ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
今回は新キャラが出てきます!サブタイを見ればピンとくる方もいると思いますw
ちなみにサブタイトルの「薩埵峠」は「さったとうげ」と読みます!
それではどうぞお楽しみください!!
なんとか梅との離縁が取りやめとなり、安堵した氏政はようやく駿河救援に着手することとなった。
年が明けた永禄12年(1569年)の1月5日に、氏政は軍議で決めた通りに4万5千人の大軍を率いて伊豆の三島に着陣。そこで氏規を総大将、康英や景宗を部将として編成された伊豆水軍を掛川城に籠る氏真への援軍として派遣した後、そのまま駿河に乗り込んだ。
そして氏政率いる北条軍は手筈通りに興国寺、長久保、蒲原など、河東地域の諸城を次々と落としながら富士川を渡り、武田軍が占領している駿府館跡(館自体は信玄が占拠した時に馬場信春の手により焼失)目指して進撃を続けた。
だがここで問題が起きた。信玄は氏政の侵攻を知ると1万8千の軍勢を薩埵峠に氏政ら北条軍よりも先に向かわせ、守りを固めたのだ。もちろん氏政もこの事態は想定できていたのだが、薩埵峠は守りに適した要衝であり大軍を動かすには不向きな場所でもあったため、下手に動く事ができなくなってしまったのだ。武田軍もいくら守りの堅い薩埵峠に布陣しているとはいえ、兵力差が2倍以上ある北条軍を相手に迂闊な攻撃は仕掛けられず、互いに睨み合って動かない膠着状態に陥ってしまった。
そして、1月18日に睨み合いが始まってから2月も武田軍が今川家の大宮城を攻めたのを撃退してからはこれといった大きな戦いが起きないまま3月になり、両軍ともに士気が下がり始めた頃・・・。
「千歌ちゃん、氏政さんの許可があったからってこんなことして大丈夫なのかな・・・?」
「大丈夫だよ梨子ちゃん!こういう時は偵察に出て敵の様子を見るのも大事だって氏政さん言ってたじゃん!」
「そうよ、リリーってば心配性ね。」
千歌たちは薩埵峠からおよそ4キロほど離れた場所にある北条軍の陣から離れ、より薩埵峠に近い場所にある森の中を歩いている。
千歌、曜、ルビィ、花丸、鞠莉は槍、果南は薙刀、ダイヤは弓、梨子は鉄砲、そして善子は手には何も持っていないがどこかに暗器が仕込んであり、みんなそれぞれ自分の得物を持っていた。
「確かに物見(偵察)は大切だと氏政さんは仰いましたが、本当は千歌さんがただ睨み合って戦いがほとんど起きないことに飽きたからこうすることになったんでしょう?」
「まあまあいいじゃないダイヤ。たまには気分転換も大切よ。」
「鞠莉さん。私たちは遊びに来てるのではないのですよ!?偵察と言うのは下手をすれば死ぬ可能性の方が高い危険な仕事なのですから、もう少し気を引き締めてください!!」
「まあまあ、ダイヤの言う事も正しいけどあまり気を張り詰めるのもどうかと思うよ。」
鞠莉、ダイヤ、果南の3年生組がいつものようなやり取りをしていた。
「でももし、武田軍もルビィたちと同じことしててばったり会っちゃったらどうしよう・・・!」
「大丈夫ずらルビィちゃん。もし武田軍の斥候の人たちと会っちゃっても、向こうもおらたちと同じくらいの少人数だし、それに千歌さんや曜さん、果南さんに善子ちゃんはおらたちの中でも特に強いから平気ずら!」
武田軍の斥候との遭遇をルビィは恐れていたが、花丸はそれでもどうにかなるとルビィを励ましていた。
「まあそれにいざという時はこのヨハネが風魔さんから教わった風の悪魔の技で攪乱してその隙に逃げちゃえばいいんだけどね。」
善子もどこからか煙玉を取り出してコロコロと手の中で回しながら花丸の意見に同意する。
「そうそう、善子ちゃんもいるし平気だってそれに漫画とかじゃないんだからそんな都合よくばったり会うわけ・・・。」
善子の言葉に頷きながらそう言うようであったが、いきなり歩みと言葉を止めた。
「どしたの曜ちゃん?」
「ごめん千歌ちゃん、みんな、前言撤回。誰かいるっぽい・・・。」
