ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記   作:截流

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どうも、截流です。

社会人になってからのゴタゴタと、若虎の執筆でだいぶ間が開いてしまいましたが、連載再開&第四章開幕です!!

氏康の死を経て新たな時代に突入しつつある関東で千歌たちは何を見るのか・・・・・・。



それではどうぞお楽しみください!!


第四章 1574 関東大乱
35話 新たなる野望に向けて


北条家の3代目当主の氏康が亡くなり、氏政が名実ともに北条家の当主となってから3年経った1574(天正2)年の4月が終わろうとしてた頃、小田原城にて・・・。

 

 

 

「うあ~~~~~!!ぜんっぜん書類が片付かないよ~~~~~~!!!」

 

 城の一室で千歌は鬱憤を晴らすかのように叫び声をあげていた。

 

「しょうがないでしょ千歌ちゃん。北条家は大大名なんだからやる事が多いのも無理ないわよ。」

 

「でも氏政さんが当主になってから仕事めちゃくちゃ増えたよね・・・。」

 

 それを聞いて梨子と曜はそれぞれ千歌を諭したり、その言葉に共感したりしながらも書状の整理を進めていた。

 

「氏康さんが亡くなった直後に上杉との同盟を切った件で上野の由良さんからの猛抗議の書状がかなり凄かったのに比べればまだマシな方ですわ。」

 

「由良さんは氏邦さんと一緒に上杉さんとの交渉をしてたみたいだししょうがないわよ。」

 

 ダイヤと鞠莉は氏康が亡くなった直後に越相同盟を解除したことでその交渉を担当していた上野の国衆、由良成繁から氏政への抗議文が記されている書状が山ほど小田原に届けられたのを思い出してため息をついた。

 

「でも氏政さん見事にのらりくらりと躱してたよね・・・。そう言えば三郎さんは大丈夫かなぁ。」

 

 ため息をつく姉とその友人の言葉に苦笑いしながら答えたルビィが越相同盟で越後に旅立った三郎の身を案じると、

 

「三郎くんは謙信さんにすごく気に入られてたし殺されるなんてことは絶対無いずら。三郎くんが敵になっちゃったのは辛いけど、それでも三郎くんが元気でいてくれたらおらはそれで満足ずら。」

 

と花丸はいそいそと書状の整理を進めながら、ルビィにそう言った。

 

「花丸ちゃん・・・。」

 

 弟のような存在である三郎を案じる花丸の表情はいつもの穏やかさと、彼を心配する気持ちとが混ざりあって何とも言えない深みのあるものになっていた。

 

 

 

「あ~~~、書類の整理とかお城の仕事だけじゃなくって戦に出たいな~~~!!」

 

 そんなこんなしているうちに再び千歌が駄々をこね始めた。

 

「戦なら氏政さんが当主になってから何度もあったではありませんか。」

 

「そりゃ確かにあったけど、上杉さんとの戦は利根川をはさんで睨み合ってただけだし、他の戦いだって国府台のに比べたら全然出番がなくてつまんなかったもん!」

 

 ダイヤはそんな千歌を諭そうとするも、千歌は頬を膨らませて聞く耳を持つことはなかった。

 

「千歌の言う事も分からないでもないよね。氏政さんは当主だから本陣にずっといるのはしょうがないけど私たちもずっと本陣にいるもんだからやる事なくって腕がなまっちゃいそうだよ。」

 

 果南はそう言いながら肩を回す。彼女は北条家の軍団の中でも精鋭と名高い北条綱成が率いる玉縄衆に身を置き、綱成に直接手ほどきを受けていただけあってAqoursのメンバーの中でも特に武勇に長け、勇んで先陣に躍り出る武人となっていたので彼女は千歌の気持ちがよく分かっていた。

 

「千歌ちゃんと果南ちゃんの意見に曜ちゃんも賛成であります!」

 

「もう、曜ちゃんまで・・・。」

 

千歌と果南の幼馴染みコンビに賛同する曜に梨子は呆れていた。そんなこんなで雑談に花を咲かせながら千歌たちはいつものように書類の整理に勤しんでいた。

 

 

 

 

 

「ふぅ、疲れた~!」

 

 書状の整理がひと段落着き、千歌たちが休憩していると、

 

「9人揃っているところは初めて見るが氏政どのから聞いた通り、実に賑やかな連中だな。」

 

と声が聞こえたので振り向くと、

 

