ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記   作:截流

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どうも、截流です。

ラブライブサンシャインの2期7話のおかげで創作意欲が湧いたので筆が自分でも不思議に思うほど進みました!

今回はいよいよあの人物が・・・。



それではどうぞお楽しみください!!


33話 相模の獅子、天に還る

下総で行われた佐竹義重との戦が終わってから5か月が経った10月の3日のこと・・・。

 

小田原城は緊迫した空気に包まれていた。

 

 

「父上!」

 

「親父!!」

 

 

氏康の部屋に氏照と氏邦、そして氏規が慌てて駆け込んできた。

 

「父上の容態はいかがですか!?」

 

「うむ・・・。あまり言いたくはないが芳しくなく、外郎の薬も効き目が薄くなってきているそうだ・・・。」

 

氏規の問いに対し、氏政は伏し目がちに答えた。

 

「うう、私の祈祷が足りなかったせいで御本城さまが・・・。」

 

「江雪斎のせいではあるまい。お主はよくやってくれた方だ。」

 

北条家に仕える僧形の家臣、板部岡江雪斎は氏康が病に倒れた時に鶴岡八幡宮で氏康の病が回復するようにという祈祷を行なっていたのだ。だがそれも空しく病状が悪化して行く様を見て胸を痛めていた。

 

もちろん氏政も彼の働きを知っていたので彼を責めることなく労った。

 

「氏康さん、三増峠の戦いの後からずっと寝込んでたけどこんな事になってたなんて・・・。」

 

「おらが三郎くんの見送りに行く時は体調がよかったみたいだったけど・・・。」

 

「恐らく、三郎さんの為に残っていた力を振り絞ったのでしょう。」

 

千歌と花丸とダイヤの3人が部屋の隅の方で小声で話し合っていた。

 

この場にいるのは寝込んでいる氏康と妻の瑞穂に、氏政や綾たちをはじめとした氏康の子供たち、そして叔父の幻庵と義理の兄弟である綱成や綱高といった氏康の親族が集まっていた。

 

本来であればこの場にいられるのは近しい親族くらいであったが、氏康の平癒祈祷を行なった江雪斎や、特別に入る事を許された千歌たちAqoursといった例外も無いわけではなかった。

 

「いつかこんな日が来るかもって事は分かっていたけど、辛いものね・・・。」

 

「そうだね・・・。」

 

果南と曜がそう呟くと、

 

「う、うう・・・。」

 

と呻き声が聞こえた。氏康のものだ。

 

『父上(親父)!!』

 

氏政ら子供たちが声を掛けると氏康はゆっくりと目を開けた。

 

「やれやれ、そう大きな声を出すな・・・。眠ろうにも眠れぬではないか。」

 

「お、おい氏康!無理するんじゃねえよ!」

 

ゆっくりと起き上がった氏康を支えながら綱成は無茶をしないように諫める。

 

「気遣わずともよい、もうわしの身体も限界だ。だが不思議な事に調子が良いのだ。まるで神仏が最後に語らう時間を与えてくれたようにな・・・。」

 

「氏康・・・。」

 

綱成は氏康の言葉に思わず涙ぐみそうになったが堪えた。

 

「それにしても久しぶりだな綱成・・・。三増峠以来だったか。」

 

「ああ。それにしても済まねえな氏康、深沢城を守り切れなくってよ・・・。」

 

綱成は駿河における北条家の重要拠点である深沢城の守備を担当していたのだが、武田軍の攻撃により落城している。

 

「よいのだ・・・。お前が生きているという報せを聞いて心の底より安堵したからな・・・。」

 

氏康は深沢城の落城を憂うより、綱成の生存を喜んでいた。彼らは初陣の頃より苦楽を共に分かち合って来た義兄弟であり、その絆は実の兄弟と見紛うほどに深かったという。

 

「でも地黄八幡の旗を城に忘れてしまったんだろ?」

 

「う、うるせー!それを言うんじゃねえよ綱高!」

 

「歳をとっても変わらんな、お主らは・・・。」

 

氏康は綱成と綱高の掛け合いを微笑ましそうに見ていた。

 

「氏康よ、まさかお主まで先に逝くことになってしまうとはのぉ・・・。」

 

氏康の父、氏綱の弟である幻庵が氏康に申し訳なさそうに語り掛ける。

 

「なぁに、人の寿命とは天が決めたもの、わしの役割がここで終わるだけですよ叔父上。」

 

