏者よ、敵はどこだ?」

「こんなのを作ってきました」

 

 メリエルはどこからともなく、割り箸を6本取り出して、それを6つ纏めて握り、ネロへと差し出す。

 

「これは何だ?」

 

 小首を傾げるネロに、メリエルは胸を張る。

 

「6本の中から1本選んでね。6本にはそれぞれ陣営が書いてあるの」

「標的を選ぶわけか……良い趣向だ」

 

 そう言いながら、ネロは適当に1本を摘んで引っ張った。

 その端っこにはアインツベルンと小さく書かれている。

 

「というわけで、最初はアインツベルン潰しましょう!」

「でびゅー戦というヤツだな。心が踊る!」

「森の中に大きなお城があるから、こう、一発かましちゃって。ネロのいいとこ見てみたい!」

「攻城戦か、良いぞ。余の凄さを分からせてやろう!」

 

 

 

 そして、適当なタクシーを捕まえて、2人は冬木市は郊外にある森へとやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 森と外の境界線、そこでネロは森を睨み、そして、告げる。

 

「結界があるな。おそらくは罠もわんさかあるだろう。どうする?」

「そういうのは、この手に限る」

 

 メリエルは手を前に、森へと向ける。

 

「メギドフレイム」

 

 瞬間、白い閃光――

 ついで、爆音。

 草木の焼ける臭いが、鼻をつく。

 

「奏者よ、さすがにそれはどうかと思うぞ……」

 

 数百m程、目の前の森が根こそぎに消え去っていた。

 結界は一応ある。

 元々侵入者を感知するような結界であったのだろう。

 拒絶する属性を持った、まさしく壁というべき結界であるなら、今の一撃で完全に消失していたに違いない。

 

「これが一番早い。米軍もそう言っている」

「そうであるか……余も勉強せねばな……というか、メギドフレイムって……」

 

 色々とアレな名前だなぁ、とネロは思ったが、細かいことは気にしない。

 

 そうして、2人はアインツベルンの森へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 メリエルは自分の進行方向をメギドフレイムで吹き飛ばし続けた。

 一度に数百m、魔術的な罠も魔術によらない罠も、根こそぎ吹き飛ばされては意味がない。

 

 ネロは最初こそ、戸惑いを隠せなかったが、元来の性格からすぐにメリエルを煽るようになった。

 

「もっとだ! もっと吹きとばせ!」

「えーい!」

 

 メギドフレイム、とチュドーンと森が吹き飛ぶ。

 もはや本来の目的を見失っているようにもみえた。

 端的にいえば、森を吹き飛ばすのが楽しくなってきたのだ。

 

 そこまで盛大にやれば――というか、最初の一撃の時点でアインツベルン側は気づいていた。

 

 故に、迎撃に出るのもまた当然だ。

 

 

「そこまでだ」

 

 未だ破壊されていない、森の中から堂々と現れたのは白銀の鎧を纏い、手に不可視の剣を持った騎士。

 

「おぉ!」

 

 メリエルとネロは2人揃ってその少女に目を輝かせる。

 何だか予想した反応と違う反応に、騎士――セイバーは小首を僅かに傾げる。

 

「奏者よ、余は気に入った。これは一つ、余の腕を示して、あの可憐な一輪を摘まねばならぬ」

「ずるい、ローマずるい」

「これが余の皇帝特権である!」

 

 ぶーぶー、と思いっきりブーイングを飛ばすメリエル、しかし、ネロは全く意に介さない。

 

「案ずるな。そなたも余のもの、あの者も余のもの。ほれ、結果として問題はないぞ」

 

 そう言いながら、ずいっと前へと進み出るネロに、メリエルは溜息を吐く。

 

「……話し合いは済んだか?」

 

 律儀にも待っていたセイバーはそう問いかけた。

 

「うむ! そなたは余がものにすることで、丸く収まった!」

「いや、何でそうなる?」

 

 尋ねるセイバーにネロは胸を張って答える。

 

「なぜならば、余が皇帝であるからだ!」

 

