ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記   作:截流

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どうも、截流です。

今回は国府台合戦の第二回目です!!

果たして綱景と梨子は先行していった直勝と綱景を救うことは出来るのか!?



それではどうぞお楽しみください!!


9話 国府台宿命戦 舅のけじめ

「くそっ…!直勝の奴、いくら責任感じてるからってこんならしくもねぇ無茶しやがって…!!頼むから間に合ってくれよ!」

 

江戸川を渡った綱成は直勝の無事を祈りながら彼の部隊がいるであろう地点まで全速力で進軍していた。

 

「綱景さん…!どうか早まらないでくださいね…!!」

 

梨子もまた、綱成と同じように綱景の無事を祈りながら康英とともに江戸川を渡り綱景隊に向けて疾走する。

 

 

 

一方その頃…、

 

「よし、敵は城に向かって退いていってるぞ!このまま先陣の綱成どのらの正面にいる正木隊の横腹を突けば、敵は総崩れだ!」

 

「では直勝どの、私は背後まで回りましょう。横と背後を突かれればいくら勇猛で知られる正木隊とて耐え切れないでしょう。」

 

「綱景どのの言う通りだな。頼むぞ。この戦いで康資の寝返りによる責を雪いでみせる!」

 

「ええ!」

 

直勝と綱景は二人同時に敵に向かって進軍していたが、敵の先陣である正木信茂隊に奇襲をかけるために二手に分かれて進軍を続けた。だが、それが命取りとなった。

 

 

 

 

「ぐわああああああ!!」

 

「ぎゃああああああ!!」

 

突然、坂道の両脇の森の中から銃弾の雨が降り注ぎ兵士たちが次々と倒れていく。

 

「くっ、伏兵ですか・・・!急いで体勢を立て直してください!!」

 

綱景は突然現れた伏兵に少し動揺するも、冷静に混乱する部隊を立て直す。

 

「城に向かって退いたのはこのためだったか・・・、怯むな!突き進め!!」

 

直勝は北条家の最強の戦闘部隊である『五色備え』の一角を率いる将の一人なだけあって怯むことなくさらに前へ躍り出ていく。

 

 

 

 

「始まったか・・・!」

 

前方から鉄砲の轟音や兵たちの声、武器がぶつかり合う音が聞こえてきたことで、康英は綱景・直勝の両隊が戦闘を始めたことを察知した。

 

「綱景さんは大丈夫なんでしょうか・・・。」

 

梨子は不安げに康英に声をかけた。

 

「なあに、綱景どのは五色備えの面々に劣るとはいえど年季はかなりのものだからそれなりに持ちこたえられるだろう。だがあの旗の家紋は太田桔梗・・・となると相手は太田資正か康資であろうから総崩れになるのも時間の問題だ。急ぐぞ梨子どの!」

 

「はい!!」

 

康英と梨子はさらに馬の速さを上げた。

 

 

 

一方、綱成隊では、

 

「くそ、始まっちまったか・・・!」

 

苦虫を潰したような顔で綱成が呟くと、

 

「まあまあ、そう焦るなよ綱成。あの直勝がそう簡単にくたばるわけないだろ?急ぐのはいいが、肝心のお主が焦っていては成し遂げられることも成し遂げられんぞ?」

 

五色備えの『赤備え』の大将である綱高がたしなめた。

 

「むむ、確かにそうだな。あいつが簡単にくたばるわけがねえ・・・。よし!直勝、あと少し持ちこたえろよ!!俺たちが今すぐそっちに行くからな!!」

 

「おう!!突っ走るぞ綱成!!」

 

そう言って、綱成たちもさらに速さを上げて直勝のもとへ向かっていった。

 

 

 

 

 

「ちっ・・・。流石に一度動揺した軍勢を立て直すのは難しいか・・・!」

 

直勝は馬上で刀を抜いて奮戦していたが、徐々に状況が悪化していくのを止めることが出来ないでいた。

相手の士気が高いのもそうだが、里見軍に地の利を取られてるのが劣勢である理由だった。国府台はその名の通りの台地であり、国府台城に攻め上がるには坂を上らなければならないのだが、山や丘で合戦をするときはどちらが相手よりも上の場所を取れるかで勝敗が決まってくるのだ。故に、坂を上って攻める北条軍より坂を駆け下りて迎撃する里見軍の方が地の利に恵まれていると言える。

 

そして、奮戦している直勝を木の上から狙っている男の姿があった。

 

「ふふふ・・・。北条五色備えの一角である『青備え』の富永直勝、ここで消えてもらうぞ・・・!」

 

資正はそう言って弓を引き絞り、直勝に向けて矢を放った。彼は弓の名手であり、放たれた矢は一寸の狂いもなく直勝の首へ飛んでいった。

 

(終わりだ!!)

