ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記   作:截流

22 / 40
どうも、截流です。

皆さん長らくお待たせしました、2017年に入ってから初の戦国太平記更新です!最近はどうも若虎の方の筆ばかり進んでいたもので疎かになってしまいましたが、今回は前後編という事で連続更新となります!!

いよいよ遂に氏政夫妻の運命が決まる・・・。果たして千歌たちは二人の愛と絆を守れるのか!?



それではどうぞお楽しみください!!


20話 愛を取り戻せ 前編

千歌たちが氏政夫妻の離縁を阻止するために動き出してから特に何も起きないまま、およそ1週間が経過した。そして小田原城では・・・。

 

「これより、駿河出兵の軍議を始める。」

 

北条家の盟友である今川氏真への救援のための軍議が開かれていた。

 

「うむ。では氏政よ、大まかな作戦の概要を皆に伝えよ。」

 

評定の間の上座に座っている氏政の側に座っている氏康が氏政に作戦の説明を促した。この時、氏康は既に表舞台から退いていたのだが、三国同盟の崩壊をきっかけに再び表舞台に出てきたのだ。

 

「はっ。まず今回の戦いでは4万5千の兵を動員することにする。そして先んずは伊豆の三島に向かうのだが・・・。」

 

「兄上、氏真どのへの救援とはいえそれほどの大軍を素早く動かすのは難しいかと。駿河に着いて武田と戦っている間に氏真どのが籠っている掛川城が落ちてしまっては元も子も無いのでは・・・。」

 

氏政に意見を述べたのは兄弟の中でも一番の戦上手である氏照だった。彼は行軍が遅くなることで救援が間に合わなくなることを危惧していた。

 

「その点に関しては問題ない。三島に着陣すると同時に氏規を大将として伊豆水軍を派遣し、徳川家康の足止めをさせる。そうすれば武田との戦いのさなかに掛川城が落城することはあるまい。それにいざという時は氏規の得意分野で頑張ってもらおうと思っている。できるか氏規?」

 

「はい!交渉ならお任せください!!」

 

氏規は意気揚々と兄の言葉に応える。ちなみに氏規の得意分野とは外交工作であり、今川義元の人質だった頃に培った交渉力を活かしてこの時すでに足利将軍家との取次ぎ役を任されていたという。

 

「では話を戻す。三島に全ての部隊が着陣し済み次第、我々は長久保、蒲原、興国寺、三枚橋(沼津)といった諸城を落とし河東地域(富士川から黄瀬川の間。駿河の東半分)を制圧する。そこで薩埵峠を通り武田軍を攻めるというのが大まかな手筈と考えているが意見があれば何でも言ってくれ。」

 

氏政は作戦の説明を終えると、軍議に列席している重臣たちに意見を求めた。

 

(うむ・・・。やはり氏政はあの三船山での敗戦から徐々に当主として成長しておる・・・。もっともまだ甘さが残っているのは玉にキズではあるがな。しかし梅どのとの離縁を申し渡した時はあんなにも激しくうろたえておったのに何故あそこまで平静を保っているのだ?)

 

氏康は氏政の様子を見ながら薄々と感じていた違和感について考えを巡らせていた。

 

(しかしあの子煩悩ならぬ妻煩悩の氏政が離縁に納得してくれたとは考えにくいが、まあ納得してくれたのであればそれでよかろう・・・。)

 

氏康はそう己の中で納得していた。一方氏政の方は、

 

(千歌どの達が動き出してからかれこれ一週間経つが全く音沙汰がない・・・。小太郎に探らせたものの『心配することは無い』の一点張りだし・・・。上手く行ってくれてるといいのだが・・・。)

 

氏康の考えとは裏腹に千歌たちへの心配でいっぱいいっぱいであった。そして氏政の不安が募っていく中、時間だけが過ぎていった。

 

そして・・・。

 

「ではこれにて軍議を仕舞いとする!それぞれ城に戻って出撃の支度をしてくれ。」

 

