ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記   作:截流

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どうも、截流です!

今回は千歌ちゃんたちの初陣回にして、北条家以外の勢力の武将が初登場する回でもあります。果たしてどんな人物がどんなキャラで登場するのか、乞うご期待!


それではどうぞお楽しみください!!



8話 国府台宿命戦 序章

1563年の暮れ、北条氏康は下総の国府台城に向けて宿敵である里見軍が進軍したと聞いて相模、伊豆、そして武蔵の大部分から里見軍を打ち破るために兵を集めていた。

 

そして、氏政の元にいる千歌たちAqoursにも出陣を命じた。

 

 

「うわぁ・・・!!これが私たちの鎧なんだ〜!!」

 

「うむ、城下の職人に特注で作らせた一点ものだ。」

 

氏政は千歌たちに職人に作らせた鎧を見せた。

 

「ルビィたちはこれを着るんですよね?重くないかなぁ・・・。」

 

とルビィが鎧を見て、着たら重さで動けないのではと不安そうに呟くが、

 

「そこは心配しなくても大丈夫だ。この具足は見た目とは裏腹に軽くできているし、修行をこなしたお主らならこれを着ても全力で走ることは出来るだろう。」

 

と、ルビィの不安を和らげるように氏政は言った。

 

「大丈夫だよルビィちゃん。ルビィちゃんが動けなくてもおらが守ってあげるずら!」

 

と花丸もルビィを励ました。

 

「では、鎧を着け終わったら屋敷前に来てくれ。私は色々やることがあるのでな。」

 

氏政が部屋から出て行ったあと、千歌たちは氏政達から教わったように鎧をつけていくが・・・。

 

「あれ?果南ちゃーん、ここ上手く結べないよぉ~!」

 

「もう、しょうがないなぁ千歌は・・・。」

 

「ちょっと鞠莉さん!喉輪(喉を守る防具)はちゃんと着けなさい!!」

 

「ええー、暑苦しくて嫌よ~。ダイヤは堅すぎー!だから硬度10ってニックネームつけられちゃうのよ?」

 

「誰が硬度10ですってぇ!?貴女の命が懸かってるんですからちゃんと着けなさい!!」

 

「はいはい。」

 

「善子ちゃん、手伝おっか?」

 

「よ、ヨハネがこんな鎧を着けるのに手伝いなんかはいらないわ!」

 

「善子ちゃん・・・、無理しない方がいいよ?ルビィがこっち結んであげるね。」

 

「じゃあおらはこっちを結ぶずら。」

 

「もう!手伝わなくってもいいのにー!!」

 

そしてかれこれ10分ほど過ぎ・・・。

 

 

 

「じゃーん!!出来た~!!どう?似合ってるかな!?」

 

千歌は自分の鎧姿をみんなに見せびらかした。

 

「うん、すごく似合ってるよ千歌ちゃん!」

 

「ありがとう~!曜ちゃんのも似合ってるよ!」

 

幼馴染みの二人組はお互いに似合ってることを褒めていた。

 

「うわぁ・・・!果南さん、なんかさまになってますね!」

 

「そうかな?ありがと、梨子。」

 

果南は初めて鎧を着けたというのに、何故か既に腕利きの戦士のような雰囲気を漂わせていた。北条家きっての武闘派である北条綱成率いる『玉縄衆』に身を置いて修行したというのは伊達ではないようだ。

 

「善子ちゃんの鎧もかっこいいずら~!」

 

「善子言うな!!まあ、このヨハネに相応しい鎧だというのは事実ね。」

 

善子の鎧の袖の部分には黒い羽根があしらわれており、善子もそれを気に入っていた。

 

「じゃあ、皆行こうか!」

 

「「「「「「「「おお!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

そして氏政の屋敷の前にて・・・。

 

「おお、皆似合ってるじゃないか!!」

 

氏政は千歌たちの鎧姿を見て彼女たちを褒めた。

 

「いやあ、それほどでも~。」

 

千歌は照れ臭そうにそう言ったが、

 

