ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
今回は前回の後日談です。三船山にて手痛い敗北を喫した氏政は何を想うのか・・・。
それではどうぞお楽しみください!!
三船山で敗戦を喫した氏政は、小田原に帰ってから政務の時以外は部屋に閉じこもるようになってしまっていた。
「氏政さん、今日も部屋から出てこないの?」
「うん・・・。」
「よっぽど三船山のことが辛かったんだろうね・・・。」
千歌から三船山での敗戦について聞いた果南と曜も氏政のことを心配していた。自らの失態で義弟である氏資を失ったことがよほど心に突き刺さったのだろう。
「氏政さん、かわいそう・・・。」
「でもこのままじゃまずいんじゃない?氏政さんは当主なんでしょ。それがこんな風に閉じこもってたら他の人たちに悪い影響を与えちゃうわよ。」
「入学してからしばらく学校に来てなかった善子ちゃんには言われたくないと思うずら。」
「ちょっ、それは関係ないでしょずら丸!!」
善子は引き籠ってたことを引き合いに出されて顔を赤くして怒った。
「でもよっちゃんの言うことも間違ってないと思うよ。氏政さんの気持ちは分かるけど前を向かなきゃいけない時もあると思うの。」
師匠である綱景を亡くした梨子が善子の言葉に賛同する。実際に経験しただけあって言葉の重みが違う。
「もう、氏政さんってばそんな風に閉じこもってちゃダメよ!そんな悲しい時こそ楽しくシャイニー☆にいきましょ!!」
「ちょっ、鞠莉やめなって!」
氏政の部屋に向かって大きな声で呼びかける鞠莉を果南が制止した。すると、
「放っておいてくれ・・・。私のような無能に当主を名乗る資格など無いのだ・・・。」
と中から氏政の声が聞こえてきた。
「もう!氏政さんって物分かりがいいように見えて結構頑固親父よね!」
「まあまあ、誰だってあれだけの失敗したらああもなっちゃうよ・・・。」
氏政の反応に憤る鞠莉を果南が宥める。
「兄貴が政務の時以外は部屋に籠ってるって聞いて見舞いに来てみたが、こりゃかなり重症みたいだな。」
「兄上がここまで手痛い敗北を喫したのは初めてだからな。」
「それ以上に氏資どのを死なせてしまったのがよほど辛かったんでしょうね。」
千歌たちのもとにやってきたのは、氏政の弟である氏照と氏邦、そして氏規だった。
「して、千歌どの。兄上の具合は如何か?」
「あの日からずっとこの調子なんです。ご飯はちゃんと食べてるし、お仕事もしてるので特に問題があるわけじゃないんですが・・・。」
「うむ。父上が本格的に隠居した今では兄上が当主なのだから、この様子では家中にも影響が出かねん。いったいどうすれば・・・。」
氏照はそう言って考え込んでしまった。
「・・・よし!」
千歌は何かを決心したのか、氏政の部屋に向かってずかずかと歩いていった。
何をするつもりなのかと皆が見守っていると、なんと千歌はいきなり氏政の部屋の襖を大きく開け放したのだ。
「ちょっと千歌ちゃん!?」
「いきなり何してんの!?」
驚いた梨子と曜は千歌を止めようとするが、千歌はそれを気にも留めずに氏政の部屋に乗り込んだ。
「なんの用だ千歌どの・・・。私は今誰とも話したくはないんだ・・・。」
氏政はそう言って千歌に背を向けるが、
「氏政さん!いつまでそうやって落ち込んでるんですか!氏政さんはみんなのリーダーなんでしょ?リーダーがそんな風に落ち込んでたら他のみんなも落ち込んじゃいますよ!!」
千歌は氏政の肩を掴んで彼に一喝した。
「そのくらい俺だって分かっているさ!!俺は北条家の当主なんだ!負けても堂々としていなくてはいけないことくらい分かっているさ!!でも、千歌どのに俺の気持ちなど分かるものか・・・!!」
氏政は千歌の言葉を受けて激高した。普段は穏やかで理性的な氏政が感情的に怒鳴る姿を見て千歌をはじめとしたこの場にいる面々は驚いた。生まれてからずっと兄と接してきた氏照達もそんな兄の姿を見て戸惑いを隠せなかった。
しかし千歌はそんな氏政の激高に怯むことなく、さらに言葉を紡ぐ。
