ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記   作:截流

30 / 40
どうも、截流です。

いろいろ忙しかったので1ヶ月ぶりの更新になりました。いよいよ今回は戦国時代最大の山岳戦と呼ばれた三増峠の戦いが幕を開けました!

果たしてこの戦いはどうなるのか、是非ともその目で確かめてください!

それではどうぞお楽しみください!!


28話 三増峠の激闘

10月8日、相模国三増峠にて遂に北条氏照・氏邦兄弟率いる北条軍2万と武田信玄率いる武田軍2万がぶつかり合った。

 

 

「行くぞ!武田軍に目に物を見せてやれ!!」

 

『おおおお!!!』

 

三増峠を駆け下りる氏照は兵士たちを鼓舞し、兵士たちもそれに応えた。

 

 

 

 

「遂に来たな・・・。焦るなよ者ども!地黄八幡の綱成や他の五色備えが相手ならともかく、相手は若造の氏照だ!多少は手こずるだろうがお屋形様が言っていた通りに動いてりゃ勝てる!踏ん張れよ!!」

 

氏照隊が駆け下りた先にいたのは馬場信春が率いている部隊だった。信春は信玄よりも年上のかつ、武田四天王の中でも最年長を誇る老練の将であり、峠の上からかけ下りてくる氏照隊を前にしても動揺することなく部隊を指揮していた。その采配から繰り出される戦いぶりは揺らぐことのない山のようであった。

 

 

「馬場どのはああ言っちゃあいるが、槍働きが苦手な俺の事も考えて欲しいもんですよ・・・。ほらそこ、あんまり前に出すぎるな、包囲されるぞ。そっちは手薄だから突撃しろ、すぐ崩れるはずだ。」

 

そうぼやきながら槍を片手にあちこちに指示を出しながら修羅場を掻い潜っているのは信春隊の検使を務める武藤喜兵衛であった。彼は父である幸綱譲りの知略を持つが、豪傑として知られる兄の真田信綱と比べると武勇は一歩も二歩も譲る有り様で、味方の兵に指示を出しながら安全地帯を探っていた。

 

「うおおおおお!何者かは知らんがお主は将だな!?その首もらい受けるぞ!!」

 

するといきなり喜兵衛の首を狙って北条軍の兵が喜兵衛に向かって突撃してきた。

 

「うおっ!?ったく勘弁してくれよ・・・。俺はこういうのはガラじゃないんだって!」

 

間一髪で槍を交わすと、喜兵衛はため息をつきながら一騎打ちに応じた。

 

「どおおおりゃああああああ!!」

 

喜兵衛に打ちかかって来た武者は力任せに槍を振るって喜兵衛を圧倒していた。

 

「あ~あ~やだねぇ、こう言う脳筋の相手ほど疲れるもんはねえぜ・・・。」

 

喜兵衛はなんとかギリギリで相手の攻撃を捌いていたが、兄との鍛錬で滅茶苦茶にしごかれた経験を活かして相手の隙をうかがい、

 

「!! しまった!」

 

何とか相手の槍を打ち払い、武者がその衝撃でよろめくと、

 

「悪く思うなよ、そら!」

 

「うぐっ!」

 

喜兵衛はその隙を突いて相手の喉に槍を突き刺した。喉を貫かれた武者はそのまま力なく騎馬から崩れ落ちた。

 

「ふぅ、何とか勝てた・・・。」

 

喜兵衛が安堵のため息をつくと、

 

「喜兵衛どのが一番槍を上げられたぞ!!」

 

とどこからともなく兵士たちが叫んだ。

 

「は!?」

 

「おお、一番槍とは大したものだ喜兵衛!流石は幸綱の息子にして信綱の弟だ。知恵が回るだけでなく武も振るうとは見事なものだぞ!」

 

困惑する喜兵衛を信春が褒め称える。

 

「あはは、そうでも無いっすよ・・・。」

 

(ま、ぶっちゃけるとまぐれ勝ちなんだがね・・・。)

 

信春に褒められながら喜兵衛は苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

「うおおおおお勝った勝った!!武田軍を逃がすんじゃねえぞ!!」

 

氏照隊と信春隊が衝突している一方で、綱成が率いる右翼部隊は武田の上野支配の要衝である箕輪城の城代を務める浅利信種の部隊と交戦していた。

 

