ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
個人的な用事(趣味とかバイトとか某同人誌即売会とか)で両作共に更新までかなり日が開いてしまいました!!
今回はタイトルがものすごいどストレートです。挫折です。正直サンシャイン本編サンシャインを見るまで上手く案が浮かびませんでした。
それではどうぞお楽しみください!!
「お主もだいぶ当主としての心構えが身についてきたようだな氏政。これよりは戦や政務のことはお主に任せてわしは表から退くことにする。後は頼んだぞ氏政。」
「はっ!お任せください父上!!」
第二次国府台合戦が起きた1564年の終わりごろに、息子の後見役として北条家の実質的な最高権力者の座に君臨していた氏康は本格的に隠居し、国政の全てを氏政にゆだねた。これより氏康は戦に出陣することはほとんどなくなり、主に外交の場において裏から氏政をフォローする立場に回ることになる。
そして氏康が本格的に隠居してから2年経つ1567年のこと・・・。
「よし!これより里見にとどめを刺しに行くぞ!!」
氏政は国府台での敗戦で房総半島における影響力の大半を失くした里見家にとどめを刺すべく、上総に向けて軍を進めることにした。
上総国、久留里城にて・・・。
「御隠居様!北条氏政の軍勢が義弘さまの佐貫城に向けて侵攻中とのこと!!その数は2万!さらに北条氏照が1万の軍勢でこの久留里城に迫っております!!どうか安房までお下がりください!!」
伝令が北条軍の侵攻状況を上座に座る男に慌ただしく伝える。
「ふむ、数は3万といったところか。確かにこれは危ういかもしれんな。」
「ですから早くご避難を・・・!」
「慌てるな!氏康め、わしらにとどめを刺すのに自分が出る必要はないと考えおったな?小童の氏政と氏照ごときに倒されるほどこの『関東副将軍』、里見刑部少輔義堯は老いてはおらぬわ!」
そう言って不敵に笑うのは、前回の国府台合戦で手痛い敗戦を被った里見義弘の父である里見義堯であった。
「それに我ら里見は不撓不屈、あの敗戦で腐るほど義弘も甘い男ではない。あやつも氏政に借りを返すために手を尽くしている頃であろう・・・。」
義堯の言う通り、義弘は自らの居城である佐貫城の近くにある三船山の麓にある三船台に築かれた砦に攻撃を仕掛けていた。氏政が上総に向けて軍勢を進めたのはこれを阻止し、佐貫城を奪うためであった。
そして氏政は千歌たちや配下の将を引き連れて江戸湾(東京湾)を渡り、三船山に陣を構えた。
「いよいよデビュー戦ですね氏政さん!!」
千歌は元気はつらつといった様子で氏政に話しかけた。
「でびゅー戦?とは一体何かは知らぬが、初陣ならばとっくの昔に済ませたぞ?」
「多分千歌ちゃんは氏政さんが本格的な当主になってから初めて総大将として戦う戦だって言いたいんだと思いますよ。」
と梨子は千歌の言いたかったことを氏政に解説した。
「なるほど、確かに家督を譲られてからも父上が総大将を務めていたからな。それだけにこの戦は負けられんな・・・!」
氏政の顔には強い決意がにじんでいた。
「でもなんか曜ちゃんと果南ちゃんがいないのは落ち着かないな~。」
「仕方がありませんわ。この戦では彼女たちは水軍に参加しているのですから。」
ぼやく千歌をダイヤが宥めた。今回の戦ではAqoursのメンバーは分かれて行動していた。曜と果南は北条水軍に従軍しており、それ以外のメンバーはいつも通り氏政の馬廻として合戦に臨んでいるといった様子であった。
「氏政さ~ん、お客さんが来たずらよ~。」
花丸が氏政を呼びながら陣幕に入ってきた。
「む、客人だと?私は呼んだ覚えはないが・・・。」
「えっと、太田氏資さんって人が氏政さんに会いたいって・・・言ってます。」
ルビィが花丸の後ろからひょっこりと顔を出して客人の名前を氏政に伝えた。
「おお、氏資どのか!そうか、通してやってくれ!」
氏政は氏資の名前を聞くと顔を晴れやかにして、通すように花丸に伝えた。
「どうぞ、入ってきてくださ~い!」
花丸が陣幕の外に出てそういうと、代わりに一人の若武者が入ってきた。
「お久しぶりです義兄上!陣中見舞いに参りました!」
彼の名は太田氏資。前回の国府台合戦で里見軍として参加した太田資正の長男であり、太田家の現当主である。
「元気そうで何よりだ氏資どの。凛や娘は元気にしているか?」
凛とは氏資の妻で、長林院と北条家の系図に記されている氏政の妹である。彼女と氏資の間には娘がいて、名前は小少将と現在に伝えられている。
「はい。妻も岩付の暮らしに慣れてきたようですし、娘も日ごろすくすくと育っています!」
「そうかそうか、それは何よりだ!早くこの戦を終わらせて顔を見せてやらねばいかんな。」
