ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
今回は二日連続の更新です!!(ただ1話分の話を二つにしただけ)
いよいよ残るはダイヤ、花丸、千歌の三人!果たして千歌たちは作戦を遂行できるのか!?
それではどうぞお楽しみください!!
「本日は急な呼び出しにも関わらず集まっていただき、誠にありがとうございます。」
「よいよい、ダイヤどのは年若い娘・・・それも客人でありながら我ら評定衆の評定に貢献してくれておるのだ。そんなお主の頼みを聞いても悪くはあるまい。」
頭を下げたダイヤを制したのは評定衆筆頭を務める狩野泰光である。
「そうですよ、水臭いこと言わないでください。」
「三人集まれば文殊の知恵と申しますが、我らが集まればそれ以上でございましょう。」
泰光に続いて言葉を発したのは、千歌たちを氏規と共に救った笠原康勝の年の離れた弟である笠原康明と、北条家の家臣団名簿ともいえる『小田原衆所領役帳』をまとめた奉行の一人で、北条家の領国における年貢の量などを測る公用の枡、『安藤升』を提案した財政面で活躍した官僚の安藤良整である。
「定例の評定はついこの前に済ませたばかりですが如何なる用件でダイヤどのは我々をお呼びになったのでしょうか?」
「普段冷静な彼女の事だから急に我々を読んだという事は何らかの事情があるのだろうな。」
康明と良整に続いて口を開いたのは寺社奉行を務める板部岡江雪斎と康勝と共に伊豆を統治している清水康英だ。評定衆に所属している家臣は他にもいるが、評定衆は輪番制であり今回集まったのは最近に行われた評定に参加していた者たちである。
「しかしすまんなダイヤどの。他にも人を呼ぼうと思ったんだが・・・。」
「いえいえ、康英さんのお気遣い誠に痛み入ります。でも今回皆さんにお話ししたいことは少しばかり秘密裏に運びたいものなので、あまり人数が多くならない方がいいと思ってましたので。」
「む、そうなのか。」
「秘密裏に・・・ですか。一体どのようなお話なのでしょうか?」
話の口火を切ったのは良整であった。
「そうですね。皆さんは氏政さんが梅さんと離縁するかもしれないという話はご存知でしょうか?」
良整の問いに応じてダイヤは本題を切り出した。
「なんと!?噂では聞いていたが誠だったとは・・・。」
「私も耳にしていましたが愛妻家である氏政さまに限って、と思っていたものですから・・・。」
「康英どのは伊豆に、康明どのは岩付に駐在しておられるので知らずとも無理はありません。」
「しかし何故そのようなことに!?武田が駿河に攻め入ったのは知っておるが氏政さまはどうして・・・。」
「氏康さまのご命令ですよ。綾姫さまが這う這うの体で小田原まで逃れられたのは伊豆にいる康英どのならご存じのはず。」
「それで綾姫さまの様子をご覧になってお怒りになった氏康さまはその報復措置として氏政さまに奥方様をお返しするように指示を出されているのだ。しかし当の氏政さまは渋っておられる様子で話は難航しておるがな。」
解せない様子の康英に江雪斎と良整が状況を説明した。
「なるほど・・・。それでダイヤどの達はそれを止めようと・・・。」
「氏政さまが渋っておられるのもダイヤどの達が解決策を考えつくための時間稼ぎ、というわけですか。」
「いいえ、それは違いますわ康明さん。私たちは氏政さんの命令で動いてるのではなくあくまでも私たちの意志で動いてるのです!それに、氏政さんと梅さんの離縁について知ったのもつい昨日のことですので、氏政さんが離縁を渋ってるのは私たちが動き出したのと全く関係はありませんわ!」
康明の出した考察にダイヤは反論した。
「お主の想いはよく分かった。だが、果たしてお主らの策には勝算はあるのか?」
今までほとんど会話に入ってこなかった泰光が口を開いた。
「確かに氏政さまと奥方様の離縁は残念なものではあるが、これは世の
泰光はダイヤに忠告をする。北条家の行政機関の頂点ともいえる評定衆の筆頭であるだけにその気迫は尋常ではなく、ダイヤは思わず息を呑んだ。
「果たしてお主らにはその覚悟と意志はあるか?生半可な同情で動いてるというのであれば、この狩野
