ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
今回は千歌ちゃんたちの交渉力が試される回です!果たして、個性派揃いにしてくせ者揃いな北条家の重臣たちを懐柔することが出来るのか・・・!?
それではどうぞお楽しみください!!
千歌たちAqoursは氏政とその妻である梅の離縁を阻止するためにそれぞれ各地に点在する重臣たちの元へ交渉に赴いていた。
江戸城にて・・・。
「なるほど、大方の事情は理解した。」
「じゃあ、協力してくれるんですね直勝さん!」
「確かにお前の言い分は分からんでもないが、これは国の問題でもあるのだ。感情的に動いてはならん。」
直勝は梨子の言い分にも理があるとした上で協力を拒んだ。
「そんな!どうして・・・。」
「人というのは感情を優先して動きがちだが、時としてはそれを抑えねばならん時がある。ましてや氏政さまは国主となるお方なのだからなおさら公私の区別を付けるべきだとわしは考えている。」
「確かにそうかもしれませんが、直勝さんだって4年前の国府台の合戦で抜け駆けしたじゃないですか!あれだって公私混同だと私は思います!」
梨子は直勝の言葉に納得しきれずに反論に出た。
「うぐっ・・・!それとこれとでは話は別ではないか!」
梨子に痛いところを突かれた直勝がムキになって反論し返すも、
「まあまあ、梨子どのも直勝どのも落ち着いてください。」
と綱景亡き後の江戸城代筆頭を務める政景が仲裁に入った。
「お二方の意見を聞けばどちらかというと直勝どのの方が正しいと私は思います。しかし、世の中は理屈だけではないと私は思うのです。時には合理的でないことが正しい道を切り開くことがある・・・。そう、例えば父上の様に梨子どのの勧めを受け入れていれば助かったのかもしれなかったのに、敢えて太田康資どのに戦いを挑みその命を以て康資どのに武士の情けを、そして梨子どのに乱世の厳しさを教えたように・・・。」
「政景さん・・・。」
「だからこそ私は梨子さんに協力しようと思っています。それが、最後まで父を救おうと奮闘してくださった梨子さんへの恩返しであり、諱を与えてくださり、三男でありながら家老へと取り立ててくださった氏政さまの恩義に報いるためのすべだと信じていますから!」
政景は一枚の紙に、梨子たちに協力する旨の文を書き、名前と花押をつけ足した。
「なるほど・・・。流石は綱景どのの子だな。その柔軟な考え方は父にそっくりだ。わしも老いたのかもしれないな・・・。」
そう言って直勝は苦笑いしながら、白髪が大半を占めてきた頭を撫でた。彼は本来なら国府台合戦で55歳で討ち死にするはずだったのが、綱成や綱高の奮戦により、それが阻止されたことで直勝は史実以上に年を取っていることになる。ちなみに年齢は今年で59歳となっている。
「そろそろわしも息子に後を託して表舞台から引き下がる時かもしれんが、まだ一つ仕事が残っていたな。」
「直勝さん?」
おもむろに紙に筆を走らせる直勝の事を首を傾げて見ていた梨子だったが、直勝から渡された紙を見てその表情は驚きと歓喜を湛えたものに変わった。
「そら、わしの署名だ。流石の氏康さまも五色備えと三家老の署名があれば少しは思いとどまるはずだ。うまく使えよ。」
いつもは無表情でお世辞にも愛想がいいとは言えない直勝が微笑みながら梨子に言った。
「はい…、ありがとうございます…!!」
梨子は涙ぐみながら直勝に感謝した。
「泣くのも礼を言うのもまだ早いぞ。それは全てが終わってからにするんだな。」
「私も署名だけでなく、最大限に出来ることはお手伝いしますからなんでも言ってくださいね!」
「はい!!」
直勝と政景の激励を受けた梨子は勇んで江戸城から出て行った。
場所は変わって河越城にて・・・。
「ほう、珍しいご客人が来たものだなあ。」
「ハーイ、大道寺さん。今日は大道寺さんに頼みがあってきたの。」
「ほぉ・・・?氏政さまの直臣である小原鞠莉どのが私に頼み事か。それはお前の主には言えないことかな?」
鞠莉が訪ねた相手は河越城の城代である大道寺政繁であった。彼は初代の早雲と共に関東へ下った7人の同志のうちの一人である、『大道寺太郎重時』の曾孫に当たる人物で、早雲の代から仕える最古参の家臣の家柄である『御由緒六家』の筆頭格であると同時に『北条家三家老』の一角を担っているのだ。
