メリエルを放り込んだり何だりする短編集   作:やがみ0821

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あるいは浄化する編。

だいたい、タイトル通り。


ケイネス先生が苦労する話 その6 汚物は消毒編

「二次会行きましょう! 二次会!」

 

 閉店が1時であったので、仕方なくお会計を済ませたメリエルはそんなことを宣言した。

 よく食う連中が揃っており、お酒もじゃんじゃん飲んだ為に、お会計はちょっと普通の金額ではなかったが、メリエルはケイネスに用意してもらったカードでさくっと支払った。

 

「いいぜ。どこ行く?」

 

 すっかり食べて飲んだモードレッドは機嫌良くそう問う。

 

「カラオケだ、余はカラオケが良い。余の美声を披露してやるぞ」

 

 鼻歌を歌うネロ。

 しかし、そんな中、済まなさそうな顔をしている者がいた。

 

「あの、そろそろ私は帰らないとマズイような気がします」

 

 アルトリアだった。

 同盟組むと言って出てきた手前、あんまりどんちゃん騒ぎして帰るのもマズイ。

 一応同盟は組むという返事はメリエルからもらえたので、やるべきことはやっていた。

 

 しかし、そんなアルトリアを許さない存在がいた。

 

「アルトリアさん、何、逃げようとしてるんですか?」

 

 ささっと肩を組むジャンヌだ。

 監視の為、メリエルの傍にいなければならないという、ある意味これ以上ない程の被害者である彼女は道連れを1人でも増やそうと、それは必死であった。

 とはいえ、先ほどの居酒屋では彼女もまた結構に飲み食いした為、何気なく楽しんでいたりもする。

 

「いえ、その、付き合いたいのは山々なんですが、そろそろ帰らないと……」

「父上、ここで行かずにいつ行く?」

 

 ジャンヌとは反対側の肩を組む、モードレッド。

 さすがの騎士王といえ、2人のサーヴァントに両側から拘束されては逃げられない。

 

「せ、せめて連絡くらいはさせてください」

 

 

 というアルトリアの懇願で、彼女は一応解放され、切嗣に事務的に念話を送る。

 

『今日は帰れません。同盟は組みました』

 

 当然、返事は返ってこない。

 もう慣れたといえば慣れたが、アルトリアは溜息を吐いた。

 

「なんだ騎士王。そんな溜息なんぞ吐いて。困りごとか? なら、余が優しく慰めてやろうぞ」

 

 両手をわきわきとさせるネロに、アルトリアはとりあえず、手刀をその頭に叩き込んだ。

 

「いたいっ! 酷いではないか! 泣くぞ!」

 

 結構な威力だったらしく、涙目になりながらネロは両手で頭を押さえた。

 

「実はですね、どうも私はマスターに嫌われているらしくて……ああ、もう言ってしまいますが、マスターはアイリスフィールではなく、くたびれたコートを着た男の方です」

「アルトリアを嫌うって? 何そいつぶっ殺す! モードレッド、征くぞ!」

「おうとも! ぶっころす!」

 

 メリエルとモードレッドは互いに剣を出して、雄叫びを上げる。

 そんな2人の後頭部を宝具と思しき旗を顕現させ、その柄で殴りつける聖女。

 

 ドカッと鈍い音が響き渡り、同時に2人は道路に後頭部を押さえて、転げ回る。

 

「無益な殺生は、この私が許しません。というか、同盟結んだばかりでしょう!」

「アルトリアとは結んだけど、その男とは結んでいないわ」

 

 後頭部を押さえながら、そんなことを言うメリエルに、ジャンヌは深く溜息を吐きながら、旗を揺らしてみせる。

 

「ダメです。だいたいそもそも、あなたの思考は物騒過ぎます」

「え、アルトリア嫌ったらぶっ殺すって常識じゃないの?」

「常識だろ。父上嫌っていいのはオレだけだ」

「もう一回殴りますよ? 今度はフルスイングですよ?」

 