「あ、康成さん久しぶり!」

 

と果南がにこやかに手を振った。

 

「果南、俺はもう康成じゃあない。氏繁に改名したと言ったはずだろう。」

 

「ごめんごめん。だって氏繁さんとはここ数年全然あってなかったから忘れちゃって・・・。」

 

 呆れた様子の康成改め氏繁に果南は苦笑いしながら弁明した。

 

「康成さん・・・じゃなくて氏繁さん名前変えたの?」

 

「ああ。氏康公が亡くなった後、俺も父上から家督を譲られてな。その時氏政どのから弟と共に『氏』の字を授かったのだ。」

 

 千歌が首を傾げながらたずねると、氏繁は簡潔に改名に至った経緯を説明した。

 

 氏繁は元々北条康成と名乗っていたのだが、1571年に氏康が没すると彼の父である綱成も隠居を表明し彼に家督を譲られた。そしてそれを受けて新たに当主となった氏政は康成と彼の弟である康元に北条家の通字である『氏』の字を与えたのだ。

 

 北条家において『氏』の字は本家に連なるものだけに許されるもので、これを与えられたという事は北条家の一門である『御一家衆』への加入を許されたことを意味し、三船山で戦死した太田氏資もこれに該当している。そして何より、氏政の義理の従兄にして彼の妹である奈々を娶り義兄弟となっていた氏繁にも十分その待遇を受ける権利があった。

 

 

「――そんなわけで俺と氏秀は氏照ら氏政どのの兄弟衆と同等の地位を得ることになったんだ。」

 

「そうなんだ~・・・。」

 

 普段ならこう言った小難しい話を聞くと目を回しそうな千歌も氏繁の説明が分かりやすかったのか理解した様子で頷いていた。

 

「それで氏繁さんはどうして小田原に?」

 

「確か氏繁さんは岩付城の城代も務めてらしていましたよね?」

 

「今日は氏政どのと新たな方針と、次の攻略対象の話をするために来ていたのだ。氏秀と一緒にな。」

 

『新しい方針と次の攻略対象!?』

 

 氏繁の言葉に千歌たちはいっせいに反応した。特に千歌、曜、果南、鞠莉の退屈そうにしていた4人は食い気味に反応していた。

 

「まず新しい方針としては、武田と同盟を結び直したことで相模、伊豆、そして武蔵西部の守りが固まったことで俺たちは関東平定に集中できるようになった。」

 

「でも上杉さんはどうするの?それに関東だって房総半島の里見さんに、下野の宇都宮さん、常陸には佐竹さんだっているよ?」

 

「氏政どのから方面軍の話を聞かなかったか?」

 

「方面軍・・・あっ!」

 

 千歌は思い出したのかハッと目を見開いた。

 

 

 北条氏政は氏康の死後に武田との同盟を再び結ぶと、関東攻略の方針を固めた。まず長弟の氏照に下総と下野の攻略、次弟氏邦には上野、三弟の氏規に水軍の統括と房総半島の攻撃を任せたのだ。

 

 

「そういえばそんな事言ってたような・・・。」

 

「もう、千歌ちゃんってば大事な事なんだから忘れちゃダメじゃない。」

 

 梨子は苦笑いする千歌をたしなめた。

 

「そして氏政どのの弟たちによる方面軍が形成されると同時に、あらゆる方面で配置換えや人事異動が起きた。父上や綱高どのの隠居や、江戸城の配置換えなんかがこれにあたるな。」

 

「そう言えば政景さんが江戸城代から外されたって聞いたんですが・・・。」

 

 梨子は恐る恐る氏繁に、かつての師であった綱景の息子の政景の人事についてたずねた。

 

「江戸城は上杉や里見の抗争や下総への進出において重要な拠点だからな。それを踏まえたうえで氏政どのは俺の弟の氏秀に江戸城代を任せた。氏秀、入って来い。」

 

 氏繁は簡単に説明すると後ろの襖に向かって声を掛けた。

 

「はい。」

 

 それと同時に1人の男が部屋に入って来た。入って来たのはぶっきらぼうな印象の氏繁に比べると柔和な印象を感じる男だ。

 

「果南どの以外は初めましてですね。私は北条綱成改め上総入道道感の次男、北条氏秀と申します。」

 

 氏秀はぺこりと頭を下げてAqoursに自己紹介をした。

 

「康元さん・・・じゃなくって氏秀さん久しぶり~。」

 