氏政は先ほどまでの様子とは打って変わって朗らかな様子で氏資との話に花を咲かせていた。
「氏政さん、さっきまで緊張してたのに氏資さんが来たとたんに穏やかな感じになったね。」
「それだけ氏政さんが家族想いなんだよ。」
千歌と梨子は氏政の様子を見て嬉しそうに小声で話していた。
「本当に義兄上には感謝してもし足りません。」
「突然何を言い出すんだ氏資。」
「いえ、私のような親不孝者を一門に加えていただいただけでなく、『氏』の字まで与えていただくなんてこの身に余る光栄です!」
そう言って氏資は頭を下げる。武家には重臣や手柄のある家臣に名前の一字を与える文化があり、主人から名前を与えられることは非常に名誉なことであるとされていた。北条家においても、太田康資の『康』の字や、大道寺政繁の『政』の字などがそれにあたるが、北条家の血を引く者以外に『氏』という字が与えられた例は少なく、これは『氏』という字がそれだけ北条家では重く用いられており、それをかつての敵であった太田家の嫡男である氏資に与えたという事は彼にとっては最高級の名誉であったのだろうと考えられる。
「頭を上げてくれ氏資どの。私とお前はもう兄弟のようなものなんだ、そこまでへりくだる必要なんてないのだ。」
氏政はそう言って氏資の顔を上げさせ、優しく肩を叩いた。
「はい!これからも義兄上と共に関東静謐のために頑張ります!!」
氏資はそんな氏政の優しさに応えるように笑顔でそう言った。
そして三船山に北条軍が着陣した頃、国府台の雪辱を狙う義弘は、8千人の兵力で三船山にいる北条軍に向けて進軍した。
「ふふふ、北条め。あの時の屈辱、ここで晴らしてくれるわ・・・!」
「そうか、義弘が来たか!皆の者、三船山を下りるぞ!!狙うは義弘の首だ!!」
氏政は義弘来たるという知らせを聞いて、全軍に三船山を下りるように命じた。北条軍は三船山を駆け下りて義弘の軍にめがけて攻めかかろうとするも、その義弘の軍は北条軍が迫ったとたんに佐貫城に向けて逃げ出してしまった。
「なんだ?攻めかかってきたくせに逃げ出しやがったぞ?」
「この前の国府台の戦で負けたせいで怖気づいちまったんじゃねえの?」
「よし!このまま逃げる里見を打ち負かせええ!!」
北条軍の兵士たちは里見軍が怖気づいたものだと思い、そのままどんどん前へ進んでいった。
「何か妙ですわね・・・。」
「どうしたのお姉ちゃん?」
何か考え込んでるダイヤにルビィは理由を尋ねた。
「おかしいとは思いませんか?普通二倍以上の兵力を率いる相手に何の策もなく突っ込むほど相手の将は愚かではないはず・・・。何か罠があるかもしれませんから慎重に進むべきですわ!」
「うん、わかったよお姉ちゃんってぴぎゃ!?」
姉の言葉にうなずいた瞬間、ルビィは派手にすっ転んでしまった。
「ちょっとルビィ!?いきなり転ばないでくれるかしら!?」
「うう、ごめんなさいお姉ちゃん・・・。」
「ああもう、泥まみれにして・・・。」
ダイヤはルビィの顔に着いた泥を拭いた。
「何にもないところで転ぶなんてルビィちゃんってばドジっ娘なんだか・・・どわ!?」
「千歌ちゃん!?」
千歌もまたすっ転んだ。
「いったーい・・・。急に足がはまって転んじゃったよぉ・・・。」
「!!」
千歌の言葉を聞いたダイヤの顔が驚愕の色に染まった。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「どうしたもこうしたもありませんわ・・・!どうやら私たちは誘い込まれていたみたいですわ!!氏政さん!今すぐ三船山に兵を退いてください!!」
ダイヤは慌てた様子で氏政に撤退を進言した。
「何!まさか義弘はこの為に!?」
氏政がダイヤの言葉を聞いて罠にはめられたことを確信するが、それは後の祭りだった。
「今だ!!北条軍を蹴散らせええ!!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」
北条軍が沼地のぬかるみにはまって身動きが取れなくなったのを見て、里見軍は反転して身動きの取れない北条軍に攻めかかった。北条軍は泥に足を取られてまともに動くことが出来ずに次々と討ち取られていった。
「くそっ、みんな!とにかく三船山に向かって退くんだ!!」
「氏政さま!大変でございます!!」
「今度はどうした!!」
「それが、今度は北の八幡山から正木憲時の別動隊が襲い掛かってきました!!」
「なんだと!?」
北条軍は南と北から挟み撃ちにされてしまった。
「おらおらおらああああ!!!義兄上の仇だ!北条軍の奴らを完膚なきまでに叩きのめせええええ!!!」
北から攻めかかってきた別動隊の先頭に立って北条兵を次々と打ち倒している男、正木憲時は正木時茂の養子で前回の戦いで康成に討ち取られた信茂の義理の弟にあたる。