「千歌さん!これから私たちは戦場に行くのですのよ!」

 

「ダイヤの言う通りだね。遊びに行くとはわけが違うし、何より訓練じゃなくて実戦なんだよね。」

 

「ルビィ、氏政さんやみんなの足を引っ張らないかなあ・・・。」

 

ダイヤと果南が千歌をたしなめ、ルビィは不安の声を漏らす。

 

「確かにダイヤどのや果南どのの言う通り、これは遊びではなく命のやり取りだ。だが誰しも初めからそのような覚悟は備わってはいないし、初めから活躍できる者はいたとしてもほんの一握りだ。だからそういう心構えはこれから少しずつ育てていけばいい。」

 

そう言って、氏政は自分の旗印を持ってきた。その旗印には『钁湯無冷所』と書かれていた。

 

「ねえ氏政さん、それはなんて読むのかしら?」

 

鞠莉は氏政に旗印に書かれている文字の意味をたずねた。

 

「ああ、これは私が書いたもので、『钁湯無冷所(かくとうれいしょなし)』と読むんだ。钁湯というのは煮えたぎった湯の事で、煮えたぎった湯はどこを取っても冷えている部分は一滴もない、という事を示していて、つまり何事をするにあたっても全身全霊で臨め、という意味が込められているんだ。父上と幻庵大叔父上から教わった言葉だよ。」

 

と、氏政は千歌たちに自分の旗印に刻んだ覚悟を語った。

 

「何事にも全身全霊で臨む・・・。私たちと同じだね!」

 

「千歌殿たちと?」

 

氏政は千歌の言葉を聞いて、その真意をたずねた。

 

「私たちスクールアイドルも、いつどんな時でも全身全霊、全力で楽しんで歌って踊ってライブをするんです!!確かに楽しむような事じゃないけど、私たちもいつもみたいに全力でぶつかっていこうよ!壊せない壁なんてないんだから!!」

 

千歌はそう言ってAqoursのメンバーを鼓舞した。

 

「全く、こんな時でも千歌ちゃんは千歌ちゃんだね。」

 

「うん、でもそれが千歌ちゃんのいいところだと思うよ。」

 

梨子と曜はそう言って頬をほころばせ、

 

「なるほど、お主らスクールアイドルのライブが我らにとっての戦場であり、我らにとっての戦場はお主らにとってのライブということか・・・。見事な覚悟だな!」

 

と氏政は笑いながら千歌に賞賛を贈り、

 

「皆も千歌殿の言葉は聞いたな!壊せぬ壁など無い!お前たちも初陣である彼女らを支え、そして彼女らに負けぬように全力で奮起してくれ!!」

 

控えていた兵士たちを鼓舞した。

 

「「「おおおおお!!!」」」

 

兵士たちも鬨の声で氏政に応えた。

 

「よし!これより出陣するぞ!!」

 

「「「うおおお!!!」」」

 

「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」

 

氏政の号令に千歌たちは兵士たちにも負けない声で応えた。

 

 

そして千歌たちが所属する氏政隊は、氏康率いる本隊や清水康英らが率いる伊豆の兵たちと合流した後、江戸城に向けて進軍していった。その途中で、玉縄城の北条綱成、康成(のちの氏繁)父子、河越城の大道寺政繁、滝山城の北条氏照、鉢形城の北条氏邦らの軍勢も合流して北条軍の総数は2万人に膨れ上がっていた。

 

 

 

 

 

 

その一方その頃、下総の国府台城では周りを北条家の領土に囲まれている太田資正を救援するために、上総の久留里城から里見義弘が1万2千人の軍勢を引き連れて入城して、北条軍を待ち構えていた。

 

「ふむ、北条は2万人も引っ張り出してきたか・・・。こちらも一万二千の兵を引き連れてきたが少しばかりきついな・・・。」

 

里見軍の総大将である里見義弘は、伝令からもたらされた北条軍の情報を聞いてため息をついていた。

 

「北条との戦で我らが兵力で劣勢を強いられていることなどいつも通りではありませんか。」

 