 

資正が勝利を確信したその一瞬、

 

 

 

「どおおりゃあああああああああああ!!!」

 

なんと直勝の前に一人の男が走って来て、さらに資正が放った矢を切り捨てたのだ。

 

「なにっ!?馬鹿な、俺の矢を切り伏せるなんて・・・!」

 

資正は唖然とした。

 

「直勝、大丈夫か!!」

 

「綱成どの、何故ここに…!?」

 

直勝はその声を聞き、振り返ってみると驚いた。何故なら、先陣にいるはずである綱成がいるのだから。

 

「言いたいことは山ほどあるが話は氏康んところに戻ってからだ!お前ら!!青備えと江戸衆の連中を援護しろ!!」

 

綱成がそう叫ぶと、

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

「「「勝った!!勝った!!勝ったあああ!!!」」」

 

と、綱成の直属部隊である黄備え隊や玉縄衆の兵士たちが雪崩を打って里見軍に打ち掛かった。

 

「くっ…!さすがにまずくなってきたな。ここは一旦正木隊に合流して…。」

 

と資正が撤退しようと木から飛び降りようとするも、

 

「直勝を狙った奴はそこの木にいるぞ綱高!」

 

「本当か!よっしゃ任せろぉ!!」

 

綱高がそう言うと同時に資正が乗っている木を思い切り何回も蹴りつけた。綱高も綱成に負けない程の猛将であるため、その力は凄まじく、木から飛び降りようとしていた資正はバランスを崩して落ちてしまった。

 

「ぐあっ!くそっ、馬鹿力め…。」

 

「あっ!お前は!!」

 

「太田資正じゃねえか!!」

 

資正を見て綱成と綱高は驚いた。だが二人とも数多の戦場を潜り抜けて来ただけあって、ただ驚いているだけというほど判断力は低くなかった。

 

「よっしゃあ!その首貰ったぁ!!」

 

「こんな形ですまねえがここでぶっ倒させてもらうぜ!!」

 

そう言って二人は刀を抜いて資正に飛びかかった。資正も二人に負けない程の勇士であり、二人の攻撃をなんとか躱していた。

 

「くそっ、こいつら相手は流石に不利すぎるな…。ならば!」

 

そう言って資正は首から下げていた笛を鳴らし、一帯にピィー!という鋭利な音が鳴り響いた。すると次の瞬間、

 

『ワンワン!!』

 

なんと十数匹程の犬がどこからともなく現れて綱成と綱高に飛びかかってきたのだ。

 

「うわ!なんだこの犬!!」

 

「くそっ!!離せ!どけっておい!!」

 

綱成と綱高は突然現れた予想もしなかった新手に四苦八苦していた。

 

「ふん。流石の俺も五色備えのうちの三人とまともにやり合うのは無理なんでな、ここらで退かせてもらうぞ!源五郎、しばらくこいつらの足留めをしてくれ!皆の者!撤退だ!!国府台城へ退けぇ!!」

 

自らの名前をつけた犬に綱成たちの足留めを命じた資正は、自らの部隊に撤退を指示して、自らもまた城に向かって走り去っていった。

 

「くそっ!この犬っころどもめ!!痛てててて!」

 

「うわわ、噛むな噛むな!資正め、まんまと逃げやがって!!」

 

資正の姿が見えなくなると、また笛の音が響いてきた。すると犬たちはピタリと綱成と綱高への攻撃を止めて資正が走り去っていった方に向かって走っていった。

 

「ふぅ、酷い目にあったぜ…。」

 

「だが、直勝は無事で済んだから良しとしよう。」

 

「すまない、綱成どのに綱高どの…。」

 

直勝が二人に謝ると、

 

「水臭いぞ直勝どの!俺たちは五色備えの仲間たちじゃないか!なぁ綱成!」

 

綱高は笑いながらそう言って、

 

「ああ、そうだな。本当に無事で良かった。とにかく言いたいことは山ほどあるが、それは氏康のとこに戻ってからにしよう。とりあえず富永隊も俺たち玉縄衆も全軍、本陣へ退くぞ!!」

 

綱成は本陣への退却を二人に促した。

 

「「ああ!」」

 