と氏政が軍議を終わらせ、参加していた重臣たちが席を立とうとすると、

 

「待て。皆にはここで伝えなくてはならん事がある。」

 

と氏康が声を上げた。その声を聞いた氏政の表情は険しくなっていく。

 

「此度の戦で武田とは手切れという事になるが、まずその前に氏政の妻である梅どのを武田に・・・。」

 

氏康が氏政と梅の離縁を重臣たちに伝えようとしたその時・・・。

 

 

 

 

 

 

『その話、ちょっと待ったあああああああ!!!』

 

と叫ぶ声が評定の間の外から聞こえてきた。皆が声がした方にある襖に目を向ける。

 

「何事だ。」

 

氏康がそう言うと、襖が開いた。するとそこには千歌たちAqoursの9人が仁王立ちをしていた。そして千歌たちの額には『離縁反対!!』と書かれた鉢巻きが巻かれている。それを見た氏康は全てを察した。

 

「・・・その様子だと、お主らは此度の離縁を止めに来たようだな。」

 

「はい。私たちは氏政さんと梅さんの離縁を止めに来ました。」

 

千歌は氏康の問いに毅然と応える。

 

「いくらお主たちの頼みでもそれを聞くことは出来ん。」

 

「どうして・・・!」

 

「それはこれが北条の・・・この国のための決断だからだ。盟約に背き信義を踏みにじる武田に加担することはあってはならん事だ!」

 

「でもそれと梅さんを追い出すことは関係ないじゃないですか!」

 

「関係はある。お主たちもわしの娘であり氏真どのの妻である、綾のことは知っておるな。綾は氏真どのの対応が拙かったとはいえ、武田が盟約を破り駿河を攻めたことで落人同然に逃げ帰るという恥辱を被ったのだぞ!わしも心は痛むが、わが娘を辱めた信玄への報復として梅どのを甲斐に送り返さねばならぬのだ。」

 

氏康は梅を武田に返す理由を千歌たちに教えた。

 

「確かに信玄さんのやった事は悪いことですけどそれと梅さんは全く関係ないじゃないですか!」

 

曜が氏康に反論すると、

 

「親は親、子は子、という事か。確かにそれは理に適ってはいるが、果たしてそれにどれだけ納得する者がいる?」

 

と氏康は言い返した。

 

「それに我が北条家にとって、武田家は三国同盟を結ぶまでは、祖父の代から争い続けた間柄だ。同盟を結んだとはいえ遺恨を持つ者たちは大勢おるだろう。むろん、ここに集まってる者の中にもな。」

 

氏康は評定の間にいる重臣たちを見回しながら言う。

 

「じゃあ、その人たちを納得させることが出来ればいいんですよね?」

 

千歌が言うと、

 

「できたらな。だが、それは難しいぞ。」

 

氏康は千歌に応えた。すると千歌はニヤリと不敵に笑い、

 

「じゃあ氏康さん!これを見てください!!」

 

と氏康に書状の束を渡した。氏康はそれを受け取ると千歌たちにたずねた。

 

「これは?」

 

「それはこの北条家の重臣の皆さんのところに直接行って話し合って、合意の上でもらった氏政さんと梅さんの離縁を反対する署名です!」

 

「むむむ・・・。これは綱成と康成の連署だ。それにこれは五色備えの・・・。なんと!評定衆や憲秀の物まであるではないか!?憲秀、お主これは一体どういう事だ?」

 

氏康が憲秀を睨むと、

 

「ひっ!?も、申し訳ありません御本城さま!!されどこの憲秀、このような時期に家中に波風を立てるのはよろしくないと思った次第で・・・。」

 

憲秀は凄まじい勢いで土下座しながら氏康に弁明する。

 

「なるほど・・・。まさかこれほど多くの者が反対の署名を出したとはな。氏政、まさか我が目を欺きこのような事をしておったとはな。」

 

氏康は氏政に対してそう言うが、

 

「いいえ!私たちは氏政さんに命じられてやったわけじゃありません!!私たちが自分の意思で勝手にやったんです!!」

 