千歌にたずねられた曜は顔を引きつらせながら答えた。
「だからやめた方がいいって言ったのに~!」
「ぴぎっ!?どうしようお姉ちゃん!?」
「大丈夫ですわルビィ。気をしっかり持ってれば何とかなりますわ!」
「ダイヤの言う通りよ!ここで慌てたらもっとデンジャラスなことになるわ!こんな時は手の平に人って字を書いて飲むのが一番よ!」
「それは緊張した時の対処法だよ鞠莉・・・。」
曜の言葉を聞いた一行は慌てつつもなんとか落ち着くようにして前方に注意を払った。すると・・・。
「やはり戻った方がよろしいのでは?」
「何を言うか!敵を知れば百戦危うからずと父上もよく言っているだろう。俺は北条との戦の経験はほとんど無いと言っても過言ではない。だからこそ自ら斥候となって敵がどのように布陣しているのかをうかがうのだ。」
「しかし、こうも突出しては敵の斥候に見つかる可能性も・・・。」
「その時には皆殺しにしてやればよい。なあ信豊。」
「ええ。その通りです。」
「信豊もこう言ってることだしもう少し先に進んで・・・ん?」
千歌たちの前に二人の騎馬武者に率いられた小さな部隊が現れた。数は14、5人といったところか。その部隊の大将と思われる男は、赤を基調とした鎧に、白いヤクの毛を纏い、鍬形の代わりに角を付けた兜を身に着けていた。
「うわぁ・・・どうしよ。なんかすごそうな人と出会っちゃったみたいだよ・・・。」
千歌はその男の威容に面食らった。
「なんだ?なぜこのような場所に女がいるんだ?しかも具足まで身に着けているとは・・・。おい、貴様らここで何をしている。」
大将と思われる男は千歌たちにたずねた。
「わ、私たちは道に迷っちゃた旅の者です!」
(千歌ちゃん!それは流石に無理があるよ~!!)
千歌は質問に対して堂々と答えたが、梨子はそれに対して内心ではかなりヒヤヒヤしていた。
「旅の者か。それにしてはやけに物々しい出で立ちではないか?それに旅の者が槍や薙刀、弓鉄砲などの武具を持っているわけがなかろう。」
「勝頼どの、この者たちはもしや北条軍の斥候では?」
千歌たちを疑う対象と思われる男に、もう一人の『信豊』と呼ばれていた騎馬武者が話しかける。
「だろうな。それにおそらくこやつらは噂に聞く北条家に突如現れていくつもの手柄を立てて頭角を現した『あくあ』と名乗る9人の娘たちの集団だろう。ちょうど9人いるしな。」
そして大将と思われる騎馬武者はそれに対してそう答えた。どうやら千歌たちの事を知ってるらしい。
「ええ!?なんで私たちの事知ってるんですか!?あ、もしかして私たち遂に戦国時代でも有名人になっちゃったとか!?」
「いや~、それはないと思うよ。」
「武田軍は
自分たちの正体を知られたことに驚く千歌に対して曜とダイヤが冷静にツッコむ。
「まあ、北条家の領国に差し向けた者たちはどういうわけか一人として戻ってくることは無かったがな。」
「それにしても、もしやとは思いますが私たちはとんでもない人を相手にしてるかもしれませんわ・・・。」
ダイヤは騎馬武者の顔を見て苦虫を噛み潰したよう顔で呟いた。
「ダイヤ、それってどういうこと?」
「果南さん、さっきの相手の会話を聞いてなかったのですか?あの赤い騎馬武者は隣の騎馬武者に『勝頼』と呼ばれていました・・・。」
「うん、それがどうかしたの?」
果南はまだ気づかないのかきょとんとしている。
「だから!私たちは今武田軍の総大将である武田信玄の息子の武田勝頼と対峙してるってことですよ!!」
ダイヤが果南の肩を揺らしながら大声で果南に自分たちの置かれた状況を教えた。
「ほう、そこの娘は俺のことを知っているらしいな。俺を知らぬ者もいるようだし名乗ろうではないか!我が名は武田四郎勝頼!!ゆくゆくは父信玄の跡を継ぎ、新たな虎となり天下を掴み覇を唱える男だ!!」
「そして私はお屋形さまの弟であり副将でもあった武田
と勝頼と信豊は堂々と名乗りをあげた。
「まさか武田信玄の息子と甥が出てくるなんてこんなの予想外すぎですわ・・・!」