 ぶんぶん、と旗を振るジャンヌにメリエルとモードレッドは抱き合う。

 

「うわなんだコイツ、胸でかっ! ふかふか! ふかふかだぞ父上!」

「モードレッド柔らかい抱きまくらにしたい」

「待て奏者よ。余も抱きまくらさせよ! というか余を抱きまくらしろ!」

 

 そこに抱きつくネロに、柔らかさは更に加速する。

 

 深夜とはいえ、さすがにこの光景はまずい。倫理的に――

 

 アルトリアは即座に悟り、自らの直感に従って、言葉を紡ぐ。

 

「……あー、えっと、とりあえず、カラオケ、行きませんか?」

 

 何で私が提案しているんでしょう、と物凄く不思議に思いながら。

 

 

 

 

 

 

 カラオケもまたおすすめのところがメリエルが持ってきていた情報誌に乗っており、それを片手に深夜の冬木の街を練り歩く一行。

 

 先頭は天使で、暴君、叛逆の騎士、騎士王、聖女と続く。

 色々と信じられない光景である。

 時たますれ違う、酔っぱらったサラリーマン達やOLと陽気に彼女らは会話するが、誰もそんな風には思わない。

 

 

 30分程歩いたところで、彼女らは突然に立ち止まり、警戒体勢に入った。

 

「……何かがいるわね。あの路地裏」

 

 そう言って、メリエルはビルとビルの、人が1人通れる程度の隙間を見た。

 一見、何の変哲もないが、各々が気づいていた。

 何か気配がする、と。

 

 猫や人間ではない、サーヴァント特有のものだ。

 

 

 

 メリエルの言葉に、ぶんぶんと剣を振り回すモードレッド。

 鬱憤晴らしと旗を軽く振るジャンヌ。

 今日は厄日なんでしょうか、と思いつつ、鎧を纏って剣を持つアルトリア。

 そして――

 

「余の娯楽を邪魔だてする輩は万死に値する」

 

 なんか魔力全開で、何かをやろうとしているネロ。

 

「ちょ、待ちなさい!」

 

 慌てて止めるジャンヌ。

 

「む? 何だ聖女よ。余のことがそんなに気になるのか?」

「いや何でそうなるんですか。じゃなくて、いきなり何やろうとしているんですか?」

「サーヴァントも増えてきたことだし、ここは一つ、余の宝具を開陳し、奏者を魅了しようと……余の劇場はすごいぞ」

 

 ドヤ顔のネロに、ジャンヌは両手を左右に振る。

 

「見てこいカルロ……じゃなかった、ネロ」

 

 昼間にテレビで流れていたとあるドンパチ系映画のセリフを思わず口走ったメリエルであったが、すぐに訂正する。

 

「余はすぐにやられる役柄はイヤだ」

 

 ぷいっと顔をそむけるネロ。

 可愛いかったので、メリエルはネロを数秒抱きしめ、離れて、剣をインベントリから出して、構える。

 

「なんかあったらオレのクラレントで吹っ飛ばすから、安心しろよ!」

 

 全然安心できないモードレッドの発言に、メリエルはちょっとだけ冷や汗をかく。

 さすがに宝具を魔法やスキルなしに、真正面から――この場合は真後ろから受けたくはない。

 

 剣を構えて、そして――

 

「とっかーん!」

 

 うおおお、と雄叫びを上げて突っ込むメリエル。

 おお、と思わず声を上げるネロ達。

 

 さすがは奏者、勇気があるな。

 いやアレはヤケクソでしょう。

 というか、一応マスターなのに、いいんですかアレ?

