・・・ガチャ
「ふぅ、何とか間に合ったか。まずは・・・シャワーだな。」
俺はそう言いながら、家に入りリビングまで行き鞄を置きスーツをソファに脱ぎ捨てバスルームへ急ぐ。
・・・10分後、バスルームから出て体を拭きドライヤーで髪を乾かし、終えた後鞄とスーツを持って二階の寝室に向かう。
寝室に入りクローゼットにスーツを仕舞い、隣に掛かっている音ノ木坂学院の制服を取り着替え始めた。
「アレックスに頼んでおいて正解だったな。」
一年以上家を空けるとなると電気・ガス・水道は普通止める。それよりも住めないなら引越すだろう。だが俺は代わりを探すのが面倒且つここの立地は中々気に入っていた為、ここを抑えたまま出張先のアメリカに行った。
そしてこの家は空けていたにも拘らず掃除が行き届いてる。まぁこれら全てを俺の上司のアレックスのおかげだ。
「予定は1年だったが、もう1ヵ月伸びたおかげで6割強終わらせる事が出来たからな。さて、えっと日用品やその他諸々帰りに食材買わないといけないな。・・・ん?もうこんな時間か。編入だから早めに行くか。」
そう呟きながら必要最低限の物を見繕い学校に行く準備を済ます。時計が指していたのは7時半。俺は早めに家を出る。
俺、咲雷 海斗(さくらい かいと)は今日音ノ木坂学院に編入する。
本来ならば去年の4月に入学するはずだったが自分の勝手な都合により入学を1年ずらした。
編入試験もあったがほとんど形の様なもので、理由は近年生徒数が減り統廃合の危機にあり4年前から男女共学になったが生徒増加の効果はあまりでていないらしい。学校側からすれば是が非でも迎え入れたいとの事。
まぁ、俺にはどうでも事か。
「はぁ、これから無駄な時間を過ごす事になると思うと憂鬱でしかないな。」
俺はそう吐き捨て学院に向かった。
学院に着きそのまま職員室に行き2年3組の担任の片宮 沙希(かたみや さき)に挨拶をする。
「あなたが咲雷くんね。初めまして、私があなたの担任の片宮です。」
「咲雷海斗です。1年間宜しくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。さて、まず色々渡さなきゃいけないものと、あっ咲雷君は教科書はある?」
「あ~。いえ、ありません。」
「あれ?前の学校のはないの?」
「まぁ、事情がありまして・・・。」
「そっか。敢えて聞かないことにするね。」
「お心遣い感謝します。」
「もう、そこまで硬くならなくてもいいわよ。」
「・・・わかりました。」
担任との挨拶も済みこれから教室に向かう。
「うちのクラスは他の先生方から煩いくらい賑やかって言われてるの。咲雷君は賑やかなクラスは苦手?」
「いえ、そこまで気にしません。」
「そう?なら良かった。」
・・・この担任は俺に何を求めているんだ?所謂仲良くできるかどうかか。
そして2年3組の教室に着き。
「じゃあここで少し待っててね。私が入ってって言ってら入って来てね。」
そう言いながら担任は教室に入りホームルームを始める。会話を聞く限りどうやらこのクラスは担任との距離が近いらしい。
俺は廊下で少し待つ事になり仕方ないので壁に寄り掛かかる。時間潰しに天気予報をスマホで確認する、夕方から一雨降るらしい・・・折り畳み傘一応買っとくか。
天気を確認してすぐ、急に男子生徒が階段から駆け上がり、そして。
「おーいそこのお前!ドアを開けてくれ!」
と、そう言いながらこっちに走ってくる。しかも丁度良く担任に呼ばれたのですぐに開けずタイミングを見計らいドアを開ける。
「サンキュー!」
そいつはそう言いそのまま教室に入った。
「よし!セーフ!間に合った~~って沙希ちゃんいるし!」
クラスがどっと笑った。そりゃそうだあいつは遅刻で間に合っていない、それにこのクラスから見ればあいつは編入生でもない。差し詰め漫画の一コマだな。
「荒波君!これで今週全て遅刻ね。」
「はぁ!?嘘だろ沙希ちゃん!?現に教室入ってない奴がいるじゃん!」
「先生を付けなさいって言ってるでしょう。彼は編入生なんだからこれからみんなに紹介するところで君が入って来たんじゃない。」
「編入生?あぁそう言えば昨日言ってたっけ。」
「はい。荒波君席に着いて、紹介まだなんだから。」
「はいはい。」
「んもう。はいじゃあ入って来て。」
そのまま俺は空いているドアから教室に入り担任の近くまで行き、そして自己紹介を始める。
「咲雷海斗です。これから1年宜しくお願いします。」