「どうしよう・・・。あの2人凄く強そうだよぉ・・・。」
武田信玄の一族であり、武田軍の中でも上級幹部クラスの将が出てきたこともあり、普段冷静なダイヤも動揺を隠しきれず、ルビィも二人の威圧感に気圧されダイヤの背中に隠れてしまった。
「どうするの千歌ちゃん・・・?」
曜はリーダーである千歌にどうするかを問う。
「どうするかだと?何をしても無駄だ。悪いが女であっても俺たち武田軍の障害となる者を見過ごすわけにもいかんのでな。ここで消えてもらおうか。」
勝頼がそう言ってすっと右手を挙げると、付き従っていた兵士たちが千歌たちに槍を向ける。
「勝頼どの、殺してしまうのは浅慮です。ここは捉えて北条軍の情報を聞き出すのが最良だと思います。」
「そうか、ならばそいつらをひっ捕らえろ!抵抗するならば多少痛めつけても構わん!!」
信豊の進言を聞いた勝頼は命令を抹殺から捕縛に切り替えて兵士たちに指示を出した。指示を受けた兵士たちは千歌たちに槍を向けながらじわじわと迫って来た。
「向こうがその気ならこっちも相手になるよ!」
「でも大丈夫なの!?」
ノリノリな千歌に梨子は心配げな様子だったが、
「大丈夫だよ梨子ちゃん。私たちならなんとかなるって!よーし、みんな構えて!!」
千歌はそう言って梨子を励ますと同時にみんなを鼓舞し、槍を構えた。
「そうだよね。・・・もうこうなったら野となれ山となれ!!私たちだってやってやるんだから!!」
梨子たちも千歌に続いてそれぞれの得物を構えた。
(こいつら・・・女だと思って甘く見ていたが武器の構え方といい面構えといい、ただの女とは思えんほどだ。ならば・・・。)
千歌たちの様子を見た勝頼は彼女たちを見て何かを感じたのか、
「待て。」
と兵士たちを止めた。
「な、如何されましたか勝頼さま?」
兵士たちのうちの隊長格だと思われる男が勝頼の言葉に反応した。
「やはりお前たちは下がれ、俺が出る。」
勝頼はそう言うと馬からひらりと飛び降りると得物である鎌槍(穂先に鎌状の突起が付いてる槍。十文字槍もこれに含まれる)を構えた。
「な!?勝頼どの、いくら女子が相手とはいえ9人相手は無茶です!」
「信豊、心配するのも分かるが女を相手取るのであれば数の有利ぐらい与えてやっても構わんだろう。それにお前も俺の実力を知っておろう?いくら9人とはいえ女に後れは取らんさ。」
勝頼は自分を諫める信豊に対して余裕そうにいって千歌たちの前に出てきた。
「嘘、あの人こっちに来るよ!?」
「落ち着いて千歌ちゃん、相手は一人だよ。」
「ですが相手は個人的な武勇ではかなり強いですわよ・・・。」
「ダイヤは心配しすぎよ!いくら強いからって、物量作戦に適うもんですか!」
「出たよ鞠莉の金持ち理論・・・。とにかく油断しないで行こう。」
勝頼が千歌たちに向けて歩みを進める中、千歌たちは話し合いながら移動中に敵に出くわした時のための簡易的な陣形を組んだ。まず前衛に千歌、曜、果南、鞠莉。中衛にはルビィと花丸。そして後衛には梨子とダイヤ。そして善子は前衛と中衛の間、という形であった。
「じゃあみんな、手筈通りいくよ・・・。」
『うん(ええ)!』
「よし・・・。行くぞぉ~!!」
『おおー!!』
千歌の掛け声と共に前衛にいる4人が勝頼に刃を向けて突撃した。
「ほお!一糸乱れぬ突撃に刺突、練度も中々のものだ。だがその程度で俺を倒せると思うなよ!」
勝頼はそう言うと千歌たちの放った刺突を鎌槍で打ち払い、一気に間合いを詰めた。
「うわっ!この人すごい力だ!」
「うぅ・・・。曜ちゃん!果南ちゃん!鞠莉さん!散開するよ!!」
『うん(ええ)!』
千歌が号令をかけると前衛の4人が勝頼を取り囲むように散らばった。前衛が散らばったのを見計らったダイヤは
「今ですわ梨子さん!!」
と梨子に声を掛けた。
「は、はい!ルビィちゃんに花丸ちゃんどいて!!」
『はい!』
そして梨子の言葉を聞いたルビィと花丸が左右に飛び退くと、
ズドン!!!