 なんかあったら宝具ぶっ放せばいいだろ。

 

 そんなことを宣う、ネロにアルトリア、ジャンヌにモードレッド。

 とりあえず、なんかあったらまずいので、各々、得物を構えておく。

 

 

 

 

 

 そして、ビルとビルの隙間に突っ込んだメリエルはというと――

 

「ゴミがっ! ゴキブリがっ! 狭っ! 削れるっ!」

 

 別の意味で苦戦していた。 

 

 

 サーヴァントであるから、多少の暗闇程度は見通せるネロ達はその光景に、アルトリアは困惑し、モードレッドは盛大に笑い、ジャンヌは溜息を吐き、ネロは――

 

「狭いところでもがく奏者も良いな」

 

 うむ、と満足げに頷いていた。

 

 

 ともあれ、どうにかこうにか、天使パワーで無理矢理にビルを削りながら、メリエルは隙間を進む。

 やがて、隙間を抜けた先、路地裏に出た。

 路地裏もまた人通りはなく、街灯がついたり消えたりしていた。

 

「……?」

 

 あたりはシン、と静まり返っており、何となく不気味な雰囲気を醸し出している。

 周囲を窺いながら、彼女は適当に歩く。

 

 なんか怖いから根こそぎ吹き飛ばそうかしら――?

 

 そんな思考になりかけたそのときであった。

 

 微かに漂う、血の臭い。

 すぐ様、メリエルはその臭いを辿り、その元へと向かう。

 

 そして、そこにいたのは――

 

「おうおう、これはこれは……ロード・エルメロイのサーヴァント殿ではありませんか」

 

 1人の老人と、醜悪な虫に取り囲まれている女性であった。

 女性は軽傷を負っているのか、その手から血が少し地面に垂れていた。

 しかし、メリエルはすぐさまにその女性がサーヴァントであることと同時に、その老人が虫の擬態であることを見抜く。

 

「えーと、何がいったいどういう状況?」

 

 虫プレイというのはメリエル個人としては中々にそそる状況であったが、あいにくと実際に見てみると良いものではない。

 ましてやそれが、性的なものではなく、文字通りで肉を食らいそうなものであるならば。

 

「簡単な話じゃて。デキの悪い息子が聖杯戦争に参加したのじゃが、今ひとつ、使い物にならなくてのう……それに、サーヴァント殿のような強力過ぎる輩が出て来る始末」

 

 呵々、と笑い、老人は言葉を続ける。

 

「ここは一つ、自衛の為にと少し、この老いぼれのもつ知恵を使って、新たにサーヴァントを召喚したら、不潔だとか言い出しおってな。まったく、バーサーカーの扱いは難しい」

 

 話は見えた。

 

 要するに、マスターであるこの老人を思いっきり攻撃して、逃げ出したんだろう。

 しかし、相手は群体である虫。

 標的は無数であることから、単体攻撃は論外で、広範囲を根こそぎに吹き飛ばすようなものでない限りは死なないだろう。

 

「黙れ病原体。幾千幾万であろうとも、私はその全てを根絶する」

 

 あ、これヤバイやつだ――

 

 メリエルは悟った。

 これ、見なかったことにしたほうがいいんじゃないか、と。

 むしろ、この爺さんの味方した方が、なんか良いような気がする。

 

 とはいえ、とはいえである。

 その女性が纏っている赤服というか、軍装はアレではないか、と。

 

 メリエルは口ずさむ。その旋律を。

 すると、その女性は目を見開き、メリエルを見た。

 

「……なぜ、それを?」

「私の趣味でね。で、お爺さんや。そのサーヴァント、扱いに困っているなら、私がもらいましょうか? 代わりに願いを叶えてあげましょう」

 

 呵々と老人は笑う。

 まるで、それを待っていた、と言わんばかりに。

 

「であるならば、儂を不老不死にしてほしい」

「え、そんなことでいいの? どうせなら、全盛期の肉体に若返りもつけようか?」

「頼むぞ」

 

 じゃあ、これとこれ、とメリエルは虚空から2つの小瓶を取り出して、それを老人へ投げ渡した。

 