「別に氏政さんに言えないことじゃないけど、北条家の宿老の一人であるあなたの力が必要なんですよ。」
「ほう、これはなかなか期待されてるようだが話を聞かないことには何とも言えんなあ。」
政繁はまさに実力者といえる余裕を崩さずに鞠莉から用件を聞きだす。
「氏政さんとその妻の梅さんの離縁を阻止したいと思っているんだけど・・・。」
「それで私の・・・否、私たちの力が必要なのだと言いたいのだろう?」
「あら、まだ最後まで言い終わってなかったのに。レディーの話は最後まで聞いたほうがいいですよ?」
「ふふふ、すまんな。で、私にも協力して欲しいのだな?」
「ええ、北条家の家臣の中でもランクの高い大道寺さんにも協力して欲しいのよ。」
「ふむ、事情は理解したがそれ故に三家老の一角を担う私がおいそれと動くわけにはいかんのだよ。何せそれは氏康さまに逆らうことになるのだからな。」
「でも当主は氏政さんで氏康さんは隠居中でしょ?」
「ふふふ、分かっておらんな。確かに氏康さまは氏政さまに実権をお渡しされたが、ご存命であられる限りその影響力が無くなることはないのだよ。それに氏政さまと奥方さまの離縁を阻止しても私には何の利益が無い。この乱世において利益なくして人は動かすことは出来んよ小原どの。」
「そう・・・。確かに何の見返りもなくチキンレースに加わってくださいなんて言ってイエスという人なんているわけないですからね。なら、加わるメリット・・・利益をつけてあげればいいんですよね?」
鞠莉が不敵に笑いながら言うと、
「ほう?お主のような小娘にこの私を惹きつけるような利益を生み出す方法を知っていると?」
政繁も同じく不敵に笑いながら鞠莉に内容を聞く。この二人の様子を他人が見たらまるで越後屋と悪代官のようだと言いそうな雰囲気である。
「うふ、この小原鞠莉を舐めて欲しくないですね。私はこう見えてもホテルチェーンのオーナーの娘で学校の理事長も現在進行形で勤めてるから経営に関してはそれなりに自信があるのよ!」
「ふむ、ホテルチェーンだの理事長だのが如何なるものかは存じ上げぬが、お主も私のように吏僚として動いたことがあるらしいな。」
「イエス!そこで・・・、政繁さんが私たちに協力してくれたら私が現代で覚えた経営術をあなただけに教えてあげようと思うのだけど、どうかしら?」
鞠莉は政繁に耳打ちをするかのように条件を提案した。
「現代で得た経営術とな?」
「ええ、氏政さんから聞いてるわ。政繁さんってこの河越城の城代として熱心にこの周辺を開発したり商業を発展させたり、おまけに掃除奉行とか火元奉行なんてのも作ったりしてるんですってね。それに加えて私の経営術を加えればこの町はもっと豊かになると思うわ。」
「なるほど、確かにそれは魅力的な話だな・・・。」
(小原どのが言ってることが嘘か真実かは確証はないが、もしも本当ならばこれはとてつもない益を生むことになる…。ふふふ、ここは騙されたと思って乗ってみるのも悪くはないな。)
政繁はひとしきり考えた後、
「いいだろう。その話、乗らせてもらおうか。」
と鞠莉の要求に答えた。
「オウ!ありがとう大道寺さん!!」
「で、協力すると言ったが何をすればいいのかな?」
「とりあえず大道寺さんの署名が欲しいの☆」
「ほう、署名だけでいいのか。内容は氏政さまと奥方様の離縁への反対・・・というものでよいのだな?そら、これでよいのだろう。」
政繁は自らの署名を鞠莉に渡した。
「サンキュー!」
「さて、お主の要求に答えたのだ。お主が未来で培ったという経営術とやらを私に教えてもらおうか?」
「ええ、もちろんちゃんと教えますよ?ただ、少し長くなるからここではほんの一部しか教えられないけどそれ以外は後々に書状にまとめてあげマース☆」
「はっはっは。そうか、そこまで濃密なものなのか!それは楽しみだな。」
「楽しそうですね大道寺さん。」
「そりゃあそうだとも。河越が栄えればその分だけ私が率いる河越衆がより強固になり、それが氏康さまや氏政さまのお役に立つのだからな。」