「果南どのこそ御無沙汰してます。」

 

「果南さんはこの方とお知り合いなんですか?」

 

「そりゃあ氏繁さんの弟だもん。綱成さんの玉縄城に出入りしてたんだから何度も顔合わせるよ。」

 

 ダイヤの質問に対して果南は笑いながら答えた。

 

「桜内梨子どの・・・でしたっけ?」

 

「あ、はい!」

 

 突然氏秀に声を掛けられた梨子はビクッとしながら彼に返事をした。

 

「政景どのは江戸城代の任を解任こそされはしましたが、葛西城主として里見への抑えや下総の国衆との外交などで私の補佐を務めてくださってるので、左遷されたわけではないのでご安心ください。」

 

 そんな梨子に対して氏秀は優し気な声色で政景の現状を教えた。

 

「そうですか、ありがとうございます。」

 

 梨子は安堵しながら政景の現状を教えてくれた氏秀に礼を言った。

 

「江戸城代と言えば直勝さんもいたけど、去年亡くなっちゃったよね。それで確か政家さんが後を継いだみたいだけど・・・。」

 

 果南は思い出したように、遠山政景と共に江戸城代を務めた富永直勝とその息子である政家を話題にあげた。史実とは違い、第二次国府台合戦を生き延びた直勝は氏康の死後に、同じ五色備えの仲間である綱成と綱高と同じように隠居して余生を送っていたが、1573(天正元)年の秋に64年の生涯に幕を下ろしたのだった。

 

余談ではあるが黒備えの多目元忠と白備えの笠原康勝は隠居せずにそのまま現役で活動を続けているが五色備えの半数が隠居、逝去し、氏照らによる方面軍が形成されたことによる軍団の再編成が進められたことによって五色備えは実質解散したといえる。

 

「政家どのは栗橋城に入城し、氏照どのの指揮下に入っていると聞いていますね。」

 

「他に配置換えというと河越衆副将の山中頼元どのが小田原衆に、松山衆の垪和氏続どのが馬廻衆に配置換えされていたな。」

 

「そう言えば氏繁さん私たちに用があって来たんでしょ?」

 

 氏繁と氏秀が話していると、果南が声を掛けた。

 

「ああ、話が脱線したな。次の攻略対象について氏政どのからお前たちに伝えるように言われてるんだった。」

 

「それで次はどこに行くんですか!?」

 

「まあそう慌てるな。俺たちが次に狙うのは下総、関宿城だ。」

 

 千歌が食い気味にたずねると氏繁は彼女の頭を押さえながら彼女たちに次に狙う城を伝えた。

 

「関宿城ですか?」

 

「確か関宿城は前にも何度か攻めてますよね?」

 

「でもその2回とも落とせずじまいだったわよね。」

 

「善子ちゃん!」

 

 梨子と曜は「本当にそこを攻めるのか?」と言いたげな表情で氏繁にたずね返し、善子に至ってはため息交じりにそう言って花丸にたしなめられていた。だが彼女たちがあまり気の進まないような態度をとっているのにも理由がある。

 

 そもそも関宿城とは下総の北部、今の千葉県と茨城県、そして埼玉県の県境付近に古河公方の重臣の簗田氏によって築かれた城で、古河公方の居城として用いられた城でもあった。この城は旧利根川(現在の江戸川)と常陸川(現在の利根川)の関東地方を代表する二大大型水系が交わる場所に築かれている。

 

 関宿はその地理的な条件から関東地方において最も重要な交易拠点として栄えており、北条氏康は生前に「関宿城を手に入れるのは国を一つ得ることに値する」と評していたという。

 

 だが、関宿城は利根川と常陸川という関東の二大大型河川に挟まれる形に築かれ、さらにその周辺に湿地帯が広がっていたこともあってとても攻めにくい難攻不落の城としても名を馳せていた。実際に北条家はこれまで2回にわたってこの城を攻めているが、今現在まで落城させることができずにいたのだ。

 

「確かに今まで落とすことはできませんでしたが案ずることはありませんよ。」

 

「氏秀の言う通りだ。今回は氏政どのが氏邦や氏規も引き連れ3万の大軍を率いて自ら出るという。もちろん俺も出るつもりだ。」

 

 乗り気じゃない様子の千歌たちに氏繁兄弟は励ますように次の関宿攻めの内容を説明した。

 

『3万!?』

 