二人も綱成の言葉に応えて、将兵たちをまとめて江戸川に向かって引き返した。

 

こうして綱成隊による富永直勝の救出戦は、直勝の部隊に大きな損害が出たが無事に終わった。

 

 

 

一方、康英と梨子の方は…、

 

「よし、そろそろ綱景どのと太田隊がぶつかってるところに着くぞ!」

 

「はい、康英さん!それで、綱景さんはどうやって探しましょう…?」

 

梨子が康英にたずねると、

 

「とりあえずそれがしたちが暴れまわって敵の注意を惹き付ける。その間に梨子どのは何人か護衛を付けるから綱景どのを探して合流してくれ!」

 

と、樫木棒を構えながら梨子に指示を出した。

 

「分かりました!では康英さん、お願いします!」

 

「うむ、そちらも武運を祈る。よしお主ら!なんとしてでも梨子どのを守るのだぞ!」

 

「「「はっ!!」」」

 

「よおし、皆の者!!我ら伊豆の武士の力を太田の者どもに見せつけてやろうぞ!!」

 

「「「おお!!」」」

 

そう言って康英は里見軍の真っ只中に飛び込み、樫木棒を縦横無尽に振り回して里見の兵士たちを打ち払った。

 

「では行ってきます!康英さん!!みなさん、ついてきてください!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

梨子は康英たちが暴れ始めたのを見届けると、康英から付けられた10人程の護衛に声をかけて康英隊から離脱していった。康英もまた、綱景を探しに走っていった梨子を見届け、敵兵に梨子を追わせないようにさらに敵陣の奥深くに飛び込んでいった。

 

「太田新六郎康資はどこだ!!この中に太田新六郎康資という男がいるであろう!いるのならば出てきて尋常に勝負せよお!!!」

 

康英はそう怒鳴って樫木棒を振り回しながら坂を駆け上がった。すると前から、

 

「おお、その声は伊豆の清水太郎左衛門康英だな!?俺はここにいるぞ!!」

 

と馬上で刀を手にした康資が康英の声を聞いて躍り出てきた。康英は康資の姿を見るや否や、

 

「康資ぇ!!お主、氏康さまや氏政さまから身に余るほどの大恩を受けながら、私利私欲で敵に寝返るとは不届き千万!この康英の樫木棒で成敗してくれる!!」

 

と康資めがけて馬で突進しながら樫木棒を横殴りに振るって殴りつけた。康資は刀でその攻撃を受けるが、康英もまた怪力の持ち主であったので、康資の刀を鍔ごと刀身を叩き割ってしまった。

 

「うおおっ!?」

 

康資はなんとか康英の攻撃を躱すと、馬首の向きを変えて坂の上に引き返した。それを見て康英は、

 

「ふん、裏切り者の太刀は実に粗末なものだな。」

 

と言ってその場から走り去っていった。

 

康資はこの康英の罵声を背に受けて怒りに燃え、康英と同じように樫木棒を持って戦場に戻ってきた。

 

「おのれ康英めえ!!棒ならば俺も負けんぞ!!出てこい康英えええええ!!!」

 

康資は康英への怒りで躍起になり滅多やたらと棒を振り回して戦場を暴れまわった。その時の康資は怒りで我を忘れ人だけでなく、馬でさえも無差別に殴りまわっていたという。

 

 

 

 

康英と康資が一騎討ちを繰り広げていた頃、梨子は護衛たちと一緒に綱景を探し回っていた。何人か敵兵と出くわすこともあったが、その度に護衛と一緒に協力して打ち倒しながら進んでいった。

 

「綱景さーん!!どこですかー!返事をしてくださーい!!」

 

梨子は声を腹の底から振り絞って綱景を呼び続ける。そして、康英の所から離れて4、5分ほど経った頃、

 

「その声は梨子どのですか?私はここですよ!!」

 

と梨子の声に反応した綱景の声が聞こえてきた。梨子がその声がする先へと向かうと、何人かの部下と一緒に木陰に座って休んでいる綱景の姿があった。

 

「・・・綱景さん!!よかった・・・、無事で本当によかった・・・!」

 

綱景を見て梨子は声を震わせながら綱景の無事を喜び、馬から飛び降りて綱景の側へ走り寄っていった。

 

「ははは・・・。心配をかけてしまったようですね。」

 

「はい!本当に心配したんですよ・・・!」

 