ダイヤは泰光の奉行人とは思えないほどの威圧感に気圧されかけるが、不意にその口元をにやつかせた。
「む、何かおかしなことでも言ったか?」
「いえ、泰光さんの意見も一理あると思いました。しかし私たちAqoursはここに来る以前よりいくつもの苦境にぶつかってきましたわ。ですが、発起人である千歌さんは困難にぶつかってもその度にその壁を越えてきました。だからこそ私たちメンバーは彼女の『輝きたい!』という不撓不屈の意志に惹かれてここまで活動してきたのです!その覚悟と結束は泰光さんに言われるまでもなく、絶対に揺らぐことはありませんわ!!」
ダイヤは泰光に対して雄弁に反論を述べる。
「確かに覚悟は見事なものだな・・・。だが勝算はどうだ?覚悟だけでは勝てぬぞ?」
「心配には及びませんわ!私たちにはとっておきの切り札があります!!」
ダイヤは堂々と胸を張りながら語った。
「とっておきの・・・。」
「切り札・・・!?」
「一体どのような切り札を隠し持ってるというのだ!?」
ダイヤの言葉に江雪斎、康明、康英は驚きを隠せなかった。
「まあ、これを考えついたのは私ではなく千歌さんですが確実にこの状況をひっくり返すことができる物だと私たちは思っていますわ!」
「ほう・・・。その切り札がどのようなものか是非とも伺ってみたいものだな。」
「流石に泰光さんとはいえ、これをお教えすることは出来ませんわ。」
「ははは、それは残念だな。」
「ですが皆さんならば真っ先に考え付くような単純明快なもの、とだけ言っておきますわ。私たちも千歌さんがそれを言い出した時は驚きましたもの。」
「なるほど。なんとなく考えはつくが・・・、実に面白い試みではあるな。はははは・・・!!」
そう言って笑いだす泰光を見た他の4人は彼の考えが読めず、怪訝な表情を見せる。
「聞け皆の衆、我ら評定衆は高海千歌どの率いるAqoursに協力しようと思うのだが、異存はおありかな?」
4人の顔を見回しながら泰光がそう言うと、
「異存はありませぬ。」
「この江雪斎もありません。」
「この康明も同じく!」
「無論、この康英は泰光どのがなんと言おうと協力するつもりでござった!」
良整、江雪斎、康明、康英の4人も全会一致で賛成した。
「皆さん・・・!本当にありがとうございます!!」
ダイヤは思わず涙ぐみながら礼を言った。
「我らはお主たちの覚悟に心を動かされただけ・・・。さあ、我ら評定衆の連署だ。お主たちのこの一連の動きの責任はこの泰光が負う。存分に動くといい。」
そう言う泰光の顔は先ほどの威圧感とは無縁な、娘を送り出すような慈悲深い笑顔を浮かべていた。
「はい!必ず成し遂げてみせますわ!!」
ダイヤは泰光にそう言って部屋から出て行った。
「ふふ、氏康さまと氏政さまとの謁見の頃から思っておったが、まことに胸のすく、潮風のように爽やかな女子たちだのう、Aqoursと言うのは。」
「そうですねえ。」
「兄上の言う通り、真っ直ぐな方でした。」
「最近は帳簿とにらめっこばかりしておるせいか、海へと潮風を浴びに行きたくなりますな。」
「海ならばそれがし、いい所を知ってますぞ!小田原の海はいいものですからな!」
「そうだな、情勢が穏やかになったら海にでも行こうかのう。」
泰光たち評定衆は、ダイヤの背を見送りながら談笑していた。
一方、久野の幻庵屋敷にて、
「お願い幻庵おじいちゃん!氏政さんと梅さんの離縁を阻止するのに協力してください!!」
「なりません父上!武田は我らと今川の盟約を破った不義の者!いくら氏政どのの妻であろうと、武田の者であるならば送り返すべきです!このような小娘のいう事に耳を傾ける必要などありません!」
花丸の意見に反対しているのは幻庵の子供である氏信であった。
「ふむ・・・。確かに新三郎(氏信)のいう事も最もだのう・・・。」
幻庵は氏信の意見を顎髭をいじりながら聞いていた。
「確かに武田さんのしてることは悪いことずら!でも、その責任を梅さんにも押し付けるなんてあんまりずら!!親は親、子供は子供だってマルは思います!!」
花丸は氏信の言葉に反論した。
「ふむふむ、どっちのいう事も一理あるのう・・・。」
幻庵はそう言ってもう一度頷く。
「父上!初代早雲公の子であらせられる聡明な父上なら北条家の為すべき事が何であるかは分かっておられるはずです!」