と、轟音が鳴り響いた。梨子の持つ鉄砲が火を噴いたのだ・・・が、
「く、危なかった・・・。」
「勝頼どの!!」
「大事ない!ただ肩をかすめただけだ!!とはいえ不覚を取ったのもまた事実か・・・。いいだろう、ならばこちらも全力で行くぞ!!」
『うおおおお!!』
勝頼が吼えると同時に4人が勝頼に向かって再び突撃した。
「小癪な!2度も同じ手が通じるか!!」
そう言うと勝頼は千歌の槍を払い、逆に鎌槍を振るい返す。千歌はそれを伏せて躱すも、
「アウッ!」
「鞠莉さん!?」
そのまま一周回って槍の柄が鞠莉の横腹に叩き込まれるが、
「ふふ・・・。このままただでやられるもんですか・・・!曜!果南!!今よ!!」
鞠莉は痛みをこらえながら勝頼の槍の柄を捕まえていた。
『分かった!』
そして曜と果南が勝頼に突っ込み、曜が槍を突き出すと、
「くっ!ならば・・・!」
勝頼は槍を離して刀を抜き、曜の突き出した槍の柄を掴んで斬り捨てた。
「あっ!」
「曜下がって!」
曜の代わりに果南が薙刀で斬りかかるが、勝頼は再び鎌槍を掴んで鞠莉を振り払い刀で攻撃を受け止めた。
「この切れ味、只者ではないな・・・。」
「そりゃあ綱成さんに鍛えられたからね。」
「なるほど。地黄八幡に鍛えられたならその力にも納得がいくな・・・。ならば俺の槍捌き、受けきってみせよ!!」
そう言って刀で薙刀を振り払うと刀を納め、槍を繰り出した。果南もこれに負けず薙刀での攻撃を繰り出す。
突き、突き、払い、突き、払い、払い、突き、突き、突き・・・。果南と勝頼による連撃の応酬は幾度にわたって繰り広げられ、
『すごい・・・。』
千歌たちAqoursも、信豊ら武田軍もその壮絶さに目を奪われていた。
果南と勝頼は17回にわたって突いた斬ったの応酬を繰り広げていたが、いくら果南が優れた身体能力を持っていても男と女では体力に差があり、果南の顔に疲れが見え始めていた。
「くっ・・・!」
「そらどうしたどうした!槍捌きが鈍くなっているぞ!!」
勝頼はさらに攻勢を強め、今まで互角に戦っていたのが勝頼の攻撃を防ぐことで精一杯な状態にまで果南は追い込まれてしまった。さらに勝頼の突きの連撃が少しずつ果南の体に掠っていく。
「くそっ、康成さんと同じくらいかそれ以上に攻撃が激しすぎ・・・あっ!」
何とか勝頼の攻撃をギリギリで防いでいた果南だったが、疲れとダメージの蓄積からか一瞬のスキを突かれて薙刀を払い飛ばされてしまった。
「俺に傷を負わせたのは実に見事だったがまずは貴様からだ!しばらく眠ってもらうぞ!!」
勝頼は果南を気絶させるためか大きく槍を振りかぶった。
(あ、まずいなこりゃ・・・。)
果南はこの一撃を避けられそうにない事を感じ、目をつぶった。
だが次の瞬間―――
「果南には手を出させないわ!!」
「なにッ!?」
なんと勝頼の横に鞠莉が槍を突き出しながら飛び出してきた。
「くそっ小癪な!」
「ああっ!!」
勝頼はバランスを崩しながらも鞠莉の突きを躱し、逆に鞠莉に槍の穂先で斬りかかり、鞠莉の肩に軽く傷を負わせた。
「よくも鞠莉さんを!!喰らいなさい!」
ダイヤは気心の知れた友人である鞠莉に傷を付けられた怒りと共に勝頼に向けて矢を放った。
「ちっ!次から次へと・・・ぐっ!」
勝頼は間一髪、矢の直撃を躱したが矢は勝頼の左腕を掠めながら飛んでいった。
『やあああああああ!!』
すると今度は千歌と曜が勝頼に斬りこんだ。槍は捨て、刀による至近距離の接近戦を2人は挑むようだ。
「ぬん!!」
勝頼は背後からの2人の強襲に驚くが、槍の柄で二人の斬撃を受け止めた。
「果南ちゃんと鞠莉さんはやらせないよ!!」
千歌は真っ直ぐな目で勝頼の目を見ながらそう言った。
「やらせない・・・か。ならば貴様らも力を示してみせよ!!」
勝頼は槍を振るって千歌たちを弾き、千歌に向かって渾身の突きを放った。
「うわっ!!」
千歌はなんとか突きを躱したが、
「千歌ちゃん!油断しちゃダメだよ!!」
「馬鹿め遅いわ!鎌槍とは突きだけでなくこういう使い方もあるのだ!!」
曜が忠告したのもわずかに遅く、勝頼は槍を回し、穂先に付いてる小さな鎌を千歌の方に向け、そのまま槍を引いた。
「しまっ・・・!」
鎌の部分が千歌の首元に迫ったその瞬間、
「そうはさせないわよ!」
という善子の声と共に、
ドォオン!!