 そう告げ、一拍の間をおいて、ネロは高らかに告げる。

 

「余こそ、ローマ帝国5代皇帝にして、オリンピアの華! ネロ・クラウディウスなるぞ!」

「なんと……!」

 

 セイバーは目を見開いた。

 

 

 色々とローマには縁がある。

 そもそも、ローマが東と西に分かれて争い、国力を落とし、異民族の侵入に耐えかね、ブリテンから撤退した結果が、彼女がそうなった遠因の一つでもあると言える。

 もともとブリテンはローマ帝国の支配下にあった。

 より正確にいえば、ハドリアヌスの城壁の南側部分。

 セイバーもまた、その出身であり、彼女の治めた国もまたそこにあった。

 

 とはいえ、責めることはできない。

 ネロが退位してから数百年も先のこと。

 さすがに死後にあったことまで文句を言うのはお門違いであった。

 

「名乗り返したいところではありますが、あいにくとそうすることもできません。セイバーと呼んでいただければ」

「構わぬ。その佇まい、清廉な気……だいたい誰か検討がつくぞ。ちなみに、余もセイバーだ。余の奏者は天下一なのだぞ」

 

 ふんす、と胸を張るネロに、セイバーはまさか、と思うが、どうにも嘘をついているようには見えない。その直感は正しいと囁いている。

 

 彼女はネロの後ろに立つ、メリエルへと視線を向ける。

 こちらもまたネロに負けず劣らぬ美しさではあったが、セイバーにとってはそれよりも、聖杯戦争のシステムそのものを弄るということをやってのけた、その技量に警戒する。

 

「なるほど、優秀なマスターというわけだな」

「そうだぞ。それに美しいであろう?」

「はぁ……」

 

 それは重要なことなんだろうか、とセイバーは思い、曖昧な返事をする。

 

「セイバー!」

 

 そのとき、おっとり刀で走ってきたのは銀髪の女性であった。

 アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 セイバーが行動を共にしている女性だ。

 

「アイリスフィール、クラスが重複することはありえますか?」

 

 問いに、アイリスフィールは目を丸くし、ネロを凝視する。

 

「……いえ、ありえないわ。受肉していることも含めて。でも、そうね、目の前に結果があるのだから、きっとそういうことをあのマスターはできるんでしょう」

 

 サーヴァントを受肉化させていることも含めて、アイリスフィールからすれば信じられないことだった。

 

 その言葉にセイバーは嘆息する。

 どうやら凄腕の魔術師らしい、と。

 

「ほほう、これまた美しい女が現れたな。うむ、アインツベルンとやらは当たりだな」

 

 満足気に頷くネロに、何のこと、とアイリスフィールは首を傾げながらセイバーへと視線を送る。

 

「彼女はネロ・クラウディウス。つまりはそういうことなんでしょう」

 

 アイリスフィールは名を聞き、思わず恐怖を覚える。

 ネロの暴れっぷり、放蕩ぶりは有名だ。

 

「ネロ、援護はいる?」

「いらぬ。余の惚れ惚れするような剣技に見蕩れているが良い」

 

 変わった形の剣をネロはどこからともなく取り出すと、両手で握り、正眼に構える。

 

「征くぞ、セイバー。余にそなたの輝きを見せてみよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「想定外に過ぎる」

 

 衛宮切嗣はそう悪態をつく。

 まさか真っ昼間から堂々と攻め込んで――それも、どっかの軍隊よろしく、罠などを根こそぎ吹き飛ばしてくるとは思いもしなかった。

 その戦い方は魔術師というよりも、魔術師殺したる彼のやり方に近いものがある。

 

 とはいえ、それは僥倖だ。

 確かに、根こそぎに吹き飛ばすような魔術を軽々と行使する、その腕前は称賛に値する。

 だが、幾ら何でも遠距離から音速で飛来する銃弾をどうにかできるような反応速度はない、と彼は確信する。

 

 500m程離れた、木の上に彼はいた。

 アインツベルンの森には彼が伏射できるよう、足場を木の上に作った、簡易の狙撃場所が多数ある。

 ここも、そのうちの一つだ。

 