彼の側に控えていた若い武将が義弘の言葉に応える。

 

「いや、それはそうなんだがな。毎度毎度不利な戦をしてるとため息の一つもつきたくなるものなのだよ信茂・・・。」

 

義弘は苦笑いしながら信茂と呼ばれる若者に言葉を返す。

 

その若者の名前は正木信茂。彼は里見家の筆頭重臣である正木時茂の息子である。

 

正木時茂は里見義堯の若い頃から彼に従っていた武将で、槍に優れていたことと、『大膳亮(だいぜんのすけ)』と言う役職を自称していたことから『槍大膳』と呼ばれた猛将であり、越前の伝説的な名将である朝倉宗滴は、彼を武田信玄、今川義元、上杉謙信(当時は長尾景虎)、織田信長、三好長慶、毛利元就と肩を並べるほどの優秀な戦国武将であると語り残している。

 

その優れた武勇で主君を支えた時茂は1561年、つまり千歌たちがこの時代に来る1年前にこの世を去っている。そしてそのあとを17歳の若さで継いだのが、この信茂である。彼もまた父と同じく『大膳亮』を名乗り、父にも劣らぬ武勇を振るい、二代目の『槍大膳』として義弘を支えている。余談ではあるが、義弘やその父である義堯も彼の働きぶりを称えて義弘の妹を信茂の妻として嫁がせ、一門衆に加えている。

 

「ですが、我々の今までの北条との戦いを顧みれば全く勝ち目の無い戦と言うほどでも無いかと・・・。」

 

「だが負ければそれだけ損害を被るのだ。上総や安房は下総に比べるとかなり貧しいから損害を出せばそれだけ房総の民に負担をかけてしまうのだ。それ故にこの決戦は負けられん。」

 

義弘はまだ若く勝ち気な信茂を諌める。彼もまた民を思う名君であり、房総の民のことを考えて動いているのだ。

 

「お屋形様!お耳に入れたい事が。」

 

二人で話してるところにまた一人伝令が入ってきた。

 

「なんだ?北条の動きを掴んだか?」

 

「いえ、岩付の太田資正さまがこの国府台城にいらっしゃいまして・・・。」

 

「おお!資正どのが来てくれたか!!」

 

義弘はその言葉を聞くと表情が晴れやかになった。

 

 

「久方ぶりでござる、義弘どの。この太田資正、貴殿らをお助けするため岩付より馳せ参じた!!こたびの戦では我ら太田軍はお主の指揮下に入り、全力を尽くして共に氏康と氏政めを叩き伏せましょう!!」

 

「政虎どのの関東管領就任の儀以来だな、資正どの。かの名将太田道灌公の再来と謳われ、氏康めの攻勢を幾度にわたって凌いできたお主が来てくれたからには百人力よ!して、そちらの御仁はどなたかな?」

 

義弘は資正の隣にいる武将が何者であるのかをたずねた。

 

「ああ、この者はわしの親類でこの度北条家より離反した元江戸城代の太田康資どのだ。三十人力の怪力を持つ強者よ!そちらにいる若者は槍大膳こと正木大膳時茂どのの倅どのだな?実に見事な面構えよ!」

 

資正は自慢げに康資を紹介し、信茂を褒めた。信茂は照れ臭そうに資正に頭を下げた。

 

「それがしは太田新六郎康資でござる。この度の戦で氏康、氏政父子を破った暁には我が曽祖父、道灌の城であった江戸城の城主となることを認めていただきとう存じます!」

 

「もちろん認めるとも。しかし、道灌公の再来と道灌公のひ孫どのが来てくれるとはまさに鬼に金棒、虎に翼を与えたようなもの!この戦、我らの勝利もあり得ぬものではなくなりそうだな!」

 

「ふふふ、油断は禁物ですぞ義弘どの。氏康めはかなりの戦上手である故、心して臨みましょう。」

 

「うむ、わしらもあ奴らとは資正どのにも劣らぬほどの長き戦いを繰り広げておる故、用心はしておる。それより、酒を用意してあるので一献どうですかな?」

 