「・・・分かるよ。私にも分かるよ氏政さん。だって私も・・・、ううん。私たちも氏政さんみたいに悔しい思いをしたことがあるから分かるもん!!」
「千歌ちゃん・・・。」
「私たちが初めて沼津の外に出て東京の大会でライブをやった時、初めて全国レベルのスクールアイドルの実力を思い知らされた。そして、そんな全国レベルの人でもその大会でいい結果を残せなくて私たちがどれだけちっぽけなのかっていうのも思い知らされたんだ・・・。」
「千歌どの達にもそのような挫折が・・・。」
「内浦に戻るまではずっと笑ってごまかしてた。リーダーである私が落ち込んじゃったらみんなも悲しんじゃうって思って強がってた。でも本当はすごく悔しかったんだ。みんなで一生懸命に練習して、歌を考えて、衣装を作って、PVを撮って、ライブで大勢の人の前で歌って・・・。それでもダメだった、誰の心にも響かせられなかった、私たちの努力の成果が0でしかなかったことがすごく悔しかったんだ。」
「・・・。」
「でもね、私たちはその悔しいと思った気持ちを踏み越えて『0から1に向かって踏み出す』ことが出来たんだ。あの0を経験したことがあるからこそ今の私たちがあると思うんだ!だから氏政さんも、もう一度踏み出してみようよ!!」
千歌はそう言って笑顔で氏政に手を差し伸べた。氏政は千歌の手を取ろうとしたが、
「いや、それはできない。」
と手を引いてしまった。
「そんな、どうして・・・?」
「確かに千歌どのの言う通りだ。そういう敗北を経験し、立ち上がってこそ強くなれる・・・それ自体は間違っていない。だが、俺にそれを踏み越える資格などないんだ・・・!」
「踏み越える・・・資格?」
千歌は氏政の語った言葉がどういうことなのかを尋ねる。
「俺はこの戦いで義弟である氏資を死なせてしまった。そしてそれは氏資の妻である妹の凛から夫を、そして姪から父を奪ってしまったことになる。そんな男に千歌どの達のように前に進む資格などあるわけないじゃないか!!」
そう言って氏政はまた背を向けてしまった。
「おい兄貴てめえ!!!千歌どのが必死に慰めてくれてるっつうのにその態度はなんだよ!!許せねえ!!」
そんな氏政を見て氏邦は激怒し部屋に入り込もうとするが、
「やめろ氏邦!!お前の気持ちは分からんでもないが、そのように力ずくで解決しようとすれば余計に拗れるだけだ!!」
「そうですよ氏邦兄上!一旦落ち着いてください!!」
「離せ!!兄貴を一発ぶん殴ってやらねえと気が済まねえ!!」
氏照と氏規が暴れる氏邦を必死に抑え込んだ。
「あらあら、氏政さまのお部屋の前が珍しく賑やかになってると思ったら・・・。」
「あ、梅さん!」
騒ぎを聞きつけてやってきたのは氏政の妻の梅だった。
「これは義姉上、お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。」
そう言って氏照とそれに続いて氏規が梅にお辞儀をすると、
「いえいえ、お屋敷がここまで賑やかになったのは久しぶりなので構いませんよ。それよりも何があったのかを教えてくださいな。」
梅はそう言ってここで何が起きていたのかを尋ねた。
「なるほど、そのような事があったのですね。」
千歌たちや氏照たち氏政の兄弟から事情を聞いた梅はそう言って頷き、
「もしよろしければ、私に任せていただけないでしょうか?」
と言った。
「止めといた方がいいぜ義姉上。今の兄貴は何言っても聞く耳持たずって有様だったからな。」
氏邦は乗り気でない様子だったが、
「いや、義姉上の言葉なら兄上も聞いてくれるかもしれません。」
氏規は賛成の意を示した。
「梅さん。氏政さんのこと、お願いします!」
千歌たちAqoursは梅に頭を下げた。
「そんな仰々しくする必要なんてありませんよ。落ち込んでいる夫を慰めるのも、妻の務めですので。」
梅は微笑みながら千歌たちにそう言って、氏政の部屋に入っていった。
「氏政さま。」
「梅か。俺は今一人になりたいのだ・・・。」
氏政がそう言うのもお構いなしといった様子で梅は氏政に寄り添う。
「氏政さまはお優しいのがいいところなのですが、時としてお優しすぎるのが玉に瑕でございます。武家の当主、それも大名となれば時には非情になる必要があると思います。」