「ええ。私が言い出しっぺなんですが、流石に抜け駆けをするなんて無茶が過ぎましたね。氏康さまになんて申し開きをしたらいいか・・・。しかも梨子どのを初陣なのにこんな戦場の真っただ中に来させてしまうなんて恥ずかしい限りですね。」

 

と綱景が苦笑いして言うと、

 

「そんなことないですよ、綱景さん!あなたが生きていればそれでいいんです。さあ、氏康さんの本陣に戻りましょう!」

 

梨子はそう言って綱景の手を引こうとするも、

 

「・・・その気持ちは嬉しいのですが、それは出来ません。」

 

と言って梨子の手を振りほどいた。

 

「え?どうしてですか!?」

 

梨子は綱景の言葉が理解できなかった。綱景が梨子の手を振り払ったことはこの戦場に残ることを意味していた。そしてそれはこの戦場で命を散らさんという綱景の覚悟が滲んでいた。

 

「どうして、ですか。簡単に言ってしまえば『けじめ』ですかね。」

 

「けじめ?」

 

「はい。私が康資どのの妻の父であることは知ってますね?私と康資どのは家族同士です。家族が何か罪を犯したらそのけじめをつけるのもまたその家族の役目なのです。」

 

綱景は諭すように梨子に言った。

 

「分かりません・・・。私には分かりません・・・!どうして綱景さんはそうも死に急ごうとするんですか!?そんなけじめのつけ方なんて間違ってます!!それならもっと働くとか命を捨てない方法でけじめをつけましょうよ・・・!」

 

梨子は涙ながらに綱景に訴えた。

 

「・・・そういえば梨子どののいた時代にはもう武士はいないと言っていましたね?」

 

「は、はい・・・。」

 

「それならば分からないのも無理もありません。梨子どのの時代にはもう我ら武士のように命で償う事をしなくても罪は法で裁き、罰を以て罪人(つみびと)を償わせるという文化が出来上がっていましたね。それほど成熟した文化を持ち、泰平の世に生きるのならば確かに我々の考えが理解できないのも当然です・・・。」

 

「・・・。」

 

「ですがこれだけは憶えておいてください。何故私たちがここまでするのか、それは『意地』があるからなんですよ。」

 

「意地・・・ですか?」

 

綱景は梨子の言葉にうなずくとさらに続けた。

 

「ええ、我ら武士が意地や誇りに命を懸けるように、あなた達もスクールアイドルとしての誇りがあるからこそ、人々を楽しませるために全力で歌って踊るのでしょう?形こそは違えどその根底には似た物があると私は考えるのです。」

 

「武士とスクールアイドルが、似ている・・・?」

 

梨子がそう言うと綱景は無言でうなずいた。

 

「それでも・・・、それでも私はあなたを見殺しになんてできません!!あなたがここで死ぬというのなら私もここで一緒に・・・!!」

 

梨子が綱景と共に死ぬ、と言おうとすると、綱景は梨子の頬を思いっきりはたいた。

 

「馬鹿な事を言わないでください!!あなたはこの時代の人間ではないのですよ!?あなたには帰るべき時代や場所が、そして一緒に帰るべき人たちがいるのです!!あなたは一時の感情でその全てを捨てると言ってるのですよ!?梨子どのが死ねばあなたの仲間たちがどれだけ悲しむと思ってるんですか!!!」

 

いつもは温厚な綱景が感情的になって怒ったことに梨子や部下たちは驚きを隠せなかった。

 

「それにあなたはまだ若いのですよ?それなのに無駄に命を散らせてはいけません。あなたはあなたのため、そして千歌どのたち友垣やご両親、そしてあなた方の歌や踊りを楽しみにしている方々のために生きなくてはならないのです。」

 

「・・・はい。」

 

梨子が綱景の言葉に返事をすると、

 

「綱景さま!!太田康資が近くで暴れているとのこと!!」

 

と伝令が駆け込んできた。その言葉を聞いた綱景は先ほどまで梨子を諭していた温厚な顔から一変して歴戦の勇士の顔に変わった。

 

「綱景さん、本当に行っちゃうんですか?」

 

「・・・ええ。暴れている娘婿を宥めるのも舅の務めですからね。」

 

梨子は綱景の言葉を聞き、その背中を見て、もう彼を止めることは出来ないと悟った。悟った瞬間、梨子の目から涙が溢れ出したが、梨子はそれを拭い、つとめて明るい声で、

 

「絶対に帰ってきてくださいね!!」

 

と言った。綱景はその言葉を聞いてから、

 