「なんだよヤローかよ。」「ヤダ!?何あのイケメン!?」「背たけぇなー」などクラスは俺を見て各々感想を述べながら周りとの会話に夢中なった。
「はい、静かに。今日からこのクラスで一緒に過ごす咲雷君です。みんな仲良くしてね。」
『はーい。』
何だこの小学生の様な光景は・・・。
「じゃあ咲雷君の席は・・・、東條さんの隣ね。」
担任は空いてる席を指しながら言い、俺は真ん中の列の一番後ろに向かう。荷物を机の上に置いて座ろうとしたら隣から。
「ウチは東條希。よろしくね。」
と自己紹介された。この女子生徒が東條らしい。俺は面倒くさそうにするが顔に出さないよう注意し挨拶をする。
「ん?あぁよろしく。」
「うん!」
東條は話をしようとしてきたが俺はそのまま前を向き担任の話を聞くふりをした。
「それじゃあ出席を取ります。えっと、欠席は綾瀬さんで他にはいなさそうね。今日の連絡は明日からゴールデンウィークだからくれぐれも羽目を外さないようにね。」
ゴールデンウィーク?確か日本は大型連休があるんだっけ、殆どアメリカにいるから忘れてた。
「先生!そう言うのって帰りに言うもんじゃないんですか?」
「一部の生徒が今以上に羽目を外す可能性があるから言える時に言わないとね。」
「沙希ちゃん!一部に生徒ってまさか俺!?」
「わかっているならちゃんとしようね。」
「沙希ちゃ~ん!その言い方あんまりじゃね!?」
またクラスが笑う。
正直、どうでもいい。今できることは少しでも次のプランを考えないと。俺はそんな事ばかり考えていた。
HRが終わり、さっきのアホな奴が俺の席に近づいてくる。
「咲雷!さっきはドア開けてくれてありがとな。」
「ん?あぁ気にするな。」
「そっか。俺は荒波 師走(あらなみ しわす)。師走でいいぞ。よろしくな!」
そいつは自己紹介をした。こいつの背丈は俺と対して変わらないか。周りを気にせず自由気ままに過ごしていそうだなと思いながら、俺も当たり障りなく接することにした。
「咲雷だ、よろしく。荒波。」
俺はそう皮肉に言う。
「おっおう。ところで、海斗って前はどの学校にいたんだ?」
いきなり名前とは随分馴れ馴れしいな。
「この近辺ではないな。」
「へぇ~都内じゃないのか?もしかして神奈川の方とかか?」
「いやアメリカにいっ!」
不味いと思い途中で止めたが思わず口走ってしまった。
「マジで!すげぇなお前!帰国子女じゃんか!」
遅かった・・・。その一言により周りが一斉にこっちを見る。
「何々そうなの!?咲雷君って英語ペラペなんだ!?今度私に英語教えてよ。」
「大統領とかハリウッドスターに会えたりした?」
「どこに住んでたの?ニューヨークそれともロサンゼルス?」
案の定質問攻め。下らない質問ばかりだが自分で蒔いた種だから仕方がないと言い聞かせ、俺は周りと会話をせざるを得なかった。
正直疲れた。質問攻めも終わりいつの間にか昼休みになったいた。クラスメイトは各々弁当を持参したり購買部へ行ったりと様々だ。
俺自身は本来弁当を作るが如何せん家に着いたのが今朝だから用意しようがない。面倒だがそこら辺のやつに場所を聞き、購買部へ行くか。腹が減ってはなんとやらだ・・・。
そう思いながら立ち上がろうとしたら、荒波が声をかけてきた。
「海斗、お前飯どうするよ?」
「俺はこれから購買部へ行くところだ、お前場所知ってるか?」
「あぁ知ってるぞ俺も購買部に行くとこだ。ってかそれなら早く行かねぇと売り切れるぞ。」
「そうなのか。じゃあ急ぐか。」
そう言いながら俺らは購買部へ向かった。
「うぉーっ!!カツサンドと焼きそばパンがない!!」
購買部に着き俺が思っていた程混雑はしたいなかったが、荒波の言う売り切れは『自分の欲しいものがなくなる』と言う意味だったらしく、渋々うぐいすぱんとクロワッサンを取る。こいつの食生活は大丈夫なのかと何故か疑問に思ったが、俺も人の事も言えないなと笑いながら思い、ツナサンドとあんぱんに手を伸ばす。
「くそーっ!昼飯ぐらい好きなものを食いたいと思うじゃないか!」
「じゃあ普段はどんなものを食ってるんだ?」
俺は清算しながら荒波に問う。
「ん?あぁ俺ん家喫茶店なんだよ。朝晩は食材が痛むギリギリのものを使って作るから自ずと似たり寄ったりな献立になって飽きちまう。」
ほう、いち男子高校生として料理をするのは珍しいな。俺自身は当たり前だと思ったいたが・・・そうなると俺も珍しい方に入るのか?