と千歌は氏政を庇った。

 

「お主らの意思だと?」

 

「はい。私たちは氏政さんが梅さんに離縁するという話をするところを覗き見しちゃって、氏政さんから話を聞いたんです。その時の氏政さんと梅さんの辛そうな表情を見て、私たちに何かできることは無いか考えたんです!!」

 

「そして私が考えついたのが、重臣の方々を説得して署名をもらい味方に付いてもらう事でしたわ。」

 

あくまでも氏政の命令でなく、自分たちの意思で動いたことを主張した梨子に続いて、ダイヤが自分がこの作戦の発案者であることを氏康に伝えた。

 

「この者たちはこう言っているが、本当なのだな氏政?」

 

「はい、少なくともこの一週間の間に私は彼女たちの動向を知ることは出来ませんでした。動向を探るため小太郎を差し向けましたが『案ずることは無い』の一点張りでした。」

 

氏政は氏康の問いに動ずることなく答えた。

 

「そうか、風魔を以てしても探れなんだか。しかしどうしたものか・・・。まさか五色備えや氏照ら一門衆に三家老に評定衆、そして叔父上までも名を連ねているとなると些か厄介だな・・・。」

 

氏康がそう呟くと、

 

「それがしは御本城さまの意に賛同いたします!!」

 

と声を上げた人物が出てきた。

 

「おお、綱秀か。」

 

氏康が綱秀と呼んだ人物の名は内藤綱秀。小田原城の北にあり、相模と甲斐の国境付近に位置する津久井城の城主である彼ら内藤氏一族は代々、津久井衆を率いて武田家に対する最前線の守りを担ってきたのだ。故に、三家老や五色備えに名を連ねることこそ無くても、それと同等の信頼を北条家の当主の信頼を勝ち取っているのだ。

 

「確かに奥方様を深く愛していらっしゃる氏政さまや奥方様の事を考えれば此度の件はまことに不憫な話でありましょうが、これは我ら北条家の存亡さえもかかっているのですぞ!それがしもあまり考えたくはありませんが、もし奥方様かその侍女が甲斐に我々の情報を流していたら我々は武田との戦いで不利になるだけでなく、いずれは滅ぼされる可能性も出てくるかもしれないのですぞ!!」

 

綱秀は評定の間にいるみんなに語って聞かせるように熱心に理由を述べた。長らく国境の防衛を担ってきた精鋭部隊を率いてきた将の話だけあって、彼の話に同意する者たちも少しずつ出てくる。

 

「Aqoursの方々、お主らの想いも分からぬわけではありませんがこれは我ら北条の存亡もかかっているのです。故にここは引いていただけると・・・。」

 

「果たしてそれはどうかしら?」

 

綱秀が千歌たちに引き下がるように言うと、善子が不敵な笑みを浮かべて前に出てきた。

 

「む、何やら案ずるに及ばぬという根拠がおありのようだな。」

 

「ええ、要は梅さんが情報を流していないという証明をすればいいんでしょう?」

 

「うむ、そうだが果たしてそれを証明できる術はあるのか?」

 

綱秀が訝しげに善子に反論するが、

 

「ふふん、この堕天使ヨハネの深謀遠慮を前にしても驚かずにはいられるかしら?」

 

善子は普段よくとっているポーズをとりながら意味深に笑うと、

 

「風魔さん!出番よ!!」

 

と小太郎を呼んだ。

 

「やれやれ、師匠遣いの荒い弟子だ。」

 

とどこからともなく小太郎が現れた。

 

「な、小太郎!?どうして・・・。」

 

氏政は善子の号令で小太郎が現れたことに驚いた。

 

「すまんなお屋形さま。此度の一件は善子と共に行動していたのだ。」

 

「じゃ、じゃあ今までの報告は?」

 

「善子から御本城さまかお屋形さまにAqoursの行動を探るように頼まれたら『案ずることは無い』と報告するように頼まれておってな。」

 

小太郎は悪びれる様子もなく答えた。

 