「ええ、行きなさい。・・・そして強く生きろ、『梨子』。」

 

と振り返ることなく梨子に言い残して再び戦場へ走っていった。

 

「・・・止めなくてもよかったんですか?」

 

護衛の一人が梨子に確認したが、

 

「いいんです。もう私には止められないし、止めるのは綱景さんに失礼ですから。」

 

と言って馬に乗った。

 

「さあ、康英さんと合流して本陣に戻りましょう!!」

 

と護衛たちと共に康英のもとへ走っていった。先ほど梨子に声をかけた護衛の一人は、梨子の顔に涙が伝っていたのを見ていたが、それを口にはしなかった。

 

 

 

 

 

「うおおおお!!康英え!出てこい、尋常に勝負しろおおおお!!!」

 

康資はまだ戦場で暴れまわり、康英を探していたが、彼は既に別の場所に移動しており姿を見せることは無かった。だがそこに、

 

「新六郎!お主の武勇、実に見事なり!!」

 

と声が聞こえてきて康資が振り返ると、そこには馬に乗った綱景がいた。

 

「おお!これは義父(おやじ)どの・・・、いや遠山丹波守綱景どのではないか!!」

 

と康資は不敵な顔で答えた。

 

「うむ、実に見事な働きではあるが、御本城さまを私利私欲で裏切った挙句に何の罪もなき馬まで打ち据えるとは何事か!!」

 

と綱景は康資を叱り飛ばした。

 

「ほう・・・。そう仰るなら馬なんぞより、北条家に名高い義父(おやじ)どのの首を取り、里見殿への手土産にしてやろう!!」

 

と綱景の方に馬首を向けた。

 

「来るがいい新六郎!!武士の信義や情けを知らぬ娘婿を誅するのも舅の務めよ!!」

 

綱景も馬上で刀を抜き放ち、康資に向かって馬を走らせた。康資もまた樫木棒を構えて綱景に向けて馬を突進させた。

 

 

(すいません梨子どの。絶対に帰るという約束、破ってしまいそうです。娘のようなあなたにこのような辛い思いをさせてしまった私が言えた言葉ではありませんが、元のあなたが暮らしていた平和な時代に戻るまでの間、強く生き続けてくださいね・・・!)

 

 

「うおおおおおおお!!!」

 

「でりゃあああああああ!!!」

 

二人は互いの武器が届く範囲に入ると同時に互いに全力で武器を振るった。

 

そして、二人がすれ違った。その瞬間、

 

 

 

 

綱景の兜が砕け散り、綱景の体は大きく吹き飛んで頭から地面に落ちた。

 

 

 

 

康資は綱景が地面に落ちるのを見た時、脳裏に綱景の娘である妻の姿がよぎり、そのまま綱景の首も取らずに国府台城へと退き返していった。

 

「おのれ!!綱景さまの仇!!」

 

綱景の部下たちは主君の仇を討たんと康資に挑みかかるが、すべて返り討ちにされた。

 

そして父の死を聞いた綱景の長男である遠山隼人佐(はやとのすけ)や、もう一人の娘婿である舎人経忠といった重臣級の武将も彼に殉じるように討ち死にしていった。

 

 

(これでいい・・・。これでよかったのです・・・。)

 

綱景は康資に頭を殴られ、地面に落ちる一瞬、そう呟いて満足そうに笑って死んでいった。

 

康資が去ったしばらく後に梨子を探していた康英は綱景の死を知らされ、彼の亡骸の側までやってきた康英は安らかな顔をしていた綱景に涙ながらに手を合わせ、綱景の率いていた兵士たちをまとめて梨子と合流し、本陣へと戻っていった。

 

 

 

 

 

北条家の三家老の一人にして、江戸城の城代として北条氏康と氏政に仕え、江戸の開発に全力を尽くした重臣である、遠山丹波守綱景は、梨子に乱世に生きる武士の厳しさを教え、暁の空に散っていった。




いかがでしたでしょうか?

梨子の師匠であり、父親のような存在であった綱景は、史実でもこの『第二次国府台合戦』で討ち死にしました。軍記物ではこの物語と同じように娘婿の太田康資に討ち取られたという記述があるそうです。

まさに綱景は師として、そして父のような存在として梨子に乱世の厳しさを身をもって教えたと言えます。


そして次回は、いよいよ氏政の隊にいる千歌たちの戦いが始まります!果たして千歌たちはどのような活躍を見せるのか!?




それでは次回もまたお楽しみください!!

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