「へぇ、お前料理出来るんだ。見かけによらないな。」
「一言余計だ。まぁ家が喫茶店じゃなかったら自分で料理なんてしようとも考えなかったけどな。海斗は料理するか?」
「普段はするが、今日はこっちに来たばかりだから何も出来ずにここに来たからな。」
「お前もするのか。・・・おいちょっと待て!今日着いたって今朝日本に着いたのかよ!?」
「ああ、今日こっちに来たんだからそうじゃないと間に合わないだろう。」
「はぁ~朝から大忙しだな。そしたら時差ボケやら荷物やら色々大変だろが、一段落したら店に来いよ飯ぐらい奢るぞ!」
「それじゃ終えたら覗きに行くさ。」
「覗くだけかよ!そこまで来たらせめて何か食ってけよ!」
荒波と他愛のない話をしながら教室に着く。俺がこんな中身のない話をするのは何時以来だ・・・もしかしたら生まれて初めてかもな・・・。
教室に入って自分の席に着くとふと隣の席の東條が一人で昼食を食べているのが目に入る。友達いないのかと思いながら俺は尋ねる。
「東條、これから飯か?」
「えっ!?うっうん。いつも一緒に食べてるえりちが今日休みやから一人やけどね。」
確か今日このクラスの出席取る際担任が欠席一人だったから、えりちと言うのは多分綾瀬の事だろう。
「そっか。じゃあ東條が嫌じゃなければ一緒にどうだ?」
「どうって・・・お昼を?」
ん?俺は今なんて言った?
「あぁ。そのつもりだが?」
俺が言い終えると東條は少し考える。それよりも普段なら自分から誘わない、何を思って言ったのか俺自身分かっていない。
「うん、ええよ。」
東條はそう笑顔で答えた。俺は正直驚いた。俺が誘っておきながら、今日知り合ったやつがいきなり一緒に飯どうだときたら普通警戒し断るものだと思うが・・・。
「よかった。てっきり断ると思ったからな。」
思わず口にしてしまった。だったら聞くなよと数秒前の自分に言いたい。
「ふふっ、咲雷君って面白い人やね。」
「面白いかどうかは俺自身よくわからないな。」
「いやいや、ウチはそう思うだけやから。」
「・・・まぁいいか。それと多分こいつもいるけどいいか?」
「こいつ?」
俺はいいながらドンッ!っと横から荒波がでてきて嬉しそうに言う。
「お前女子を誘うなんて中々やるな~。希ちゃん俺もいいか?」
「ええで。多い方が賑やかでええやん。」
「希ちゃん!ありがとーッ!」
そう言いながら昼飯の準備を始める。
荒波は女子にも馴れ馴れしかった。と言うより東條は異性に名前で呼ばれることに抵抗はないだろうか?女性の心理だとたしか・・・気になる異性以外に名前で呼ばれると鳥肌が立つと聞いたことがあるが、東條は嫌ではないだろうか?まぁ嫌ではなければ気にせず一緒に昼飯は食わないか。
器が大きいのか或いは荒波の人柄なのか・・・。
時間は放課後まで進み、俺は早々と準備を済ませ下校しようとする。
今日1日感じたことは、疲れたの一言に限る。
そして日本の高校の授業内容はやはり簡単だった。そのおかげで授業を聞くこともなく次のプランを練ることが出来た。
俺は教室を出て階段を下り下駄箱に向かう途中ふと思い出す。家に何もいないから買い物しないと。時間も時間だし、しかもこれから雨が降るから早めに済ませなくてはと少し急ぐ。だが俺はこの町の事は知らない為スマホで調べながら探さないといけない。
靴に履き替えようとした時話しかけられる。
「咲雷君も今帰り?」
その声の主は東條だった。彼女も丁度帰りらしい。
「あぁ。東條も帰りか?」
「うん。まぁスーパーへ寄ってから帰るけど。」
「そうなのか・・・。あー、俺もついて行っていいか?」
「えっ?」
「いや、俺日本に今朝着いたから家に何もなくて、この辺りのスーパー探そうと思ってたんだ。東條が邪魔じゃなければ一緒にいいか?」
・・・今日は思っている以上に疲れているらしい、それよりも他に良い言い訳はないのかと思う。これでは俺が東條と話したいのかと思われても不思議ではない。
「うん、ええよ。ウチも咲雷君ともっと話してみたかったから、じゃあ行こう!」
東條は笑顔でこう言った。・・・俺の考えは当たってしまった。まぁ承諾してくれたから良しと自分に言い聞かそう。
俺と東條は並んで歩き、話しながらスーパーへ向かう。
・・・数分後スーパーに着いた。