 バレットM99――

 対物ライフルに分類されるコレは12.7mm弾を850m/sという高速で撃ち出し、ヘリコプターや装甲車といった軽装甲のモノを破壊する為のものだ。

 勿論、人間のどこかにでも当たったら体は木っ端微塵、近くを掠めただけで致命傷。

 とはいえ、魔術師というのは得てして防御系の魔術なり何なりを身に纏わせていることがある。

 聖杯戦争の最中、殴りこんでくるのだから、敵もそのように防御魔術を纏っていることは想像できる。

 掠めただけでは傷を与えられない可能性もある。

 ならばこそ、当てなければならない。

 

 そして、狙うのは切嗣だけではない。

 別の場所から、彼の助手である久宇舞弥もまた同じもので、敵のマスターを狙い、同時に敵のマスターの別部分を狙撃する。

 

 切嗣は頭を、舞弥は胸を狙うことになっている。

 

 

『準備ができました』

 

 インカムから舞弥の声が聞こえてきた。

 迅速だ。

 そこらの兵士にも劣らない程に、洗練されている。

 

 そこに何の感慨も覚えず、切嗣は口を開く。

 

「了解。こちらも、準備はできた」

 

 遠距離からの狙撃などまるで予想もしていないのだろう。

 スコープ越しに見える敵のマスター――美しい少女であるが、そんなものは切嗣にとっては全く関係ない。

 映っているのは無防備に棒立ちしているただの敵だ。

 

「3カウントだ。3、2、1」

 

 切嗣は引き金を静かに引いた。

 そして、スコープに映る敵は――

 

 

「何?」

 

 ヒットする直前にゆっくりと前へと歩み出した。

 狙いが正確であったが故に、数秒前まで標的がいた空間を虚しく銃弾は通過し、地面へと着弾する。

 

 

 偶然か――?

 

 遠距離狙撃は遠距離というアドバンテージがあるものの、このような事態は稀にある。

 切嗣は冷静に次弾を装填する。

 

『装填完了』

 

 舞弥の言葉に切嗣は再度、3カウントを指示する。

 先ほどよりも、セイバーと敵サーヴァント――暴君ネロとの戦いの場に近づいているが、特に問題はない。

 先ほどと同じように、戦闘を眺め、棒立ちしている。

 

「3、2、1」

 

 再度、引き金を引く。

 スコープ越しに見える敵は勢い良く両手を左右に突き出した。

 一つは頭の真横、もう一つは胸の、心臓の辺り。

 

 切嗣はかつて無い程に、寒気を感じた。

 彼の長年鍛えた戦闘者としての勘は盛大に警鐘を鳴らす。

 

 まさか――いや、そんなことできる筈がない――

 

 その思い、しかし、敵は切嗣が思考する時間を許してはくれなかった。

 突然に自身の周囲に浮かび上がる見慣れぬ魔法陣。

 

 気づかれた――

 

 そう彼が思うと同時に浮遊感を感じる。

 一瞬にして、景色が切り替わる。

 まるでスライドショーでも見ているかのように。

 

 

「切嗣……? 舞弥さん……?」

 

 驚いた顔をしているアイリスフィール。

 切嗣はすぐに何をされたか、思い至った。

 そして、戦慄した。

 そんなこと、できるわけがない、と。

 しかし、現実にそうなっている。そうされている。

 

「空間転移、とはね。それも500mも離れた僕ら2人を同時に、強制的に転移させる。やれやれ、どこの魔法使いがやってきたんだ?」

 

 切嗣は溜息を吐きながら、懐からタバコを出して、火をつけた。

 タバコは控えていたのだが、吸わずにはいられなかった。

 紫煙をくゆらせる彼、アイリスフィールは彼の言葉を頭に浸透させ、メリエルへと視線を向ける。

 

「よくいたのよ。あなたみたいな輩はね。安心しなさい。もし私が殺しにかかっていたなら、転移場所を私の目の前にして、現れた瞬間に攻撃叩き込んでいたから。こんにちは、死ねって感じで」