「して、善子どの。いかなる手段を以て我らに奥方様が情報を流していないと証明するのだ?」

 

綱秀がそう言うと、

 

「そう言うと思ったから小太郎さんを呼んだのよ。小太郎さん、『アレ』持ってきてくれた?」

 

善子が小太郎に何かを渡すように促した。

 

「善子ちゃん、『アレ』って何ずら?」

 

花丸がたずねると、

 

「まあ見てなさいって。」

 

とだけ言うと、善子は小太郎から『アレ』と言われた物体を受け取った。

 

「む、それは何だ善子どの?」

 

「これはビデオカメラっていう私たちの時代の道具よ。どういう物なのかは少し待ってなさいな。」

 

綱秀にたずねられた善子はそう言って鞄からノートパソコンを取り出して何かの準備を進めた。

 

 

 

 

「さて、これで準備完了ね。この部屋にいる人たちはみんなこの画面の前に集まってちょうだい。特に綱秀さんと氏康さんは。」

 

善子が準備していたのはノートパソコンにビデオカメラを繋げるという事だったのだ。そして善子はみんなを画面の前に集めた。

 

「本当にこのような道具で証明できるのか?」

 

綱秀はなおも訝しげな様子であったが、

 

「まあ見てなさいって。」

 

と言って再生ボタンをクリックした。すると・・・。

 

「おお、これは一体・・・?」

 

「すごいぞ、何かが映し出された!」

 

「これは誰かの部屋の前か・・・?」

 

とビデオカメラの映像を見て驚いた重臣たちがどよめき出した。

 

「善子ちゃん。これは何なの?」

 

と千歌がたずねると、

 

「梅さんの部屋の前よ。」

 

と善子は言った。

 

「でもなんで梅さんの部屋を?」

 

「そんなの梅さんの疑惑を晴らすために決まってるじゃない。まさか千歌さんたちは何の確証も無いのに言葉だけで解決しようと思ってたわけじゃないわよね!?」

 

善子が千歌にそう言って詰め寄ると、

 

「あ、あはは・・・。」

 

千歌が目を逸らして苦笑いし始めたので呆れた善子はそのまま解説を続ける。

 

「とにかく、風魔さんとその部下の人に交代でこれを持ってもらって今日まで五日間、梅さんの部屋の前で待機してもらったのよ。あ、これ結構時間あるくせにほとんど動きが無いから倍速にするわね。」

 

「ねえよっちゃん。バッテリーとかは大丈夫だったの?」

 

「ああ、それに関しては平気よリリー。予備バッテリーとソーラー充電器を駆使してそのへんは何とか乗り切ったわ。それに使えなくなった時のためにただ置いておくんじゃなくて風魔さんの部下に持たせたのよ。」

 

と善子は梨子にドヤ顔で説明した。

 

 

 

 

 

そして、五日間の記録を見終わり・・・。

 

「うむ・・・。梅が出入りしている時以外は特に何もないな。」

 

「義姉上と侍女と国王丸ら子供たち以外映っていない・・・。」

 

「怪しい動きがあるとすりゃあ真夜中になるが・・・。」

 

「その真夜中も全く動きがありませんね。」

 

氏政ら四兄弟はそれぞれ感想を述べた。

 

「こうも何もないと梅どのはシロでいいんじゃないか?」

 

康成がそう言うと、

 

「いえ!其れでもまだ分かりません!ひょっとしたら奥方様の部屋の前以外の場所で・・・。」

 

「それはないぞ。」

 

綱秀が納得いかない様子でまくし立てるも小太郎に遮られた。

 

「ふむ、小太郎。そう言いきれるのは何故だ?」

 

氏康が小太郎に問いかけた。

 

「我ら風魔衆は善子に頼まれた仕事も含め、五日間にわたってお屋形さまの奥方を監視していた。だがこれといって怪しい動きは全くと言って良いほど無かった。」

 

「だが、侍女が何か密書を送ったりした素振りも無かったというわけでも無いのではないか?」

 