「わしの齢も70を超えたが一向に父上や兄上たちの元に行ける気がせん。わしの命をお主に分けてやりたいもんじゃい。」

 

「冗談はよしてくだされ・・・。叔父上にはこれからも北条家を見守ってもらわねばなりませんからな。」

 

「ほっほっほ。手厳しいのぉ氏康は・・・。任されよ、この命続く限り北条の行く末を見守り続けるぞ。」

 

幻庵の冗談交じりの言葉に対して氏康が後の事を託すと、幻庵はひとしきり笑い、一転して真面目な表情で氏康の手を握って彼の想いに応えた。

 

「ええ、頼みにしています。」

 

氏康は幻庵の手を握り返してそう言った。

 

「梅どのはいるか・・・?」

 

「はい、これに。」

 

氏康に呼ばれた梅は氏康の枕元に座った。

 

「梅どの・・・。一時の感情とは言え、わしはとんでもない事をしてしまう所であった・・・。最期にもう一度だけ詫びたかった・・・。」

 

「そんな、お気になさらないでくださいお義父さま・・・!」

 

「こんな事を言えた義理はないが氏政の事を、最期まで支えてやってくれ・・・。」

 

「はい!」

 

氏康の言葉に、梅は気を引き締めて返事をした。

 

「瑞穂よ、最後まで苦労を掛けたな・・・。」

 

「いいえ、あなたの乗り越えてきた苦難を思えば私の苦労など、苦労のうちにも入りませんよ。」

 

瑞穂は氏康の言葉に対して優しく答える。

 

「お前は昔から優しかったな・・・。その心と、この温かい手に何度心を救われてきた事か・・・。」

 

氏康は瑞穂の手を取って最後まで傍に寄り添っていてくれたことを感謝した。

 

「そう言ってくださると私も鼻が高うございます。」

 

「ふふ、氏政ら子供たちを見守ってやってくれよ・・・。」

 

「ええ、言われずとも。」

 

氏康は彼女の言葉に安心すると、握っていた彼女の手を離して手を下ろした。

 

「Aqoursの面々よ。近う寄ってくれ。」

 

『はい。』

 

氏康に呼ばれ、千歌たちは氏康の枕元を囲むように並んで座った。

 

「本当ならば、わしが壮健なうちに元の時代に帰してやりたかったのだが、それができなかった事だけが心残りよ・・・。本当にすまないと思っておる。」

 

「そんな!氏康さん、頭を上げてください!」

 

「そうですよ、氏康さんは私たちが北条家に留まる事を許してくださったんですよ!」

 

「だから流石にそれ以上を求めちゃったら罰当たりですよ。」

 

頭を下げる氏康に対して千歌、梨子、曜の3人が慌てて頭を上げるように言った。

 

「ここだけの話だが、すまないとは言いつつもこれほどの出来た娘たちを元の時代に帰してしまうのを惜しんでしまうこともあった・・・。」

 

「ふふ、それだけの才能がこのヨハネとリトルデーモンたちにあったという事ね。」

 

「やめるずら、善子ちゃん。」

 

氏康の言葉に鼻を高くする善子に、花丸がくぎを刺す。

 

「私はそこまで褒められるようなことはやってないし・・・。」

 

「いやいや、お主らは十分に北条のために尽くしてくれた。氏政もお主らが来るまではどこか頼りない顔をしておったが、お主らと共に歩むことで北条の未来を託すに相応しい男に成長してくれた・・・。」

 

氏康は千歌たちが氏政を成長するきっかけを作ってくれたことに感謝していた。

 

「No、No!それは氏政さんにそういう素質がちゃんと備わってたからだと思うわ氏康さん!」

 

「うん、氏政さんは最初っからいいお殿様をしてたと思うな。」

 

「ええ、国府台での氏政さんの奮戦なんかは実に見事でしたわ!」

 

鞠莉たち3年生は、氏政と出会ってから今日までの軌跡を振り返りながら、その器が大名として相応しいものだったことを氏康に教えた。

 

「ふふ、氏政め。ずいぶんと家臣に慕われるよき君主となったのだな。」

 

氏政の事を語るAqoursを見て、氏康は嬉しそうに目を細めた。

 

「話は逸れたが、お主たちが元に戻るための方法は見つからなかった・・・。」

 