 

 にこにこと笑みを浮かべて、メリエルは何かを放り投げた。

 激しく斬り合うセイバーとネロの頭上を飛び越えて、それは切嗣の前に落ちた。

 彼は視線をそこへ一瞬向け、予想通りのものにどうしたものか、と思考する。

 投げられたのは先程撃った、2発の銃弾であった。

 

 

「これは……切嗣、あのマスターは……」

「そうだね、舞弥。そんなことができるのは僕にも一つしか心当たりがない」

 

 空間転移を使いこなし、遠距離から音速で飛来する銃弾を素手で掴み取る。

 人間ではないことは確定だ。

 

「死徒、それも二十七祖クラスで太陽を克服している。魔術の腕前は魔法使い並、ここに入ってきたやり方から、考え方も古臭く凝り固まっていない……アハト翁も、まさかこんな輩が出てくるとは思ってもみなかっただろう」

 

 状況は最悪だ。

 真正面から二十七祖クラスの死徒と対峙するなど、自殺行為でしかない。

 

 だが、手がないわけではない。

 相手が魔術師であるならば、切嗣は必殺の攻撃手段を持っている。

 

「まったく、失礼ね。私は違うわよ」

 

 ちょうどメリエルが言った、そのときだった。

 セイバーがネロを思いっきり弾き飛ばした。

 ネロは何とか体勢を立て直し、うまく地面に着地する。

 しかし、その息は荒く、珠のような汗が額にはあった。

 

「中々良い剣でした」

 

 セイバーは真っ直ぐに不可視の剣の剣先をネロへと向け、告げた。

 疲労している様子はない。

 

「ぐぬぬ……」

 

 文句を言いたいけど言えない、そんな苦い表情をするネロに、メリエルはぎゅっと横から抱きついた。

 

「奏者よ、どうかしたか?」

 

 疲れているにも関わらず、ネロは即座にメリエルの腰へと片手を回す。

 

「そろそろ交代して頂戴。あなたばかり楽しんでずるい」

 

 その会話を聞き、セイバーは無論のこと、切嗣らも耳を疑った。

 

 交代する? ネロと?

 

 その言葉の意味を真っ先に理解したのは、切嗣であった。

 

 最悪というのは常に斜め上をいく――

 

 そんな言葉を彼は思い出した。

 

「むぅ……仕方がないのぅ……これから余の大逆転が始まるのだが、奏者がそう言うなら、ここは譲ろう」

 

 ネロは剣を収めた。

 そんな彼女に対し、メリエルはにこりと微笑み、ゆっくりとネロから離れた。

 そして、セイバーに向き直る。

 

 メリエルは虚空より、一本の剣を取り出した。

 鞘に収まったまま、メリエルは剣は抜かずに息を吸い、告げる。

 

「我が名はメリエル。セイバーよ、いざ、尋常に勝負を申し込む」

 

 そう宣言し、鞘に収まったままの剣、その剣先を向ける。

 対するセイバーは一瞬驚いたものの、すぐに嬉しさを隠せない、喜びに満ちた顔となる。

 彼女の答えは決まっている。

 

「受けて立とう」

 

 その返答にメリエルは軽く頷き、問いかける。

 

「しかし、私は一つ困っていることがある。私は剣も魔術も扱う。剣のみで戦った方が正々堂々になるのか、それとも私の全力を出す為に魔術も使った方がいいのか……」

「メリエル、あなたは随分と律儀だ。しかし、それはとても好ましい……」

 

 セイバーのその言葉は心からのものであった。

 まさかマスターが、それも剣を扱うとはいえ、魔術師からこんな言葉を聞くなんぞ、初めてのことだ。

 

 しかし、セイバーは騎士としての矜持がある。

 剣だけで戦ったから、全力を出していない、などと言われるのも御免被りたい。

 

 故に、彼女の返事は決まっていた。

 

「メリエル、あなたの全力を出して欲しい」

 

 セイバーの言葉に、メリエルもまた嬉しそうに笑う。

 