「それとこれとは関係無いずら!」
「いやある!!もし武田の姫を置いておけば必ずや我らの情報が流されるに違いない!さすれば武田の手によって駿河だけでなくこの関東さえも蹂躙されてしまう!関東の民を思えばこそ氏政どのの奥方には犠牲になってもらわねばならぬのだ!!」
「違うずら!!確かに関東に住む人たちを守ることも大切ずら・・・。でも!その為に家族を切り捨てるのはおかしいずら!!」
「それはただの綺麗ごとだ!我らは大義を抱くからこそ、時には犠牲を出さなくてはならない!氏政どのの奥方も、北条の大義のためだと聞けば素直に甲斐に戻るでしょう!!」
「おかしいずら!大義のための犠牲なんて・・・、それこそ詭弁ずら!!大儀だからこそそうやって何かを切り捨てずに成し遂げることが大切なんです!!」
「・・・。」
幻庵は氏信と花丸の舌戦を無言で見守っていたが・・・。
「新三郎よ。」
突然氏信の名を呼んだ。
「はっ。なんでしょうか父上!」
「新三郎、わしの兄上が氏康に残した五箇条の御書置のうちの二箇条目を言ってみよ。」
「え?は、はい!侍中より地下人・百姓等に至るまで、何れも不便に存せられるべく候・・・。これが何か?」
「うむ、わしら北条家は武士から農民に至るまで全ての民を慈しむべきである。そう兄上は仰せられた。」
「ですから私は・・・!」
「まて新三郎。そして兄上はこうも言っておる。この世に捨てるべき人間はいない、ともな。」
「そうでございますが、それはあくまでも人を用いる際の心構えではありませぬか!」
氏信は幻庵の言い分に対して反論する。
「確かにその通りである。だがな新三郎、人に捨ててよい者などおらぬのだ。この乱世では国を守るために何かを切り捨てなければならん事もあるが、それが果たして本当に正しいことかと思うか?」
「それは・・・。」
「まあ、大半の者に聞けば正しいと答えるじゃろうな。だが兄上は違うと仰っていた。兄上は最初に義を重んずるべしと仰っておる。何かを成し遂げるために何かを切り捨てるという事は兄上や氏康が嫌う『義を違えての繁栄』だとわしは考えておる。義を軽んじて作り上げた繁栄と安寧に意味はあると思うか?」
「・・・私もその通りだと思います。」
氏信は幻庵の言葉に項垂れながら頷いた。
「氏信よ。大義を成そうというその志は見事なものじゃが、そればかりを追い求めて大切な物を見逃すようなことはあってはならん。時には立ち止まって見つめ直すことも大切じゃぞい。」
「はい、父上・・・!」
氏信は幻庵の言葉に涙を流していた。
「さて、花丸どの。」
「は、はい!」
「お主もよくぞ我が息子を相手に臆することなく論戦を繰り広げたのう。新三郎は弁舌に長けておったのじゃが、見事じゃったぞ。」
「幻庵おじいちゃんがいろいろ教えてくれたおかげずら!」
花丸は屈託のない笑顔で答えた。
「ほっほっほ。さて、そんな花丸どのの成長に免じて氏政の離縁阻止に関してはわしも協力してやろう!」
幻庵はそう言って署名を花丸に渡した。
「ありがとうございます、幻庵おじいちゃん!おらたち、絶対やってみせるから!」
花丸がそう言って部屋を後にしようとすると、
「待ってくれ!」
氏信が花丸を呼んだ。
「その・・・、お主のおかげで私はおのれの未熟さと間違いに気付くことができた!そして小娘と言ってすまなかった!!」
氏信は花丸への感謝と謝罪の念を込めて彼女に頭を下げた。
「こちらこそ、熱くなっていろいろ言ってごめんなさい。今度は幻庵おじいちゃんと一緒に縁側でお菓子を食べるずら!」
「ああ、そうだな!」
氏信は花丸の言葉に笑顔で頷いた。また後日、幻庵屋敷の縁側で三人が笑いながら過ごしていたというのは、また別の話である。
そして、いよいよ千歌のいる韮山城にて・・・。
「千歌どの。あなたは自分がやろうとしていることがどういうことか理解したうえで動いていますか?」
千歌から事情を聞いた氏規は千歌に一つ質問をした。
「私がやろうとしていること・・・?えっと、氏政さんと梅さんの離縁を止めるってことだから・・・、うーん・・・。」
千歌はその場で考え込んだ。氏規はその様子を見てため息をついて、