「おお、それはいいですな。では作戦を練りながらいただくとしようではないか!」

 

そして四人の将は奥の間へと消えていった。

 

 

 

 

一方で北条軍は江戸城に入城し、氏康を中心として作戦会議が行われていた。千歌たちはあくまでも氏政の馬廻なので、作戦会議には加わらずに氏政の陣で待機している。

 

「綱景さんと直勝さんの様子はどうだった?梨子ちゃん。」

 

千歌は梨子に綱景と直勝の様子を聞いた。

 

「うん、二人とも大丈夫とは言ってたんだけど・・・。」

 

作戦会議の前に二人と会った梨子は二人の様子を語るがその口調から、あまり芳しくないことが察せられる。

 

「でもさ、二人とも落ち着いてる性格なんでしょ?あまり無茶はしないと思うんだけどな。」

 

「分からないよ曜、普段大人しい人ほど追い込まれると予想できない行動を取るって綱成さんも言ってたよ。」

 

「ですが二人とも北条家の政治と軍事の中核を担う幹部ですのよ?理屈はわからないでもないですが、自分たちの立場を分かってるでしょうからそんな事はしないでしょうし、氏康さんもその様な状態の人たちを前線に出しはしないでしょう。」

 

千歌たちは綱景と直勝が無茶な事をしないかと心配していた。特に二人のもとで働いていた梨子は気が気でない様子であった。

 

「でも二人とも康資さんが里見に寝返った事をかなり気に病んでたみたいなの。特に綱景さんは娘さんが康資さんの奥さんだからもっと辛いと思う・・・。」

 

梨子がそう言ってため息をつくと、

 

「戻ったぞ。いったい何を話してたんだ?」

 

と氏政が陣に戻ってきた。

 

「あ、氏政さん。実は綱景さんと直勝さんのことが心配で・・・。」

 

梨子がそう言うと、

 

「まあ、梨子どのがそう案ずるのも無理もない話だ。しかし心配する必要はない。先陣は綱成どのと筆頭家老の憲秀、そして私たちの隊に任されることになった。直勝と綱景の隊は左備えに置いて、我らが里見軍とぶつかった際に奴らの横腹を突いてもらう手筈になっている。」

 

と、千歌たちに布陣図を見せた。

 

「おお!先陣って一番前で戦うんだよね!?腕がなるなぁ・・・!」

 

と千歌が息巻いていると、

 

「いや、先陣と言っても基本的に最前線に立つのは綱成どのの部隊で憲秀と私の隊は綱成どのの後に続く事になっているから、最前線に立つ事は無いだろうな。」

 

と氏政が付け加えた。

 

「なんだぁ~。せっかく活躍できるって思ったのに・・・。」

 

「落ち込まないの千歌ちゃん。こういうのは着々と手柄を立てるのが一番だよ。」

 

氏政の言葉を聞いてガッカリした千歌を曜が慰め、

 

「良かったぁ・・・。ルビィまだ一番前でなんて戦えないよ~・・・。」

 

千歌とは反対に、気の弱いルビィは少し安心していた。

 

「それで、私たちはいつ布陣するんですか?」

 

果南がたずねると、

 

「ああ、布陣は明日の早朝に行なうことになっている。そう言うわけだからお主たちは明日に備えて早めに寝るといい。」

 

と、氏政は千歌たちに早く休むように促し、千歌たちのいる場所から離れていった。

 

「じゃあ、私たちはそろそろ寝よっか。」

 

「そうだね、お休み千歌ちゃん。」

 

千歌たちは氏政が去っていったあと、それぞれ眠りについた・・・。

 

 

 

 

江戸城にいる将兵たちが寝静まった後、二の丸で何かを話している二人の男の影があった。

 

「・・・本当にいいのか、綱景どの。抜け駆けは軍規違反だぞ?」

 

「分かっています。しかし、私たちにはこれしか道は残されてないのです。」

 