「私はとても興奮している。紛れも無い本物に、私がどこまで通じるか……数多の偶然の果て、私はここにこうして立っている。私は私として、ここにいる」

 

 数多の戦場を駆け抜けた剣の柄からほのかに暖かさが伝わってくる。

 以前では当然ながら、まったくそんなことは感じもしなかったが故に、現実化するとこうなのか、と感心してしまう。

 

 しかし、それも一瞬のこと。

 

「セイバー、我が全身全霊を以って、英霊たるあなたに挑む。今日この瞬間に、この世界全てに我が名を刻ませてもらう」

 

 そして、メリエルはまず装備を整えた。

 今着ているのは単なるお洒落着。

 しかし、それは一瞬のうちに変化した。

 

 思わずセイバーは目を見張った。

 その纏う全てに驚異、そして脅威を感じたのだ。

 

 上から下まで全て宝具と言っても過言ではない、シロモノ。

 

 さらにそれだけに留まらない。

 メリエルの首には1つのネックレスが現れた。

 太陽のように燃える黄金で作られたそのネックレス。

 

 それにセイバーは極めて大きな脅威を感じた。

 装備を整えたメリエルはこれで終わらずに、口を開く。

 

「上位全能力強化《グレーター・フルポテンシャル》、飛行《フライ》――」

 

 次々にメリエルが唱え、その度に彼女の体は色取り取りの光に包まれる。

 何をしているのか、セイバーは理解できてしまった。

 

 全てが自己を強化する魔術。

 

 そして、セイバーはメリエルの戦闘スタイルを見抜く。

 

 自己を極限まで強化し、圧倒的なスペックでもって真正面から叩き潰す。

 おそらくは攻撃系の魔術も多数扱えるであろうから、全ての距離で取りうる手段も多い。

 

 強化している途中に斬りかかる、という考えはセイバーにはない。

 それは彼女が高潔な騎士だから、というのもあるが、ここまでの使い手が、無防備となるわけがない。

 何かしらの罠があるのが当然であった。

 

 当然、それは切嗣も気がついた。

 故に、彼の判断は早かった。

 もはや人間が相手にできる範疇ではない、と。

 

「令呪をもって命ずる。セイバー、眼前の敵を全力で打ち倒せ」

 

 切嗣が告げた直後、セイバーは己の体に力が漲るのを感じた。

 基本無視されており、正直セイバー個人としては切嗣はあまり良いマスターとはいえない。

 しかし、今この瞬間だけ、彼女は即断した切嗣に感謝した。

 

「そちらも良いみたいね」

 

 メリエルは興奮を隠し切れない、わくわくとした表情だ。

 

「ええ、問題ありません」

 

 セイバーの返答に、メリエルは何度も満足気に頷く。

 そして、ゆっくりと鞘からその剣を抜き放つ。

 

 ガラスのような、透き通った刀身であった。

 中央部分に、神聖文字で何事か書かれているが、セイバーにはあいにくと読めない。

 しかし、彼女は直感する。

 

 アレはヤバイ、と。

 

 しかし、それで臆するようなセイバーではない。

 

「まずは小手調べ」

 

 メリエルの宣言、セイバーは躊躇なく前へと踏み込む。

 その速さたるやまさに疾風。

 10mはあるが、その程度の距離なぞ、瞬きするよりも早くにセイバーは詰め、メリエル目掛けて、その剣を振りかぶる。

 

 甲高い金属音が響き渡る。

 

 令呪のバックアップを受けたセイバーの一撃を受けるのは容易くはない。

 しかし、メリエルは容易に反応した。

 

「この感触、いいわね」

 

 何だか嬉しそうなメリエルにセイバーは内心首を傾げるが、構わずにその剣を振るう。

 人間では到底視認もできない、連撃。

 人間であるならば一瞬のうちに切り刻まれるその猛攻を、メリエルは余裕を持った表情で受け続ける。

 連続して響き渡る剣戟の音が周囲に木霊する。

 

 しかし、メリエルはセイバーの攻撃を防ぐ一方であった。

 