「よっしゃあ、綱成に続けー!!武田軍を轢き潰すぞー!!」

 

赤備えの綱高を中心に元忠、康勝、綱成の副将である間宮康俊といった勇将、猛将たちの率いる精鋭が信種の部隊になだれ込む。

 

「皆の者怯むな!!ここでこらえよ!」

 

部隊を率いる信種は信春と同様に兵士たちを励ましながら馬上で部隊を指揮していた。彼は四天王たちに比べると現代における知名度が低くその実力はあまり知られていないが、信玄から上野の要衝を任せられるのだから将としての実力の高さは窺い知れるだろう。

 

「態勢を整えつつ反撃に・・・ぐっ!?」

 

戦場に轟音が響いた瞬間、信種は自分の胸に違和感を覚えて胸元を見てみると、胸には鎧越しに風穴が開いていた。

 

「ば・・・馬鹿な・・・。」

 

信種はそのまま馬上から崩れ落ちた。

 

「やった!敵将を撃ったぞ!!」

 

「ああ!よくやったぞお前!!さっき撃たれた奴の旗印を見たところあいつはおそらく武田の譜代家老の浅利信種だろう。大手柄じゃねえか!」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

綱高が信種の胸を撃ち抜いた綱成隊の鉄砲足軽の手柄を褒めた。

 

「なんてこった!大将がやられちまった!!」

 

「に、逃げろー!!」

 

大将である信種が討たれたことにより浅利隊は総崩れになりかかったが、

 

「狼狽えるな!ここはこの昌世が信種さまの代わりを引き受ける!前衛は少しづつ後ろに退きながら敵の攻撃を受け流し、弓、鉄砲隊は前衛を援護せよ。敵は勢いに乗ってきているが冷静に対処すればどうという事はない!!」

 

信種の検使として信玄から派遣されていた曽根昌世が浅利隊の士気を引き継ぎ、彼の冷静かつ的確な指揮によって浅利隊は何とか態勢を整えることができた。

 

「ほう、あの若武者はすごいですね。大将を討ち取られて動揺する部隊を立て直すなんてなかなかできる事じゃありませんよ。」

 

「迂闊に深追いするな!痛い目を見るぞ!」

 

そんな昌世の指揮を見た五色備えの頭脳派である元忠は舌を巻き、康勝は敵将を討ち取った勢いに乗じて追い討ちをかけようとする味方に自重するように指示を出した。

 

 

「山県昌景!!どこにいる!地黄八幡はここにいるぞ!!正々堂々と勝負を付けようじゃねえか!!!」

 

綱成はいつもなら互いに先陣を切る者同士である山県昌景の名を呼ぶが、返事が返ってこないどころかどこを見渡しても戦場に際立って目立つ彼が率いる深紅の軍団の姿さえ全く見えなかった。

 

 

 

「それにしても妙だ・・・。いつもなら先陣を切って突っ込んでくる赤備えがいない・・・。」

 

時を同じくして、氏照もまた昌景率いる赤備えが一向に姿を見せないという違和感に気付いていた。

 

 

 

 

「お屋形さま!浅利信種さまお討ち死に!!」

 

「浦野重秀さまもお討ち死になされました!このままでは被害がさらに甚大になります!」

 

「慌てるな。まだ引き付けよ・・・。」

 

その一方で信玄は伝令による家臣たちの訃報に耳を傾けつつも、いつものように軍配を片手に床几に座って悠然と構えていた。

 

「お屋形さま、そろそろ昌景さまの隊が迂回しきる頃合いでございます。」

 

「うむ、いよいよだな。」

 

信玄は3人目の部下の報告を聞くと時が来たといわんばかりに床几からすくっと立ち上がった。

 

「さあ狼煙を上げよ!!源四郎率いる赤備えが峠を下り次第反撃に移れ!!」

 

『おお!!』

 

信玄が軍配を振るって大声で指示を出すと、部下たちも鬨の声でこれに応えた。

 

 

 

 

 

「くそっ、流石は信玄。粘るな・・・!」

 

なかなか攻めきれないことに焦りを感じ始めた氏照が苦虫を噛み潰したような表情で呟くと、

 

『ぎゃー!』

 

『うわあああ!!』

 

と、後ろの方から悲鳴と地鳴りが聞こえてくるのを感じた。

 