政繁はからからと笑いながら言った。その日は鞠莉は帰るギリギリまで政繁と語り明かしたという。
次は玉縄城・・・。
「・・・そういうわけだからお願い!綱成さんと康成さんに協力してほしいの!」
玉縄城にある綱成の部屋で果南は手を合わせ、頭を下げて綱成父子に協力を頼んでいた。
「俺は反対だな。」
康成はため息をつきながら言った。
「そんな康成さん・・・!」
「前々から思ってはいたが氏政どのは甘すぎるところがあるのだ。まあそれは多くの人を引き寄せる、人の上に立つものとしてはこれ以上ない長所ではあるが、その情の深さが甘さとなって苛烈な判断を下せなくなる・・・、今の状態がまさにそれではないか。」
「・・・!」
「それにもし梅どのが父である信玄入道に我らの情報を流していたらどうするんだ?」
「康成さんは梅さんを疑ってるんですか!?」
果南は康成の言葉を聞いて彼に掴みかからんとしたが、
「落ち着け果南、別に梅どのを本気で疑っているわけではない。俺はあくまでも仮定の話をしているんだ。」
康成は果南を制止しながら言った。
「でもそういう考えが浮かぶっていう事は少しはそう思ってるって事じゃないですか。」
「そりゃ今は乱世だからな。この北条家は例外なだけで普通は身内でさえも敵になりかねないのだから常に最低の状況を想定するのは当たり前のことだ。」
「綱成さんはどう思ってるんですか!?」
「父上はどう思ってるんだ?」
果南と康成は綱成に意見を求める。
「ん、俺か?俺は協力してやっていいと思うぞ。」
二人が激論を交わしていたのにも関わらず、綱成は二つ返事で答えた。
「なっ・・・!いいのか父上!?」
「氏康の奴は康成が考えたことも視野に入れてるだろうが、そもそもは娘のことでカンカンにキレちまってそんなことを言い出したんだろ。あいつは昔っから変なところで意地っ張りなとこがあるからなあ、言っちまった後に冷静になって自省するも一度言い出したことは引っ込みがつかなくなってるんじゃないか?」
「綱成さんすごい・・・。」
果南は綱成の推測を聞いて感嘆した。
「そりゃあ俺たちはガキの頃から一緒にいたからな。血は繋がってなくても魂で繋がってる
綱成はドヤ顔でそう言いながら笑った。
「んで署名がありゃいいんだよな?ほい、これでいいんだろ?」
「は、はい!ありがとうございます綱成さん!!」
「康成はどうするんだ?」
「俺は別に・・・。」
「そんなつれないこと言ってやるなよ~!かわいい妹分が頭下げて頼んでるんだから聞いてやっても罰は当たらないと思うぜ?それに、もしお前と奈々が氏政と同じ状況になったら同じ事言えるのか?」
部屋から出ようとする康成に綱成がニヤニヤしながらそう言うと、
「なっ・・・!奈々のことは今は関係ないだろう父上!」
康成は顔を赤くして慌てながら綱成に反論した。
「そう怒んなよ康成、冗談だよ冗談!」
「全く・・・。協力すればいいんだな?筆借りるぞ父上。」
康成はそう言うと、
「俺の署名だ。やると言ったからには成し遂げてみせろ。流石に氏政どのが落ち込むさまを立て続けに見せられちゃ堪らんからな。」
と言って果南に署名を渡した。
「ありがとう綱成さん、康成さん!絶対やってみせるからね!」
果南はそう言うと走って部屋から出ていった。
「お前ももう少しは果南みたいに素直になってくれればいいんだがな。」
「そのへんはほっといてくれ父上。じゃあ俺は岩付に戻る。」
果南の背を見送りながら呟く綱成に康成は素っ気なく反論して岩付城へと帰っていった。
そして次は・・・。
「で、いきなり私たちのところに来てどうしたというんだ曜どの?」
「全くだぜ。今は武田に対する備えをしなくちゃいけないってのによ。」
曜は氏照の居城である滝山城に来ていた。そしてそこには氏照と武田に対する対策を話し合うために来ていた氏邦もいた。
「いやあ、実は氏照さんと氏邦さんに頼みごとがあって・・・。」
曜が話を切り出そうとすると、
「兄上と梅どののことだろう?」
氏照が話の内容を察した。
「え!?なんで分かったんですか!?」
「そりゃ兄貴が梅どのとの離縁を渋ってるのなんて家中じゃ有名な話だぜ?まさかお前らを使って工作してるとは思わなかったがな。」
氏邦は呆れながら言った。