「それも心配ご無用。甲斐との国境に風魔衆の全軍を忍ばせ『網』を張り、甲斐から来たと思われる忍びは皆殺しにした。しかしどの忍びの懐からも書状のようなものは出てこなかった。」

 

小太郎は氏康の問いかけに淡々と答えた。

 

「という事は梅は無実という事でよいんだな!?」

 

氏政は小太郎の言葉を聞いて顔を晴れやかにした。

 

「ああ、そうなるな。」

 

小太郎が頷き、

 

「確かに、ここまでの証拠がそろっているのならそれがしも矛を収めざるを得ませんな。お屋形さま、北条のためとはいえ奥方様をお疑いしてしまい、申し訳ございませんでした!どの様にこの無礼をお詫びすればよいか・・・。」

 

綱秀が氏政に謝罪すると、

 

「気にすることは無い、綱秀も国を想っての発言であろうからな。それに善子どのに小太郎!我が妻にかけられた疑念を晴らしてくれてありがとう!!」

 

と、氏政は綱秀を許し、善子と小太郎に礼を言った。

 

「べ、別に私は堕天使として救いを求める哀れな子羊に施しを与えただけよ!!?」

 

「善子ちゃん、堕天使設定がブレてるずらよ。」

 

「素直に氏政さんたちを助けたかったって言えばいいのにね。」

 

顔を真っ赤にして照れ隠しでいつもの堕天使モードになる善子を見て、花丸とルビィは微笑ましそうに笑った。

 

 

 

 

「うむ、梅どのに武田へ情報を流されることがないというのは分かった。だがそれでもわしはこの離縁を取り止めようとは思わん!!」

 

「そんな!父上、まだ何か納得のいかぬことがあるんですか!?」

 

まだ自分の意見を貫かんとする氏康に氏政は困惑した。

 

「氏政よ、お前は綾が乗り物に乗ることも出来ず徒歩で帰ってくる羽目になり、小田原に着いたときには心身ともに憔悴しきった事には胸を痛めぬのか!」

 

「確かに姉上の惨状には私も心を痛めましたし、信玄への怒りも湧きました!しかしそれとこれとでは話が違うではありませんか!」

 

「いいや、断じて違うことなど無い!!娘が被った屈辱を晴らすには同じ苦痛を信玄にも味わわせてやらねばならぬのだ!そうでなくてはならぬのだ!!」

 

氏康は氏政にそうまくし立てた。

 

「そんなことして解決するわけ無いじゃないですか!!!」

 

「ち、千歌ちゃん?」

 

突然大声で叫んだ千歌に隣にいた曜は驚きを隠せなかった。

 

「氏康さん!そんなことをして本当に綾さんが喜ぶと思いますか!?私は思いません!!」

 

千歌は怒りの形相で氏康に食ってかかる。

 

「ち、千歌ちゃん・・・。流石に恐れを知らなさすぎるよ・・・。」

 

梨子はそんな千歌の様子に戦々恐々であった。それもそのはず、千歌にはAqoursがまだ9人になる前に果南と鞠莉が取っ組み合いの喧嘩をし、ダイヤがそれを止めようとしていたところに割り込み、見事に啖呵を切ってその場を治めてしまったという実績があったのだ。もちろん、その時の千歌は半ば我を忘れていたような状態であったが。

 

「黙れ小娘!貴様に娘を想う親の気持ちが分かるか!!」

 

「私は親じゃないから分かりません!!」

 

「ならば出しゃばるでない!!」

 

「氏康さんがなんと言おうと梅さんに責任をかぶせるのは間違ってます!!それにそもそも当主は氏政さんじゃないですか!!ならこの事についてどうするかを決めるのは氏政さんの役目じゃないですか!!氏康さんはもうご隠居さんですよね!?だったら氏政さんに任せればいいじゃないですか!!」

 

千歌の言葉を聞いた氏康の怒りが頂点に達した。

 