「はい、私や寺社の奉行を務める良整どのが三島大社や箱根権現、鶴岡八幡宮といった関東中の寺社に千歌どのたちに携わる神託が下りてないかを探っていたのですが、まったくそのようなものはありませんでした・・・。」

 

千歌たちが帰る手段を氏康の命令で探し回っていた江雪斎がそう言って肩を落とすも、

 

「気にしないで、江雪斎さん。本当なら私たちが探さなくちゃいけないのに私たちの代わりに探し回ってくれてありがとうございます!」

 

千歌はそう言って彼を励まし、感謝の言葉を述べた。

 

『ありがとうございます!』

 

他のメンバーも千歌に続いて頭を下げた。

 

「千歌どの、そしてAqoursの面々よ。お主たちが元の時代に帰る事ができるまでどれほどの時が掛かるかは分からんが、この乱世で生きていくからには多くの辛い事や悲しい事に直面するであろう・・・。」

 

『・・・。』

 

「だが、それでもお前たちには帰る時代と場所がある。何があってもその心を強く持ち続けるのが肝要である・・・。そして、武士として生きるのはよいがお主らは『すくーるあいどる』だ。その矜持を忘れることがあってはいかんぞ・・・!」

 

氏康は乱世の厳しさに直面しても強く心を持ち、スクールアイドルとしての自分たちと、その在り方や誇りを忘れてはいけないと、彼女たちに伝えた。

 

『はい!!』

 

「うむ、いい返事よ・・・。」

 

氏康の言葉をしっかりと胸に刻んだ千歌たちを見て氏康は微笑んだ。

 

「では息子たちよ、これに。」

 

氏康は遂に子供たちに声を掛けた。

 

『はっ!』

 

氏政をはじめとした氏康の息子たちが氏康のそばに座った。

 

「氏忠に氏光よ。」

 

『はい!』

 

氏康に呼ばれた氏忠と氏光は居住まいを正した。

 

「うむ、よき面構えよ。まさに北条の未来を担うに相応しい顔をしておる・・・。」

 

「伯父上・・・、じゃなくて父上!私たちを実の子のように育ててくださり、誠にありがたき幸せにございます!」

 

「もっと父上の恩義に報いるために働きとうございました・・・!!」

 

氏忠と氏光は感極まって涙を流した。この2人は氏康の子では無く、千歌たちが来た年に没した氏康の弟である氏堯の息子であり、氏堯の死後に彼に引き取られたのであった。氏康は2人を氏政たちと区別することなく、まるで自分の息子のように2人を育て上げたのだ。そして氏忠は信玄が韮山城に攻め入った時に、城将であった氏規と共に信玄を退け、氏光は駿河戦線で戦死した幻庵の息子たちに代わって小机城に入って城主としての役目を全うしていた。

 

「その想いだけで充分よ・・・。あとは兄たちを支えるためにその若い力を振るってくれ。それがわしの望みだ・・・。」

 

「はい、必ずや!」

 

「兄上たちを支えてごらんに入れまする!!」

 

2人は涙を拭って、快活に返事をした。

 

「氏規よ・・・。」

 

「はい。」

 

次に呼ばれたのは氏規だった。

 

「氏規よ。お前は兄弟の中でも視野が広く、交渉に長けておる。戦いで解決できぬことがあればその才で道を開くのだ・・・。」

 

「はい、父上。今川家での人質としての生活で身に着けたこの才、兄上の為、そして北条家の為に振るってみせます。」

 

氏規は氏康に頭を下げながら、誓いの言葉を立てた。

 

「氏邦・・・。」

 

「はっ!」

 

「お前の武勇は兄弟一だとわしは思っておる・・・。だが些か気が短く早とちりする気もある。」

 

「うっ・・・。」

 

氏邦は、氏康に長所と共に短所も指摘されて気まずそうな表情を浮かべた。

 

「だが、お前の実直なところは素晴らしいものだ・・・。如何なる時も分別さえ忘れねばその武勇と実直さは最高の武器となる。北条の槍として励めよ・・・。」

 

「北条の槍・・・。分かったよ親父!何者にも負けねえ堅く鋭い槍になってみせるぜ!!」

 

「氏照・・・。」

 

「はっ。」

 

「氏照、お前は兄弟の中で最も将としての力量に優れておる。言わずとも分かっておると思うが驕る事の無いようにな。その才はあくまでも北条の為、当主である氏政を助けるために振るうのだぞ・・・。」

 