 攻めてこず、防ぐだけのメリエルであったが、セイバーはまったく油断しなかった。

 絶対に何かがある、と彼女は確信していた。

 むしろ、メリエルが攻撃をしてくる前に決めてしまいたい、とすら思っていた。

 

 剣ならセイバーは自信があるが、そこに魔術が加わるとさすがに心もとない。

 自らとマトモに打ち合えて、さらにはあれほどに強化系魔術を使える上、空間転移までできるのだ。

 

 何があるかわかったものではない。

 

 斬り合い始めてまだ数分も経っていない。

 しかし、幾百幾千とその短時間でセイバーはメリエルに打ち込んだ。

 手加減も油断も一切ない、全力で。

 

 だが、それすらも防がれた。

 まだ様子見の段階であるが故、セイバーは切嗣にラインを通じて告げる。

 問うのではなく、決定を。

 

『宝具を使います』

 

 短く一言、しかし、切嗣は何も言わない。

 召喚されたときからこの男はこうなのだ。

 何だかよく分からないが、嫌われているらしいことはよく分かった。

 

 そういった面から言えば、ネロが羨ましいとセイバー個人としては思わなくもない。

 所詮は聖杯の為だけの関係とはいえ、もう少し仲が良くても支障はないのではないか、と。

 

 そう思ったのも一瞬。

 セイバーは動く。

 

 彼女が取るのはシンプルな戦法だ。

 

 風王鉄槌で空へ打ち上げ、体勢を崩す。

 そして、宝具を放つ。

 

 いくら相手が強固な防御魔術や強大な強化魔術を使おうと、ダメージを与えるのではなく、ただ上に打ち上げるだけなら問題はない。

 

 セイバーから見ると、確かにメリエルの剣技は技量としては荒削りだが、それをスペックが補っている。

 セイバーの剣は風に纏われて刀身は見えないのだが、それでも素早く反応してくるのはその証拠だ。

 

 一瞬で片を付ける。

 

 セイバーは再度、メリエルへと斬りかかる。

 

 

 

 

 

 まったく本物はすごい。

 

 メリエルはそんな感想しか抱けなかった。

 とはいえ、まだセイバーが宝具を使っていないように、メリエルとしてもまだ切り札は使っていない。

 お互いに様子見といったところだ。

 

 

 ヨトゥンヘイムとタイマンしたとき以来かな。

 こういうのは。

 

 かつてを思い出し、少し笑う。

 

 気を逸らした瞬間に斬られる。

 いくらメリエルの纏う装備類が神器級であるとはいえ、さすがにその一撃を受けても無傷でいられるとは到底思えない。

 どの程度のダメージを受けるか、試してみたくはあるが、ネロにやってもらえば良いことだ。

 

 変わらずに斬りかかってくるセイバーの剣をメリエルは受けようとし――

 

「風王鉄槌《ストライク・エア》」

 

 その刀身から暴風が吹き荒れ、風の結界が取り払われる。

 メリエルは目にした。

 その聖剣を。

 

 勢い良く、メリエルの身体は空へと吹き飛ぶ。

 

 聖剣に、綺麗、という場違いな感想を抱きながらも、頭はこれ以上ない程に冷えている。

 上空に打ち上げたということは、セイバーの宝具は何かしらのモノをぶっ放してくる、と容易に想像がつく。

 飛行《フライ》を使っている為、体勢をメリエルは簡単に立て直し、そのまま空中に留まり、下を見下ろせば、セイバーの聖剣に魔力が収束し、光輝いている。

 

 セイバーはメリエルが体勢を立て直したことに気がついたが、そのまま聖剣を両手で振り上げた。

 

「約束された勝利の剣《エクスカリバー》――!」

 

 極光が放たれた。

 それは瞬く間にメリエルへと迫る。

 

 しかし、メリエルは動じない。

 この程度、ピンチのうちにも入らない。

 

「暗黒孔《ブラックホール》」

 

 メリエルの眼前に展開された、黒い穴。

 しかし、ここでメリエルは驚愕した。

 

 黒い穴――ブラックホールを切り裂いたのだ。

 