「違うよ氏邦さん!これは私たちが言い出して私たちがやってることなんだよ!」
曜は二人に反論する。
「なに?兄貴の命令じゃねえのか?」
「はい、氏政さんは氏康さんに何とかそれをやめさせてほしいって説得してたんだけどダメだったみたいで・・・。氏政さんがすごく辛そうだったから私たちが何か力になれないかって思ってこうしてるんです!」
「なるほど、それで私たちに協力を仰ぎに来たというわけか。」
「だとしたら俺たちは協力できねえな。」
「え!なんでさ!?」
「おいおい、俺と氏照兄貴は対武田の最前線の拠点を守ってるんだぜ?義姉上を疑ってるわけじゃあねえが、こっちの情報を漏らされちゃ俺たちにとって不都合なんだよ。」
「氏邦の言う通りだ。そういうわけだから残念ながらお主たちに協力することは出来ない。」
そう言って氏照は首を横に振った。
「そんな!あの時だって梅さんのおかげで氏政さんが立ち直ることが出来たのに、梅さんがいなくなったら氏政さんがどれだけ悲しむか・・・!」
「そんなことは分かってる!!だが、大名たる者ならばいずれは何かを犠牲にするような決断をしなくてはならんのだ・・・!」
氏照は拳を震わせながら曜に反論する。
「そりゃあ俺達だって義姉上がいなくなっちまうのは寂しいけどよ、でも兄貴はもう国王丸やその弟がいるし、いずれは代わりの正室をとることになるだろうさ。」
「お、おい氏邦・・・!」
氏邦は曜を落ち着かせるためにそう言って宥めたが、
「なんですかそれ・・・。それじゃあ梅さんが道具みたいじゃないですか!!」
完全に曜の逆鱗に触れてしまった。
「い、いや別に俺はそういう意味で言ったんじゃなくってあくまでも武家としての一般常識を・・・!」
氏邦は何とか弁明しようとするが、
「いいえ!いくら氏邦さんでも許せません!!悪気が無くても言って良いことと悪いことがあるって氏康さんか瑞穂さんかお兄さんたちに教わりませんでしたか!?」
曜はガンガンまくし立てる。一応氏邦の名誉のために弁護するが、彼は本当に悪気が無く当時としては当たり前のことを言っただけなのだが、現代に生きている曜からすればあまりにも認められない価値観なので激高するのも当然だった。価値観の違いとは悲しいものである。
「お、教わったけどよ・・・。」
「じゃあそんな事言う必要ないじゃないですか!もしも氏照さんや氏邦さんが同じ状況になったら二人ともそうやって奥さんを捨てることが出来ちゃうんですか!?」
「おいおい、
「というかこっちまで巻き込まれたぞ!?」
「いや、二人とも無関係なんて言わせませんよ!質問にはしっかり答えてください!!」
曜は畳を叩きながら氏照と氏邦に詰め寄る。
「うぐ・・・。そりゃあ俺達だって迷うけどよ・・・、北条を守るためなら離縁するしかねえだろ・・・。」
「私も氏邦と同意見だ・・・。比佐には悪いとは思うが北条を守るためなら是非もない・・・。」
二人は苦い顔をしながら答えた。
「ふーん、そういう答えを出しちゃいますか・・・。」
「な、なんだよキレたと思ったら急にニヤニヤしやがって・・・。」
「そういう答えを出すなら奥さんの前でも言えるのかなーって思っちゃいましてね?」
「ああ言えるともよ!大福の前でも堂々と言ってやるぜ!!」
曜のペースに飲まれていた氏邦はいつの間にかいつもの勢いを取り戻して曜に啖呵を切った。
「言いましたね?確かに言質は取りましたよ!」
曜も勝ち誇ったような顔で氏邦の売り言葉を受けた。
(なんだろう。すごい嫌な予感がする・・・。)
氏照は曜の自信満々な様子を見て少し冷や汗を顔ににじませた。
「だそうですよ大福さんにお比佐さん!お二人に言いたいことがあったら入ってきてください!!」
曜は横の襖に向かって呼びかけた。
「おいおい、お比佐どのなら兄貴の居城であるここに居るのは分かるが大福は俺の鉢形城にいるんだぜ?ここにいるわけ・・・。」
氏邦がそう言って振り向くと、
「私が・・・、なんですか?」
「話は聞かせてもらいましたよ氏照さま♡」
なんと氏照の妻の比佐と氏邦の妻の大福御前が立っていたのだ。
「げえっ!大福!!」
「げえっ!比佐!!」
思わぬ人物の登場に二人はどこぞの中華の武将のような驚き方をしていた。