「若返り薬と不老不死の薬。最初に若返りたい年齢をイメージして、次に不老不死の薬飲んでね。あ、医療保険は効かないから、10割負担で」

 

 予想していたものとは違ったが、老人はメリエルの言われた通りに自らの全盛期をイメージしながら、若返り薬と不老不死の薬を飲んだ。

 

「……嘘やん」

 

 思わずそんな言葉を出してしまう程に、変化は劇的であった。

 枯れた老人という言葉のイメージ通りのその人物は、目つきはやや鋭いものの、誰が見ても美形と称する青年に変貌していた。

 

「……お、おお」

 

 その青年は感嘆の声を上げ、自分の状況を確認するや否や、サーヴァントである女性を取り囲んでいた虫を全てどこかへ退散させ、そして、メリエルへと跪き、頭を垂れた。

 

「いと高き御方よ、感謝を捧げます。私は、戻ることができました」

「それは良かったわね。で、不老不死になったわけだけど、何するの?」

「無論、全ての悪の根絶を」

 

 嘘やん、とメリエルは再度呟いた。

 あのどう見ても外道とか極悪非道とかそういう言葉が似合いそうな老人が、実はこんな美青年で、正義に燃える輩であったなんて、誰が信じるだろうか。

 

「あ、それじゃ、まあ、あんまり根を詰めすぎると発狂しそうだから、小さなことからコツコツとやっていくのはどうかしら? 例えば非営利団体作って、難民救済とかそういうことから……時間は無限にあるんだし、ゆっくりやればいいんじゃない?」

 

 なんか理想を達成できずに発狂しそうな感じがしたので、とりあえずメリエルは提案してみた。

 すると、彼はひどく感銘を受けたらしく、すぐさまそれをやると答えてきた。

 

「というか、あなたの名前、何よ?」

「マキリ・ゾォルケンと申します、メリエル様」

「そうなの……とりあえず、あとはやっておくから、あなたはもう帰って、これまでやってきたことの後始末をつけてから、新しいこと初めなさいよ」

 

 絶対なんかヤバイことやってるだろう、という予想がメリエルにあったがための言葉だ。

 すると、ゾォルケンは真摯な表情で肯定し、滔々と過去のやってきたヤバイことを告白し、その場から立ち去った。

 

「……えっと?」

 

 メリエルは恐る恐る、すっかり置いてけぼりであった女性へと視線を移した。

 すると、彼女は律儀に立って待っていてくれた。

 

「神の奇跡を見た気分です。あなたは天使ですか?」

「一応は、まあ、そうね……」

「なるほど。ならば私のことは当然ご存知ですね。私と共に、この世全ての病を根絶しましょう」

 

 なんでやねん、と思わずメリエルは内心ツッコミをいれた。

 

「それで、英国擲弾兵を知っているということは、あなたはナイチンゲールでいいかしらね? 私はその人くらいしか知らないのだけど」

「ええ、私はナイチンゲールです。全ての命を救ってみせます。たとえ、全ての命を奪ったとしても」

 

 その言葉を聞き、メリエルは問いかける。

 

「たとえ殺してでも救うべきよね?」

「無論です」

 

 当然と頷くナイチンゲールに、なんかうまくやっていけそうな感じがしてきたメリエル。

 

「とりあえず、私のサーヴァントになってもらって、受肉してもらうから」

 

 ジャンヌとやっぱり相性悪いかな、英仏の確執的意味で、と考えながら、メリエルは流れ星の指輪を取り出して、いつも通りにウィッシュ・アポン・ア・スターを唱えた。

 

「オカルトの類いは信じていませんでしたが、こうしてみると信じざるを得ませんね」

「まあ、普通はそうよね。あ、ところでナイチンゲール。今からカラオケ行くから。他にもサーヴァントが私にはいてね。戦う前に英気を養うのも必要でしょう」

 

 

 

 

 

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