「何事だ・・・!?」

 

「大変です氏照さま!!山県昌景の赤備えです!赤備えが峠の上から攻め下ってきました!!」

 

「なんだと!?」

 

伝令から知らされた山県隊の奇襲に氏照は目を剝いた。

 

「そうか、今の今まで戦場にいなかったのは我らの背後に回るためだったのか!!」

 

氏照は昌景がいなかった理由にようやく気付いたが時すでに遅く、昌景率いる奇襲部隊は既に氏照隊だけでなく、氏邦や綱成たちの隊にまで攻め入っていた。

 

 

「おらおらおら!!武田軍最強を誇る赤備えの恐ろしさを思い知れ北条め!!」

 

赤備えの大将である昌景は部隊の先頭に立って北条軍の兵士たちを次々と蹴散らしていく。

 

「うおおおお!!!この大太刀の錆になりたくなければ道を開けよおおお!!!」

 

赤備えと共に三尺三寸(およそ1メートル)の刀身を持つ大太刀を振るいながら突撃するのは、馬場隊にいる武藤喜兵衛の兄であり、真田幸綱の長男である真田信綱であった。その武勇は父をも超えるといわれ、信玄からも将来を嘱望されるほどであったという。

 

「兄上に続け者ども!!山での戦は我らの独壇場だ、北条に目に物を見せてやれ!!」

 

そう言って部下を鼓舞するのは信綱の弟にして喜兵衛の2人目の兄である昌輝であった。彼も兄と同じく信玄に気に入られており、信綱と共に奇襲部隊の副将を任されていた。

 

『おおおおおお!!!』

 

昌景の奇襲部隊がやって来たことで、北条軍に多少押され気味だった武田軍が勢いを取り戻した。北条軍は峠の下にいる武田軍を追うために峠を下り、そこでぶつかった信玄たちの部隊は北条軍の攻撃を受け流しながら後ずさる形で志田峠の坂道を上り、更に迂回していた昌景たちが三増峠から攻め下りるという形で、氏照たちは信玄に地の利を奪われ、形成の逆転を許してしまった。

 

「何と言う事だ・・・。誘き出されていたのは我らの方だったというのか・・・!武田信玄・・・なんと恐ろしい男だ・・・!!」

 

「氏照さま、ここは何としてでも撤退せねばなりませんぞ!」

 

まんまと信玄の術中にはまってしまったことを悔やむ氏照を彼の家老である泰光が励まし、部隊の損害をこれ以上広げないように撤退を進言した。

 

「うむ、そうだな・・・。皆の者!撤退するぞ!!」

 

氏照が撤退を命じると北条軍は這う這うの体で武田軍がいない方面へと敗走を始めた。

 

 

 

 

「お屋形さま!北条軍が退いて行きます!」

 

「追撃なさいますか?」

 

「いや、追う必要はない。そもそもこれはわしらが甲斐へ戻るために立ち塞がる氏照と氏邦の軍勢を打ち砕くための戦じゃ。それにこちらの兵も疲れておるゆえ下手に追ってこちらの損害を増やす必要はあるまい。さあ、奴らが慌てているうちにわしらも甲斐に帰るぞ。」

 

信玄は勝利に沸く部下たちを諫めると、瞬く間に軍勢をまとめて甲斐に向かって退却していった。後世に『三増峠の戦い』と伝えられたこの戦いは、北条軍は敵将を2人と900人の兵を討ち取るも、3000人以上の兵を討ち取られてしまうという大敗北を喫する形で終わってしまった。

 

 

 

 

そして、氏政と氏康はこの敗戦の悲報を三増峠から程なく離れた荻野(現在の厚木市)で聞くこととなった。

 

「なに?それは本当か!?」

 

「氏照と氏邦、そして綱成どのたちは無事なのか!?」

 

「はい、900人もの兵たちが討ち取られましたが、氏照さまや氏邦さま、その他主な将の方々は皆ご健在です。」

 

「そうか・・・。」

 

氏政は伝令から氏照たちが無事であるという報告を聞いて胸を撫でおろした。

 

「それで、信玄たちは如何した・・・。」

 

「武田軍は氏照さまたちが敗走された後、わき目も振らずに甲斐へと退却していったそうです。」

 

「そうか・・・。ゴホッゴホッ!」

 