という爆発音が鳴ったと同時に辺りが煙に包まれた。
「くそっ、なんだこの煙は!」
勝頼は想定外の事態に槍を鎌の部分が千歌の首筋に触れる前に自らのもとに戻して構える。するとどこからともなく攻撃が飛んできた。それは善子が得意とする攪乱戦術であった。
「おのれ、煙に隠れて攻撃とは卑怯な!!」
勝頼は煙の中であちこちから不規則に繰り出される攻撃を防ぎながら言った。
「戦いの場には卑怯も糞もないのはあなた達もよく知ってるでしょ?」
煙の中で善子は挑発するように勝頼の言葉に応える。
「おのれ・・・。だがこの程度の煙など!!」
勝頼はそう言うと槍を頭上で水車のように振り回し煙を払った。しかしその時には既に前衛組は後方に下がっており、梨子が鉄砲を、そしてダイヤが弓を構えていた。そして善子はいつの間にか勝頼から少し離れた場所にある木の枝に登って棒手裏剣を構えている。下手に動けば勝頼は矢か鉛玉、或いは棒手裏剣の餌食になってしまうだろう。
「勝頼どの!これ以上一人で戦っても益にはなりません、どうか我々にお任せを!!」
信豊が後ろからそう叫ぶのを聞いた勝頼は一瞬悔しさで顔を歪めるが、すぐに冷静な顔つきに戻り、
「わかった。行け信豊!奴らを捕縛せよ!!」
と信豊と兵士たちに命じた。そして信豊と兵士たちが千歌たちを捕らえるべく走り出したが、
「そこまでだ!!」
と何者かの声が森に鳴り響いた。その声は野太く、山のようにどっしりとしていた。
「この声はまさか・・・。」
声を聞いた信豊と兵士たちは動きを止めた。勝頼もまた少し動揺しているような面持ちだった。
「・・・!また誰か来るよ・・・!」
千歌がそう言うと、勝頼たちの後ろから凄まじい威圧感を放ちながら壮年の将が現れた。
その姿は赤糸縅の鎧を身に袈裟をまとい、白いヤクの毛を纏わせ、前立てには金でできた小さな鬼の顔を付けた兜をかぶり、右手には鉄製の軍配を手にしていた。
「な・・・。まさかそんな・・・!」
「そんなに驚いてどうしたのお姉ちゃん?」
彼の姿を見て驚きを隠せないダイヤにルビィは疑問を投げかける。
「あの人は戦国武将の中では天下統一事業を行った織田信長、豊臣秀吉、徳川家康たち三英傑に次ぐ知名度を持った名将の一人で、この戦いで私たちが戦っている武田軍の総大将、武田信玄その人ですわ・・・!」
そう、千歌たちの前に現れたのは戦国時代最強の武将の一角と目されている戦国時代を代表する名将の一人、『甲斐の虎』こと武田信玄その人であった。
いかがでしたでしょうか?
今回はいよいよ駿河での武田軍との戦い・・・と行きたかったのですが、この駿河出兵において北条軍は武田軍と戦いらしい戦いを行っていないとされていたので、今回は千歌ちゃんたちが単独行動に出て、そこであの武将と出会って戦うという筋書きになりました!
そして次回は遂に天下三英傑に次ぐ知名度を持ったあの名将が遂に登場します!!
それでは次回もまたお楽しみください!!