「非情になれ、か。厳しいことを言ってくれるな。氏資の・・・、
普段は梅に対して優しく振る舞っている氏政の声は少しだけ怒りに震えていた。
「流石にそこまでは言っていませんわ。ですがあなた様はこの北条家の当主なのです。故に出してしまった犠牲をいつまでも悲しむのではなく、それを糧にして前に進めと言っているのです。私の父、信玄のように。そして氏政さまの父である氏康さまのように・・・。」
梅は声を怒りと悲しみで声を震わせる氏政に諭すように語り掛ける。
「流石は信玄どのの娘、というわけか。俺のような無能とは大違いだな。」
氏政は自嘲気味に笑った。
「いいえ、氏政さまは無能ではありません。確かに戦はあまり得意ではないかもしれませんが、あなた様には人を纏める才がございます。そして民や臣下、そして親兄弟同士の争いの絶えない戦国乱世において、兄弟や家族を慈しむことが出来るというわが父でさえも持ちえなかった誇るべき才を持ち合わせております。」
「梅・・・。」
「氏政さま、あなたの夢は何ですか?」
「俺の夢・・・。俺の夢は関東の、関八州の乱世を終わらせ、民と武士の理想郷を作り上げることだ・・・!」
「なれば、その夢を成し遂げるならば立ち上がってください氏政さま。あの子たちが言っていたようにもう一度立ち上がって、強き獅子となりて夢を追い求めてください!」
梅の氏政に再起を求める声はいつもの穏やかなものではなく、どこか力強さが宿っていた。
「梅よ。俺は・・・、俺は獅子になれるか?父のように、いや父を超える強き獅子となることが出来ると思うか?」
「なれますとも。あなた様ならきっと優しくてお強い、関東の覇者に相応しい立派な獅子になることが出来ましょう!」
「そうか。お前がそう言ってくれるならば、なれるかもしれないな。」
「その意気です氏政さま。国王丸や国増丸、そして菊王丸もあなた様が氏康さまの背中を見て育ったように、あなた様の背中を見て育っていくのです。ですから子供たちに恥ずる事のないようにお強い姿をあの子たちに見せてあげてください!!」
そう言われた氏政の脳裏には未来を担う、梅との間に生まれた子供たちの姿がよぎった。
「氏政さんと梅さん、大丈夫かなぁ。」
「どうだかなぁ。嫁さん一筋な兄貴でも今の状態じゃあ義姉貴の説得には耳を貸さねえんじゃねえの?」
千歌の呟きに氏邦がそっけなく答える。
「兄上は意外と頑固だからな。ああなってしまえば説得するにはかなり時を使うだろうな。」
氏照も氏邦の言葉を聞いて深く頷いた。
すーっ
氏照がそう言った直後、梅が入ってから閉まっていた氏政の部屋の襖が静かに開き、梅と共に氏政が出てきた。その顔からは先ほどまでの陰鬱さは消えており、憑き物が落ちたかのようにすっきりとして、いつもの爽やかな雄々しさを纏っていた。
「兄上・・・!」
「兄貴・・・!」
「氏政兄上・・・!」
「氏政さん・・・!!」
その顔を見た氏照ら弟たちと千歌は安堵の声を漏らした。
「みんなすまない。しばらく迷惑をかけてしまったな。そして千歌どの、お主の励ましに対してぞんざいな態度をとってしまって申し訳ない・・・!」
そう言って氏政は頭を下げた。
「そんな、頭を上げてくださいよ氏政さん!私の方こそ、氏政さんの辛さを分かったようにいろんなことを勝手に言っちゃってすいませんでした!」
千歌もまた頭を下げると、
「いや、お主は謝らなくてもいい。お主の言葉は理に適ってる物だった。『悔しさを踏み越えて0から1へと踏み出す』、その心意気を教えてくれたことは感謝してもしきれないものだ。本当にありがとう。」
と言って氏政は千歌の頭を上げさせた。
「えへへ・・・。」
千歌は照れ臭そうに笑った。
「おお、どうやらわしが出る幕は無かったようだな。」
不意に声が聞こえてきたので振り返ってみると、そこには氏康が立っていた。
「父上!どうしてここに!?」
氏政が驚くと、
「嫡男が自分の失態を悔いて部屋に閉じこもっていると聞けば誰だってのんびりしてられないであろう。だが、その様子を見るともう大丈夫なのだな。」
と氏康は言った。