「言われずとも分かっていますぞ父上、我が才は兄上を助けるためのもの。道を踏み外すことなく、兄上の為、北条のためにこの采を振るいましょう。」

 

「うむ、それでよい・・・。」

 

力強く氏康の言葉に応える氏照の表情を見て満足げに氏康は頷いた。

 

「氏政・・・。」

 

「はい。」

 

「ふふ、氏政よ。ずいぶんと逞しい顔つきになったものだな・・・。つい最近まではどこか頼りない顔つきであったが、今ではそのような様子は見る影もない、大名に相応しい顔となった・・・。わしもようやく安心して逝けるというものよ。」

 

「その様な弱音を吐かれるとは父上らしくもない・・・。我ら北条にはまだ父上が必要でございます。」

 

氏政は目を潤ませ氏康に語り掛ける。

 

「いや、もうわしの役目は終わった。時代とは移ろいゆくもの・・・。これからはお前たちが時代を築くのだ。」

 

「私たちが・・・。」

 

「そうだ・・・。お前の手で時代を切り開くのだ。」

 

「しかし、私には氏照のような将としての器量も、氏邦のような武勇も、そして氏規のような器用さもありません。そのような私が時代を切り開けるのでしょうか・・・。」

 

「氏政よ、弱気になるでない。お主には弟たちにはない素晴らしい才があるではないか。」

 

氏康は、弱気になった氏政を励ますように声を絞り出す。

 

「王としての才よ・・・。」

 

「王としての才・・・ですか?」

 

「そうだ。確かにお主は武勇も将才も器用さも弟たちに劣っているかもしれん。だがお主には将兵を、民を束ねる才がある!将兵と共に苦楽を共にし、民に寄り添う、そんな王としての才がお前には満ちているのだ氏政・・・。今のお前になら心置きなく北条の未来を託すことができる・・・。」

 

「父上・・・!」

 

「王となれ氏政・・・!関東の王となってこの地に住まう民に平穏を・・・。」

 

氏康はその言葉と共に、氏政に手を差し伸べた。

 

「父上!この氏政、必ずや関東の王になってみせましょう!関八州の戦乱を平らげ、民たちが笑って平穏に暮らせる理想郷を・・・、この地に必ずや築いてみせます!そして何年かかろうとも必ずや千歌どのたちを元の時代に帰します!!」

 

氏政は涙ながらに氏康の手を握って、氏康の理想を受け継ぐことと、千歌たちを未来に帰すことを氏康に誓った。

 

 

「忘れるな。我ら北条は『禄壽應穏』という存念と共に生き続け、民のために戦い、国を治めていくのだ・・・。」

 

『はっ(はい)!!』

 

部屋にいた者たちは皆、氏康の言葉に応えた。氏康はそれを見とどけると、

 

「では、わしはそろそろ疲れたゆえ、ひと眠りさせてもらうぞ・・・。」

 

といって再び寝転がり、布団を掛けた。

 

「はい、父上。ゆっくりお休みくださいませ・・・。」

 

氏政の言葉と共に氏康は目を閉じて眠りにつき、そのまま目覚めることはなかった。北条氏康は、家族やAqoursのメンバーに看取られながらその生涯に幕を閉じた。

 

 

 

 

相模の獅子と呼ばれた関東の名将、北条氏康は57歳でこの世を去った。

 

幼少時は臆病者として嘲られたが、父や家臣たちの温かい教育を受けて勇敢な将へと成長を遂げた。戦場に出れば敵に背中を見せる事のない猛将であると同時に、税制改革などといった革新的な善政を敷き民を愛した名君でもあった。それ故に彼の死が領内に広まると、民たちはその死に泣き崩れたという。それほど彼は民を愛し、また民からも愛されていたのだ。

 

氏康の死によって、関東における乱世の一時代は終わりを告げ、Aqoursは名実ともに北条家の当主となった氏政と共に、新たな時代を迎えつつある乱世に身を投じる事となる―――




いかがでしたでしょうか?


『相模の獅子、天に還る』というサブタイの通り、遂に関東の英雄たる北条氏康がこの世を去る回となりました。1つの時代が終わるという事は新しい時代がやって来るという事も示しております。

名実ともに当主となった氏政とAqoursがどのように戦乱の世を乗り越えていくのか、期待していただけると幸いです。


そして次回はいよいよ第三章が完結!果たしてどのような話になる事か・・・。



それでは次回もまたお楽しみください!!

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