「ここか、ここなら俺の家からも近いな。」
「咲雷君もこの近くなんやね。」
「東條と同じ歩いて行ける範囲で家を探したからな。」
俺と東條は籠を取り中に入る。
「ん?咲雷君も1人暮らしなの?」
「あぁ。もってことは東條も1人暮らしなのか?」
「ウチも1人暮らしやで。ウチの親が転勤が多くてなぁ、高校はその後の大学の事も考えて一人暮らしにさせてって親に頼んだよ。」
東條は缶詰を手に取りながら淋しそうな顔をする。
「そうだったのか。今まで苦労したんだな。」
「苦労だなんてそんなんやないよ、まぁおかげで友達は少なかったけどね。」
「別に少ないことは悪いことじゃない。まして俺は100人の友達より1人の親友がいればいいと思うが。」
「・・・ありがとう。咲雷君は優しいんやね。」
お礼を言われるとは思わなかった。言っておきながら俺にはそんな親友はいない。・・・どの口が言うか。
「物は言いようだ。俺自身、親友どころか友達もいない。」
「友達もいないいって・・・、荒波君は友達とちゃうん?」
「あいつはただの話し相手ぐらいにしか思っていないな。」
「せやけどお昼は楽しそうに話してなかった?」
「東條にはそう見えていたのか、あいつの話は半分聞き流している。」
「そんな事しててたら荒波君泣いちゃうで。」
「泣くって、小さい子供じゃあるまいし。ってか東條は荒波と仲いいのか?」
感情豊かにも程があると思いながら、序でに聞いたみた。
「うーん、ウチが仲いいと言うよりは荒波君がみんなと仲がいいのかな。裏表なくみんなに平等に接する事が出来る人なんて中々いないよ。」
みんなに平等か・・・それは時と場合によっては残酷なこともあるけどな。
「なるほど。あと東條のことを名前で呼んでいたが・・・」
「ウチ以外にも殆どの女の子を名前で呼んどるよ。」
「だったらあいつは裏表あるぞ。ってか下心見えてないか?」
「まぁ手は出してこないし、そのぐらいだったら可愛いもんやん?」
「・・・そう思える東條は心が広いんだな。」
「んー、ウチはそう思ったことないよ。」
そう言いながら東條と俺はそのままレジに向かった。
思いの外会話が弾み、いつの間にか今晩の食材と日用品をある程度揃える事が出来た。足りなかったらまた買いに来ればいいだけだ。
俺らはスーパーを出て各々の家へ向かおうとする。
「東條、今日はありがとな。おかげで助かった。俺はこっちだから。」
そう言って歩き出そうとしたら、東条が。
「咲雷君、ウチも方向そっちなんよ。」
と、東条は隣に駆け寄りにっこりと微笑む。
世間一般の思春期男子ならドキッっとするシチュエーションであろうが残念ながら何も感じなかった。恋愛感情皆無だなぁと改めて思った。
2人で話しながらそのまま歩いたいたが、徐々に東條の口数が減っていき、しまいにはお互い喋らなくなった。
それもその筈、東條からすれば俺はどこまで付いてくるのだろうと。1人暮らしの女子高生からしたら自分の家の場所は知られたくはないだろう。
静寂のまま数分、俺の家の前に着く。
「東條、ここ俺ん家だから。空気重くしてすまないな。」
「えっ!?気にせんでええのに。それよりここが咲雷君の家?ウチのマンションの向かい側なんやね。」
「そっか、だから帰り道が同じだったんだな。せめて俺がもう少し気が利けたら。」
「もう!そこまで気にせんでええ。ほなまた明日!」
東條は急ぎ足でマンションに行く。俺は東條に挨拶できずに鍵を開け家に入る。
今日は早めに寝るとするかと思いそのままキッチンに向かう、考えるのが億劫だからカレーでいいか。
作り始めて間もなく雨が降り始める、タイミングが際どかったが無事降られる前に買い物を済ませる事が出来て僅かながら嬉しく思う。
時間は1時間が経ち18時過ぎ、あれから雨は本降りになっていた。
「さてと、カレーもあと煮込むだけ、風呂も沸かした・・・なら寝室の整理でもするか。」
寝室に向かおうとした矢先、インターホンが響く。
「こんな時間に来客とは珍しいな。」
俺はそのまま玄関に行き鍵を開け扉を開ける。
「はい。どちら・・・!?」
「・・・・・・」
そこには、ずぶ濡れになって立っている東條がいた。
書くのって想像を遥かに超えて難しいですね。
私は全ての作者さんを尊敬します。