「はい。私にはいずれ父上を超え、関東の乱世を終わらせるという夢がありますので!」
そう言い返す氏政の姿は、氏康の目に臆病者だった頃の自分から脱却し、獅子となる道を歩み始めた頃の自分が重なって映った。
「そうか・・・。それを聞けて安心したぞ新九郎。源三、新太郎、助五郎、梅どの、そしてAqoursの方々よ、これからも新九郎を支えてやってくれ。」
氏康はそう言ってその場にいたみんなに改めて氏政の支えになるように頼んだ。ちなみに源三は氏照の、新太郎は氏邦の、そして助五郎は氏規の
『はい!』
氏政以外の面々は堂々と返事をした。
「それと氏政よ、お主に会いたいという者がいるというので連れてきたぞ。」
「私に、ですか?」
氏政は意外そうな顔をしていた。だが、氏康が真剣な顔をしているのと、呼び方が仮名から実名に戻ったところを見ると、重要な要件なのだろうと察した。
「人払いしましょうか?」
氏政は人払いをさせようとしたが、
「いや、その必要はない。入ってきなさい。」
氏康は人払いする必要はないと言って、氏政に会いに来たという人物を呼んだ。
「・・・。」
おずおずと歩いてきたのは少し小柄な少女だった。
(誰なんだろう・・・。)
千歌たちはその少女を見て首を傾げたが、氏政は表情を強張らせた。
「凛・・・。」
「え?凛さんって・・・。」
「確か、氏政さんの妹さん・・・だよね?」
「あと氏資さんの奥さんずら・・・。」
善子、ルビィ、花丸の三人がそう言うと、
「うそ!?あの人が氏資さんの奥さんなの!?というか名前がμ'sの星空凛さんとおんなじだ!!」
千歌は驚いた。ここで星空凛の名前を出してしまうあたり、流石はμ'sに憧れてアイドルを始めただけあるといってもいいだろう。
「驚くところそこなんだ・・・。」
曜は苦笑いしながらツッコミを入れる。
「でも凛さんは確か娘さんと一緒に江戸城に移っていたのではありませんか?」
「はい、私も少しだけ凛さんの顔を見たことがあります。」
ダイヤの疑問に、江戸城に出入りしている梨子が応えた。
夫である太田氏資が三船山で討ち死にしてから彼女と娘の小少将は岩付城に残っていたが、上杉謙信が度々関東に侵攻してくることから、関東防衛の前線基地である岩付城に残しておくのは危ないと判断した氏康と氏政によって江戸城に移されたのだ。
ちなみに彼女たちが去った後の岩付城の守りに就いたのは第二次国府台合戦で正木信茂を倒した北条康成であった。
「お久しぶりです兄上様、ご壮健そうで何よりです。」
凛は久しぶりに再会する氏政に挨拶をした。
「凛・・・、すまない!俺の落ち度で氏資どのを死なせてしまった・・・!誤って済む話ではないのは分かっているが、無力な兄を許してくれ・・・!」
凛が挨拶し終えるとほぼ同時に、といえるほどの勢いで氏政は凛に対して深く頭を下げて謝罪した。
「・・・え!?そんな兄上様、頭を上げてください!!私は別に氏資さまのことを責めようとしてここに来たわけではないのです!」
氏政の凄まじい勢いでの謝罪が予想外だったのか、凛は慌てて氏政に頭を上げるように促した。
「なに・・・?俺を責めに来たのではないのか?」
「はい、父上から兄上様が氏資さまを死なせてしまったことを深く気に病んでいると聞いたのでお見舞いに参ったのですが、どうやら杞憂だったようですね。」
「いやいや、さっきまで聞く耳持たずで大変だったんだぜ?梅どのが上手く慰めてくれたみたいだけどよ。」
氏邦がげんなりした顔で凛に先ほどまでの状況を教えた。
「そうだったんですか。」
「ああ氏邦の言う通りだ。梅のおかげで何とか持ち直せたが、流石に凛本人が出てくるとなると合わせる顔がないな。」
氏政は自嘲するように呟いた。
「先ほども言ったように私は兄上様を責めに来たわけではありません。」
「だがそれでも俺がお前から夫を奪ってしまったのは確かだ・・・。なんと言えばいいのか分からん。」
そう言って氏政が顔を俯かせると、
「もう!兄上様は少しうじうじとしすぎです!!」
と凛が一喝した。
『ええ!?』
凛の変わりようを見て千歌たちは驚いた。
「え?凛さんってあんな人だっけ?」