「うむ。同じ江戸城代でありながら康資どのの離反を見抜けなかった我らの責は大きい。それを雪ぐには・・・。」

 

「ええ、明日の合戦で里見軍に奇襲をかけ、けじめをつけるのみ。」

 

「では手筈通りに明朝の布陣が終わり次第、江戸川を渡り里見軍を強襲しましょう。直勝どの、御武運を。」

 

「綱景どのもな。」

 

二人の壮年の将は悲壮な覚悟を胸に、自らの陣へと戻っていった。

 

 

 

 

 

そして翌日、1564年1月7日の早朝、北条軍のそれぞれの部隊は江戸川を前に布陣し、今は氏康の本陣で作戦の確認を行っている。今回の軍議には、氏康と氏政の指名でAqoursも加わっていた。

 

「ふああ~ねむ~い。どうして昨日の会議に出られなかったのに今日はわざわざ会議に出させられたのかしら。」

 

「鞠莉さん!せっかく氏康さんと氏政さんが直接私たちを指名して軍議に呼んでくださったのですからしっかりしなさい!」

 

「ほら千歌ちゃん、寝ちゃだめだよ~。」

 

合戦の前でもAqoursの面々はいつも通りであった。

 

「よし、主な隊の将は揃ったな?」

 

「いや、まだ綱景どのが来てませんよ父上。」

 

「そういや直勝どのも来てないぜ親父。」

 

氏照と氏邦が氏康に綱景と直勝の不在を指摘した。

 

「おかしいな、直勝と綱景どのが軍議に出ないなんてなんかおかしいぞ?」

 

綱成は真面目なことに定評のある盟友の直勝とその同僚であり、同じく真面目な綱景が軍議に出てこないことに疑問を感じていた。

 

「どうしたのリリー?顔色が悪いわよ?」

 

「大丈夫だよよっちゃん。でも、なんだか嫌な予感がするの。」

 

梨子は二人の上司がいないことに胸騒ぎを感じていた。するとそこに一人の伝令が駆け込んできた。

 

「た、大変です氏康さま!!」

 

「どうしたのだ?そんなに慌てて。」

 

「それが・・・、左備えの富永直勝さまの隊と、遠山綱景さまの隊が、江戸川を渡河して国府台に向けて進軍しています!!!」

 

「なんだと、直勝と綱景が!?」

 

氏康はその知らせに驚いた。彼らはそのような無茶な行動を今までしたことが無かったので、氏康は驚きを隠せなかった。

 

「綱景どのと直勝どのが!?いったいなぜ・・・?」

 

氏政が二人の抜け駆けに戸惑っていると、

 

「やっぱりそういう事だったんだ・・・。」

 

「梨子ちゃん?」

 

「梨子どの、そういう事とは一体なんなのだ?」

 

千歌と氏政は梨子の言葉の意図が読み切れず、たずねた。

 

「綱景さんと直勝さんは・・・、康資さんの裏切りを見抜けなかったことに責任を感じて死ぬ気なんだ・・・!」

 

梨子は恐る恐る昨日から予感していた、実現してほしくなかった彼らの行動を口に出した。

 

「ば、馬鹿な!綱景どのと直勝どのがそんな・・・!」

 

「いや、ありえなくもないぞ氏政。直勝も綱景どのも昔っから責任感の強い男だったからな、同僚の寝返りを見抜けなかったことに対する罪悪感は相当大きいもんだろうな。」

 

綱成は拳を震わせながらそう言うと、本陣の外へと歩き出していった。

 

「綱成、どこへ行くのだ!?」

 

「決まってるだろう!あの二人を連れ戻すんだよ氏康!!」

 

「しかし無茶だ綱成、いくらお前であろうと・・・。」

 

「じゃあ、二人を見捨てるってのかよ!!」

 

「そういうわけでは・・・!」

 

二人が睨み合っていると、

 

「ではそれがしの隊も連れ戻しに協力しよう。」

 

そう言って名乗り出たのは氏康の率いる本隊と行動を共にしていた清水康英だった。

 

「康英・・・!」

 