「義兄上!!ここはこの氏資に任せて退いてください!!」
氏資が氏政のところにやって来てそう言った。
「な、馬鹿な事を言うな!!お前の手勢は100騎もなかっただろう!?それではただの犬死にだ!!」
氏政は氏資を止めるが、
「いいえ、北条家の当主である義兄上を守るためならばこの程度!!」
と言って敵に向かって走り出していった。
「氏政さん!氏資を止めないんですか!?」
千歌が氏政に聞くと、
「氏資の想いは無駄には出来ぬ・・・。でも千歌殿がそういうならば!!お前たちは先に退いていてくれ!」
そう言って氏政は氏資のもとへ馬を走らせた。
「氏政さん、大丈夫かな?」
梨子は心配そうに言うが、
「きっと大丈夫だよ。皆、三船山に戻ろう!」
と千歌は氏政の背を見ながらそう言ってみんなと一緒に三船山の方へ走っていった。
「氏資どの!!」
「な、義兄上!?なぜこのようなところに!?」
氏資は氏政の姿を見て驚いた。
「何故とはご挨拶だな。兄が無茶をする弟を連れ戻すのは当たり前だろう!?さあ、三船山に戻ろう!」
と氏政は撤退を促すが、氏資は静かに首を横に振った。
「義兄上のご厚意は嬉しいですが、それには従えません。」
「何故だ!?何故お前は死に急ごうとする!!」
「それは・・・。私が親不孝者であるのと、あなたの恩に報いたいからです!!」
「俺の恩・・・だと?」
「はい、私は家を守るためとはいえ父と弟を追い出して無理やり当主となりました。もちろんそんな男を快く思う者なんているわけがありません、それが当主の妹を娶った男であってもです。ですが義兄上はそんな私に対してもまるで本当の弟のように接してくださいました。その優しさが父と弟を追い出した罪悪感に塗れた心を癒してくれた・・・。」
「氏資・・・。」
「ですから、そんな義兄上の御恩に報いるために私はここで
「お前が死んだら凛と娘はどうするのだ!!」
氏政に妻と娘のことを言われ、一瞬ためらいの表情を見せた氏資だったが、
「確かに妻と娘は悲しむかもしれません・・・。ですが妻も武家の娘としての覚悟はできているでしょう・・・!」
「・・・止めても聞きそうにないようだな。」
「はい。義兄上、お願いがあります。」
「なんだ、何でも言ってみろ。」
「もしここで私が討ち死にしたら、太田の家督は国増丸どのに継がせてください。」
「国増丸にだと?」
国増丸とは氏政の三男で国王丸の弟である。
「はい、わが娘・・・小少将の婿として太田家の養子にしてください。そうすれば太田の家も安泰です。」
氏資が笑顔でそう言うと、
「それは聞き入れられないな。何故ならそれはあくまでもお前が死んだらの話だからだ!」
と氏政も笑いながらそう言った。
「そうですね。では、その願いが実現しないようにしなくてはいけませんね!」
「ああ。是非ともそうしてくれ。」
「氏資さま!!敵が来ます!!」
伝令が氏資に敵の襲来を伝えると、
「では義兄上、ここは危険ですので。」
「ああ。生きて帰って来い、弟よ。」
「はい、義兄上こそお達者で!」
氏資がそう言うのを聞いてから氏政は三船山の方へ馬を走らせた。
(氏資・・・。すまない・・・!愚かな兄を許してくれ・・・!)
「よし!皆の者!!ここはなんとしてでも食い止めるんだ!」
「「「うおおおおおお!!!」」」
こうして太田氏資率いるわずか53人の勇士たちが北条軍を追う里見の軍勢に飛び込んでいった。彼らは勇猛果敢に戦ったが、敵うはずもなく、次々と討たれていった。
「さらばです義兄上・・・!あなた達と共に過ごした温かい日々は忘れません・・・。」
そして、太田氏資もまた討たれた。享年は26歳、命短しといわれた戦国乱世でも早すぎる死であった。
こうして北条軍が多大な犠牲を出して大敗を喫するという形で三船山合戦は終わりを告げた。
久留里城を攻撃していた氏照の軍勢も、里見義堯による決死の籠城戦に敗れ撤退していった。さらに北条水軍も安房の沖で里見水軍とぶつかるも大損害を負って三浦半島に退いていった。
「ふふふ・・・!これで国府台の屈辱は晴らした!!上総の地を取り戻すぞ!!」
「義弘よ、房総の覇者はこの里見であることを北条の者共に知らしめるのだ!」
この戦いで勢いを得た里見家は上総の国衆たちを再び傘下に収め、北条家の上総における拠点を次々と奪い返すために動き出した。
北条軍は水陸両面から追撃されることを恐れてすべての軍勢を上総から撤退させ、里見家は再び上総の大半を取り戻して房総半島の覇権を再び掴み取った。この先里見家の全盛期は10年先まで続くこととなる。
そして逆に氏政は倍以上の軍勢で挑みながら大敗を喫したことによって後世では『戦下手』という烙印を押されることになってしまった。