氏康は武田軍の動向を伝令にたずね、信玄が甲斐に退却したという事実を知った。

 

「父上、追いますか?」

 

「いや、追わずともよい。追うにしても奴らは既に甲斐に着いているであろうからな・・・。」

 

氏政の問いに対して氏康はゆっくりと首を横に振りながら答えた。

 

「そうですか・・・。」

 

氏政は悔しそうな顔で父の言葉に頷くと、

 

「兄上ー!父上ー!!」

 

「氏政兄貴―!親父ー!!」

 

道の先から氏照と氏邦、そして綱成に率いられた軍勢が歩いて来た。

 

「氏照、氏邦!無事だったか!!綱成どのもよくぞ御無事で・・・!」

 

氏政は3人の元に駆け寄り、彼らの生存を大いに喜んだ。

 

「済まねえ兄貴に親父、俺が逸ったばっかりに・・・。」

 

「氏邦だけが悪いわけではない。私ももう少し強く引き留めることができればこのような事には・・・。」

 

氏邦と氏照が真っ先に氏政と氏康に自分たちの失態を詫びた。

 

「2人ともそう気にするな。俺の方こそもう少し早く動けていれば追いつくことができたかもしれないんだ。それに武田軍から挟撃を受けて大きな被害を受けたというのによく生き延びてくれた・・・。俺はそれだけで安心してるよ。」

 

氏政は2人を責めることはせず2人を労った。

 

「兄上・・・。」

 

「兄貴・・・。」

 

氏照と氏邦は照れ臭そうに笑った。

 

「綱成、どれくらいやられたのだ?」

 

「ああ、ざっと3000人は死んじまった。国府台以来だぜ、こんなに死んじまったのはよ。でも挟み撃ちにされたってのに重臣たちが1人も死ななかったのは奇跡だよな。」

 

「そうか・・・。」

 

一方で氏康は綱成に、この戦いで出た被害を確認していた。綱成から改めてその被害の大きさを聞かされた氏康はそう頷くことしかできなかった。

 

「しっかし武田軍はほんとに強えぇや・・・。」

 

「ああ、こちらの兵数が有利だったとは言え武田軍の勢いは侮れんかったな。」

 

「此度の戦での反省を生かし、次に武田が攻めて来た時には此度よりもうまく立ち回れるようにせねばならないな。」

 

「氏政、氏照、氏邦よ・・・。」

 

氏政たち3兄弟が今回の戦に着いて振り返っているところに氏康が話しかけた。

 

「なんでしょうか父上?」

 

「此度の戦で武田がどれほど強敵であるかはよく分かったであろう。これからお主たちはこの脅威に本格的に立ち向かっていかなくてはならん。例え奴らがどれほど手強くとも兄弟一族家臣揃って団結してこれに当たるのが肝要だぞ・・・。」

 

「おいおい親父、そんな改まらなくっても俺たちはちゃんと分ってるって!」

 

「うむ、それから・・・うっ!」

 

氏康が更に語ろうとした瞬間、突然頭を抑えてうずくまった。

 

『父上!!』

 

「親父!!?」

 

「氏康!!おい!どうした!!」

 

氏康はこの戦い以前から度々体調を崩すことがあったがこの戦いに加わったことで悪化してしまったのか、今までなら軽い頭痛や風邪による咳で済んでいたのがさらに悪化してしまったようだ。

 

ちなみに史料によると彼の病状は中風―――脳血管疾患であったとされている。

 

 

 

「なんと言う事だ、このような時に・・・!しっかりしてください父上!!誰か・・・。誰か医師を!!」

 

武田の脅威に直面している中での氏康の病状悪化は確実に北条家の内部に大きな動揺を与えることになる。果たして千歌たちの頼る北条家はどうなっていくのか・・・。それは誰にも知る由は無かった。




いかがでしたでしょうか?


作者の力量で皆さんに伝わっているかどうか分かりませんが、武田軍が如何に強大な敵であったかを今回の話で表現しました!

そして遂に病に倒れる相模の獅子・・・。そろそろ北条家も新しい時代に向けて少しずつ情勢が動き始めます。千歌ちゃんたちはこの新時代への動きにどのように向き合っていくのか・・・それを楽しみにしていただけると幸いです。



それでは次回もまたお楽しみください!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。