「いくら綱成どのとはいえ、二人の隊を後ろに退かせるのは難しいだろう。故にそれがしが綱景どのを連れ戻し、綱成どのは直勝どのを連れ戻す。それでよろしいですかな氏康さま。」

 

「うむ、問題ない。憲秀、綱成が抜けた分はお主が補ってくれ。」

 

「はっ!お任せくだされ!!」

 

「よし!予定より早いがこれより進軍を始め・・・。」

 

氏康が将兵たちに命令を下そうとしたところ、

 

「待ってください!!」

 

梨子が待ったをかけた。

 

「どうしたのだ?」

 

「あの、私を康英さんの隊に入れてくれませんか?私も綱景さんを連れ戻しに行きたいんです!!」

 

なんと梨子は康英の隊に入って、綱景の元へ向かうことを志願した。

 

「無茶だ梨子どの!初陣で敵の真っただ中へ飛び込むなんて!」

 

氏政は反対した。

 

「でも、私は・・・、私はいろんなことを優しく、丁寧に教えてくれた綱景さんを死なせたくないんです!!」

 

梨子は涙ながらに氏政に訴えた。

 

「・・・行かせてやれ氏政。」

 

「しかし父上!」

 

「お主の言いたいことは分かる。だが、女子とはいえこれほど強い覚悟を秘めた目をする者の想いに報いることも主君としての務めだ。それが危険なものであってもな。」

 

「・・・分かりました。」

 

「うむ。梨子どの、お主に康英隊に加わり綱景を連れ戻しに行くことを許可する!だが、何があっても必ず戻ってくるのだぞ!」

 

氏康の言葉に、

 

「はい!!ありがとうございます氏康さん!!」

 

と梨子はお辞儀をしながら礼を言った。

 

「梨子ちゃん、気を付けてね!!」

 

「うん、絶対帰ってくるよ。千歌ちゃん、皆!」

 

梨子はそうAqoursのみんなに告げると康英と共に去っていった。

 

「よし!これより進軍を開始する!!皆はそれぞれの陣へと戻り、速やかに前進せよ!!」

 

「「「おおお!!」」」

 

氏康の号令にその場にいた者は皆、鬨の声で応じた。

 

 

 

「よし、これよりわが隊は江戸川を渡り、綱景どのの隊に合流する!!いくぞ!!」

 

「「「おおおおお!!!」」」

 

康英は八尺の樫の木で出来た棒を掲げて兵士たちを鼓舞して、綱景隊に向かって進軍を始めた。

 

(お願い、綱景さん・・・、直勝さん・・・。二人とも死なないでくださいね・・・!)

 

梨子は綱景と直勝の生存を祈りながら、康英に着いて行く。

 

 

「行くぞお前ら!!必ず直勝を連れ戻して、この戦に勝ってみせるぞ!!」

 

「「「おおおおお!!!」」」

 

「よっしゃあ!!勝った勝ったあ!!!」

 

「「「勝った!!勝った!!勝った!!」」」

 

綱成もまた、直勝を救うために江戸川を渡り始めた。

 

 

 

1564年の1月7日の早朝、のちに『第二次国府台合戦』と語り継がれる合戦が始まろうとしていた。

 

果たして梨子は師とも言える綱景を救うことが出来るのだろうか・・・。




いかがでしたでしょうか?

初陣だというのに早速シリアスなことになってきました!

悲壮な覚悟を胸に先行する二人の江戸城代、宿敵との来たる決戦の時に向けて動き出す房総半島の雄と岩付よりやってきた孤軍の闘将、そして師を救うために危地へ飛び込まんとする一人の少女…。それぞれの想いや野望が戦場で交錯する!


この戦は無事に終わるのか?いえ、ただでは終わらせません!

この『第二次国府台合戦』は歴史好き以外にはあまり知られてないマイナーな合戦ですが、前半の山場の一つなので、「宿命戦」の名に恥じない壮絶なものとして描きたいと思っています!是非とも楽しみにしていてください!!


それでは次回もまたお楽しみください!!

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