「食客となり、氏政の下で功を立てておるからと図に乗るのも大概にせよ高海千歌・・・。貴様はおのれが氏政の下で権力を欲しいままにしておるとしてAqoursの者たちと共に罰しても良いのだぞ!!」

 

「・・・!」

 

氏康の言葉に千歌は息を呑んだ。

 

「千歌ちゃん・・・!」

 

「どうするの・・・!?」

 

曜と梨子は千歌を見て言った。

 

「分かりました。ならば罰していただいても構いません。そもそも私たちも梅さんの離縁を阻止するにはそれなりの対価を払わなきゃいけないんだろうなって思ってました。それが私たちに対する処罰で済むのなら私は構いません!」

 

千歌は氏康の怒気に臆することなく毅然と言い放った。

 

「・・・首魁である千歌どのがこう言っておるがお主たちはどうなのだ?」

 

氏康は梨子たちに問いかけた。

 

「私も、千歌ちゃんと同じ考えです!」

 

「千歌ちゃんがそう言うなら私はどこまでも着いて行きます!!」

 

「私も曜と梨子と同じ風に考えてます!」

 

「私たちは私たちが正しいと信じてる道を歩んでるだけデース。いくら氏康さんでもそれを邪魔する権利は無いと思いますよ?」

 

「私も、たとえ厳しい罰が待っていようとも自分の考えを曲げる気はありませんわ!」

 

「わ、私も千歌さんやお姉ちゃんたちと同意見です!」

 

「オラも意見を変える気は無いずら。」

 

「堕天使が行く道は常に苦難と共にある・・・。私も千歌さんの意見に従うわ。」

 

Aqoursの意見は全て千歌に賛同する物だった。まさに一枚岩と言える団結力だ。

 

「そうか、ならば皆揃って・・・。」

 

と氏康が言おうとすると、

 

「お、お待ちくだされ御本城さまー!!」

 

「憲秀さん!?」

 

憲秀が千歌たちと氏康の間に割って入って来た。これにルビィが驚きの声を上げた。

 

「憲秀、どういうつもりだ。」

 

「たたた、確かにこの娘たちに対する御本城さまのお怒りはもっともかと存じますが、ただ理不尽に罰するのは如何なものかと存じます・・・!!」

 

憲秀は震える声で氏康をたしなめる。

 

「筆頭家老どのの言う通りでございます。この者たちが功を立てているのは事実、特に罪を犯したわけでも無いのにこれを理不尽に罰すれば損失を招くだけでなく、家中も動揺いたしかねません。仮に罰して話が領国に広まれば、北武蔵や下総の国衆たちの離反にも繋がってしまいましょう!この件の責は署名にある様にこの評定衆筆頭たる狩野泰光がお取りいたします故、何とぞ千歌どのたちをご容赦くださいませ・・・!!」

 

それに続いて評定衆筆頭の狩野泰光も氏康をたしなめ、千歌たちを罰することが益とならないことを進言した。

 

「お主ら・・・。」

 

「その辺にしてやったらどうだ氏康?」

 

「綱成・・・。」

 

綱成は氏康の肩を叩いて言った。

 

「まあそりゃあ綾がひどい目にあったのを辛く思うのもそれに対して怒りたくなる気持ちも分かるぜ?俺だって親だし、何より義理のとはいえ俺も叔父だからな。だけどな、千歌どのたちのいう事も正しいと思うぜ?だって梅どのに責を負わせて放り出したところで綾が元気になるとは思わんし、何よりあの信玄坊主のことだ。これ幸いと梅どのから北条の情報を聞き出すだろうぜ?まあ喋らんとは思うがな。」

 

「氏康よ、今のお主は怒りに身を任せすぎじゃ。確かに感性が豊かなのはお主の良いところじゃが、氏政と同じく些か情に飲まれやすいのが玉にキズじゃ。少しは頭を冷やしたほうがいいぞい。」

 

「綱成、叔父上、だが・・・。」

 

綱成と幻庵に宥められるも氏康は不服な様子であった。

 