凛のことを少しだけ知っている梨子は唖然としていた。
「凛は見た目は大人しいが多少芯が強いというか気が強いというか・・・。なんと言うか姉上に似ているのだ。」
氏照が千歌たちに凛の性格を語った。
「氏照さんたちのお姉さん?」
「ああ、綾という名でな。今は駿河の今川氏真どのに嫁いでいる。」
「へえ~。会ってみたいかも。」
千歌が氏照の言葉を聞いてそう呟いたが、その言葉が意外な形で実現してしまうことになるのはまだ先の話である。
「兄上様はいつまで氏資さまの死を引きずるおつもりですか!?私がいつまでもそれを悲しんでいると思っているのですか!?私も武家の娘なんですよ!夫と死に別れることに対する覚悟はとうにできておりました!」
「しかし・・・。」
「氏資さまは兄上様に感謝していました!家中で肩身の狭い思いをしていた氏資さまを兄上様たちは本当の兄弟のように接してくださりました・・・。氏資さまはそれに恩義を感じて、どのような形でもそれに報いたいと言っておりました!」
「・・・。」
凛の言葉を聞いた氏政は、三船山での氏資の言葉を思い出していた。
「氏資さまは戦に出る前に言っておりました。『この戦で私は義兄上の恩義に報いて見せる。もしかしたらこの戦で私は命を落とすかもしれんが、それは私にとって本望だ。故に悲しまないでほしい。』・・・と。」
「氏資はあの戦にそこまでの覚悟を以て臨んでいたのか・・・。」
「はい。氏資さまは強き覚悟を以てこの戦に臨み、そして兄上様を守るために戦場で命を落としました。ですがそれは氏資さまの意志で決めたこと・・・。兄上様が気に病むことではございません!」
「しかし俺は・・・。」
「これ以上引きずるのはやめてください!それは氏資さまの想いを冒涜することになります!!氏資さまの死を無駄にしたくないとおっしゃるのならば前に進んでください!それこそが氏資さまの願いであり、私の望みでもあるのですから!!」
「そうか・・・。氏資もそれを望んでいるのか・・・。ありがとう凛、お前と梅のおかげでようやく本当に踏ん切りがついたよ。」
そう言う氏政の顔は先ほどの憑き物が落ちた爽やかさだけではなく、強い覚悟が宿っていた。
「俺はもう迷わない・・・。これよりは前へと進んでいく!」
「それでこそ氏資さまの慕っていた兄上様です!!」
「ああ、それと氏資が三船山で俺の息子の国増丸が成長した暁に娘の小少将どのと婚姻を結ばせて太田の跡継ぎにしてほしいと言っていたが認めてくれるか?」
氏政は氏資と三船山で結んだ約束を凛に話した。すると凛は目を潤ませ、
「氏資さまが・・・そう言っていたのですか?」
と言った。
「ああ、それが氏資が俺に託した最後の願いだ。」
氏政も兄らしく優しく微笑んで言葉を返す。
「その話、受けさせていただきます・・・!きっと氏資さまも草葉の陰で喜んでくださると思います・・・!」
凛は氏資の願いを果たせることを喜び、涙を流した。
「ふう、一時はどうなることかと思ったけど一件落着だね。」
曜が安心したようにそう言った。
「まさに雨降って地固まる、ですわね。氏政さんも一回り強くなったみたいですし。」
「お姉ちゃん、ルビィもお姉ちゃんを支えるために頑張るね!」
黒澤姉妹も北条兄妹に倣って自分たちも力を合わせると誓う。
「家族っていいね、千歌ちゃん。」
「うん!でも私たちAqoursも家族みたいなものだよね!私たちの仲も氏政さんたち家族には負けないよ!!」
「そうだね。私たちもこれから力を合わせて頑張って元の時代の内浦に帰ろうね。」
「うん!」
千歌と梨子はそう言って微笑み合った。
『名将とは一度大きな敗北を経験し、それを乗り越えた者を言う。』
戦国時代における伝説的な名将と称された朝倉宗滴は生前にそう語ったという。
相模の獅子と呼ばれた名将、北条氏康の息子である氏政は戦の実力では父に劣り、凡将と評されてきたが、兄弟や家臣たちと力を合わせて関東の大半を平定してみせた。
彼が関東の覇者となる道のりは、この敗北から始まったと言っても過言ではない。氏政は一度の大敗と、義弟の死と引き換えに翼を手に入れた。
若獅子は、坂東を制するために再び立ち上がった。