「そんなわけでゲストの二人に来てもらっちゃいました~。あれ、二人とも顔色が悪いですよ?」
曜がニヤニヤしながら聞くと、
「当たり前だろ!!」
と氏邦は叫び、
「なあ、比佐。この話はどこから聞いてたんだ・・・?」
氏照が恐る恐る比佐にたずねると、
「えっと、曜さんが氏照さまたちに話の内容を話そうとしたところから・・・ですね。」
と比佐は答えた。
「ほとんど全部聞いてんじゃねえか!!」
「そうですよ氏邦さま。せっかくお世話になってる義兄さまご夫妻に対して少し薄情すぎるかと存じますよ?」
「そ、そりゃあ今は乱世だからな・・・。」
「そりゃ大福も武家の娘として覚悟はできていますがそうもあっさりと『家のためなら離縁する』と言われると少し傷つきます・・・。」
「いやマジで悪かったって・・・。まさか大福がいるなんて思わなかったんだよ・・・!」
氏邦は必死に妻に弁明する。悪意が無いとはいえ自分の発言で女性の地雷を踏みまくるのはあまりにも不憫であった。
「じゃあ、そういうわけで夫婦水入らずで話して絆を取り戻してください!」
「はい、じゃあお言葉に甘えますね曜さん。」
曜の言葉を聞いた大福は氏邦を引きずっていく。彼女は可憐な容姿であるが、のちに小田原征伐で夫である氏邦と共に鉢形城に籠って指揮を執ったという女傑でもあったため、氏邦を引きずるのは容易かった。
「氏邦さん頑張ってくださいねー。」
曜は引きずられていく氏邦に手を振った。
「てめっ、ちょっ・・・、貴様ああああああ!!!」
氏邦はそんな曜に怨嗟の叫びを浴びせながら奥の間へと消えていった。一方氏照夫妻の方はというと・・・。
「義兄さまや梅さまはたくさんの子宝に恵まれてるというのに私たちは未だに子が出来ず・・・。だから先ほどのような発言を・・・?」
「いや落ち着け比佐・・・。あれは兄上たちが特別なだけで別に比佐が悪いわけじゃないんだ。それに子は授かりものだというし私もお前もまだまだ先は長いんだ。気長に待とうじゃないか・・・。」
氏照は何とか比佐を必死に慰めていた。
(うーん、本当は大福さんと比佐さんに説得の協力をしてもらおうと思ったんだけどなんか違う展開になっちゃったなあ。でもまあいっか!)
どうやら曜の考えていた筋書きとはだいぶ展開が違っていたらしいが、彼女は気にしないことにした。
そしてかれこれ1時間弱が過ぎた頃、曜の前には氏照と氏邦が正座で座っていた。氏邦が心なしか少しボロボロになっているが、曜はそれについては何が起きたのか察したらしく何も聞かなかった。
「それじゃあ二人とも協力してくれますね?」
「あ、ああ。」
「おう・・・。」
そう言って二人は自分の署名を曜に差し出した。
「氏照さん、氏邦さん!ご協力に感謝するであります!」
曜は確認した後に敬礼しながら礼を言った。
「人の嫁を引き込んどいてよくもまあ言ってくれたもんだなオイ・・・!」
氏邦は顔を引きつらせながら言った。
「そういえば氏邦さんって恐妻家なんですか?」
「人の嫁を鬼嫁呼ばわりは感心しねえな。あいつは普段は優しいがキレると怖えだけなん・・・。」
「何か言いましたか?」
「いや、何でもねえよ。ほら、曜どのも署名くれてやったんだからさっさと戻りな。」
「曜どの。やるからには兄上と義姉上のことは頼んだぞ。」
「もっちろん!私たちに任せてください!!ヨーソロー!」
そう言うと曜は足早に去っていった。
「なあ大福、詫びと言っちゃなんだが帰りに城下の店でなんか買ってやるよ。」
「いいんですか?氏邦さま。」
「ああ、流石に悪いことしちまったしな。」
氏邦は頭を掻きながら言った。
こうして梨子、鞠莉、果南、曜が説得に成功したが、果たして残りのメンバーは無事に懐柔することは出来るのか!?
いかがでしたでしょうか?
何とも強烈な登場をした氏照と氏邦の奥様方ですが、二組とも恐妻家ではありませんよ!普段は仲がいいけど二人の発言で誤解を招いちゃっただけで普段はほんとに仲がいいんですよ!!(大事な事なのでry)
何とか梨子、鞠莉、果南、曜の四人は無事に懐柔が成功しましたが、果たしてほかの5人はどうなるのか・・・。それは次回のお楽しみです!
それでは次回もまたお楽しみください!!