「確かに関宿城は重要な城ではありますが、そこまでの大軍を動員するのですか!?」

 

 氏繁から動員される兵数を聞かされた千歌たちは驚き、ダイヤは氏繁に大規模動員する必要性がある理由をたずねた。

 

「恐らく簗田は上杉謙信に救援を求めるだろう。さすれば連中は三国峠を越えて関東平野に出てくる。それに佐竹や宇都宮と連中もそれに呼応して南下してくるだろうな。」

 

「なるほど、敵は簗田だけじゃなくって上杉さんや北関東の佐竹さんたちも含まれるって事だね!」

 

「そういう事だ千歌どの。」

 

「千歌ちゃんはこういう時だけ物分かりがいいんだから・・・。」

 

 氏繁がにこりと笑って千歌の言葉に頷く一方で梨子はため息をついた。

 

 

 

 

「Aqoursの皆様方はおられるかな?」

 

 千歌たちが氏繁兄弟と話をしていると1人の男が部屋に入って来た。

 

 入って来た男の名は山角(やまかど)康定。板部岡江雪斎や笠原康明に並ぶ氏政の側近の一人で、評定衆や伊豆の代官、越相同盟の交渉に参加し、さらに氏康から名前に『康』の字を与えられるほどの優秀な官僚であると同時に、当主直属部隊である『御馬廻衆』の統括者として300騎の侍大将を任され、幕僚としても氏政を支えている重臣である。ちなみに千歌たちも氏政の直臣でありながら御馬廻衆にも所属しており、彼女たちにとって上司のような存在でもある。

 

「あ、康定さん。どうかしたの?」

 

 千歌は康定に向かって用件をたずねる。

 

「お屋形様から千歌どのたちに向けての言伝を頼まれましてな。」

 

 康定はいつもの物腰柔らかな面持ちで彼女たちに用件を伝える。

 

『用件?』

 

「はい、実は次の関宿攻めでは千歌どのたちに氏照さまの陣に加わるように、と。」

 

『私たちが氏照さんの陣に!?』

 

「ほぉ、やったじゃないか。」

 

 康定から伝えられた氏政の指令に千歌たちは驚き、氏繁はそれを見て笑っていた。

 

「氏照さまは既に栗橋城に着陣されてるとのことで、すぐにこれに合流するようにお屋形様が仰られてました。貴殿らの活躍、楽しみにしてますぞ!」

 

 康定はそう言ってすぐに部屋から去っていった。

 

「氏照さんの陣って事は先陣って事だよね!」

 

千歌は興奮冷めやらぬ様子で梨子たちに確認する。

 

「そういう事だとは思うけど・・・。」

 

「でも氏政さんいつもなら私たちを呼び出して何をするのか言ってくれるのに、どうして今回は伝言なんだろ?」

 

曜はいつもとは違う状況に首を傾げていたが、

 

「多分氏政どのはお忙しいのでしょう。」

 

「ああ、今回は敵が多いからな。さっきも氏政どのと話したが此度の戦ではある策を練っているらしい。」

 

と、氏繁兄弟がフォローを入れる。

 

「氏照の陣にお前たちを送るという事は氏照の采配を見せてお前たちにさらに戦術を学ばせるつもりなのだろうな。まあなんにせよ、氏政どのはこの戦で確実に関宿をとる気だ。氏政どのの期待を破るなよ?」

 

それに続いて氏繁は千歌たちに発破をかけてみせた。

 

「はい!!もちろん私たちも今回の戦で活躍してみせます!!みんな!!」

 

千歌はそれに対して不敵に笑って応えると、円陣の構えをとった。

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「7!」

 

「8!」

 

「9!」

 

「関宿攻めでも活躍して全力で輝こう!0から1へ!!Aqours!!」

 

 

『サーンシャイーン!!』

 

 

千歌たちは新たな時代の戦に向けて今、大きな一歩を踏み出そうとしていた。




いかがでしたでしょうか?


今回は第四章開幕という事で、氏康死後の北条家の状況の確認と次の戦いである関宿城攻略戦の導入となりました!

氏政による関東攻略戦線はここから激動かつ混迷を深めたものになるので多少マニアックで複雑な描写が多くなっていきますが、歴史に詳しくない読者の方にもわかりやすく読んでいただけるように形にしていく予定なので是非とも見守ってくださると幸いです!!


感想もよろしくお願いします!!



それでは次回もまたお楽しみください!!

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