 聖剣の光に飲まれる――その寸前。

 

 

「完全なる隔離世界《ワールド・ガーディアン》」

 

 メリエルの職業たるワールド・ガーディアン。

 その職業のみが習得できる最上級の防御魔法である職業と同名のこの魔法は、ワールドアイテム以外の全ての物理・魔法攻撃やアイテムによる干渉効果を完全に遮断する。

 いわゆるワールド・チャンピオンにおける防御スキル、次元断層の上位互換だ。

 

 

 徐々に聖剣の光は衰え始め、やがてそれは完全に消えた。

 

 光が消え、姿を表したメリエルに一切のダメージはない。

 

 セイバーは驚愕した顔であった。

 もはや打つ手が無いのだろう。

 宝具が通じない以上、彼女には純粋に剣でどうにかするしかない。

 

 

 とはいえ、油断をすれば一刀両断されるのはメリエルだ。

 もとより、本物に挑んでいる以上、彼女には油断も慢心もない。

 

 征くぞ、レーヴァテイン――

 

 小さく愛剣に呟けば、少しだけ刀身が光った気がした。

 

 剣先をセイバーへと向け、メリエルは告げる。

 

「至高天に至る一撃《チャージ・フォー・エンピレオ》」

 

 メリエルはその身に眩い光を纏い、彗星のごとく、猛烈な勢いで落下を開始した。

 

 一瞬のうちに、セイバーが迫る。

 剣を構え、彼女は迎撃姿勢。

 先程までの驚愕は既に無い。

 

 メリエルは己の剣を突き出す。

 猛速で彼女はそのままセイバーへと突っ込み――

 

 

 耳をつんざく轟音。

 濛々と立ち込める土煙。

 

 しかし、それは一瞬のうちに晴れた。

 

 

 隕石でも落ちたかのような、クレーターがそこにはできていた。

 クレーターの中心で、セイバーがメリエルの剣先を刀身で受けた状態だった。

 

 

「……あなた程の敵は初めてです」

 

 セイバーはそう言うと、ゆっくりと剣を引く。

 メリエルもまたそれに合わせて、剣を引く。

 

「それは良かった。さて、セイバー、ここだけの話なんだけど」

 

 そう言って声を潜めてくるメリエルに、セイバーは首を傾げる。

 

「ぶっちゃけ、私もネロも聖杯いらない。だって、見ての通り、ネロはああいう性格だし、私も自前で好きな願いを叶える手段があるし」

 

 自前で叶える手段があるとの言葉に、セイバーは困惑する。

 

「個人的にあなたに興味があるから、今夜の22時くらいに冬木大橋に来て頂戴。話をしたい」

 

 セイバーは迷う。

 断っても良かったが、メリエルについて情報が欲しい。

 いったい何者なのか、気になることが多すぎる。

 それに彼女の直感が囁く。

 

 承諾した方がいい、と。

 

「分かりました。その頃に伺います」

 

 ちょうど、その時だった。

 

 

 

「双方、剣を収めよ!」

 

 

 そんな野太い声が空から聞こえてきた。

 

 

 

 なんか出た――

 

 それがその場にいる全員の共通した感想であった。

 

 

 

 チャリオットに跨がり、堂々としたその巨漢は赤いマントを靡かせている。

 その横には涙目の青年の姿。

 

 どうするんだよー、あんなの勝てないよーとかなんか情けない声を上げている。

 

「余は征服王イスカンダル! 先の勝負、真に見事であった!」

 

 そう言って拍手する彼にセイバーとメリエルはクレーターの中で顔を見合わせる。

 

「どうする?」

「とりあえず、敵ということでいいでしょう」

「じゃあ共闘ね」

「ええ、問題ありません」

 

 数秒の会話、それから2人の動きは早かった。

 互いにクレーターの中から飛び上がって出、地面に着地するや否や、揃って剣先をイスカンダルへと向ける。

 

「ここが貴様の終着点だ、イスカンダル」

 

 セイバーの言葉に続くよう、メリエルが告げる。

 その顔に、魔王も裸足で逃げ出しそうな、邪悪な笑みを浮かべて。

 