「はあ・・・、氏康は本っ当に昔っから強情だよな~。それじゃああの時の義父上どのみたいだぞ?」

 

綱成が呆れ気味にそう言うと、

 

「あの時の?どういう事なんですか?」

 

と千歌がたずねた。

 

「ああそれはだな、まだ先々代当主の氏綱さまがまだご存命だった頃に今川が武田と同盟を組んでこっちとの同盟を破棄したことがあってな。そん時の事なんだが・・・。」

 

「おいバカやめろ綱成!!その話はするんじゃない!」

 

綱成が語りだすと氏康はそれを止めようとするが、

 

「ハイハイ、せっかく綱成がAqoursの面々に『あの話』をしてやるんだから邪魔せず聞いてやりましょう氏康どの!」

 

とノリノリな様子の綱高に羽交い絞めされて動きを封じられた。

 

「今川家は初代の早雲公の頃から俺ら北条と交流があってな、だがその当時に跡を継いだ義元がこれ以上北条の影響を受けるのは好ましくないってんで北条家と縁を切っちまったのさ。それで怒ったのが氏康の父上で俺と綱高の養父である氏綱さまでな。今川から嫁いできた氏康の妻の瑞穂どのを離縁させようとしたんだよ。」

 

「そんなことがあったんだ。」

 

「あら?でも何かデジャヴを感じるわ?」

 

綱成の話を聞いた鞠莉が首を傾げる。

 

「もちろん氏康はこれに大反対でな。なんとか瑞穂どのを守ろうと俺らと幻庵どので一緒に奮闘したっけなあ。」

 

「それでどうなったの綱成さん?」

 

果南が事の顛末をたずねた。

 

「ああ、その今川との戦いの途中で氏綱さまが亡くなっちまったから離縁する必要が無くなってめでたしめでたしよ!」

 

「そういや今だから言えるんだけどさ、いつぞやの夜に氏康どのが瑞穂どのに『父上がなんと言おうともお前は俺の妻だ。絶対守ってみせる。』な~んて言ってるの見ちまったんだよな!!」

 

「な!?綱高貴様、見てたのか!?」

 

「いや~、武蔵の方の戦況報告しに来たらついうっかりな。」

 

「貴様ああああ・・・!!!」

 

綱成が語り終わると綱高が氏康の秘密話を暴露しだし、それに氏康が動揺して綱高の肩を揺さぶりだすというカオスな状況が出来上がっていた。はたから見ると学生のような雰囲気だが、全員50代を超えたおっさんであることをここに明記しておく。

 

「な~んだ!結局氏康さんも氏政さんみたいな奥さん想いだったんだね!」

 

「でもそれなのになんで氏政さんと梅さんを引き離そうとしたんだろ?」

 

「確かに自分がそういう経験をしたら普通なら自分の子にはさせないと思うんだけど・・・。」

 

千歌は話を聞いて安堵していたが、曜と梨子は氏康がどうしてこのような行動に出たのか疑問に思っていた。それに対して氏康はバツが悪そうに語りだす。

 

「うっ、それはだな・・・。」

 

「愛娘が可愛くてしょうがなかったからでございましょう?」

 

「そう、愛娘の綾が可愛くてしょうがなかったからって、ん?」

 

『え?』

 

氏康が千歌たちの方に振り向いたので千歌たちも振り返ってみると、そこにはにこやかに微笑んでいる女性が立っていた。

 

 

 

「み、瑞穂!?」

 

『ええ!?』

 

 

 

その場にいた者たちは一部を除いてみんな驚いた。何故なら普通なら大名の妻と言えども評定の間に顔を出すことなどほとんどないからだ。

 

そして彼女の名前は瑞穂。のちに『瑞渓院』と伝えられている氏康の正室である。




いかがでしたでしょうか?

話が色々ともつれる中現れたのはなんと氏康の正室の瑞穂さんこと瑞渓院!果たしてこれが吉と出るか凶と出るか、それは後編を読んでのお楽しみです!!



それでは次回もまたお楽しみください!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。