「千歌どの達は我々北条家の内政に介入しようとしているってことですよ。」
と言った。
「え?だって私たち一応氏政さんの家臣だしそれってあまり問題は無いんじゃ?」
千歌がきょとんとした様子で聞き返すと、
「いや、問題は大有りだ。確かに千歌どの達は氏康さまと氏政さまのお眼鏡にかない当家への仕官を許された身だが、それでもお主らがよそ者であることに変わりは無いのだ。」
氏規に代わって康勝が千歌に反論した。
「そんな!康勝さん達は私たちのことをそんな風に思ってたんですか!?」
「待て待て、誰もそうは言っておらん!私たちはお主らを信じてるし、何より国府台での戦や様々な局面で手柄を立てているのも分かっている!だが、それでもお主らに対して疑いの目を向ける者がいるのもまた事実だ、という事だ。」
「康勝どのの言う通りです。きっと家臣の中には千歌どのたちが氏政兄上の直臣であることをいいことに権力をほしいままにしていると考える者がいてもおかしくない・・・。ましてや此度の一件でもし兄上の離縁を阻止できても、それは兄上の直臣であるという強みを用いて押し通したと思われるでしょう・・・。」
「私たちは別にそんな権力とか興味無いのに・・・。」
「ええ、それは私たちが一番わかっています。ですが人が人を見る目というのはいくらかの偏見が混じっているのもまた事実なんですよ。」
「無論、疑いの目を向けられれば潔白であると証明することは難しくなるだろうな。」
「千歌どの達はそうなると分かってもなお、自らのやろうとしていることをやり通す覚悟はありますか?」
氏規は千歌に問うた。口調はいつも通りの穏やかなものであったが、彼の目は鋭くまっすぐに千歌の目を見据えていた。
「私は家の事情とか政治とか権力とかそういうことは全然わかりません・・・。でも!それでも私たちは氏政さんを、梅さんを・・・、そして国王丸くんたち氏政さんの子供たちを助けたいって思うの!!だって氏政さんは氏規さんの次に、この時代に来て何も分からなかった私たちにこの時代での生き方や、北条家の皆さんの親切に報いるための方法を私たちに教えてくれたんだもん!!国府台とか三船山とか、いろんな場所で一緒に戦って、一緒に笑って、一緒に泣いて、色々な経験を氏政さんとしてきた!!だから私たちAqoursにとっては氏政さんも大事な仲間なんだ!!」
「仲間・・・。」
「氏政さんね、梅さんに離縁しなくちゃいけないことを伝えた時、すごく辛そうな顔してたの。本当は泣きたいはずなのに大名だから、夫だからって、悲しい気持ちを押し殺して、でも抑えきれなくてすごく辛そうだった!!梅さんも本当は氏政さんと一緒に泣きたかったはずなのに泣かなかったんだよ!?氏政さんを悲しませないために、国王丸くんに何でもないように見せるために泣かなかったんだよ・・・!」
語るうちに千歌は涙をぼろぼろと零していた。
「私たちはそれを見ていてすごく辛かったの。ただ辛いんじゃなくって、2人に対して何もできないことが辛かった・・・。大事な仲間のために何もできない私たちの無力さが辛かったんだ・・・!だから私たちは私たちのやれることを考えたの。それで思いついたのが今やってることなの。」
「・・・。」
「私たちが嫌われ者になっても構わない!北条家を追い出されても構わない!!でも、氏政さんと梅さんだけはどんな事をしても助けたい・・・!そのためなら私たちはどうなっても構わない!!」
『・・・!』
千歌は力強くそう言った。その目は強い覚悟に満ちており、氏規と康勝は気圧されそうになった。
「・・・千歌どの達の想いはよく分かりました。ですが、少し捨て鉢気味なのはいけませんね。」
「え?」
突然氏規が優しい声で語り掛けたことに、千歌は戸惑いを隠せなかった。
「祖父さまの遺訓の二箇条目によれば『人に捨てるところは無く、万民を慈しむべし』とあります。人を大事にするという事は、自分のことを大事にして初めてできることだと私は考えています。ですからそのような悲壮的な事を言わないでください。もし追放されたとしても私があなた達を側に置きますから。それがこの時代に来たあなた達を拾った私の責任であり、千歌どの達への感謝の気持ちなのですから。」
「感謝の気持ち?」