「小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 無様に地に這いつくばって、命乞いをする準備はOK?」

 

 殺る気満々の2人に対して、まったく正反対の反応を示した者がいた。

 

「イスカンダル! イスカンダルなのか!」

 

 目を輝かせて、イスカンダルの下に駆け寄ったネロ。

 そんな彼女に、イスカンダルはにこやかな笑顔を浮かべる。

 

「うむ、余こそがイスカンダルだ。して、お主は?」

 

 問いに、ネロは胸を張ってドヤ顔で告げる。

 

「余こそ、ローマ帝国5代皇帝にして、オリンピアの華! ネロ・クラウディウスだ!」

「おお、ローマの。中々どうして、余のファンというやつか?」

「うむ、そのようなものだ。前々から、気になっていたのだ。同じ暴君として」

 

 和やかに会話をするイスカンダルとネロに、メリエルはちらっと隣のセイバーを見る。

 すると、ちょうどセイバーと視線が合った。

 

「私のサーヴァントにならない? 三食飯付き、お小遣いもでるし、聖杯もあげるし」

「……考えておきます」

 

 すっかりと闘争の気ではなくなってしまった為、2人は剣を収めた。

 メリエルはネロの自由奔放さを過小評価していた。

 さすがのメリエルもコレは予想できなかった。

 

 

「それでイスカンダル。何をしに来たのだ?」

 

 セイバーは溜息混じりに問いかけた。

 問いに、イスカンダルは「おお、そうだった」と言って、告げる。

 

「うむ、ようやく戦争が始まったので、見に来ただけだ。あれほどの戦い、滅多に見られるものではない。しかし、とんでもない輩がマスターだな」

「そうであろう! 余の奏者こそ世界最強であるぞ!」

 

 これ以上ない程のドヤ顔で、ネロはそう言った。

 

「ていうか、マスターの癖になんであんなに強いんだよ」

 

 イスカンダルのマスター、ウェイバー・ベルベットの言葉に、メリエルに一斉に視線が集中する。

 誰もがそれは知りたかったことだ。

 

 対して、メリエルはにっこりと笑った。

 

「あいにくと私も召喚された身なのよ。私のマスターというか、雇用主というか、世話になってる人はケイネス・エルメロイ・アーチボルト」

 

 ウェイバー・ベルベットは一瞬にして、固まった。

 

「そういや、ケイネス、イスカンダルの触媒が盗まれたから、触媒なしで召喚したら私が出たとか言ってたけど……」

 

 だらだらとウェイバーは冷や汗を流す。

 

「……ごめんなさい、ちょっと聞きたいのだけど、あなたは召喚されたのね?」

 

 そんな中、アイリスフィールがそう問いかけた。

 

「ええ、そうよ。サーヴァントとかそういうの関係なしで、気がついたら、ケイネスの工房にいた」

 

 アイリスフィールの顔は真っ青になった。

 つまり、何の制限もない英霊もしくはそれに類する存在をケイネスは召喚してしまった、ということだ。

 それも受肉していることから、ケイネスを倒しても、メリエルは消えない。

 

 それでは初めから勝者なんぞ決まっている。

 英霊をサーヴァントの枠に押し込んで呼び出すのが聖杯戦争。

 当然押しこむことで、英霊の能力は劣化する。

 しかし、そこへ何の制限もない、英霊がやってきたら――

 

「奏者よ、余は疲れたぞ」

 

 ネロの空気を読まない声が響いた。

 メリエルはおもむろに、懐から懐中時計を取り出した。

 

 時刻はちょうど11時を回ったところだ。

 

「うむ、ではお開きとしよう。良いものが見れた」

 

 イスカンダルは鷹揚にそう頷いて言った。

 彼にとっては今回のことは大戦果であった。

 メリエルの強さ、セイバーの正体。

 それを知れたことは非常に大きい。

 

「じゃ、私達帰るから」

 

 そう言って、メリエルはネロと手を繋いで、告げる。

 

「上位転移《グレーターテレポーテーション》」

 

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