「はい。実は正直な話、兄上の離縁の話を聞いたときから千歌どのがここに来るのはなんとなく分かってたんです。」
「ええええ!?そうなんですか!?」
「はい、そして千歌どのがかつて初めて会った場所で共に賊に囲まれ、万事休すだったところを『らじかせ』を用いて賊を倒したように、何か突拍子もない策を考え出して兄上たちを救ってくれるだろうと思ってたんです。」
氏規はそう言うと、懐から書状を取り出し、
「さあ、これも使ってください。私達も千歌どの達の力になります!」
と言って千歌に自分の名前を書いた署名を渡した。
「私の事を忘れてもらっては困るな。そら、私の名も使うがいい!」
氏規に続いて康勝も署名を渡した。
「氏規さん・・・!康勝さん・・・!うわああああああん!!ありがとうございまずううう・・・!」
緊張の糸が切れたのか、千歌は感極まって大泣きし始めた。
「ああ、泣かないでください千歌どの!!」
氏規と康勝は千歌を宥めるが、泣き止ませるまで30分近くかかった。
「じゃあ氏規さん、康勝さん!小田原に帰るね!」
「ああ、気を付けろよ。」
「もう少し休んでいってもいいのでは?ここに来てからまだ半刻(1時間くらい)ほどしか経ってませんよ?」
「ううん、私にはまだやることがあるの。だからゆっくりしてられないんだ!」
「やること?」
「うん!私たちの『とっておきの切り札』の準備があるんだ!あ、もちろんそれが何かは氏規さんと康勝さんでも教えられないよ!」
千歌はそう言っていたずらっぽく笑う。
「千歌どのがそう言うならきっとすごいものなんでしょうね。」
「うん!じゃあまたね!!」
千歌は短く挨拶をして馬にまたがって走り去っていった。
「まるで風のようでしたな。」
「ええ、それも実に爽やかな風でした・・・。」
千歌の背中を見ながら二人は感慨深げに呟く。
「あれが氏規さまの言ってた千歌さんですか?」
「ああ、そうだよ・・・。って翠!?」
「み、翠さま!?」
氏規の傍らにいつの間にか翠と呼ばれる女性が立っていた。冷静沈着な康勝もこれには驚いた。何故ならこの女性は氏規の正室であるからだ。
「いつからそこにいたのだ?」
「つい先ほどですよ。氏規さまが話していたAqoursという一座の人が来ていると聞いて一目見たいと思ってたんですがすぐに帰ってしまうなんて・・・。氏規さまももう少し引き留めてくださってもいいのに。」
「無茶を言わないでくれよ。あんな楽しそうな顔で次にやるべきことをやろうとするのを止めるなんて申し訳ないじゃないか。」
「確かに遠目からですがすごく楽しそうな顔してましたもんね。」
「ああ。」
「それにしても氏規さまも人が悪いですね。」
「なんの話だ?」
「さっきの千歌さんとの話ですよ。わざわざあんな意地の悪い言い方をしなくてもよかったのでは?最初っからあの子に協力しようと思ってたのは分かってたんですから。」
「なんと、気づいておられたんですか翠さま?」
「氏規さまのことなら妻の私なら何でもわかりますから。」
康勝の問いに翠は脱力感のあるドヤ顔で答えた。
「あれはあくまでも彼女の覚悟を試しただけさ。彼女たちに本当にこの事態を何とかするための覚悟があるのかを・・・ね。もちろん結果は言うまでもなかったけどね。」
氏規は翠に語りながら千歌がいなくなった地平線を眺めた。
遂に千歌たちはそれぞれ重臣たちの工作を成し遂げた。刻限は着々と迫っている。『とっておきの切り札』とは何なのか、果たして千歌たちはこの離縁を阻止できるのか!?
もちろんその結末を知る者はまだ誰もいない・・・。
いかがでしたでしょうか?
ここだけの話、この3人の部分は書いてるうちにかなり熱が入っちゃいましたw
それと今回出て来た「評定衆」などの北条家の家臣団に関する単語が分からない人もたくさんいると思い、後北条氏の家臣団編成がどんな風になってるのかを簡単に描いた図を上げさせてもらいます!字が汚いのはご容赦ください!
【挿絵表示】
次回は遂に離縁騒動決着!果たして氏政と梅の運命は!?千歌たちは歴史を変えることができるのか、それとも歴史は無情にも氏政夫妻を引き離してしまうのか・・・。それは全て次回に明かされます!!
感想や意見があったらどしどし書いてください!!
それでは次回もまたお楽しみください